第22話 嵐の中の襲撃

 「団長起きてください」

 「ううん」

 「もう、セリアーヌさん、おき、て」

 「ううおっ!」

 「あはははは、びっくりしてる、びっくりしてる」

 「なん、えーオムルくん、え、ここ馬車の上、動いてるよねぇ、危ないよ」

 「くっくっく」

 「ジョイ、指噛むぞ」

 ガシガシ。

 「うわーやめてくれトラウマだぞそれ」

 「風が出てきましたまだ二日目ですが一日休まないといけなそうです」

 「ああ、嵐くんのか」

 「この仮眠所筒になってて風とか分からんかったな」

 「マリナさんも起きて宿車出すの手伝ってください」

 「うっあっうん、う、時間?」

 「それじゃあ、あそこの斜面に止めますので、もう少し凹凸のある道選んだ方がよかったですね」

 「大丈夫起き抜け訓練もしている」

 「団長よだれ」

 「むう」

 「じゃあ僕はパンテさんにも連絡してきます」


 そう言って馬車から飛び降りる、おいだの危ないだの聞こえるがこの二日一緒に鍛錬してるよね、勝てなかったくせに。



 少しもり上がった斜面の影に馬車を止める、一応見回したけれど二、三時間で安全そうな場所は無かった唯一この辺り川が全く無いのが逆に救いか。


 何もない平原の風の怖さは知っている、ただの春一番で脚立を持っていた私は飛んだことがある漫画のように。


 「ススキや笹が多いな」

 「頼りになる物がないな」

 「家の宿車がありますよ斜面の方に屋台をこっちに馬車を、反対に宿車を」


 セリアーヌさんテミスさん、デバス、マリナさんが来てくれたので火掻き棒を出してウィンドウに突っ込みワイヤーロープを引き出す。


 初日の朝、宿車しまうの手伝って貰ってますから。全部無かったことには出来ないから、ねえ、逃げる先も見つかったし。


 火掻き棒を丸めたレールに当ててレールをまっすぐに伸ばす、少々凸凹でもレールの方で合わすのでいい加減でいい。

 「良いですよ、引っ張ってください」

 「「「「せいの、おいしょぉ、おいしょ、おいしょ」」」」

 「こんな大きいのが鉄の上だと簡単に動くんだな」

 「わあ、真ん中押して、真ん中!!」

 「おおう、そうだった、どうりゃぁ!!」


 キキイイイッ!!


 バンパーを押すことでブレーキがかかるようにしている、アメリカンコミックで見た格好で宿車を止めるデバスさんカッケー。

 ウインドウの向こう側のレールを巻き取る、今日はタープ代わりの段ボール鉄を一体にして完全に屋根にする。

 さてコの字に囲えたので残りは。

 「リサさーん」

 「ハーイ、崩すの?」

 「はいこれお願いします」

 「はいはい、ディグ」

 「デバスさーん、手伝って、今日はいい酒出しますよぉ」

 「おう任せろなにすんだ」

 「これ見えます?」

 「お、土だよな?」

 「これをスコップで掻き落とします、こうやって」

 上にある土を掻き落とす、なんとも慣れない作業だ。上を向き少しづつ動きながら宿車と馬車の間に小山を作っていく。

 「ホエー、こんな事も出来るんか」

 「まだまだ」

 手を土山に入れると鉄がうにょうにょ出てくる、体積比で三分の一ぐらいが鉄、山が崩れる前にスポンジ鉄で形を支えて残った鉄を集める。そして縮小したウインドウを潜らすと、拡大鉄の出来上がり。

 それらで宿車、馬車、屋台をくっつけて隙間を埋める、台風の被害は風を入れた後に起こるのであらゆる場所を確認する、よし。


 「どうしたマリナ」

 「ううん、こんなに雨風強いとわからないなーって」

 「おーいいジョイ、何とかしろよ」

 「いや目がイテエ無理だぞ」

 「ガラスがいるかー、一寸待ってて」


 「坊ちゃん何してるんです」

 「テミスさんシー」

 リリカがフォローする。

 「あ、はい」


 「うん、父さんに頼まれてさ、すぐに嵐が来るんだって、高くなる前にねはいじゃあ銀貨一枚ね有難うこれに乗せて、うん念のため、有難う」

 

