第36話 長女を見つけたんだけど
今日は三時からここで仮眠をとって夜中に出発と決まった。現在は渓谷から十キロほど南の岩石地帯。
装備を作ってから三十キロくらいは移動した。
「待てこらジョイ~」
「ふざけるな外せお前!」
「ただはダメだ、ただは」
今はジョイさんが女性に追いかけられている光景を見ている。
「止まれ、こっち見んなぼけぇ」
事はさっき監視台にいたジョイさんの装備を作って起こった。
「捕まえた!!」
「ぎいぃええぇ」
「本気で暴れんじゃない!」
「目隠ししろ目隠し」
「だめだこいつ見えてやがる」
「あたしの手を正確にさえぎってるっ」
「脱がせろ!」
「こいつパンツ履いてないっ!!」
「構うか!はげ、はぎとれぇぇぇぇ!!」
私もスキルを理解しだして上達しているようで最初の屋台からすると性能がかなり上がっている、馬車は自重しようと思ったときに作ったせいかあまり効果がないようだが。
ジョイさんのスキルは曲芸師なので軽さ優先の防御重視、イメージはアルマジロだけどいろんなところにスリットが入っている。
完全防御でも強い三半規管を使って転がり自慢の視力で弱点をつけると思ってたんだけど。
尻丸出しでうつぶせて泣いている、うっとおしい。要らないこと言うから。
伝声塔でオオカミたちと一人で夜の巡回をしていたのに誰にも気づかれなかった彼の為に気合が入ったのもあったのかも知れない。最初自由になった体を自在に動かし曲芸師の魅力たっぷりな動きを見せてくれた。
面白がったデバスさんがさらに小さくなってメイスのようになったハンマーで架かっていったが何とか往なしていた。
一通りの確認が取れて靴にも何か有っても使えそうだなと考えたとき要らないことを言った。
「姉貴のその怪我跡が残ったんだね」
ここでセリさんが不穏な目をしてジョイさんを見た、昔から懸念があったのかもしれない。
「見ても解らない位だぞ、その横のは?」
「こんなとこに小さな切り傷・が・あ。・」
「何で背中の切り傷が見えんだ!!」
バン!!、ザシャァ、ダダッダ。
「捕まえろ、あいつの能力は視力強化だ!、透けて見えてんぞ!!」
「「「ええええ!!!」」」
★
「ボッチャぁぁん」
「とにかくパンツ履いて」
色々試して分かったのは元々は四・五キロ離れてジャンケンが出来る程度の視力強化だったのが限界が来たというべきかラノベ的にはランクが上がったというべきか、これ以上視力が上がるといろんなものが見えて精神が持たなくなると理の主が解釈したのかもしれない。
拡大装備を付けた彼の目は光の選別が可能になっていた。平たく言うとプ〇ディターのカメラ。
すごいのがエックス線何かも選別出来て色こそぼんやりだが透視に近いことが出来る。
「ギルティです」
「何とかしてくださいよ坊ちゃん」
割と全能感があったらしくこの装備が是非ほしいとのこと、いろんな意味で共感できる。
だけどこのチーム、アメコミみたいになって来たぞ。楽しいけど。
ジョイさんが女子達に棘を左右に当てられながら見える力を確認されている中、この世界の焼き菓子をユリシアさんに貰ってパーテイションの奥に入る。
まずはローデルさんと。
「こんにちは、大丈夫です?」
「ああ、さっきはパンを有難う」
「いえ、ナンとかうどんとか餅を食ったりして余り気味なんです、一寸バタバタしましたね」
「いや大丈夫、彼女も起き上がれたよ」
「これどうぞ、今晩は伺えないかも知れないので」
私が差し出したパンやウインナーポテトを受け取りながら。
「何かあったのかい」
「コルトバ兵の逗留地をかすめる移動をすることになりまして」
「そうか、じゃあ時間あるかい?」
「はい、出来れば」
コルトバ地方の英雄譚として語られたウジルノウ・ジハ・アジカナムの話はこうだ。
