第14話聖勇教

「で、結局何をしに王都に来たんですか? まさか盗賊狩りに来たわけではないでしょう?」

 アリアは露店で買った肉串を食べ終わり、串を折りながら俺に言う。

「ああ、ちょっと昔の仲間に会いにな」

「それって、かつて魔王を倒したパーティーの……」

「ああ、そうだ」

 そうして、目的地にたどり着いた。そこは、王城もかくやという巨大建造物だ。だがさすがに建物の性質上、派手さは王城の方がある。

 何を隠そう、ここは世界最大の宗教、聖勇教の教会なのだ。

「入りたくなさそうですね」

 俺が苦い顔をしていると、アリアが話しかけてきた。

「まあ、そりゃあなあ」

「今から会いに行く仲間と仲が悪かったのですか?」

「いや、仲は良かったよ。ただこの場所がなあ……」

「場所……ああ」

 アリアは気づいたが、聖勇教は簡単に言うと「勇者」と「聖剣」を崇める宗教だ。

 つまり、勇者だった頃はそれはもう崇め奉られて鬱陶しかったし、勇者を辞めた今は肯定派と否定派が生まれて微妙な立ち位置になっているらしい。

 まあ、こんな御時世だから、魔王を倒せる勇者にすがりたいってのも分かるけれども。

 それに、聖剣は勇者を信じる人の心が力になるなんて話もあるから、国も無碍にできないどころか、国民の殆が聖勇教徒だ。

 俺は渋々重厚な扉を押し開き、中に入った。

「こんにちは。信徒の方ですか?」

「いや、そういう訳じゃないんだが、ちょっとエレンに会いに来た」

「聖女様に?……一体どのようなご要件で?」

 修道女は疑わしい目で俺を見る。まあ、エレンは聖女。聖勇教の中でも特別高い地位にいる訳だし、そんな人を呼び捨てにして呼び付けるんじゃ疑われて当然か。

「「Bランク冒険者のユウが来た」って言ってもらえれば伝わる筈です」

 何だか益々疑いの視線が強くなった気がする。そりゃあ普通に考えたら「Bランク冒険者如きが聖女を名指して呼んでる」んだから「こいつ何様だ」みたいになるか。

 それでも、「もし聖女様の知り合いだったら」(実際そうなんだが)と思ったのか、ちゃんと呼びには行ってくれるようだ。

 しばらく待っていると、部屋から早足でエレンが出てきた。

「よう、久しぶりだな。エレン」

 俺は右手を上げて軽く挨拶したのだが、向こうは俺の左手を握ると、有無を言わさず応接室らしき場所に俺を押し込んだ。

「久しぶりじゃないでしょ! 何で定期検診に来ないのよ!!」

 俺は魔王から受けた呪いを放置しているが、エレンや王様からは「教会に定期的に行って様子を見るように」言われているのだ。

「いや~だって、俺もう引退したし、いいかなって」

「良くないわよ!命に関わるほど悪化したらどうするの!!」

 エレンはひとしきり俺に説教すると、溜息をついて落ち着いた。

「まあいいわ。今日はこうして来てくれたんだし」

「いや、今日は呪いのことで来たんじゃないんだ」

「あ゛」

 エレンはまた何か言いたそうだが、その前に俺はずっとこっそり着いて来ていたアリアの肩を押し、紹介する。

「弟子のアリアだ。よろしく」

「よろしくお願いします」

 アリアはカーテシーで挨拶する。

「アリアって、アリア・フーバー? 王女様の?」

「そう。そのアリア」

「弟子って?」

「勇者になりたいんだと」

「何で?」

「その辺は話すと長くなるんだが……」

 俺は、俺達勇者パーティーが旅立った後、フーバー王国が滅んだことを話した。

「なるほど、それで復讐がしたいと」

「あと、フーバー王国を再興したいんだと」

「なるほど。たしかに勇者になれば富も名声も力も手に入りますからね」

 どうやらエレンは納得したようだ。

「それで、私に何をして欲しいんです?」

「アリアに回復魔法を教えてやって欲しい」

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