カイジンは遅れてやってくる!

黄泉路ヲハシル

第1話 灰燼に帰せヒーローどもよ! え…終わってる?

 「お前たちの躍進もここまでだ!」と叫ぼうとしたが、すべてが終わっていた。


 俺はいつも遅れてしまう。幹部からの招集に遅れ、現場の到着に間に合わず、こうして辿り着いた戦地で俺はただ一人、今回の実験生物が爆発した跡を目の当たりにしていた。何もしないまま、今回も遅れてやってきて仕舞いだった。


 ただそこで思いもよらぬものを見た。一般人がいたのだ。

──なんという僥倖! こいつはきっとおそらくヒーローの関係者に違いない。しかし、俺が直接接触して危険はないものかどうか、近くに仲間がいるのならやられるのは俺ではないか、どう動けば最適解かと考えあぐねていると、その人物は走って躓いたのか目を離した隙に転んでいた。


 「大丈夫ですか?」と近寄って声をかけると、彼女は慌てた風で恥ずかしがりながら微笑んだ。年の頃はまだ十代後半くらいであろうか。およそ場所に似つかわしくない風体であった。アイドル衣装のコスプレのような格好で、土埃に塗れていた。

 「ありがとうございます。何ともありませんから、あいたた。」

強かに足首を捻ったのか起き上がれないようだ。

「もしよろしければ近くまでお送りしますよ?」と親切な風を装うことにした。これで乗ってくるかどうか、賭けでもあったが警戒心は薄かったようだ。あるいは何かあっても助けるものがあるのかもしれない…だが、そこまでは計り知れない。いまは全て手探りだった。肩を貸して車まで戻ると、スマホのマップアプリを開いて見せて「ここまでお願いします」と頼まれた。


 到着した先は明らかな民家だった。俺はがっくりと肩を落とした。成果もないまま帰りまた大目玉を食らうであろうことが確定した。

 車から降ろすとよたよたと歩きながら玄関前まで付き添うことにした。ドアを手に振り返った彼女は笑いながら、名乗った。

 「ありがとうございます、親切なおじさん。私は炎尾ホムラと申します。あなたは?」

 「自己紹介がまだでしたね、私は──」

こうして、少女との出会いがもたらすものが何か、この時はまだ塵とも理解していなかった俺であった。

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