悪魔をやっつけろ!!
星野レンタロウ
本文
ここに一つの壺がある。
その中には大昔、人間達を苦しめた悪魔が封印されていた。
だが時間が進むにつれ、呪文の効き目が薄れ、壺の封印が解けてしまったのだった・・。
「んん・・?お、おお!出てる!俺外に出てる!」
「こ、こりゃいいぜ、外に出るのは何年ぶりの事か・・。」
翼が生えた者、しっぽが生えた者達が、ボンッという音とともに次々に出てきたではないか。
そして出てきた中でも一段とオーラがある者が、バサバサ翼を鳴らして現れた。
「サ、サタン様!」
「サタン様!ご無事だったんですね!」
その者は腕を組んで、目を閉じたまま宙に浮いている。
「むぅ、長かった。長かったぞ、人間共。」
「人間?あぁ、そうでげす。あの憎き人間共が私たちをこんな目に・・。」
悪魔達の視線を集めたまま、サタンは目をカッとさせて言った。
「私を封印してくれたお礼に、このサタンが直々に復讐してくれる!」
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(はー、今日も学校終わったー。家に帰ったら母さんのシチューが待ってる!)
通学かばんを背負って駆けだすこの男の子は小学5年生の達也。
達也は放課後の開放感を味わいながら狭い路地を駆け抜けて行った。
「ん?あれは・・?」
路地の出口に人らしきものが見える。だけど、遠くからでははっきり見えなかった。
だんだん近づいてゆくごとに、がたいの良い男がいて、そしてなにやら茶色のものが地面に横たわっている。
男は茶色い何かに何回も蹴りを入れていた。
「このっ、このっ!」
「おじさん、何やってるの!?いじめちゃぁだめじゃないですか。」
「い、いじめるってなぁ。こいつから襲って来たんだよ!」
「うわー、こんな生き物初めて見たよ。頭に葉っぱが生えてて・・、全身茶色の毛でいっぱいだ。」
その茶色い物体は目を閉じていて、随分弱っているようだった。
「おい、人の話を・・。」
「よし、すぐに連れて帰ってあげるよ。」
達也は茶色のものを抱きかかえながら、また走って行ったのでした。
今度はさっきより少し速く。
「ただいまー。」
「おかえ・・。」
達也の母、水江は台所から振り返ったとたん、僕が抱えているものをじっと見つめてきた。
「母さん、これはね・・。」
「あんた何拾って来たの?猫?犬?」
「いや、これは猫でも犬でもなくて・・・その。」
「なんなの?」
えー、なんなのって聞かれても・・。
「僕にも分らないよ。そんな事はいいからこの子を治療しないと。」
「あ、そう。まぁいいけど問題は起こさないでよね。」
(ふぅ、僕の母さんは優しくて良かったよ。
どこかの家だったら『すぐに捨ててきなさい』なんて言われてるとこだよ。)
達也はそう胸をなでおろした。。
達也は階段を上がってすぐ横の自分の部屋に入った。
「おまえは、ここでしばらく寝ててね。」
ゆっくりとシートを被せると、茶色い物体はなんだか安心した表情に変わってゆく。
「あ、あとお水も持ってくるね。」
達也は部屋をあとにした。
母、水江が夕食をつくり終わり、達也がお風呂から出た頃ぐらいに、父親の栄次郎は帰って来た。
「ただいまー。」
「あら、今日は早いのね。」
「父さんおかえりー。」
「ただいま。」
父親、栄次郎はにっこりと笑った。
そしてネクタイを緩めながらゆっくりと席に着いた。
「父さん、今日学校の帰りにねぇ。」
「この子ったら茶色の・・。」
「母さんは黙っててよ。」
達也は茶色い物体を拾った事や、がたいのいい男の事も話した。
そしてにぎやかな会話は続いた。
「よし、もうあいつもよく眠っただろうし、父さんにも見せてあげるよ。」
達也はそそくさと階段を駆け上る。
10秒もしない内にテーブルに戻って来ると、にこにこしながら抱いているものを見せた。
茶色い物体は大人二人にまじまじと見られて、キョトンとしていた。
「そうだ、お前もお腹が減っただろ。」
そう言うと達也は漫画によく出てくるような骨付き肉を差し出した。
だけれどそいつはぷいと首を横に振ってしまった。
じゃぁ、これはと達也は海草サラダを突き出す。
だけど、一度匂いを嗅いだだけで終わってしまった。
「参ったなぁ、もうないんだけど・・あっ。」
達也は食べ残していたシチューを、茶色い生き物の口の方へ持っていった。
すると、首をのばして器をのぞき、匂いを嗅いだ。
もう一度嗅いだ。
そして、茶色い物体は勢いよくシチューにむしゃぶりついたのだった。
「おおー、おまえシチューなら食べるんだー。」
達也も母親も父親も、おいしそうに食べてくれたもんだから、嬉しくなった。
「あぁ、そうだ!お前の名前はシチューが好きだからシチだ!今日からお前はシチだ!」
「シチ。僕が仕事で帰ってきた時は癒しておくれよ。」
「シチちゃん、家の手伝い、よろしくね。」
こうして茶色い物体は達也の命名によって「シチ」と名付けられた。
そして達也たちは楽しく家族団らんの時を過ごした。
すぐそこまで魔の手が忍び寄っている事にも気付かずに・・・。
━時計の針が12を指す。
達也達家族は時間も忘れて話し合っていた。
「わっはっはっはは!それは愉快愉快。」
「あなた飲みす、ヒック・・ぎですよ、ヒック。」
「ふぁ~ぁ、もう僕寝るよ。行こう、シチ。」
そう言って達也はシチと部屋に入ってゆく。
達也の母、水江は洗い物をし、父親の栄次郎はいい具合に酔っぱらっていた。
だがその時、
「ガッシャン!!」
突然、大きな音をたてて扉が倒れた。