十年前までジーニアス領は細々とだが大きな波は無く統治されていた。
ジーニアスは北極まで領地に入り南の端は静岡当たりの気候のはず。
当然南半分で殆どの糧を得ているのに領民は全体に満遍なく分布している。
湖も南にしかなく他の小領は痩せた土地を四年交代で使いながら麦や芋を作っていて余裕などなかった。
ある年ソーサルレイの寺院でツキヨミのスキルを持った少女が見つかった。
偶然そこに居合わせたウジルノウが少女と意気投合、北のテコ集落に住んでいた少女は南に住めると意気揚々ついてきた。
それからまず道の開拓を始めた、広大な土地にそれまで道は無く好き勝手に進んでいて獣道にすら劣る有様だったのを正確な道標を作り馬車の運用性を高めた。
同時に鉱山を見つけ山脈の中ほどまで出来た道を隣領まで繋げようとしたが欲深いサソウス領によって妨害される。
戦争を避けようと引き下がったウジルノウはツキヨミの巫女から一つの天啓を受ける。
やがて天の導きによりホシヨミの少女を味方にして私財をなげうちコルトバ領地を発展させレーク・ラド・コルトバ伯爵に独立を進言し、コロラドに大量の食糧援助を依頼に来たジーニアス兵を追い返し、今も天啓を守るべく邁進する伯爵。
ウィンドウを閉じてから整理する。
ツキヨミは十、遅くても九年前にはウジさん家にいる。
八年ほど前に家にちょっかいを出して直ぐ後にホシヨミを迎えている。
それ以降は自領での活躍。
なら何であそこにいるの?。
家の領を欲深なんて言ってるだけで眉唾なんだが、いろいろこの目で見てるからね。
ちょっと見てみるか時間的にもそろそろだし。
ウジさんの館は分かっている伝声塔模型のメガホンを前に出すとドンピシャ。すぐに洗濯ものに囲まれたそばかすのメイドさんが空に向かって声を出しているのを見つけた。
慣れてきたのかはっきりと日本語で”ガイ様”と聞こえる。
さてどうしたものかメイドの女は時々節をつけたり音程を付けたりしながら同じ言葉をつぶやく。
メイドはどきりとした顔で足元を見る、落ちている伝声塔の模型に気が付く。
元から有ったのか無かったのかと首をかしげながら拾う、精密な作りに興味が出たようだ。
ここでゆっくり、優しく怖がらせるとややこしくなる、小さい声で。
「ぼくを呼んだのはあなたですか」
日本語で言ってみたがきょとんとされた。
「僕の名前を繰り返していたのはあなたですか?」
「はい、あの名前とは知らず申し訳ありません、私はあの」
「知らない?」
「シク、はいっ、お嬢様に頼まれましたっ」
「どこのお嬢様です?」
「西の塔の上に居ます、私しか話せる人がいないと言われて」
「青い屋根の方ですか」
「はいっ、そうで、ぇ」
「その模型は色々な助けになります大事に使ってください」
「はっはいぃぃぃ」
何かメイドさん固まって動かないや、まあいいか。
塔の中に入ってみる、見たまま階段が螺旋に続いてる、上がりきると鉄の扉があり厳重なカギがかかっている。
中に入ると薄汚れた衣装の少女が土下座をしていた。
正確にこちらを向いて。
右に動くとちゃんとつむじがこっちを向く。
「あなたが伝言の依頼者ですか?」
聞いてみると。
「はぁい、わたしは、フクリ、マルキ、、ゾルダン家に養子で来ました」
みーっけ。
「あ、あの、お願いを聞いてもらえる方と占いに有りましたぁ!」
「わかった、用意するね」
「ありがとーございますぅ」
「えーとそれじゃこっち見、、。何してんの?」
「この辺なら濡れても大丈夫でーす」
半裸になった少女を見て固まる私。
「お風呂お風呂一か月ぶりぃー」
明らかに虐待なんだけども。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます