第43話 巨大熊は撃退したよ、追い払えた
コルトバ兵の駐留場所を確認すると例の熊が接近していた、四頭も。
あいつらは熊の生息地にテントを張ったようだ、確かに地理的に便利そうではある。毛皮が小さいものを含めて六枚は有るが全体に地球で見るサイズだ。
オスが巡回中か狩りに出ている間に押し込んだのか、ペンギンの習性でそんなのが有ったな。何回かの襲撃はしのいでいるらしいが二頭までのようだ。
熊は基本単独生活を送る、ホッキョクグマなど繁殖期以外仲間もエサとしか見ない。
けれどそれはエサがないからと言う人がいる。動物園では普通にコミュニケーションが取れているから。
さっきのハイエナや家の子を見れば群れることも必要か。
「おネーチャン回って、キューンてっ」
「すっごーい」
「かっこいいっ」
「ミーちゃんも、ミーちゃんも飛びたいっ」
上でクリームさんが手を振っている、サービスで飛んでいるわけではなく巡回だ。
今ここに彼女以外騎士団の人はいない、ナクもいない、私がコルトバ兵の事を話すと皆が様子を見たいと飛び出した。
違うよね。色々試したいだけだよね、大人げない。
ナクの鎧は大きくなると予想して作ったが一部がはち切れそうだった。
作り直した時に背中を鞍に使える形にしたがさっそく使われた。テミスさんとデバスさんだ。
母さんがマリナさんを抱えて先行、上から指示を出す、団長がガラさんをぶら下げて飛ぶ、ハンググライダーは逆に安定するようだ。盾を胸に付けて両手で少し丸みを帯びた羽を左右にスライドさせてコントロール。背中の機構にワイヤー付けて腰の両側からガラをぶら下げている。
団長の足に蹴りの邪魔にならない様に尾翼を少しつけるが風任せなので足の長い仮鳥に見えなくもない。なんかごめん。ああ白影っていたなぁ。
肩に手を置かれたので横を見るとリリカがのぞき込んでいた、見えるのか目を細めている。
どうしようか悩んだが公開処刑が娯楽になる世界だしいいか見たい人だけが見える大きさで。
私も、もしもの為に用意しなくちゃだし。
兵隊が熊を検知したようでバラバラ出てくる、三十人ちょっと。
無理だな、重鎧が六人いるが圧倒的な肉の前では攻撃がないと意味がない。
装甲車も像に襲われればひっくり返る未来しかない。荷物が乗った二トン車を簡単にひっくり返す所を見た。
魔法隊も出てくる、棒にドウナッツ状の刃物を入れている、成程風を使えばかなりの射程をカバーできそう。
けど傷持ちにしたのあんたらだよね。槍系が六人じゃなんとも、うち二人は風使いで三角コーン型の槍を使う、実に払い除けやすい形、どれも人間特化の装備だと気づかないのか。
うちが最近異常なのかもしれんが。
「きゃーあれ誰!はやーいい」
母さんを追いかけているウィンドウを見てハニラシアちゃんがはしゃぐ、このくらいの大きさなら怖くないのか。
「ナクー、頑張れー」
ナクも百キロ近い速度だがやっぱり遅れる空の二人が単独ならもっと遅れるだろう。
母さんがマリナさんを投げる、マリナさんが目をつむって集中する。
二人の重鎧を弾き飛ばしたグリズリーに飛びつく瞬間に向こうが反応した。
振り向きざまに右爪を振るわれるが常態検知力に長けたマリナさんがその右手にまとわりつく。
ぐをりゃあああぁっ!