母、水江が振り向くと、そこには得体の知れない化け物が立っていた。
翼を丸め、頭に生えた一本の尖った角、そして体は真っ黒で、口ばしだけ黄色だ。
「だ、だれだぁっ!」
「ん、 わたくし?私は、ガーゴイルっていう者で、あなた達に用があって来ました。お取り込み中の所すみませんでしたね。おりこうさんにしていれば傷つけたりはしません。いいですね?」
「お、おのれ怪物め!そう簡単にいってたまるか!」
栄次郎はガーゴイルの顔めがけて殴りかかる。
だがガーゴイルにはひょいっと首を右に振られ、よけられてしまった。
「おっと危ない・・。」
するとガーゴイルは、目にも止まらぬスピードででこぴんを繰り出した。
「ぬぉぉぉおっ!」
バタッ・・。
「きゃぁー!あなた!」
母、水江は倒れた父親、栄次郎のそばに膝をつく。
「むふふ、どうですか。これで私の強さは分かって頂けましたね。見えなかったでしょうが、実はさっきのでこぴんも、ひと振りのモーションで200回も攻撃を当てていたのです。」
水江は気が抜けたかのようにうつむいている。
「あら、抵抗しないのですか。ま、賢い選択でしょう。」
さらにガーゴイルは水江の肩に手を置き、続ける。
「そんなに悲しむ事はありません。すぐにあなたも・・。」
ぶしゅぅぅう。
水江は持っていたくだものナイフで、ガーゴイルの眼を刺したのであった。
「イ、イタイッ、ィイタァァイイイィィーーー!」
「ひっかかったわね・・。」
そして彩はもう一つの眼も刺そうとした。
パシッ。
だがその攻撃はあっけなく阻止されてしまう。
「ふぅう・・、ふぅ、やってくれますねぇ。」
ガーゴイルは血を垂らしながらふらふらと水江の方へ近づいてゆく。
すると、ガーゴイルの手元が動いたかと思えば、もうすでに彩はでこぴんを当てられていた。
そして、倒れゆく水江の背中にすばやく回って体を支える。
(ふぅ・・、まさか私がこんな人間に手こずるとは。)
ガーゴイルは栄次郎の体も担いで、バサッと羽を広げると、またたくまに漆黒の夜空へと羽ばたいていった。
すやすや眠る達也とシチを置いて・・・。
━ぴよぴよと小鳥が鳴いて、半開きのカーテンからは木漏れ日が差している。
達也の部屋には、使わなくなったおもちゃがにぎゅうぎゅうに詰まって入ってる箱や、ボロボロのサッカーボールなどが整理されて棚に置いてある。
壁にはサッカー選手の写真のポスターが貼っていた。
「チリリリーン!!」
「ん・・、ぷはぁーーーーっ!よく寝たっ!」
達也は跳ね上がった頭のまま、ベッドから飛び降りた。
「おぅシチ、おはよう。僕は先に降りとくからね。」
シチは小さな毛布から顔を出して、眠そうに目を擦っている。
「ん、二人ともいないなぁ。休みのはずなんだけどぉ・・。」
達也は牛乳を注ぎながら部屋を見渡す。
テーブルには昨日のシチューがまだ残っている。
「お、ラッキー。これ食べよ。」
達也はリモコンを手にとって、椅子に座りながらテレビをつけた。
「今日のビリは、さそり座!大事な所で慌ててしまい大ピンチ!ラッキーアイテムは、鍋のふた!」
(ええー、ビリかよー。そりゃぁないよなぁ、朝っぱらから。)
達也は少し不満げな顔で、シチューをついでいる。
するとシチが階段から降りてきた。
「よぉ、シチ。お前も食うだろ?シチュー。」
シチは階段をおりやいなや、そそくさとトイレに入ってしまった。
「ふんっ、なんだい。」
「えぇ、続けてニュースをお伝えします・・。」
じょーーーーっ。
シチはトイレから出ると、ソファにぴょこりと腰をかけた。
目を少し開けてテレビを眺めていて、どうやらまだ眠気が取れていないようであった。
「シチ、いらないの?」
達也はさっきより少し強く言う。
シチはゆっくりと達也の方を向いて、少しの間見つめ合うと、またゆっくりと元の視線に戻した。
「あーはい、そうですか。あ、それと僕占いがビリでちょっと気がたってるからね。気をつけてよ。」
「・・ています。えぇ、昨日から出没しています、謎の怪物により、世界各地で被害が出ています。」
「っぶっ!」
達也は吐き出しそうになった口元を急いで押さえる。
「目撃証言では、剣を持っていた、赤い目、翼が生えていた、などなど他にも多数の情報が寄せられていて・・。」
「・・・・。」
沈黙が部屋を包んだ。
「無差別に地域は狙われており、一部の町や村では住人全員が行方不明になっています。
政府はこれに対し、国民に一時的に外出禁止命令を出した模様です。」
「・・くく、くくく。」
笑いを堪えながら達也は嘲笑うかのように言い放った。
「ははは、シチ、聞いた?世界中に怪物だってさ、怪物。」
シチは首を横にかしげて達也を見ている。
「新手の映画か何かか?世界もいよいよSFの世界みたいになるのかなぁ?僕一度エイリアンに会ってみたかったんだよねー。」
達也は好奇心満々に席を立ってコートを羽織りだした。
シチはその動きに釣られ、腰を上げて達也の方を見る。
「シチ、外でよっか。」
そういって達也は勢いよくドアを開けていく。
シチも慌てて達也の後を追った。
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翼が生えた者達が、次々と行列を作りながら洞窟へと入ってゆく。
「うむ、これだけか?」
「いやぁ、いくら私たち悪魔といえども、さすがに一晩で世界中の人間は・・。」
一人の悪魔が手をこねこねさせながら言った。
「ええい、やかましい!貴様のいい訳なんぞ聞きたくないわい、こうしてやる!」
サタンはその者に対して掌を広げると、まばゆい閃光を放った。
「ウギャァァアア!」
と叫び声をあげ、体をのけぞらせる悪魔。
「ふん、50人もの軍のリーダーでありながらなんてざまだ。まぁ明日の夜までになんとか揃えれば許してやろう。明日の夜はそれを祝してパーティーを開くのだからな。」
「ははあ・・。」
さっきの光線で少し焦げかかった姿の騎士はひざまずいて言った。
「たのんだぞ、マルクス。」
そしてサタンはにたりと笑みをこぼした・・。
━「うーん、武田さんとこもいないや。皆どこにいっちゃったんだ?」
どこの家もだれ一人いなかった。
町の家の様子はいつもと同じだが、町の雰囲気はどこか閑散としている。
「まぁでも、せっかくの休日だしさ、シチどっか行きたい所ある?」
それを聞いてシチはタタタと走り出した。
「おっ、置いてくなってばー。」
タタタタ。
「おーい、道路は気をつけて渡れよーっ。」
と言っても、この町にはもう車が通る気配なんて一つも無いのだが。
「はは・・、はぁはぁ、お前って案外走るの速いんだね・・。」
いつのまにか達也達は公園に着いていた。
だが公園といってもブランコとベンチしかない、いたって質素な公園だった。
きーこーきーこー。
「はは、ブランコに乗りたかったのかい。僕はちょっと疲れたからベンチで寝とくよ。」
シチはくりんとしたまぁるい黒い目をしていて、いつも一定のあどけない表情を保っている。
その内シチは立ちこぎを始め、短い脚を目一杯のびまげさせた。
「ねぇ、シチは母さんとかいるの?友達は?」
達也は目をつむって、ベンチの上で横になりながら喋った。
きーこー、きーこー。
シチはあどけない表情のままブランコをこぎつづける。
「じゃぁー、君はなんなの?なんていう生き物なの?」
朝の薄暗さが消え、だんだんと暖かい光が差してきている。
しばらくたっても、達也の質問攻めは続いていった。
「んじゃぁ、ここの公園が「ブランチ公園」ていうのは知ってる?何故ならブランコとベンチしか無いからだよ?」
きーーーこーーー、きーーーこーーー。
達也が20個くらい質問した頃には、シチはすごい勢いでブランコを漕いでいた。
鎖はきゅっ、きゅっ鳴り、大きく幅を増して揺れている。
「んー、まいいや!僕も休んだし、シチもブランコこいだし、今度は僕の好きな所ついてきてよ。」
シチは一番高い地点からシュタッと着地すると、すぐに達也を追いかけて行った。
ラーメン屋さんの横を通り、雑貨屋さんの横も通って、何もない道を真っすぐ行った所にそれはあった。
「へへ、やっと着いたね。」
達也は入ってすぐに棚にある物をチェックし始めた。
指を棚に向けて上の方からゆっくりと下に下ろしてゆく。
「あ、シチもなんか選んでていいよ。ここは、本もDVDもCDも何でもレンタルできるんだ。といっても人がいないこの町じゃ無料だけどね。」
そう言われると、シチはてくてくDVDコーナーへと入っていった。
「あっ、あったー。この巻見逃してたんだよね~。」
と言って、達也は熱心にその本を読みだした。
そしてどんどんページをめくってゆき、次々に新しいコミックを取り出してゆく。
「バカじゃんコイツ、アハハ。」
達也はすっかり夢中になっていた。
ガタンッ!
突然何かが落ちる音がし、達也はその方向へと急いだ。
「シチ!だいじょ・・。」
目の前にはシチともう一人の化け物がいた。
そいつはひょろひょろと蛇の体をしており、蛇よりもだいぶ体の幅は太く、目玉が一つ、細くて赤い舌はまんま蛇のものだった。
「いやいや、おりゃぁ悪くねぇぞ。この茶色いむくむく野郎が脅かしてきてよ?」
果たしていったいこいつは・・・???
━「えぇっと・・・。」
達也はその姿を見て、言葉を詰まらせる。
「君は何者なんだい?」
「俺?おりゃぁ、あく・・、お。」
そいつは何かを見つけたかのように一か所を見つめだした。
「あく・・?」
パシッィッ。
「おめえさん、いいもんもってはんな!俺もこの漫画みたかったんですわー、ほな。」
達也の持っていた漫画を奪い取ると、そそくさと店内から出て行った。
「あ、あいつ!あれは一巻しかここには置いてないのにぃーーっ!」
達也はシチの手をむんずと掴み、全速力で走ってゆくのだった。
達也は徐々にスピードを上げ、距離を縮めてゆく。
だが蛇の方のスピードも伊達ではなかった。
「へーーっ、まぁおめえさんも中々のスピードだけんな、やっぱし野生の強さには勝てまい。」
すると今まで以上にグンとスピードが上がって、また元の間隔になってしまった。
「ちきしょー、なんか不思議な呪文とか使えないか?シチ?」
シチは達也の腕にぶらさがった状態で、ただぶわんぶわんと上下に揺られていた。
「むぅ・・、これは諦めるしか・・・。」
そういいかけた瞬間、達也はハッとなった。
シュタタタタ。
「ん、どうやらあいつが見えない程遠くに来ちまったらしいな、それか諦めて帰ってしまったのかな。」
蛇の化け物はそう言うと、走るのをやめ、くつろいで本を読み始める。
「やっぱ幸せは勝ち取るもんやなー。」
そうしていると、どこからともなく音がしてきた。
「シュドドドドドーッ!」
蛇の化け物は本を読むのをやめ、発信源を探す。
そして前方を見ると、そこには猛スピードで走ってくる達也がいた。
「なっ、なにぃぃっ!?」
急いで走り出そうとするが、すぐそこまで達也が来ていた。
「先回り作戦、成功っ!」
達也は思いっきり手を広げる。
達也とシチ、2人共その瞬間、地に足を着けずにジャンプしていた。
化け物の方は必死な表情で口に本を加えている。
ガシィッ!
ゴロゴロゴロゴローッ・・。
達也は化け物の体をしっかりと挟むと背中の方から回転するようにしてグルグルと転んだ。
「あいててて・・・。」
達也はお尻の砂を払うと、仁王立ちして言った。
「あいててて・・・じゃないよ!さぁ本を返してもらおうか。」
今度は逃がさぬよう、両手で掴んで持ち上げた。
「あー、もうなんかごめんなさい!僕が間違ってましたわー。本は返すから許して~。」
蛇の化け物は達也に掴まれながら、体をブンブンと横に振って暴れた。
「まったく、僕が優しかった事に感謝するんだぞ。そして本を置いたらさっさとどっかいくんだね。」
蛇の化け物はそーっと地面に下ろされる。
「あのぉ、本は返しますから、あっしにも見せてくれやせんかね・・?」
達也は遠慮がちにそう言われて、とても断ることは出来なかった。
一行(いっこう)は場所を変え、海が見えるはらっぱの丘に来ていた。
達也は大の字になって寝そべり、シチはぐっすり眠って、もう一人はひたすらに本を読んでいた。
「っぷ!ぎゃぁはっ。」
「そんなに面白い?」
「面白いもなにも、それはあんさんがよーくご存じでしょうに。っぷ!ぎゃは。」
辺りには涼しい風が吹いている。
「はぁ~、気持ちいぃ・・・。」
達也の前髪が、なびいて踊っている。
(昨日の夜は楽しかったなぁ。今日は父さんと久しぶりにキャッチボールしたかったんだけど・・・。)
「ふぅー、もう読み終わってしまった。」
「なんで皆いなくなっちゃったんだろ。」
「へ?」
あっ、しまった。気づいたら何か喋ってしまった。
「あー、その事ならあっしが知ってます。」
「え!?」
達也はすばやく反応する。
「もうしおくれやしたが、あっしはリゲルといいます。で話は戻りますが、その昔・・・。」
リゲルは説明を続けた。
「えぇ!?悪魔が人間に復讐だって!? ・・・は、はは、ははは!そんなのある訳ないよ!」
反抗して食って掛かる達也をよそに、説明は続く。
「それがその復讐の内容は聞かされてないんですが、なんでも悪魔達が全てを支配する帝国を築くとか・・。ちなみにわいもその悪魔の一人でして・・。」
「ぎょえぇっ!」
達也は驚いて上半身だけ起こすと少しだけ後ろに後ずさった。
寝ていたシチも起きてしまった。
(っこ、こいつが悪魔だって!?って事は僕はここで・・。)
「ははは、大丈夫ですよぉ。なんせこのリゲル、サタンの考えがあまり正しいとは思っていません。だってこんな面白い漫画を書く種族を消すなんてもったいじゃぁありやせんか。」
「あ、あはは。そ、そうなんだ、それなら良かった。」
「それにしてもあんさん、優しいでやんすね。漫画盗まれたってぇのに。」
「そ、そうかな。」
その頃、サタン達しもべは着々と作業を進めていた。
物語の歯車は徐々に回り始めてゆく・・・。
━外はすっかり暗くなって、少し冷たい空気が漂っている。
都会の街や、その繁華街(はんかがい)でさえ、人がいる気配を見せない。
だが陸から少し離れた所にある、島の上のほら穴からは、にぎやかな声が聞こえていた。
「あ、そーれ。あ、そーれぇ。」
洞窟の中ではどすの利いた声がいき交っている。
天井には何本もの細長いつらら石、そしてあるところには華やかなシャンデリアがつるされている。
奥には赤いカーペットがあり、
その先には王様が座るような椅子に一人の悪魔が腰かけていた。
「ぬぁっはっは、躍るがよい、躍るがよい。」
「サタン様、世界中の人間を集め終わりました。この場所に入りきらない人間たちは、地面の下に無限に広がる地下牢に閉じ込めいています。半分は悪魔にし、半分はいずれ肉体労働で働かせたり、食事をつくらせたりさせればよいかと。」
ひざまずいて言う騎士の姿をした悪魔の後ろには、たくさんの人間達がいる。
「おおっ、マルクスよくやったな、顔を上げていいぞ。さぁて・・。」
ざわざわざわざわ。
「なんのつもりだー!」
「こ、ここは一体・・。」
慌てて周りを見渡す者、大声で声を上げる者、ひそひそ話をする者などで辺りは埋め尽くされている。
「静まれー!今からサタン様が大事なお話をするからよぉく聞いておけ!」
剣を持った方の手を上げて、マルクスという名であろう人物が言った。
「あぁ?なんだてめぇ。おもちゃのコスチュームなって着やがってよお!」
すると、いかにもという感じのいかつい男がマルクスに飛びかかった。
パチッ!
微かに音が響く。
「なっ、なにっ・・!」
男のこぶしはがっしりと掴まれていた。
「相手の強さくらい見極めないとな。」
そう言ってマルクスは男を投げ飛ばす。
「やぁ、やぁ人間の皆さんこんばんわ。実は今日はあなた達に復讐をするためここに集まってもらいました。」
サタンの話が始まったようだ。
ざわざわ。
「なっ、なんだって。復讐だって?」
「ですが気が済むまで殴ったり火であぶったりだとか・・。そんな大それた事は致しません。ただ・・。」
少し間を入れて、また続ける。
「ただ殺すのはつまらないから私の家来にしてやろうという事です。」
辺りは急にざわつき、人間達は冷静さを失って戸惑い始める。
「出口っ、出口はどこ!?」
「だれが家来なんかに!」
「安心しなさい、すぐにお前たちも悪魔のすばらしさに気付くであろう!」
と言ってサタンは手から、紫色のギザギザした光線を放った。
それは素早く人間達を包みこんでいく。
「ぐぉおおおっ!」
「きゃぁぁーっ。」
次々と倒れていく人だかり。
「サタン様、これでこの世界は我ら悪魔の物ですね!」
「うむ。」
すると倒れている人間達の背中からむくむく翼が生えてゆく。
おまけに体も黒い毛に覆われてゆく。
「おぉ、思った以上に呪文の効き目が早かったようです・・。」
そして一人、また一人と起き上がってきた。
「こ、この体はっ・・・。」
「ぬはは、このサタン様がお前たちを悪魔にしてやったのだ。」
「サタン様に悪魔にさせてもらい、このうえない喜び!」
人間達はさっきまでの反抗心を忘れ、純粋な悪魔になってしまったのだった。
「いいか、お前達。今日からは立派な悪魔族として生きてゆくのだぞ。」
「めでたい、めでたい。今日はがんがん飲みましょう!ささ、サタン様、万歳(ばんざい)の合図を・・・。」
「バンザーイ、バンザーイッ。」
サタンは大きく両腕を上に上げた。
「悪魔バンザイ!悪魔バンザイ!悪魔バンザーイ!」
その後も、悪魔達の宴は続いた・・・。
━「よぉーしっ、出発でやんす!」
「もぉ~っ、うるさい。お前だけテンションが高いんだよ。」
