第五章 東京 神奈川会議

一歩手前。

 ……目が覚める。


 ついに……ついにこの時が来た。


 神奈川派閥と東京派閥混合の会議。俺にとっての大一番。


 俺はテントを開き、体を起こすためにストレッチをした後、まだ眠っているハカセを起こしにテントに戻る。


「おいハカセ、起きろ。朝だぞ」


「……ん……あと、10分だけ……」


「だめだ。今日は大事な日なんだぞ? 早く起きろ」


 そう言って、俺は寝ているハカセの背中を軽めに蹴る。

 そうするとハカセは観念したのか、ゆっくりと起き上がり出した。


「ぐぅ…………はぁ……おい伸太。老人は大事に扱うものじゃぞ? もう少し大事にせんか」


「寝てたあんたが悪いんだろ」


「ぐうの音もでん正論じゃな……」


 ハカセがテントから出てくると、その後は同じ流れである。朝ご飯を食べた後、俺は情報集めに外へ、ハカセは交渉現場潜入の作戦を立てるためにテントに戻る。


 ……唯一、いつもと違うところと言えば、今日は俺が昼に帰るところだ。


 今は朝の9時。人も多くなってきて、情報の1つや2つもらえそうな気がするが……


「そーゆーわけにもいかねえんだよなぁ……」


 それは、なりふり構わず情報を探したときの結果である。

 交渉の事についてしつこく聞いてくる奴がいる。こういうのが広がると、警察に職質されかねない。

 情報集めと言うのは、目立たず、目立たず、自分を守りながらである。


だが…………


(……今考えりゃ、今情報を集めたところでハカセの作戦の役に立つのか……?)


 任務開始は明後日でもなく、明日でもない。今日、紛れもない今日である。

 今集めたところで、いきなりその情報をウルトロンを奪うための作戦に組み込む事は難しいだろう。



 ……なら、目立った事はしないのが賢明か。



 そう思った俺は近くの喫茶店に入り、コーヒーを頼んで店の中にあった新聞を読みながら時間を潰していった。









 ――――









「……ふぅ」


 思ったよりこの喫茶店の居心地が良すぎて、かなり長居してしまった。さすがに何も買わずに席についているのも悪いと思ったので、サイダーを購入して飲んでいた。


「……ん?」


 急に外が騒がしくなってきた。時計を確認してみると、まだまだ午前11時、会議が始まる時間ではない。

 気になったので、サイダーを飲み干して黒マスクをつけ、代金を払った後、外に出てみる事にした。

 実際、騒ぎになっていた場所は喫茶店の通りの一つ横の通りだった。


 ……別に時間もあるし、予定があるわけでもない。


 1つ横の通りに行ってみることにした。


(はてさて……何があるのやら……)


 そう思いながら、喫茶店の通りを回って隣の通りに移動する。隣の通りは、ザ•大通りといった様な通りになっていた。


 単純な大きさは喫茶店の通りの2.3倍だろうか、人だかりもかなり多い。都会というものを体現した様な大通りだった。

 人だかりには、カメラを片手に持つ者や、スマホ片手に持った高校生何かがうろちょろしている。

 まるで、今か今かと何かを待ち望んでいるように見えた。


(……なんだ?)


 しばらくすると、真ん中の道路に、黒塗りのいかにもなリムジンが2.3台通りかかる。


「うおっ……!」


 そうすると、周りの人たちは、よってたかってカメラやスマホを向けて写真や動画を撮り始める。リムジンに向かって殺到する大勢の人たちに、俺は押し出されてしまった。中には奇声をあげたり、大きなロゴの入ったタオルを出すことで気を惹こうとしている者もいるようだ。もちろんリムジンがそんなことに止まるわけもなく、何もなかったかのように通過していく。


(…………なるほどな)


 あのリムジンには、チェス隊や今回の会議に行く人物が乗せられているのだろう。


 ……マスコミがいる時点で少し間づいていたが、今回の会議の事は、民衆にも知られている様だ。


 でなければ、ただ通るだけでこんな大騒ぎにはならないだろう。





 …………任務は近い。






 そう思った俺は気を引き締め直し、テントに帰っていった。









 ――――









 昼。


 ハカセの元に戻ると、ハカセはテントの外に出て休憩しているようだった。


「お……おーい、伸太! 作戦ができたぞー!」


 何つう引き締まらない声で重大発表するんだアンタは。

 しかもここ、外だぞ?外。周りの人に気づかれたらどうするんだ。

 俺は、ハカセを一緒にテントの中へ入れた後、一言を放つ。


「…………そうか、で? その作戦の内容は?」


「……ふふふ……驚け! これが……ワシの脳をフル回転させて作った奇想天外な作戦……名付けて……」


「あなをほる作戦じゃ!」









「……はい?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る