品物
「神奈川……?」
突然放たれた大派閥の名に少しポカンとしてしまう。だが、すぐにハッとなり発言する。
「は!? 神奈川!? え!?」
神奈川派閥といえば東京派閥に勝るとも劣らない大派閥の一つであり、科学力では他の派閥を押しのけトップクラスと言われている。
「そうじゃ、今から神奈川に行く」
「へ……? いきなりなんで……」
そうなった? そう聞こうとしたその時。
「私が説明しましょう」
エプロンを身に付けた男が寄ってくる。見た感じどこかの店員のようだが、俺の記憶をたどってもこのような特徴の男は見に覚えがなかった。
「あんたは……」
「申し遅れました。私は"なんでもパン屋"の店主を務めております。名前は名乗れませんが……店主とお覚えください」
「この人がお主を助けてくれたんじゃ、感謝するんじゃな」
助けてくれた? なぜ? どういう理由で? ものすごい勢いで頭を回転させていると2人が事情を説明してくれた。
――――
「なるほど……俺の体を直す代わりに神奈川まで行って品物をとって来いってわけか……」
「まぁ端的に言うとそういうことです」
「……それにしても凄いなぁ、どんなに死にかけたやつでも一気に全快か……恐ろしいスキルだな」
そう言うと店主は首を横に振り、答えた。
「いやいや、私のそういうスキルではありませんよ。私のスキル。"対価の代償"はね」
そう言いながら店主は、1枚のカードを渡す。
スキル名 対価の代償
所有者 なんでもパン屋の店主
スキルランク super
スキル内容
対象の生物が了承した場合、もしくは意識がない時(生きている場合)のみ対象の生物に対し、願いを叶える代わりにそれと同等の代償を要求する。期間以内にその代償を果たせなかった場合、その対象生物は自壊する。
なるほど、これの対価に俺の体の修復、代償に神奈川で品物をとってくるということか。
……正直、戦闘で使えるかと言われるとそこまで強くはない。最初の生物に無理矢理対価を与えて、代償を絶対に無理なものにすれば自壊で無双できるかもとか思ったが、了承した場合なので100%無理だ。そもそも対価と代償が釣り合わないといけないので、大きな代償を課す場合、大きな対価を与えなくてはならない。
そう思っていると、店主が俺の手からカードを取り、話を進めていく。
「さて、今回の代償の話をしましょうか」
そう言うと、店主は俺たちが座っている対面の椅子に座り話を進める。
「今回の代償はとても大きいものです。私が取り扱ってきたものの中でもトップレベルのものでしょう」
「そこで今回、こちらもわずかばかりながらご協力させていただきます」
「前置きはよいよい、その協力内容だけ教えておくれ」
「今回、私が協力させていただくのは神奈川と東京の交渉場所と品物の中身です」
それをじっと聞く俺。ハカセもこの話は重要だと理解したのだろう。マスクをつけながらも真剣に話を聞いている。
「交渉は1ヵ月後、午後3時に取り行われます。品物の取引はその1時間後ほどに行われる予定です。神奈川から東京に送られるその品物の名は……人工鉱物"ウルトロン"です」
ウルトロン……聞いたことない物だ。鉱物と言う事は何かの金属なのだろうか。やはり派閥間で取引されるものは俺たち民間人が何も知らぬほど高価なものなんだろう。
だが、ハカセはウルトロンを聞いた瞬間、目の色を変えた。
「……!! あれはまだ未完成じゃなかったのか?」
「私もそう思っておりましたが、つい最近、完成したようです。神奈川という科学力の到達型でのみたどり着けたものらしいですよ?」
「そうか……あれが……遂に……」
ハカセは驚嘆したように下を向く。
ウルトロンというものがどういうものかわからないが、ハカセがここまで驚くという事は、かなりの代物だということがわかる。
「伸太くん。これからウルトロンを奪うのはあなただ。あなたには特にしっかりと教えておいたほうがよさそうですね」
そう言って、店主はウルトロンについて説明してくれた。
「ウルトロンは人間の手によって原子から作られた正真正銘の人工鉱物です。鉱物というのは原子同士が長い時間をかけて絡み合い、固まることによってその硬度を増します。ですが、ウルトロンは違う。人工的に生み出した原子の一つ一つを、まるでパズルのピースのようにはめこめる形にし、強い結合力を加えた後、とてつもない力で圧縮させる……それによってできるのが人工鉱物…ウルトロンだと言われています」
「……言われている? どういうことだ?」
言われている。と言う単語に少し疑問を持つが、そこにはすかさずハカセが答えてくれた。
「それは数年前、神奈川から漏洩した情報じゃからな……大いに話題になったが出所もわからない上に神奈川のセキュリティーは日本一とも言われている……正直、噂程度のものじゃよ」
なるほど、だから言われているなのか。
「そこから生まれたウルトロンは、刃物にすれば凄まじい切れ味を、ダイヤモンドを超える硬度をもつと言われています。世に出れば国宝級の値がつきウルトロンから生まれる利益は計り知れないものがあるでしょうね」
そこまですごいものなのか……待てよ? という事はつまり……
「なぁ……もちろん、そこにはボディーガードがいるんだよな? そいつらって……」
「もちろん、そこにはハイパー、あるいはマスターレベルの化け物たちがボディーガードとしてついているでしょうね」
「…………」
その言葉は、常人からすればまるで死刑宣告のような言葉だった。ハイパーやマスターと対立する。今の人にとって、ここまでの恐ろしい言葉もないだろう。
だが、今の俺は……
溢れる闘争心で震えていた。
「ほぉ……!!」
「まさかもうここまで….…!」
俺を中心に、まるで俺の心を体現するかの様に白いオーラとそれに伴い突風が発生する。
骨董品のようなものが割れ、テーブルが倒れ、部屋が、いや、この家が揺れていた。
「店主……その依頼の制限時間は?」
店主がニヤニヤしながら答える。
「そうですねぇ……移動時間を加味して2ヶ月でどうでしょう?」
「十分だ……よし、ハカセ、俺の傷も直ったことだし、すぐに出発しよう」
あのハカセのことだ、マスクの下で店主みたく笑っているに違いない。
だが、ハカセはどこか浮かない顔をしていた。
「? どうしたハカセ?」
「いや……少しな……」
うかないと言うより、何か考えているような顔だった。
「なぁ、ハカセ。確かに少し思い悩むところがあるかもしれないが、どうせ行かなきゃならないんだ。だったら気持ちよく行ってやろうぜ」
「うん……じゃな、そうじゃな! 今は悩む時ではない!」
ハカセもやる気を出したようだ。ハカセはそうでなくてはと言う自分がいることに驚きつつも元気になったハカセにほっとする。
「伸太! 次の任務は1ヵ月後、神奈川、東京交渉の品、ウルトロンの"強奪"じゃ!! 良いな!」
高らかに宣言したハカセに俺はもちろん答える。
「……了解した!!」
「おおっ! がんばってくださいねぇ〜」
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