「いや~っ、それにしても兄貴は優しいですねぇ。盗人な上に悪魔のあっしを仲間にするんだからぁー。」
「お前があんなにお供させて下さいって言うからだよ。」
三人はてくてくと商店街を歩いていた。
「うひょ~っ、たこ焼きにアイスクリーム、それにあっしの大好きな漫画屋さんまでっ!」
リゲルは目をキラキラさせてはしゃぐ。
「それもいいけど、今は一刻も早く世界に何が起きているのか調べないと。遊んでる場合じゃないよ。」
「もぉ~っ、兄貴ったら堅いですねぇ。ね?一回、一回だけでいいから!」
そう言ってリゲルはゲームセンターの中へと入って行った。
「あー、行っちゃった。シチ、疲れてないか?」
シチは相変わらずあどけない表情できょとんとしていた。
「あのぉ、兄貴ぃ・・。」
どうやらゲームセンターからリゲルが出てきたようだ。
「遊ぼうと思ったんですがお金が無くて遊べないんです・・。」
「お金ぇ!?お金なんて僕持ってないよ。ささ、ゲームは諦めて出発しんこー!」
「ちぇっ・・。」
一匹は少し不機嫌気味な顔をしていたが、達也達はゲームセンターを後にした。
「おいおい、まだゲームの事を根に持ってるのか?」
「ふんっ、兄貴にはあっしの気持ちはわかりませんよ。ゲームはあっしの生きがいなのに・・。」
「はは、おおげさだなぁ。あ、そうだ、あそこのそば屋さんで休憩しようよ。」
達也達ははのれんをくぐって、がらがらっと戸を開けて入って行く。
時刻もちょうどお昼であった。
「・・したんですよぉ、がはははは!」
「もー、口からそば出てるって。」
達也達はだれもいない店内でにぎやかに談話していた。
「それにしてもこのそばおいしいっすね。おまけにとろろとか、ねぎいくらかけても無料ですし。」
「開き直り早いなぁ、おまえ。」
(なんか気楽なやつっていいよな。はぁ・・、僕なんか喧嘩の傷ひとつつくった事ないのに、もしこれから悪魔と戦うなんてことになったら・・。)
「あれ?兄貴には合いませんかね、コレ。」
ずるずるずるぅ~っ。
のんきにそばをすするリゲル。
「ばかいえ、僕なんか20杯はいけるぞ!」
「なにをーっ!あっしは30!」
「じゃぁ僕は・・・・。」
2人のコントのような会話は一時間くらい続いた。そして・・。
「じゃエネルギー満タンってことで、出発だな。ホントはお金を置いていった方がいんだろうけど……、ま、いっか。」
「へいっ!」
がらがらがらぁ。
「あー、食った食った。また来ような、リゲ・・。」
リゲルは動かずに、ある方向だけを見つめている。
「お、おい。どうしたリゲル。」
「な、何かが、こっちに来てる、あれは多分・・。」
達也も同じ方向を見ると、そこには不気味な化け物達が、うじゃうじゃとこちらに向かっていた。
空を飛ぶ者もいれば、道を歩いて来る者もいる。
なっ、なんだ!?あいつら、見る限りではやばそうな臭いがプンプンするぞ。
ともかく今は・・。
「リゲル、シチ、はやくこっちにこい!」
達也は小声でそういうと、2人を引っ張ってそば屋の壁に隠れた。
「よぉし、やっと着いたな。」
うわー、あいつやたらとがたいがいいなぁ・・。
「うふ、暑いわぁん。早くキンキンに冷えたお酒でも飲みたい。」
悪魔たちらしきその群れは町に着くと、それぞれがあちらこちらへと散らばって行く。
「なあリゲル、さっきの多分って何なんだ?」
達也達3人は壁から目をちょこっと覗かせている。
「た、多分悪魔です。」
「えぇーっ!・・っ。」
達也は慌てて口を抑えた。
「あ、あいつらは・・。」
リゲルの顔が普段と違い、ひきつっている。
「ねぇ、なんか人間の匂いがしない?わかい・・・、若い男の匂いがするわ。」
や、やばいっ・・!結構離れているのに、何故・・!?
やたらとでかい体の棍棒をもった悪魔と、女の悪魔、その二人がリーダーらしき存在に達也にはみえた。
「んぁ、そうかぁ?悪いが俺には分からん。」
女の姿をした化け物は花をクンクンさせ始めた。
「もう少し、もう少しで分かるわぁ・・。」
「リ、リゲル!シチ!ここはいったん逃げるんだ!」
「いた・・。」
女はにたりと笑って追い始める。
「走って!これは間違いなく人間だわ!」
「あ、兄貴ぃ!バレちまいましたよぉ~!?」
「いいから走れ!」
確かこの道の先に海があったはず!そこのボートに乗れば・・・!
「いいか?お前が漫画を盗んで逃げた時みたいに全速力で走るんだ、いやそれ以上だ!」
「へ、へぃっ。」
「全員で3匹ね。んふ、まだ生き残りがいたなんてねぇ・・。」
「にしてもあいつら、結構なスピードだぜ・・。」
化け物二人もさらに速度を上げた。
くそぉ、このままじゃこっちのスタミナが切れてしまう。
達也達は、わざわざ店と店の間の細い道をうねうねと曲がってみせた。
「へっへーん、見失えさせればこっちのもんだーい。」
「あぁっ、この道を抜けりゃぁ海ですぜ!」
よし、もう少しだ!
ガシャンッ!
「ん?」
音がした方向に、達也が振り向くと、なんとシチが倒れていたのだった。横たわったゴミ箱と共に。
「シチ、大丈夫か!」
達也は慌ててダッシュする。
だが、もうすでに2人組の化け物達が、女の方を先頭に、角を曲がって道に入ってきた所であった。
「おほほ、やっと捕まえれるわぁ~っん!」
そして、勢いよく飛びかかる。
「そうはいくかー!!」
あと少しの所で、達也はシチの前にすべり込む。
あぁ、どうしよう。僕は今何をすればっ・・・。
達也は、一瞬の間に打開策を頭の中で展開した。
そして目の前のごみ箱からこぼれ出ている、なべのふたを手に取った。
「もうやけだーーっ!」
ガァンッ!
「う、うぅ。よくもこの私の顔を・・・。」
前に突き出したふたは運良く女の顔面へとヒットした。
達也はもう半ば諦めかけつつ目を開く。
・・・お、おお!やったぁ!
「おぉ、おい。早くどけよ!」
「うるさいわね、あんたこそはやく追いなさいよ!」
尻もちをついた女にぶつかって、後ろにいたがたいのいい悪魔もこけた。
「よし、シチ!今のうちだよ!」
達也はシチの手をぎゅっと掴んで、走り出す。
ボートにはリゲルがもう乗っている。
「あんにゃろー、兄貴の足引っ張りやがってぇ。」
一方2人組の方は、ようやく立ち始めて走り出したようだ。
「逃がすもんですかぁー!」
よし、あとちょっとで船に乗れるっ!
「兄貴ぃー、速くー!」
後方からかつて無いスピードで悪魔の二人が迫ってきていた。
「そりゃぁっ!」
女は再び達也めがけて飛びかかる。
ええぇぇ!?や、やばいっ!そんなにジャンプされるとは!
