第8話 宝石加工職人

 「一応確認ですけど此処まで彼女を歩かせたりは」

 「してません、してません、その、此処が安全か解らなかったので手前で」

 まあ当然だねでもあのライカさん結構やりそうだ、来た時手ブラだったしね。


 「食料は明日又調達すればいいし取り合えず食う分は有るよ、半分は僕が引き止めるわけだし、丁度パンを沢山村長に頼んでおいたからある筈だし」

 夕食時村長に手紙を書いて玄関に置いた一日金貨一枚でパンを二十人分お願いしますと、寝る前に見てみると十人分は出来ていた。


 直ぐ作れて明日の朝胃持たれしないようにパンを焼いてたっぷりキャベツとベーコン風に焼いたエール漬け猪肉を挟んでケチャップとからしマヨネーズをかけてミルクと紅茶を出してやった。


 キャベツは本当に良く効く。


 「これはうまい、やはり貴族の人は食べるものも違いますね」

 「このお茶も美味しいわよ」

 三つ編みの人がひざにマミルちゃんを乗せながら紅茶をすする。

 「この椅子も金属なのに座り心地が良いし何故か暖かいし軽いし」

 私が子供なせいも有るだろうけど一気に砕けてきたね。お、マミルちゃんもミルクを飲み干すと完食だ。


 「けぷ」

 「まあ、マミルがこんなに食べるなんて」

 「暫く料理らしいもの食べれなかったからな」


 「ありがとうございます、こんなにして頂いて、町に着いたら一生懸命働いて恩に報いますので」

 「えーと、重たく捕らえるよりも腕を貸して貰えると助かるんですが」

 「は?あはい」


 頼みごとを口に出そうとすると左後ろでリサの声がした。

 「オムル君、この子を休める場所に移動したいんだけど」

 「そうだねちょっと待って」


 荷車のほうに近寄って装甲車風の窓を大小四方に付けて網戸もつけて中にはたためる二分割用の鉄板を付ければ二階も出来て五人は余裕、たためるワイヤーメッシュせいのマットレスを置けば寝心地も大丈夫だろう一応タオルと盥、水桶も置いておく七、八十リットルくらいか後鍋と、。


 「オムル君、やりすぎ」

 リサに声を掛けられ後ろで大人ズが身じろぎも出来ないように固まって見ているのに気が付いた。でもまあついでだしキッチンカーのように片方の壁がテーブル型に倒れるようにして高さの会う椅子を置けば外からでも仕事が出来る、タープ風の張り出し屋根はそのままだしいいんじゃね。


 あんぐりとしているパンテさんに声を掛ける。

 「これも差し上げますので今私が持っている宝石の加工を明日中にお願いしたいんです、もちろん食料もお渡ししますしなんなら一緒に最後まで来て貰っても構いません」

 「え、いや、あの、これ以上貰う分けには」

 「口止め料も入っていますから、先ほど言ったのは本気ですよ」

 一瞬何か考えて思い当たったんだろうびしっと気を付けをして。

 「はい、精一杯やらせて頂きます!」

 

 元気に声を出していたパンテさんだったけど列車の物置スペースから出した宝石をテーブルに広げると膝が震えだして声が上ずりだした。さまざまな色のきれいな石がテーブル狭しと広がった。


 彼が動かなくなったので女性三人でシャサさんを荷車改め屋台ハウスに移動した。痛み止めの香は常習性もあるのでリサに女の子の薬を飲ませてもらった。口移しだった、仕草がエロい。


 こちらの世界に帰ってきたパンテさんが声を掛けてきた。

 「こんなの一日二、三個しか無理ですよ、カットは運任せで良いならいくらか出来ますけど磨きが出来ません」

 「解ったじゃあこれがあれば?」


 その場でもぞもぞして作ったものはパッと見、反対に置いた後ろだけの自転車、其の後ろに座椅子ッぽい腰掛を置く、ペダルをこぐと目の前の車輪が回る其の車輪にはダイヤの粉を天花粉レベルに砕いたものが鉄に練りこんである、村から出て三日目に雨が続き憂さ晴らしにダイヤを鋼鉄で砕けるか試した産物である。私の鉄が凄いのかそんな物なのか。