 ガラスの乗った台車を皆に向けて。

 「買えたー」

 「うん、うん、オムルくんの”うん”、」

 セリアーヌさんが一点を見て呟いている、治ってないの?。

 「さあこれをはめに行こう嵐の日に一人は嫌だよね」

 「ボッチャあんんん!!」

 次が見張り番だったテミスさんに抱き着かれた、うわ!!柔らけえ。

 「テェミスゥ!!」

 「「「離れろーばけもの!!」」」

 「ばっ、何ですってぇぇぇっ!」

 「あっこら、坊ちゃん攫ってくなー」

 「俺には本気に見えるんだがどう思う」

 「んー僕の目には本気かなー」

 「あれ、おいクリーム交代まだだぞ」

 「いやだ濡れるし、その方がいい?」

 「ばっ、あほうかっもう分かったよ、坊ぁちゃ~ん馬車の方も頼んますよぅ」

 「はぁぃぃ」

 「どっから声出てるんだろう」


        ★


 それから昼食をとりおやつを食べ風の音にビビりながら怪談を話し合った、怖いというのは理屈ではないと思い知った。

 いつの間にかセリアーヌさんに抱っこされていたが文句も言えない。

 怖さのせいか小さなことがやけに気になる、例の伝声塔センサーがおかしい、聞こえすぎる。


 伝声塔は機械ではない、塔の中で声を聴き内容によって伝声師が塔の頂上で必要な向きに向かって喋るの繰り返しで遠くまで届かせる。

 時折意味をなさなくなるので折り返したりするし場合によっては無視される。

 私の名前は明らかに無視されていたはずで距離によって聞こえ方が変わっていたのだが昨日からどこで聞いても同じに聞こえる。

 言葉は分からないが繰り返される言葉が気になったのか伝声師の声が同じ時間に響いてしまい元の声が聞こえない。

 何かの意思か、偶然か、または誰かに感付かれて利用されているのか、テレビならこれくらいか。

 伝声塔も風の音が響きだした今日はもう無理だな。


 その時クリームさんがつぶやいた。

 「マナがおかしいです」

 「周りにどんどん増えています」

 「ガラリアッ」

 「無理だ嵐で何も見えん」

 「マリナはどうッ」

 「無理ですこんなに風が有ったら」

 「クーさん分かりやすいのはどれ」

 「斜面の下あたり」

 「了解っとうあっ」

 「どうした少年」

 「死体です動物の!」

 「バラバルだ、奴らの常套手段だぞ」

 「見つけたあいつらだ、くそっ」


 正直先日の盗賊以来なめ切っていた、敵地についてから常に隠匿の方を使うのは当たり前じゃないか。

 ましてやスキルや魔法まである世界だ、それよりも後手になったぞどうする?。


 「スキルの半分がだめだ」

 今朝の鍛錬で得た地位で私が指示する。

 「デバスさん頼みます総金属の鎧で剣なんか役に立たない」

 「知ってるのか」

 「この間母さんを追い込んだ連中です、あの時は風がなかったんで何とかなりましたが」

 「手練れか?」

 「はいおまけにパワー集団ですよ」

 「感じました、います、周りだけで十一、いえ十四」

 「テミスさんマリナさんお願いします」

 「「はいっ」」

 「ガスを使われる前に出ます、デバスさんはすぐ右に後は徹底防戦で」

 「了解!!」

 「リリカは、いいか」

 皆を宿車に誘導してる最後の防衛だ、リサが真ん中でスリングもって仁王立ちしてるいいね。


 先にマリナさんとテミスさんが小山で髪をなびかせて立っている、使ってるのは当然水魔法、弓矢が飛んできたがジョイさんとガラリアさんが盾でカバー、既に二人倒してる何か絵になってるぞ。