「うぉぉおおおっ……!」
達也は目一杯にボートめがけてダイブした。
女の細長い手が、あとほんの何ミリかで達也の足に触れようとしている。
バンッ。
「はぁ、はぁ、危なかった。」
達也とシチは船に転げ込んだ時には、すでにボートのエンジンがかかっていた。
「危なかったげすねぇー。もう少しで捕まってましたよ。」
達也達は安堵を感じながら、陸の方を眺めていた。
「あぁん、もうっ、逃しちゃったじゃない!」
こうして3人は化け物達から逃れる事が出来た。
ラッキーアイテムのなべのふたが達也達を救ったのだ。
━ボートは水しぶきをあげながら、ただただ進んでいた。
「ねぇ、逃げたはいいけど、これからどこ行くのさ。」
「そんな事あっしに聞かないでくださいよ。」
「あっそ。」
空は一面赤く染まって、水面にも赤い玉が反射している。
「ここの海はきれいだぁ。」
達也は身を乗り出して覗き込む。
さっきは危なかったなぁ。にしても、このふたが本当にラッキーアイテムになっちゃうなんて・・。
「あっ、兄貴、あそこに島がありますよぉ!行ってみやしょう。」
「そうだな、休憩もしたいし。」
ボートは白い砂辺に停まった。
「こんな所に島なんてあったんですねぇ。」
すると、着いた途端、いきなりシチが走り出した。
「おっ、おいこらっ!」
達也は慌ててシチを追いかける。
シチが走る方向には、なにやら建物らしき物が見えた。
シチのスピードは速く、もう建物の入口に入りかかろうとしている。
「シチー、待てってばぁ。」
だがその時、 建物の中からなにやら細長い物が飛び出してきたではないか。
びゅんっ。
それはシチの体の横をギリギリでかすめた。
「シチ、大丈夫かっ!?」
地面に槍が勢いよく突き刺さった。
「えぇい化け物め、私達を襲おうったってそうはいかないんだから!」
すると今度は、達也と同い年くらいの女が影から現われたでわないか。
「まだあと2匹もいたのね、私が退治してあげるわ。」
そういって女は戦いの構えをきめる。
「ちょちょちょ、ちょっとたんま。僕人間だよ!」
「人間に変身してもムダよ!」
達也の言うことに全く聞く耳を持たず、素早い攻撃を繰り出してきた。
(に、人間!? 僕のほかに人間がまだいたんだ。くっ、にしてもこの女の子のスピード、やたらと速い。)
達也はただ後ろに後ずさってかわすしか出来なかった。
「このやろー、兄貴に何をするでげすーっ!」
リゲルが横から牙をむき出して襲いかかる。
「うるさいっ!」
ばこーん!
だが、あっけなく女に吹き飛ばされてしまう。
ごすっ。
そしていつのまにか、達也の腹に女の蹴りがクリティカルヒットしていた。
「い、いたい・・。」
「え!? よ、よわ! それじゃぁ本当に……。」
「こら、その方達は悪い人じゃぁない。わしには分かる。」
今度は、杖をついた白髪の老婆が扉から出て来たのだった。
「ささ、その者達を部屋で休ませてやるんじゃ。」
女は右肩にリゲル、左肩に達也を担いで、建物の方へと向かった。
(私と同じくらいの年かしら。でも人間ならなんでこんな蛇モンスターとかと一緒にいるんだろう。)
女はそう思った。
そして、シチも遅れて後を追っていったのだった。
━「ん!? ここはっ。」
達也はいつのまにかベッドの上にいた。
(そうだ、さっき僕は確か蹴られたんだ。そして倒れて、えーと、
リ、リゲル、シチは!とりあえず部屋から出よう。)
ガチャッ。
扉を開けた瞬間、おいしそうな匂いが達也を包みこんだ。
目の前にはシチとリゲルがテーブルを囲んでいた。
「兄貴ー、遅いっすよー。」
「リゲル!それにシチ!」
3人は再開を喜んだ。
「あの……。」
「ん?」
テーブルには、さっきの女も座っていた。
「あっ、ぼ、僕達は君を襲おうとしたわけじゃないんだ!それに悪魔でもっ……。」
「あの、さっきはごめん。思いっきり蹴っちゃって。」
「ひょえ?」
「おばあちゃんがあんた達は悪い人じゃないって言ったんだ。だから今おばあちゃんがあなた達を歓迎して、ごちそうをつくってるわ。」
ほっ。いちお僕達の疑いは晴れたんだな。良かった。
「ささ、出来たよ、たんとお食べ。」
老婆が料理を持ってきた。
「こりゃぁこの辺でしか取れない魚だよ。」
「うっひょーい!」
リゲルとシチは皿が置かれるやいなや、すぐさま串刺しになった焼き魚を食べ始めた。
ムシャムシャムシャ!
「もうリゲルもシチも行儀悪いってば。」
「んふ、そのかわいいお二人さんはあなたのペット?」
「ペットというか、仲間かな。旅の。」
達也も話しながら魚を手に取る。
「さっきはこの子が乱暴したようで、すまなかった。じゃがこの子も両親を謎の化け物達に襲われてのう。」
「そうだったんですか。それにしても、僕達以外にも無事だった人がいるとは思いませんでした。」
「この子の父親でもあり、わたしの息子でもあるレイモンは、とても強くて立派じゃった。化け物が襲って来たときも勇敢に挑んでいった。その隙にわしらは船で逃げることができたんじゃ。」
この子も親を……。僕は母さん達が実際に襲われていたのを見てないけど、やっぱり母さん達も……。
「ふぅーっ、食った食ったーっ!」
「リゲル、ごちそうさまだろ。」
「おほほ、そんなに食べてくれてこっちも嬉しいわい。さて、もう外も暗くなりましたし、今晩は泊まって行きなさい。」
「それじゃぁ、お言葉に甘えて。」
暗くなった辺りからは、ただ波の音が聞こえていた。
━「ではこの部屋に3人で寝てくだされ。あぁ、正確には一人と2匹……まぁいいわい、それじゃあおやすみ。」
バタンッ。
老婆はそう言って戸を閉めた。
「よし、飯も食ったし、風呂にも入ったし、今日はゆっくり休んで明日出発だ。」
「はい兄貴!いい夢を!」
リゲルとシチは布団の中に頭をもぐらせて、眠りに入っていった。
じゃ、僕もそろそろ・・。
そして達也はライトの明かりを消し、布団を肩のとこまで被って目を閉じる。
「……。」
「……。」
真っ暗な世界。真っ暗な暗闇の世界。
怖くなって目を開けても真っ暗。隣からはかすかな寝息が聞こえてくるだけ。