 「こうやると回るでしょ、これで磨けるはずだよ」

 「ち、ちょっと試して良いですか」

 「どうぞ」

 パンテさんが鞄から皮の手袋を出して大き目のルビーを持って来た。

 「此処に座ってこれを足で回すように漕いで」

 「おお、おお、凄い、削れる、きれいだ凄いぞこれはっ!!!」

 「精密に研ぎたいときは誰かに足踏みを回して貰えばいいよ」

 「ああなるほど、逆に回せば反対で作業が出来ますね」

 「どお、車輪の重さとか」

 「丁度良いですよ、足蹴りのは見たこと有るけどあれは腰に来て辛かったんです、しかも速さが段違いです、後はこれどれ位持ちます?」

 「あなたっ!失礼ですよ」


 「大丈夫ですよ、チェーンは使わず重りも兼ねて歯車を頑丈に作りましたし車輪の外周の白っぽく光ってる所は玉鋼にダイヤの粉を練りこんでますから当分は持つはずです」

 「ダ、ダイヤモンドですか?」

 「ええ此れ位のを一日掛けて丹念に叩き潰してやりました」

 右手で作ったワッカを見てパンテさんが動かなくなった、如何したのか見ているといきなり倒れた。

 

 「ええっ!パンテさんっ」

 「あなた」

 「あんた」

 「はあ、驚いた、息してますよ」

 「あんたって行動力は有るんだけどね・」

 うなじをエロく撓らせながらいう人に。

 「いえ其の反応は普通と思いますよ」

 リサが困ったような顔で言うとうなじを傾けて。

 「なぜ?」

 「オムルの作った指の大きさは大体百カラットぐらい、面倒だから後で幾ら位か聞いてみて」

 リリカがもういいとばかりに、うとうとしているマミルちゃんを抱きかかえて荷車改め屋台ハウスに連れて行く、微笑ましい姿を見ながら私達も三人掛りでパンテさんを抱えて連れて行く。


 先ほどシャサちゃんを二段目に寝かしたので少し窮屈だけれど私なら普通に歩けるので足を持って奥に入っていく。


 さてその辺にされたら困るのでトイレの説明をしないとね。

 「トイレはあちらの宿泊車に有りますからちゃんと使って下さいね」

 「一緒のトイレですか?」

 白い綺麗な皮膚を引きつらせながらリオナさんが言う。

 「この左のタラップを上って、あ、水はそこの蛇口からも出ますから使ってください」

 「いえ、半時も歩けば川が有りましたし」

 ショートのライカさんが尤もらしく言う。


 「皆さんは少なくとも今は僕の監視下に置きます、意味は解りますよね?、てか川の水飲んだんですか」

 「ええ水筒なんてとっくに空だし」


 私は思わず溜息を吐いた、村の人達でも川の水を生で飲むことは無い、川の途中でどんな動物が糞をしているか解らず、どういう寄生虫が居るか解らない、これは日本でも同じで北海道では川の水を飲むと寿命が後十年になる、などと言う老人も居るくらいだ。


 「まあ皆さん丈夫そうですし、一応明日虫下しを貰って置きます」

 そう言って扉を開けて中に入り二つの扉をさして説明をしようとする前にピカピカに光らせた鉄製の鏡に目を釘付けにしてしきりに髪や肌をチェックしだした、見難そうなのでピーピングウインドウを小さくして上から照らしてあげた。


 「ありがとう、ここからも水が出るの?」

 「出ますけどお風呂ありますよ?」

 「「ほんとに!!」」

 「ええ露天ですけれど旦那さんしか居ないし入ります?」

 「「お願いします」」

 「もうもうね、十日も入ってないの」

 「川で昨日拭いたとき髪からねあれが出たのよ」

 本気で泣き出した奥様方にトイレの使用法を教えて柔らかく作った藁半紙の説明をして~貴族様だ~の連呼を我慢して生活スペースには元貴族の人達が来る予定だから入らない方が良いかもと言うと絶対入りませんと約束してくれた。


 リサに頼んで洗い場を穴風呂の横に本格的に作って貰い衣服の洗い方の説明をする間に二人とも服を脱ぎだしたので慌てて温泉を注ぎながら未だ張りのある二セットの双球を見つめているとナイフが飛んできた。


 修羅場を潜り過ぎたせいか本当に命の危険がある殺気にしか反応しない私は弟子に一回女性に一回奥さんに二回刺されている、主に下半身のせいで、其の為の行動は取ったことは無いが結果は御免なさいだ。


 で、今私は右手のナイフを見て驚いている。


 「危ないよ、僕じゃなかったら刺さってたよ」

 右手で掴んだナイフを振りながら文句を言うとリサとリリカが手をクイックイッとする。

 「・・はい」

 私は衝立を湯船が見えないように立てて今日買ったばかりの石鹸を置いて歩いていく、温泉に繋いだ先は今が昼なので温泉と一緒に光も漏れていい感じだろう。


 「見境が無いんですか?」

 「母ちゃんもそんな目で見てたの」

 どっちの母ちゃんでしょうか。

 「人様のお乳ですよ」

 「ひょっとして村のお風呂作った目的って」

 いやまあプライベート空間は覗かないって決めてたので・・・。

 「町でも結構色んな女の人見てましたよね」

 「まだヤリ足りないんでしょうか?」


 このあと温泉に入った二人から緊急度高めの声が出て慌ててはんてんを用意するまでリサとリリカの説教を聞く羽目になった私だった。



 翌朝は少し遅めの起床になったがリサはすでに朝の身支度を終わらせて焚き火を竈や薪ストーブに移している、朝靄の中で女性のシルエットがしなやかに動く様子をエントランスの階段に座って見ていると後頭部を小突かれた。


 「いて、なに?」

 「爺ちゃんと同じことしないで」

 ビクッとして顔を見たけれど他意は無いようだ、心臓に悪い。


 列車の横っ腹に付けた蛇口で顔を洗って鍋の準備をしている時に屋台ハウスにも薪ストーブ付けるか後ろにつけて給排気を外に繋いで安全に、等と考えてしまう、初孫モードはまだ収まらない様だ。


 お湯が沸くまで干されている洗濯物を見ている、変な意味じゃなく乾きやすいように赤道辺りの温風を当てている、ゆれる洗濯物と小鳥の囀りがかわいく聞こえるのを楽しんでいるとまた小突かれた。


 「お願いだから!!」

 少しとぼけた感じでリリカが言うが言葉の端で真剣さが出ている。

 あっそうかリリカの御爺ちゃん去年亡くなってたんだ。

 「わかった、じゃあ朝から肉盛で行きますか」

 「そうしよう、そうしよう」


 大量に出した猪肉を細切れに切って同じ大きさでニンジン、ジャガイモを切って鍋に入れてホワイトシチューを作る、煮ている間に村長の家からパンを戴く、村長の奥さんと目が 合った気がした、ニッコリしていたけど空間から棒が出てきてパンを持ち去るって結構ホラーじゃなかろうか。


 そうこうしている内にパンテさん一家が起きて来たので取り合えずパンテさんにはマミルちゃんとお風呂に入って貰う、正直匂ってたから。同時にお酒から摘出したアルコールを薄めて洗浄水を桶に作りライカさんに手拭と一緒に渡してシャサちゃんの体と髪を洗ってもらう。


 アルコールは村の大人に白い目を向けられながら結構な量を作り置きして使い方の説明もしておいた。


 お風呂から鼻歌と笑い声が聞こえてきた頃、リオナさんとライカさんが三人の洗濯を終了したので裏技で乾かしてやった、大きなトングで服をつまみピーピングウインドウに突っ込む、繋いだ先は違う星!!、とっても乾いた星でたまに布を傷めるのでめったにやらない。今回はうまくいった。見ていた全員がぽかんとしていたけれど御免説明できない。



 パンテさんがお風呂から上がった頃にシチューもできた、声を掛けるとリオナさんが三つ編みを揺らしながらトレイを持ってくる。

 「一緒じゃしんどい?」

 「はいすみません、幸い素敵なテーブルも有りますし、シャサも居ますし」

 「そうだね」

 

 そう言ってシチューを注いでいるとぽつりと呟くのが聞こえた。

 「このパンって向うで買えるのかしら」

 「まだ何処に行っても売って無いですよ、すぐサラミドル領で買えるようにします」

 「本当です?でも高いですよね」

 「いや材料が一つと発酵が少しプラスになるだけなのでそんなには変わらないですよ」

 「本当なら嬉しいです、それくらいは稼げますよね」


 昨日の道具の事を言っているんだろう、屋台の中に片付けたみたいだし。

 

