同じ
無造作に散らばる大量の金庫。
そのどれか1つにウルトロンがあると思われる。
……この中の……1つ……
『こ……これは……』
ハカセもかなり驚いているようだ。事前情報によればウルトロン1つしかないはず。しかし部屋の中には無数の金庫。
これは完全に裏をかかれたと言えよう。ぱっと見ただけで数百個はあると見た。これを全て持ち帰るのはもちろんできないし、この中からたった一つのウルトロンを持ち帰るのは、至難の業といえよう。
だが……
(……いけるか……?)
俺には1つの案があった。この状況を手っ取り早く解決させる案が。
俺は無数にある金庫の内、1つ手に手に掴む。
言うのを忘れていたが、金庫のサイズは片手でつかめる位であり、そこまで大きくはない。
重量でわかるかとも思ったが、もともとの金庫が重い分、あまり区別がつかなかった。
ならば…………
(これしかない)
俺は金庫に向かって、反射を利用する。
俺が考えた案は単純明快、反射を使って金庫を破壊すると言うものだった。
それなら金庫だろうがなんだろうが関係ない。短時間で見つけられる可能性はかなり高いだろう。
だが……
(何っ……)
壊れない。どれだけ強く力を入れても、反射を使っても期待する破壊音が聞こえてこない。
よく考えてみれば、この中に入っているのは国宝級の代物なのだ。俺の反射で壊れるほどやわな作りはしていなかった。
『……無駄じゃ……おそらく、その金庫は純度がかなり高い鉄でで来ているのじゃろうな……そこら辺にある不純物の混ざった鉄とは、天と地ほどの硬さの差があろう』
ハカセがスチールアイから説明をしてくれる。初めて純度の高い鉄と言うものに触れたが、確かに硬い。ダイヤモンドほどでは無いだろうが守るには十分な硬さだ。
「……まずい……まずいぞ……」
このままではウルトロンを強奪できないまま、東京派閥にウルトロンが渡ってしまう。そうなればほぼ確実にゲームオーバーだろう。今の俺では、複数のハイパーやマスターを相手取る力はない。
だからこそ、周りから見えないところでかすめ取れるこのタイミングこそが、最高にして最大のチャンスだったのだ。
「ん? こちらから何か音が……」
「……! やっべ……」
穴を開けるときの音を聞かれていた様だ。
まずい、まずいぞ。こんな床に穴が開いたような惨状を見れば、何者かが侵入したことなんて虫でもわかってしまう。
そんなことになれば、ウルトロンの守りはさらに頑丈なことになるだろう。
それを阻止するには……もう"殺る"しかない。
俺は部屋のドアの真横の壁に張り付いた。こつこつとこちらに向かって響いてくる足音に耳を済ませる。
会場のマイクによる大きな声やマスコミの歓声などが俺の耳の邪魔をしつつも、確実に足音を聞いていた。
……かなり近い。あと数メートルといったところか。
そしてついに……ドアが開いた。
「なっ…! 何が起きてーーー」
俺は、出てきた人間に向かって頭にパンチを繰り出す。
敵は驚いたことによる硬直と、俺の不意を突いた一撃により、もろに食ってしまう。
敵の体は俺の拳によって床へと先付けられてしまう。
そこを見逃す俺ではない。すぐに敵に対して馬乗りになり、頭をつかんだ。
敵を見たところ、さすが神奈川といったところか、女と言うことがわかる。
「があっ……どうなって「悪いな」」
頭に向かって反射を打ち込んだ。
ところがどっこい、女は大量の血を噴き出しながらも息を引き取っていなかった。
「がああああ!! イダイッ! 痛いぃぃぃ!!!」
「……? あれを耐えるのか……あまり声を出さないでくれよ」
俺は女に対して、もう一度反射を打ち込んだ。
……今度こそ完全に死んだようで、もがくような動きが止まった。
「……ふう」
(人を殺めるのはこれで3度目か……)
実際には、警察殺しによりもっと大量に人を殺めているだろう。
だが、あの時は1種の興奮状態にあり、人を殺しても正直何も感じなかった。こうやって意識して殺したのは、3度目である。
(……何にも感じないなぁ……)
ついに俺も狂ってしまったのか、意識して殺そうが、意識しないで殺そうが、あまり感じなくなってしまった。
……俺自身でもここまで対応するかと少しびっくりしてしまう。
「…………」
(……やっぱり)
同じだ。レベルダウンの時と全く同じ。
途中まではうまくいって、最後の最後に罠にかかったの時と……シチュエーションこそ違えど、本質的にはほぼ同じである。
(しかし……)
『違う……な』
「……ああ」
レベルダウンの時と明らかに違うのが、相手が直接俺を妨害してきていないと言うことである。
今回はあくまで"邪魔"してきただけだ。
考えれば、まだ考えれば突破口はあるはず。
そう思っていると……
「では皆さん!! これより、"ウルトロン"の贈呈に移りたいと思います!!!!」
ありえない言葉が……述べられた。
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