 目の前に落ちた矢を見ると黒く塗って羽が無い、経験が有るが矢尻を重くして射出が安定すれば矢に羽は要らなかったりする。

 デバスさんとクリームさんが殲滅第一隊時計回りおおクリームさんが風で動きを鈍らせてデバスさんが力任せにぶっ叩くいいねえ、セリアーヌさんがこっちに来ちゃった。

 私は殲滅隊第二隊反時計回り、ええっセリちゃんがすっごいスピードで突っ込んだ。

 「エエエエエィッ」

 黒い鎧が腹を抑えて後ろに飛ぶ、血が出ている、抜いたのかこの風の中で、なるほど風を相殺したり足したりしてるのか凄いな。

 でもねちょっと待ってって私は身をかがめてススキのなかを走る、気分が乗ってきた。

 直前で見つかったのでスライディング今日の装備は左手に篭手付きの小盾と背中に中盾、よく滑る、剣を振ってきたので足でけりその反動で上体を回し脚にタッチ。


 何が起こったか分からないだろう、下着姿になった男はピンクの盾の餌食になった。

 「次行きます」

 「おぇい」

 

 完全に鉄で囲われた野営地に戸惑っている黒鎧二体発見計画が裏目に出たね、この間は現場にいなかったので苦労したんだ。

 憂さ晴らしだ、手前の男の鎧を溶かして首を折る、わざともう一人の目の前で、目の隅で見つかると条件反射で攻撃されるが目の前で不条理が起こると一瞬止まる、ここで手を出してはいけない、そのまま横を通り過ぎる格好をして鎧に触れる。


 下着姿の犠牲者が最後に見たのは奇麗な盾だ。

 アックスが飛んできたので後ろに倒れる、小さい体を生かすためだ、左手で受け身を取りそのまま半回転、予想どうりナイフが地面に刺さった。


 「何すんだぁ貴様!!」

 アックスを跳ね返したまま団長が突っ込む。

 

 はっきり言ってチート技だ、どうやって反撃するんだあんなもん。

 轟音を上げて相手が吹き飛ぶ、違う、音は反対側だ。

 ススキの中を走る、感に任せて体をひねる、止まる、横に転がる、ナイフや鎌、翅のない矢が地面に刺さる、人間には自然にリズムが刻まれる鍛錬すればするほど、空手や剣道で肩の動きをよく見る人がいる、ほとんどが無意識だが相手のリズムを盗む一つの方法だ。


 四人いた一人めは団長に飛ばされた奴で明らかにダメージを負っている肩をつかんで鎧を脱がして腕を回転させて、そのまま肩を粉砕、セリちゃんがもう来た。

 こいつの胴を踏み台にして二人目と三人目の間に飛びこむ、お互いの体が邪魔で一呼吸遅れる、いただき。二人の鎧を脱がして前からくる剣を盾で防ぎ後ろから切りかかってきたのを無視し、目前の剣を右手で鷲掴みして心臓にけりを入れる、一瞬硬直したので剣を腕ごと掴んで回転粉砕しもう一人を見たら既に赤ピンクの餌食だった。

 「肩、肩が、嫌だ、嫌だよう」

 「大丈夫ですよ早く向こうへ行かないと」

 背中の盾をうまく動かしてもどうしても切れてしまう仕方ない。

 最後は弓使いだった相当手練れなのは分かるが私の好物だ。

 放たれた弓に弾かれたように体を回して往す、同時に上体を変えずに下にかがむ、同じ姿勢で下に沈むものを人間は認識しにくい。

 視線が切れた瞬間に転がり懐に入って鎧を脱がす間髪入れずにエル●スが突進する。


 そのまま屋台の裏まで来た、二人いるが地面むき出しで隠れられない、セリアーヌさんの肩につかまる。

 「おねがい」

 「了解!!」

 後ろから豪風が浴びせられる自分の足が持ち上がる、すげー。

 盾の超突進で黒鎧二体があっさり吹き飛ぶ、私はとっくに手を放して一緒に飛んでいく。一人は手足が変な方を向いていたので無視。

 もう一人は致命的なミスをした体幹を生かそうとしたのだ、もうすでに初手は終わっている、ここで仕切り直しは馬鹿だ、剣が届く前に鎧を脱がせて肘を人中に叩き込む一瞬で意識が飛んで赤い盾の餌食になった。


 「セリアーヌさんどうしました?」

 なんかボーとしてる。

 「ううん、いや、後で」

 「急ぎましょう多分火の上級者がいます」


 そうあの音は手榴弾に近かった。

 リリカにも一度使ってもらった薄い鉄の玉に木片と石などを入れる、木を燃やせば内部膨張に耐えられなくなって爆発する、時間を調整したくてリリカに使って貰ったら、火をつけて投げた後で不思議な顔して拾いに行った、ビックリした本当に。


 スロープ状の坂を少し行くと見えた、デバスさんの大楯が利いてかすり傷程度みたいだがにらみ合って動けないようだ、護衛が二人いるせいか。

 こちらに気付いたかこの嵐の中で、スキルってホント凄いな、お、逃げ出した。


 「大丈夫ですかぁ」

 大声じゃないと届かない。

 「おおっ助かったゾウ」

 「前に行きましょう」

 「そうだな」


 人口の小山に行くと皆と少し離れたところに見慣れない男が立っている戦闘は終わったようだ。

 「どうしました?」

 「決闘を申し込まれました」

 「へえ?」


 「私はバラバル団副長ガゾバン、すまない仲間を逃がす時間を稼ぎたいお願いできないか?」

 「こちらに益は有るの?」

 「今後絶対手を出さないと誓うことが出来る」

 「誰かに頼まれた?」

 「言えない」

 「そう」

 テミスさんが考える風に手を顎に当てようとして辞めた無理でしょう腋上げないと、やってみたかったのかな。

 「まあもう聞いちゃってるようなもんだし俺がやるよ」

 ガラリアさんが中剣を持って歩みだす。

 「有難う恩に着る」

 「技はあいつが一番なんだ」

 「そうです?」


 二人が対峙する、ガゾバンは腰を落としたオーソドックスなやくざ構え、実はこれ足の位置さえ気を付ければ典型的な肉骨狙いの構え。

 対してガラリアさんは剣を下に向け右肩出しやや前景の、剣先上げるだけですぐ殺せますよの構え、おまけに体重が三分の一ほど前に行ってるので踏み出しが早い半面、敵の射程に顔を入れる煽りの構えでもある。


 ガゾバンが動けないまあそうなるか。しばらく対峙しているとガゾバンがしゃべった。


 「ミーシャって子が居たら気に掛けてもらえるか?」

 「分かった」

 「ありがとぉっっ!」


 突き出した剣を下から払う。

 あれ?。

 払われた剣がきれいな円を描き右からの袈裟切りに移行する、ガラリアさんが直ぐ左肩まで移動している。

 体を沈め左手一本で切り上げてくるのを剣のつばを蹴ってそらされたので左に回転してガゾバンが距離を取ろうとするが立ち上がることは無かった。

 首はもうない。


 「最初のに気付いた顔ね」

 「苦しまないようにですか」

 「一合は有ってからってのもあるみたいよ」

 「それよりもオムルくん来て」

 「痛ッ痛いですセリアーヌさん、ちょっと、ていたい」

 「みんなは片づけといてー」

 「え、どうすんですこれ」

 「死んじゃったら埋めるしかないよー」

 「まあ襲われたときはしゃーないか」

 「あ、テミス、くんな」

 「いーやーでーすー」

 「なんでだよ」

 「頑張ったんですよ、ご褒美」

 「何の褒美だよ」

 「あれ良いんですか、オムルくん昨日団長何したか、」

 「わーーーーーーいいぞ来ていいぞ、頑張ったもんなうん」

 「ふふ」

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