五人分を深皿に入れ終わったときにライカさんが籠を持ってきたのでパンを入れてあげたけど何か変だ、なんか錆びたロボットみたいな感じ?。


 「なにかありました?」

 「いえ何も無いです、アリガトウゴザイマス」

 「ほんとに?」

 「ハイ、旦那様」

 「だったら良いけど、屋台の後ろの蛇口から水が出るから飲んでも大丈夫だよ」

 「まあ、どれぐらいあるんです?」

 リオナさんが屈託無く聞いてくる。

 「止まってるときは僕が管理してるから幾らでも、動いているときは五十リットルくらいかな」


 二人とも深々と頭を下げてから屋台のほうに戻っていく、何か変だけどまあいいかリリカが涎出してるし。


 私が注いでリサが並べてテーブルに料理を出し終わった頃に奇声が聞こえた。

 「金貨二万枚ってなに!!」

 「しい、旦那様の気が変わったらどうするんだよ」

 「アノ機械に百カラットのダイヤモンドを砕いて入れたって言ってたろ」 

 「ええ、アノ小さいほうの子が言ってたわよ」

 「質が悪いダイヤを使ったんだろうけどそれでも鋼に練りこむなんて有り得ないことして作ってるんだから、二万枚なら私が必ず売って見せるわよ」

 前半少しどや顔で言ってたから受け売りかな。


 ライカさんって商家の娘さんなのかな、ダイヤってやっぱり熱に弱いのか?。

 「まあ売るわけには行かないけどね」

 「解っています。旦那様からの貰い物で一点物、無理でしょう!?」

 「そう言えばこの屋台もくれるって言ってたわよね」

 「この設備でこの軽さと頑丈さ、二百枚って言われても納得するね」

 「ママ、おいし」


 マミルちゃんかわいい、大人たちの灰色の会話をばっさり切ってくれた。

 「あら、ほんとに」

 屋台の中のマミルちゃんの横でリオナさんがそお?という顔で一口食べて驚いたように口に手を当てる。

 屋台の外で椅子に座って窓テーブルを囲っているパンテさんとライカさんも口を着ける。

 「具もたっぷりだし、何でしょう?それだけじゃ無いはずよね」

 ライカさんそれは多分バターのせいですよ。

 リオナさんが立ち上がるとくぐもった声で賞賛の連呼が聞こえるシャサちゃんに食べさせているのだろう、食欲も有る様でよかった。


 「本当に美味しいですよ、此のこくって一昨日パンに塗ったやつです?」

 「うん美味く出来た、朝の短い時間でどうかと心配だったんだ」

 「幸せです、肉です、いっぱいです」

 リリカの三拍子歌が聞こえた。



 食後にお茶やらミルクやら紅茶やら入れてまったりしつつ木の葉ズレのおとを聞いていたらパンテさんが予定を聞いてきた。


 「此れからの予定を聞かせて貰えれば嬉しいのですけれど」

 「僕たちはこれから町に行って準領主に会ったり人に会ったりするので帰るのは夕方だね其の間に宝石を整形しておいてね、子供たちのプレゼント用だから気張らなくて良いからね」

 「プレゼント、デスカ」

 そう言いながら夕べのままのテーブルを睨んでいた。

 「べつに幾つ無くなっても気にしないから」

 

 聞き方によっては嫌味だがもちろん違う、無責任に何をしてもいいよ、練習でも新しいカットの実験でもと言う意味だ。

 盗賊もどきが来る時もあるしね、子供がいるんだし宝石ばらまいて逃げるとか。

 

 玉鋼で作った叩き台を置きながら。

 「食材は冷蔵庫に入れてあるから好きなのを食べて」

 「へ、あの皆さんで行かれるので?」

 「ええ私一人では外聞が悪いので」


 二人にはそれなりの服装をしてついてきてもらう。


 「いえあの私は夕べ着たところですよ、しかも迷惑しか掛けていない」

 「家のリリカの反応が良かったからね、それに無くなって困る物もないし」

 「は・は・困らない?」

 パンテさんの目があちこち泳いでいるので現実的な理由を言うことにした。

 「本当に大事なものは違う場所に隠してるし、僕から逃げられると?」

 

 目の前にピーピングウインドウを出して町の様子、一人一人の往来を行く人の顔を映すと納得した表情で、

 「解りました、出来る限り数を揃えるように頑張ります」

 納得してくれたようでなによりだ。

 「ライカ、リオナ、手の空いたほうが見張りにたってくれ」

 「いや、だからそんなに気負わなくていいよ」

 「そう言う話じゃありません、出来ることはします」

 真剣と言うよりは当たり前の事と言う顔で此方をみる。突っ走るだけの兄ちゃんじゃ無かったね、高評価だよ。


 腹がこなれるまでマミルちゃんにやじろべえの乗り方を教えたりシーソーでやりすぎて半べそかかして大急ぎでミキサーを作ってミックスジュース1Lでご機嫌とったりしてから町に向かった。

   

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