熊の右手の一部が破裂する、迫ってきた左爪を飛び降りて回避した。
熊の体制が整う前に後ろに下がるとそこに風が巻き起こる。風の玉から現れたのはガラだ。
かなり上から落とされたのだろう風を使って着地させたみたいだ。
「怖いですよ団長っ」
ぎしゃあぁぁん。
「ぬうおおおおうっ」
左爪斬撃を刀と膝、腰を使っていなす。
私が練り直した六倍鉄の日本刀だガラの腕があれば安心だろう。
マリナさんが熊の右手を狙って走る、万全だ。
「オジサン、かっこいー、どっから来たの、ねえどっから?」
元気なコウシアちゃんが荒ぶっている。
母さんが超特急で体当たりをかます、盾のショックがないと大変だ、右フックを受けたボクサーみたいに頭を飛ばすが野生の攻撃は生命を守る脊髄反射、飛ばされながら左右の爪斬撃を放たれるが既にそこに母はいない。
羽に両手を掛けたまま回転しながら上昇そこから下降、頭を一瞬振った熊の蛮行を見逃さない。
背後の斜め下から手の間を抜けて体当たりアッパーカット!。
ごおおぅうがぁ。
盾の突起に引っ掻けたのか首筋から血が出ている。こちらも安牌だな。
「シューんって、こうビューンって」
サイカちゃんとコハクちゃんが手を取り合って盛り上がってる。
団長が羽を背に風を受けてバッシュをかける、風魔法がなければただの邪魔だが威力が増した魔法で鉄球のような一撃をかます、ほんとに熊の体が浮いた。
熊が身体能力を生かして態勢を変えてより早く地面に足を付けるといきなり体を伸ばし顎を広げてくる。
風の制御が間に合わなかった団長が牙に蹴りを入れて安全の空隙を作る。
着地した熊が悔しそうに空を見る、団長が高度を上げる。
羽に有るハンドルのノッチを外すと扇のように畳める、急上昇は無理だけど急降下は出来る、最後は着地しかできないけど。
落ちてきたものに何かを感じたのか右の爪で迎え打とうとするが熊に盾のギミックは理解できない。
ぐ、ぎぃしゃぁぁあああ!。
流石に自身の力に防刃は効果なかったようで手首を鎌のような剣に貫かれている。
再び蹴りを入れて剣を盾に収めて飛び上がるとあぎとが通り過ぎる、そのうえで羽を広げて上昇する自在砲塔。
「お姉ちゃーん、いけ、いけっ!」
「行っちゃえ、行っちゃえぇ」
ユリシアさんが混ざってきたな。
「坊ちゃぁぁん」
あれ?思わず画面を二度見しちゃったけど装備はいだままだった、他にも女性いるしね。
「俺は三十路以下に興味ないよお」
装備をウインドウから出してあげたらいそいそ装備し出した。
ユウがやれやれという顔でやってきた、ジョイさんは五十キロ有るか無いか大丈夫だろう。
背中の鎧を少し変更、あれちょっと大きくなってないか?、実はやる気か、なあ?。
ユウがフィっと横を向く、まあ行っといで。
「いっくぞおおおおぉぉ」
おおおおおおんん!!
ジョイさんがあの格好でオオカミに乗るとオオカミに自動砲のセンサーがついてるみたいに見えるな。ちょっと悔しのは何でだろう。
ウィンドウではテミスさんが到着している。コルトバの兵士の間をするすると。
「加勢します」
と言いながら、テミスさんのスキルは無反応、つまり反応の必要がないというスキル、ノンタイムで次の行動に移せるようになった。
剣を振り盾をかざし弓を弾く兵たちの中を自由に歩ける。
あまりに自然に近づいたテミスさんを物体と認識したのか熊は右後方から飛び掛かってくる脅威に反応した。
ナクが熊の左手に弾かれる、元の身体能力と鎧のおかげでダメージなしだが熊は一寸硬直した。
オオカミの影こそが脅威だった、デバスさんが居る、左手を振りぬいてしまった熊は牙で攻撃するしかなく地面に右手をついて攻撃しようとした時左腹部が破裂した。
「ヒート」
声は後から聞こえた。
「ふんっ!」
ぐぎやあぁあぁげがっ!!
デバスさんが待ったなしで下顎をカチ割る。
「やった、やった」
シンシアちゃんにつられてロリエスちゃんも叫ぶ。
教育的にどうかと思うが鳥を捌くとか普通に家庭である世界、少し前まで日本もそうだった。年寄りの少しは半世紀の事だが。
その後しばらく一進一退が続く、熊たちが防御に時間を割くようになったからだ。
こちらも騎士団と兵士たちの連携が取れるようになって来たが、敵も瀕死の一体を守って三体が周りを囲む形で応戦してくる。
兵士たちに疲労が出てきたその時。
「きぃやああああぁぁぁ」
奇声が響く。
飛んでくる丸いもの、ジョイさんだ、慌てて後を映すとユウが得意満面で座っている、投げたのか?、牙で?。
できれば動きたくないんだろう飛んできた物体を手で払おうとして熊が止まった、さっき痛い目に遭った奴か?。
そのまま肩に当たるままにしたがやっぱり後悔する。
ジョイさんの剣はスリットを通せて強度が出せるように八倍鉄で出来ている、さすがに折れない剃刀は防げなかった。
ぎゃああ、ぐおおおうぅぅ。
熊が体を気遣った瞬間に母さんがジョイさんを掻っ攫う。
「よくやりました、もう一度」
「は、はい」
おい枯れ専、まだ三十じゃねえぞ。
ジョイさんの剣は薄く広い、振らないから出来る形状、風を巻いてしまいまともな斬撃が出来ない。現物は先にしか刃が無いので突き専用かもしれない。
それから二度おなじ攻撃をされようやく熊たちが逃げ出した最後にもう動けない一頭を見ながら。
後ろにいたリリカが言う。
「もう一頭亡くなるよ」
「そうか」
第三者の目で見たからだろう少し気まずい、誰が善い悪いじゃない、生存競争の縮図みたいなものだ、でも少しだけ子供でいてもいいか?。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます