第2話聖剣返還
魔王討伐から数ヶ月。俺たちは王都に帰ってきていた。民衆からは大喝采で迎えられ、王城まで高価そうな金で装飾された白馬が引く馬車で移動している時も、俺たちの表情は暗かった。
「みんな、もっと明るくしようぜ? 民衆が不安がるし、よかったじゃないか、この程度の犠牲で魔王を倒せて」
俺がそう言った瞬間、ウォウに胸ぐらを掴まれた。
「この程度? この程度だと⁉ ふざけんな‼」
「ハヤト、流石にデリカシーがなさすぎますよ」
「みんなあなたのことを心配してるのよ?」
「皆が心配してくれてるのはよく分かる。でも、だからこそ、俺のせいで皆の笑顔を曇らせてほしくない」
俺がそういうと、皆は馬車の窓から、民衆に手を振り始めた。だが、俺はみんなのその笑顔が、作り笑顔だと分かっていた。
王城にたどり着くと、すぐに謁見の間に通された。普通、国王との謁見は何日も待たされるものなのだが、俺たちは魔王を倒し、世界を救った勇者だ。誰も無下にはできない。王様もすぐに会ってくれることになった。
「国王陛下の御成り」
王様が玉座に着き、俺たちを見る。
「なぜ、ハヤトが聖剣を持っておらぬのじゃ?」
今、聖剣は俺ではなくエレンが持っていた。聖剣は勇者しか持つことができないが、聖なる手袋という超希少アイテムを着けていれば触れることができる。
「あ~、王様、実は……」
俺は上着を脱ぎ、王様に身体を見せる。最初は詰めている近衛騎士たちが文句を言いたそうにしていたが、俺の身体を見て、その考えは吹き飛んだらしい。
「なんじゃ、それは……」
俺の身体には、蛇が這い回るような黒い刺青が入っていた。別に刺青はそう珍しいものでもないのだが、これが呪いだと、誰もが一目見れば分かるほど禍々しいオーラに満ちている。
「実は、魔王の血を浴びてしまって。そしたら身体がこんな風になって、聖剣を握れなくなってしまったんです」
「王様、何とかハヤトの呪いを浄化する方法を見つけていただけないでしょうか」
エレンが王様に懇願する。俺から言うのはちょっと図々しいからな。相変わらず気が利く。
「しかしエレン。お主は聖職者だ。もちろん《浄化》の魔法は使ったのであろう?」
「もちろんです。何度も試しました。ですが、私の腕では……」
エレンの肩が震え、服の裾をギュッと握り締める。エレンは聖職者。こういうことは得意分野のはずだからな。魔王の呪いを浄化できなくて悔しいのだろう。
「しがし、我がサマー王国最高の聖職者であるエレンの力でも浄化できないとなると、手の打ちようがないのう……」
国内でできることはもうないに等しい。あとできることと言えば、他国に要請することだ。勇者である俺は世界を救った。協力を惜しむ国はないだろう。だが、この国が聖剣を保持し、勇者を各国を代表して所有していたのは、このサマー王国が大国であるが故だ。そして、その国最高の聖職者が手も足も出ない呪いが、他の国の聖職者に浄化できるとは思えない。
「やれるだけのことはやろう。だが、覚悟だけはしておいてくれ」
「なに、名誉の負傷です。日常生活には支障ありませんし」
確かに聖剣を握れなくなったのは痛い。勇者にとって聖剣は最強の武器だしトレードマークだからな。魔王討伐前だったら死ぬほど悩んだと思う。
でも、その勇者にしか殺せない魔王はもう死んだ。いや、俺が殺した。もう、俺が聖剣を握らなければならないほどの事態も起きないだろう。世界は平和になったんだ。
「王様。この機会に、国に聖剣を返そうと思う」
「何言ってんだよハヤト!」
魔王を討伐した後は聖剣は勇者が死ぬまでは所持を許される。勇者が死んだら国の宝物庫に保管という習わしだった。
「もう世界は平和になった。なら、俺が握れもしない聖剣を持っている理由もないだろう」
勇者と魔王は呼応している。勇者が現れれば魔王が現れ、魔王が現れれば勇者が現れる。だから、俺が死んでも、しばらくは新しい勇者は現れない。
「俺は魔王討伐の報奨金で隠居でもするよ」
平和な世界に、勇者はもう必要ない。
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