(あぁ、次から次に色んな事が起きて、なんか心が忙しくて落ち着かないや。)
……クン、ドクンドクン…。
心臓、心臓の音がする。意識するごとに、大きくなってしまう。
(はぁ、母さん。父さん。お願いだから生きていて…。
はぁ、なんか……。)
「あーもう!」
達也は突然叫んで上半身を起こした。
だがシチもリゲルもぐっすり眠っている。
「なんか……、眠れないやぁ。」
達也は手でドアのぶの位置を探って、そして部屋を出て行った。
キシ、キシキシィ。
はぁ、寒い・・。
達也は裸足で廊下を歩いていた。
時折廊下のきしむ音がしている。
達也は建物を出ると、海の方へと歩いて行った。
ヒューッと、冷気が達也の肌を刺す。
少しくらい歩いて波打ち際についた。
達也はただ黙って海の向こうを見つめていた。ただじーっと。
「ん?あの子はっ。」
気づくと、達也の横にはあの女の子がいた。達也の視線に、向こうも気がついたようだ。
「あら、あんたまだ起きてたのね。夜更かししてちゃダメじゃん。」
「それは君もじゃないか。何してるんだい。」
「なにって眠れないから来てんのよ。」
「ふーんっ。」
・・・ざばーっ・・ざばーっ。
「ところでこれからあんた達どうするの?あてでもあるの?」
「町に行ってももう化け物達がいっぱいいるしなぁ。でもここでのんびりはしてらんないよ。
だから見つからないように潜入して、そして悪魔達をぶったおす!」
「ふふ、冗談よしてよ。私に負けちゃうような人が倒せっこないでしょ。じゃ私寝るから。」
笑いながら彼女はそう言うと、スキップをしながら帰って行った。
ちぇっ。なんだい、人をばかにして。
そして達也もとぼとぼと建物の方へと歩いて行った。
━「…-いっ、おーいっ。起きてったら。」
「ん、んん。」
達也が気付くと、窓からは白い光がもれていた。
「まったくもー、あんた達よっぽど疲れてたんだね。おばあちゃんが朝ごはんつくったからはやく起きて来て。そしてそのかわいいペットさん達も連れて台所に来なっ。」
達也はまだ眠そうに布団から出て、着替えはじめた。
「リゲルー、シチー、悪魔が襲ってきたぞーっ。」
「ええっ!?」
リゲルもシチも慌てて顔を出した。
「んもーうっ、脅かさないでくださいよぉ・・・。」
「はは、ごめんごめん。朝ごはん出来たらしいから先にいっておいで。」
そしてしばらくして達也も食卓についた。
ムシャムシャ、ゴクゴク。
5人ともあまりしゃべらずに、ただ食べ物を噛む音や、食器を置く音だけが鳴っている。
「いやー、おいしいですねぇ。おばあさんの作る朝飯は。」
その沈黙は、お気楽に話すリゲルによって破られた。
「そうかい、サラダもスープもおかわりあるからね。ちなみに説明し忘れとったが、わしの名はイルハムじゃ。よろしくの。」
「ん、この茶色くん。さっきから何も食べてないわね。」
「ん、ほんとだ。どうやらこいつは、朝ごはんは食べないらしいね。」
シチはそそくさとテーブルを後にして、外へと駆けて行った。
「あぁ、もう。こんなに残して…。」
「いいんですよ、兄貴、あいつには好きにさせておいて。それに残った料理はあっしが食べますから。」
そしてまた皆黙ってもくもくと自分の朝食を食べ始めた。
「ふぅ、おばさん、ごちそーさま。それじゃぁ僕達はこれから荷物を・・。」
「ちょっと、食器くらい片付けなさい。」
女の子が食べながら口を開いた。
「あぁ、ごめん。」
達也は自分の分、リゲルは自分とシチの分を頭に乗せて運んで、2階の部屋へと入って行った。
女の子はただ黙々とフォークで刺したものを次々と口へと運んでいる。
「おや、うかない顔じゃの。それにレディがそんなにバクバク食ってええのかな?」
「ほっといてよ、おばあちゃん。私だって色々考えたりするんだから。」
「そうかぃ・・。」
そしてその内に、達也達が降りてきた。
「あら、どこに行くの、遠足?」
「違うよ、また旅に出るんだ。」
(色々とつっかかってくる子だ。)
達也は密かに、そう思う。
「え、まさか本当に化け物を退治しに行くって言うんじゃないでしょうね!?」
謎の女は驚いた顔をして席から立ち上がった。それにつられて老婆も達也の方を見た。
「僕らがやらなきゃ誰がやるんだよ。どうなるか、わかんないし、喧嘩のひとつもやったことないよ。でも、何かできることがあるかもしれない。修行とかして強くなれるかもしれない。だから、やるっきゃないんだ。おばあさん、色々ありがとうございました。」
達也は軽くお辞儀をした。
「ちょ、やめときなよ!もうどうしようもないのよ。世界が乗っ取られたら乗っ取られたで、ここでおとなしく暮らせばいいんだって。」
「いいんじゃて、この子らに任せよう。じゃが達也、必ず、必ず、生きて帰ってくるんじゃ。危ない時は逃げるんじゃぞ。」
「はい!」
達也とリゲルは家を出て行った。
「おばあちゃん!あの子達死んじゃうよ!?」
謎の女が問いかけても、老婆は落ち着いた態度で黙っていた。
(僕らがやらなきゃ誰がやる・・・か。)
「ふー、やっぱり朝の光は気持ちいでやんすねぇ~っ!」
「そうだなーって、あれ。シチは・・。」
達也が少しあたりを見回すと、海辺の所にシチがいた。
「はは、そこにいたのか。遊びはそこらへんにして、出発するぞ。」
シチは波が押し寄せたら逃げて、波が引いたら寄ってを繰り返していた。
「兄貴、はやく乗るでげすよ。」
「ん、あぁ。」
ザッザッザッザッ。
背中の方から、砂を踏む音が聞こえるので、達也はボートに乗って振り返る。
見るとそこにはが立っていた。
「ふん、あんた達だけじゃ不安だから、私も一緒に行くわよ。」
「えっと、嬉しいんだけど、やっぱり女の子はキケンだよ。だから・・。」
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。
するともう一人もこちらに歩いてきた。
「達也殿、きっとこの子も自分の手で親を救いたいんじゃよ。」
謎の女は達也の方をじっと見つめている。
(う、そんなに強い眼差しで見つめられたら・・。)
シチが遅れてボートに乗る。
「うん、分かったよ。じゃこれからよろしく。」
