この世界でわたしの扱いは悪役なのになぜか聖女です

一宮いあ

第一話 

「あー、まじでつまんない」

 口に出してそう言った。蝶零中等教育学校からの帰り道、今日もなんの変哲もない一日が過ぎていくことにそんなことを思った。

 そんなつまらなさを誤魔化すためにファンタジー小説でも読もうとスマホに手を掛ける。と、スマホの充電がないことに気がついた。

「今日のわたし、不運だな」

 とことんついていない一日だった。やってきた課題は家に忘れるわ、毎日練習した主要キャストのオーディションに落ちるわ、何もないところでずっこけるわ……。人生の中でこれほどまでの不幸に見舞われたことがあっただろうかと思うほどついていない日であった。

 雨宮鈴花、14歳。今日も大して楽しくない一日が過ぎ去ろうとしているのでした。

 そんなことを考えていると、お腹が空いてきた。今日は給食も嫌いなメニューばかりだったからあまり食べていなかった。仕方ない、少しコンビニに寄っていこう。

 テテテテテンテンテテテテテン。入店の音楽に合わせ、店員がいらっしゃいませとやる気のない挨拶をする。

 学校の総合健診に合わせて行っていたダイエットも終わったし、不幸な日を乗り越えたわたしにご褒美ということでスイーツでも買っていこう。 親友の久美子が期間限定だと騒いでいたプリンがあることを思いだし、最後の一つだった限定プリンに手を伸ばす。と、わたしのではない誰かの手が触れた。

「あ……」

 手の主を見ると、そこには小学生くらいの男の子。伸ばしていない方の手には、五百円玉を握りしめていた。

「えっと……ごめんなさい!」

 そう言ってその場を立ち去ろうとする男の子。そのまま無視してレジへ行けば良いものの、気がつくとわたしは彼に声をかけていた。

「待って! 良いよ、このプリン。君が買いなよ」

 男の子はくるりと振り返り、目を点にしてこちらを見つめる。わたしはプリンをとって、彼に手渡した。

「おねーさんはダイエットしないといけないしさ……良かったら、これ。食品ロスになる前に買っちゃってよ」

 ダイエットなんて嘘。もうとっくに終わってる。けど、小さな子から欲しい物を奪うなんて罪悪感がある。

 なるべく優しそうに、笑顔で。意識して言うと、男の子は渡されたプリンを受け取り、嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「本当!? お姉ちゃん、ありがとう!」

 ニッコニコの笑顔でそう言われ、一瞬、天使かと思った。わたしまで心がほっこりしていると、男の子はわたしの手を握ってきた。

「お礼に、さ。お姉ちゃんが好きそうな世界に飛ばしてあげるよ」

 え? どういうこと? そんな言葉を発する暇もなく、わたしは意識を失った。

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