第23話 弟子を失った日
「じっとして」
「セリちゃん動かないで」
「いや此れそのさっきお風呂入っちゃってシッカリその」
「乙女みたいなこと言わないで、変わる?」
「だめだ!!、チャンとするから、ん、」
嵐の中で動き回ったので風呂に入れられたんだ、肩の事も有って風呂場で全身濡れタオルで拭かれた、気持ちはわかる分かるが抱きかかえられた私が少し動くだけで反応してる大丈夫か?、一応リサには来ないようにと言っといたけど。痛。
「もう少しだからね」
そう言われて肩に力を籠める。見ていると布のような皮のようなものを伸ばしたり縮めたりしている、なるほど切り傷には良さそうだ。
皮を伸ばして傷口に張り付ける、これなら血も直ぐに止まるだろう。
「大丈夫、痛くないか?、こんなになって、コーンなに切れて、ねえ」
「そんなに深くありませんよ大丈夫です」
「ホントのこと言うと私も足が震えたんだよ」
「あんなに無茶な突進をしなくてもいいじゃないか」
「火使いが使った武器に覚えがあったもんですからつい」
「それでも、坊ちゃんに何かあったら今ここにいる全員のいろんな意味がなくなるんですよ!」
二人交互に怒られるがあの時、彩樫の顔が見えてしまった。
★
私は自分の作戦で弟子を失うことがあった、戦闘スタイルは当然隠密機動戦になるが弟子は多くても五人あとは現地の人で賄う。
その日要人救助の助勢をする為に彩樫と現地に乗り込んだ、海岸に特殊な巡視艇を着けてそこからは徒歩で、小さめの山だったが七つは越えなくてはいけない、帰りは唯一ヘリが降りれる20キロほど離れた山に向かう。
私達隠密機動隊は情報が全てだ、それをアノくそが、奴が三世だと知る人は居なかった、そして二世のスパイに友人がいた、状況的に偶然が重なったようだが現場はそれで壊れる。
順調に進軍出来たが無線などが使えない電波的に真っ白な地域で状況判断でしか動けなかった。
衛星で確認された要人がいる野営地まであと数キロのところで異変が起きた、前方から鳥の声がしない、私は通信兵に確認をしてくれと頼んだ、ここから目的地までは走れば2,3分、ミサイルもランチャーも用意は有る、先手さえ打てれば何とかなる。
「帰還を優先しても別動隊が来てるだろう」
彩樫が通訳してくれる。
「陽動が出来れば作戦は成功する、全滅すればそれも出来ない」
こう言うと驚愕の目で見てくる何だ此奴と思った、少数精鋭が陽動係なのは当たり前である、うまくすべてが終わったら肩透かしを食らった兵達の、愚痴を聞きながら褒章を貰うのがいつものパターンだ。
しかし頑として通信機を手にしようとしない、この時隊長は腹痛で後方待機していた、連絡係が走っているから待てと言う。
鳥たちが飛び立った。
「総員撤退!!」
私が唯一許されている命令を小さく叫ぶ、鳥が居なくなるなど十や二十の兵ではない。
そう言って近くの兵の腕を掴んで向きを変えさせる、一番近くに通信兵が居た分けで整合性でとか状況確認がとか騒いでいた時無線機に雑音が入る、無線機には広範囲の受信を目的にした通話品質が悪い倍々の周波数で感度が上がるモードがある、それが反応した。
「総員撤退、今すぐ、逃げても誘導にはなる!!」
一個小隊が踵を返す、右の森からも鳥が飛び立つ、最初の鳥で敵も慌てている、もう少し遅いと挟まれるところだ。
後ろで銃声が聞こえ、爆発音が響く、左の渓谷を目指して走る、地形的に罠を張るのに時間がかかると思った、彩樫が殿をしてくれる。
最初近くに五人いたが二日目には誰も居なくなった、皆自分の道を選んでいく自分の命である。
敵の中にハンターがいるそれも小隊単位で、登ることをできるだけ避けてきたが限界が来た、常に葉を食べている、虫も食った、カエルもいたな、それでも限界が来た、麓にバイクの音が響く、全体の気配のかく乱と脅迫のつもりだ山はあと一つそこを超えれば衛星から見える。
巡視船には高射砲が乗っている、マーカーレーザーを当てれば衛星経由で掃射してくれる。電子機器を持っていない私の唯一の反撃手段だ。
右に見える急な斜面に草木が生い茂る上のルートを選んだ。その時彩樫が消えた、いや崩れ落ちた、糸が切れたように。
「どうした彩樫」
「しぇえじぇえ、うおへまへえ」
真っ白な端正だった顔で言う。四節が震え異常な汗が出ている、ハンガーノックだ、異常なカロリー消費のためエネルギー供給が間に合わなくなって体が動くのを拒否する血糖値が下がり切り汗が止まることなく流れ落ちる。
有無を言わさず背負って走った、山頂近くで見つかった、銃声がする、横の木が抉れる威力が高いし音も太いAR-10辺りか。
最初置いて行けとかここで卸してとかもう歩けますとか言っていた彩樫が目的地が見えだした時から見えたっ、帰れると背中で暴れだした。
おろすぞと言うともう少しお願いしますと言われた、二十メートルほどの岩影に彩樫を下ろし視野を確認レーザーポインターを出来るだけ近くに当てる、高射砲は10キロも離れると初弾は100メートルはずれるが一緒に旅した連中が何処にいるか分からない。
やがて空気を割く音が響き天上の大太鼓が音を鳴らす。
十数発、狙いの森と渓谷の形を変えたところでポインターのスイッチを切った。
しばらく待つと煙が収まり木々の間から見慣れた通信兵が四人の兵士に連れて行かれるのが見えた。
「四人なら何とかなるしばらく待ってろ」
「はい、先生、尊敬してます、ありがとうございました」
「銃の準備ちゃんとしろよ」
少し照れ臭かったのでグロックを弄りながらそう返して駆け下りた。
右手を撃ち抜かれた通信兵を連れてきたとき気が付いた、最初に通ったところに血が落ちている、土砂や倒木で分かりにくいが血だ。
安心も有ったのか彩樫の顔以外覚えていない。
脳裏に有ったのは背中ではしゃぐ彩樫。
四発の銃弾を背中に受けうち一発はチョッキを貫いていた。
★
私は馬車からリリカに引き出されて外に出た。
「皆は大丈夫?」
「窓も全部しまってたし、死人が出たのも知らないよ」
「そうか」
「で、どうだったの」
「知らない、足し算ずっと考えてた」
「あん?」
怖いなに?、意味が違う、何で。
「関係あるのかって事」
「あっそうか、在りそうだよ、母さんを襲った奴らと同じ装備だった」
「団長ー!!」
「生きてる奴いましたー」
「埋めちゃダメですよねー」
私とリリカが固まった。
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