予想外
ワシ、ドクトルは下水道で伸太が呟いた言葉を確かにきいた。
死体が冷たい。
それは死んでからしばらくしないと起こらない現象であり、ついさっき死んだ物にはありえない現象である。
「…………」
考える、考える、頭をめぐらせる。死体が冷たいのは何故なのか。伸太も言った様に何故血が人間と思えないほど濃いのは何故なのか。
さらに疑問だったのが、伸太の反射である。
いくら反射が強いと言えど、少し触れただけで爆散するなんて少し考えにくい。あまりにも脆すぎる。
普通に考えて、既に息途絶えていたと言うのが一番濃い線だろう。
(……じゃが)
気づかないだろうか?
死体が冷たいと言う事は息途絶えて数十分くらいたっている。
いくら衰退している東京派閥とは言え、自分の派閥の本部ぐらい最低限守れるはず、ましてや東京派閥にとってキーであるレベルダウンなら徹底的に管理するだろう。
さらに、自分達以外に本部に入れる人物がいない事も、この線がありえない理由の一つだ。
本部のセキリュティはほぼ無敵と言っていいほどにガチガチであり、性能強化、無人化付与エンチャントによって難攻不落の城の様になっている。
なのに何故、伸太は変装もしていないのに内部のカメラに引っ掛からないのか。
それは通信用スチールアイの他にカメラを弄る様のスチールアイを1つ配備させているからである。
伸太に知らせなかったのは、こちらの事情であり知られると困ることがあったからだ。
(つまりここから考えられる可能性は……)
ワシは本部の地図を見る。唯一調べられなかった言うなれば秘密の部屋。
(一度確認するか…….)
そうやって伸太に喋りかけた。
ーーーー
『なぁ、伸太』
ハカセが言葉を出す。
「なんだ? 解決案でも見つかったのか?」
『いや、そういうわけではないが……オヌシ、あの部屋を調べてみる気はないか? ……ほら、わからなかった白紙の部屋のことじゃ』
(白紙の部屋……ああ、1番奥の部屋のことか)
「……それでどうなるんだ?」
『おそらく、まだレベルダウンは死んではいない。そうワシは考えている』
ハカセが衝撃発言をする。レベルダウンがまだ死んでいない。もしかしたらと言う気持ちもあったが、そんなわけないと言う気持ちが強かった。
「……何故だ? 今ここで殺しただろう?」
『それはおそらく……偽物じゃ。いつ入れ替わったかは監視用のスチールアイではわからなんだが、ワシらの予想を超えるスキルか何かが発動したんじゃろう。それがあるとするならば……もう奥の部屋しかない』
「……奥の部屋か」
『別に絶対に行けと言うわけではない。そこにあるかの確証はないし無理に行かずとも…「行くよ」…そうか』
そこにある可能性が少しでもあるのならば行かなければならない。
こんなに近くにまで来ているのだから、それが俺の未来なのだから。
『うむ……用心しろ。そこはワシのスチールアイでも調べられなかった場所じゃ……さっき確証は無いなんて言ったが撤回しよう。そこには絶対に"何か"があるぞ』
「……ああ」
ゆっくりと物音を立てないように一歩一歩、歩を進めていく。あたりを見渡し一応人が来ないか確認する。
そうしていくうちに1番奥の部屋までたどり着いた。
「……これだな? ハカセ」
『……うむ』
俺は部屋のドアまで近づく。
すると
プシュー
「……え?」
ドアが勝手に開く。そのすぐ前には黒のカーテンがかかっており日本の温泉のような作りになっていた。
自動ドアなのはわかっていたが……まさかここにも鍵がかかっていないのか?さすがに不用心ではなかろうか。
(連中からしてみれば、ここまで来れるはずがないってことか……?)
『…………』
ハカセは黙りこくって何かを考えているようだ。
「……ハカセ? いくぞ?」
『……それしかあるまい』
ハカセの声を聞いた後、ゆっくりとカーテンを潜る。
その先には。
「……まじか」
『……今の東京派閥はここまでやるのか』
俺たちが目にしたものは。
大量に空中にぶら下がっている、
真空パックのようなものに閉じ込められた。
人間だった。
「なんだ……これは……」
俺は思わずそんな言葉を口にしながらあたりを見渡す。
まるでクローゼットの服のように天井にぶら下がっている人間のほかに、何かしらの研究をしていたんだろうか、テーブルや大きな実験用具、テーブルの上にはノートが置かれていた。
「…………」
俺は少し早歩きになりながらもテーブルに近づきノートをつかむ。
そしてその中のページを見る。ぱっと見たところ研究レポートのようだった。
△月□日
今日はヘマトクリット値60%でやってみようと思う。
血は猟犬などの他の動物の血で代用し極限まで低コストで人間の体を作って見せよう。
レベルダウンの脳は弄って少年レベルに戻した脳を使おうと思う。
○月×日
成功だ!レベルダウンの弄った脳を猟犬で作った体に移植させてみたがうまくいった。だがそのために猟犬を大量に消費してはさすがにコストが重い。もっと別のどこにでもいるかつ、1匹で大量の血が取れる動物を素材に選ばなければならない。
×月○日
………………………………
「……これって」
『……なるほどな』
ハカセは理解できたようだ。
『最初は1人の無力化のスキルを持つ人間をクローン技術か何かで増やしているものだと思っておった。だが、スキルは正真正銘の人じゃないと発現しないし、そもそもクローンを作る材料はどこからとっているんだと疑問に思っていた……じゃがこれではっきりしたな。連中はクローンを作って数を増やしていたわけではなく…………』
「人間の体を作って脳を移植して……元いたレベルダウンを……使い回してたってことか」
『……ああ』
なんと言うことだ。つまり脳さえあれば奴らは実質、不老不死である。これが約30年もの間ついになくならなかったレベルダウンの秘密だと言うのか。
『……どうする?』
「きまってる」
俺はノートを閉じてゆっくりと天井に手を伸ばす。
「……全部ぶっ壊してやる」
真空バックに触れて反射させようとしたその時。
「ぐおうわっっ!!」
腹に強い刺激が入る。どうやらぶん殴られたらしい。
そのまま自動ドアを突き破り、廊下に放り出される。
「ぐううぅ……」
前を見ると2人の人影、1人は男、1人は女のようだ。
「やったぞ、腹に一発だ」
「やったー! 上官からは用心しろと言われていたけど、大した事ないね!」
(今のうちに……!)
ハカセにこの事態を伝える必要がある。しかし、2人に聞こえてしまっては本末転倒なため、小声で伝える。
「緊急事態だ! 待ち伏せされていた。相手は2人組でおそらくそのうち1人は身体強化系だ。それと……」
情報を伝えようとしたその時、スチールアイからありえない通信が入る。
『すまん!! 今、本拠地が襲撃されておる! 東京派閥め! 既に目星をつけておったか!』
――――
伸太から通信に急いで答えた後、ワシは半径1メートルにまで巨大化したスチールアイにへばりつき、下水道の中を逃走していた。
(……もう時間の問題か)
じきに包囲されてしまう。もう時間の問題だろう。
そしてすぐにそれを実現する事になる。
「終わりだ! 犯人!」
それから数分もしないうちに取り囲まれてしまった。
360度びっしり東京派閥の兵士で埋め尽くされている。
「おとなしくつかまってもらおうか!」
「……はあ〜」
気が乗らないが……やるしかないか。
ワシは残りのスチールアイ2つを自分の身の回りにセットする。
「かかってこい……老兵が相手じゃ」
――――
(何!? ……てことは2カ所同時だと!?)
つまり最初から完全にばれていたのだ。ここまで俺たちが来ることも想定済み。
(本当ならすぐにでもハカセのところに行きたいけど……)
前にいる2人組を見る。あいつらは俺を見逃してくれないだろう。
つまり……
「やるしかねぇ……!!」
こうして別々の場所で2つの戦いが始まった。
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