「ほんと!?やったー。」
謎の女は嬉しそうにボートに飛び乗った。
ボボボボとボートが音を立て始める。
達也はくるっと老婆の方を向いた。
ボボボボ。
老婆は何にも言わずに、ただにんまりほほえんでいる。
「それじゃ、言ってきます。」
その達也の言葉を残して、ボートは島をたった。
━ボートはばちゃばちゃ水しぶきをあげ、水面を裂いて進む。
謎の女はどんどん遠くなってゆく島の方を眺めている。
10分もの間4人は会話もせず、それぞれが景色を見たり、考え事をしたりしていた。
(う、うう。女の子とどう会話をしたらいいんだろう。)
そして先に口を開いたのは女であった。
「あ、私の名前を言ってなかったわね。私はナツキっていうの、よろしくね。」
「あ、ああ、よろしく。僕は達也。こいつはシチで、こっちが・・。」
「あっしはリゲルでげす!」
「へー、シチちゃんにリゲル君っ、仲良くしましょ!」
(ナツキちゃんか。 けっこうかわいいな。)
「兄貴、お茶ください、お茶。」
達也はリュックに入った銀色の水稲を、リゲルに飲ませてあげた。
ゴク、ゴク。
「あー、うんまい。」
「あ、そういえばリゲル。昨日追ってきたやつの事、何か知ってないか?」
「そうそう、言うの忘れてたでげす。あいつらはいつも2人でつるんでるげす。やたらとがたいがいい方はギガント、女の方はマリー。ギガントは力任せの攻撃や、タフさに注意、マリーについては、戦ったところを見たことが無いので知りません。」
更にリゲルが続ける。
「それと、何人もの悪魔の群れがいやしたが、あんなに悪魔がいるはずはないでげす。だって全員で50人のはずなんですから。サタンかだれかが不思議な術を使ってるのかもしれません。」
そのあとリゲルは、こうも付け加えた。
「あっしとシチが抜けているので48匹残っているはずでげす。」
(……ふむ。やっぱりあいつらは悪魔だったか。)
「へー、あんた達も多少の修羅場を潜り抜けてんのねぇ。」
横からナツキが割って入る。
(ま、私のほうがたくさんきつい修行を乗り越えてるんだけどね……。)
とナツキは思った。
達也達がが話している内に、ボートはだいぶ進んで、あたりは一面青いだけだった。
リゲルとシチは眠り、達也とナツキはそれぞれ違う所を展望している。
「なんかさぁ、こんな広いところにポツーンといると、なんか不安になるよね。」
ナツキがソッとつぶやいた。
「ん、あぁ。」
反射的に達也が相槌を打つ。
(確かにこんな広い所だとサメとかなんかが出てきそ……。)
バシャァァァ!
突然大きな音がすれば、達也達は水しぶきを食らった。
達也が顔にかかった水を振り払って見ると、そこには長い首をした竜がいたのだった。
━4人は白に輝かせた顔を上げながら、唖然としていた。
だがすぐに逃げなければ危ないと悟り、達也はとっさにアクセルを踏んだ。
「何なんだ!?」
急な反動で、リゲルは飛ばされる寸前で船の尻にかみついた。
ボートの軌道は海を耕すようにして描かれてゆく。
竜はただ何もせずこちらをじっと見据えていた。
「は、はは、別に悪い奴じゃなかったのかも。」
そういって達也は3人に笑いかける。
もう一度達也が背後を見ると、そこにはもう竜の姿はなかった。
だが、なにかの気配を感じ、ぞっとして横に目をやると、どす黒い青色のひれが、ゆっくりと海面から姿を現し始めているではないか。
声をあげて達也は尻もちをつく。
「やぁやぁ皆さん。お客様は大歓迎です。なんせここら辺にはちっこい魚しかいませんからね。」
不気味なその笑みは獰猛な野生の性質をはらんでいた。
(うわぁ。こ、こえぇ。)
達也はただそれだけを感じた。
恐怖という名のつたの葉が、次第に彼の心を侵食する。
「ったく、だらしないわねぇ。」
そう言うと、ナツキは威勢よく飛びかかった。
(はは、かっこつけちゃって……。)
「な、なにをする!」
ナツキはまたがって、次々とエルボーを浴びせていた。
(す、すごいな……、ナツキは…。)
うろたえた心は、すでに恐怖を通り越して、虚脱に陥っていた。
達也は恐怖で固まり、うつろな目でぼーっとナツキと竜が戦う姿を眺めていた。
「あ、あの兄貴、ナツキちゃん、一人で戦ってますけどぉ。」
(一人、一人……、一人!?)
達也は慌てて立ちあがって、ハンドルを掴んだ。
「今の内に逃げよう!そうだ、今のうちなら逃げれる。よし、今のっ…!」
達也はハッとした。そして卑怯な考えに取り憑かれた自分を恥じた。
「あ、兄貴?」
「はっ、ナツキが、ナツキが危ない!」
竜はうっとおしくなって
首をブンブンと振りだした。
「てめぇのエルボー、地味にいてぇんだよ!」
なおもナツキはしがみついて、手を止めなかった。
「うおおぉぉ!」
竜は力いっぱい唸り声をあげて、一度高く舞ったかた思うと、激しい音に吸い込まれるようにして姿を消した。
青に染まった世界をどんどん突き抜けてゆくのが分かる。
ナツキの眼中の脇を、小さな魚達や、たくさんの泡が駆け抜ける。
(だめ、もう我慢できない。)
すーっと手は離されて、それから徐々に体が浮いてゆく。
竜は止まる。
ナツキは一心不乱に海中をかきわける。
白い玉は、四方八方に光のとげをのばして、頭上を照らしていた。
それは、心動かす存在であったが、そんな余裕は到底なかった。
(もうすぐ、もうすぐ。)
奥深くからは、竜の顔がむくむくと昇ってきていた。
(やばい!!)
「プハァァ!」
ナツキは目の前にいきなり手が出現していて驚いた。
すでに待ち構えていた達也達によって、ナツキは引き上げられた。
ついで息も絶え絶えナツキが言う。
「え、えーと…、あの。」
「ん、何?」
「えーと、竜が、」
「ザバアァァン。」
突然水は大爆発を起こして、嵐のような波が一同を包み込んだ。
ナツキをのぞいた三人は、今起こった事が何なのか分からなかった。
そして、自分を転がす波が収まるにつれて、「竜の仕業か」と解釈できたのだった。
「ガボガボ、うへー助けて、あっしは泳げねぇでげす。」
「ナツキ!リゲル、シチー!」
達也は懸命にぐらつく視界の中で辺りを見回した。
先ほどの衝撃波のせいか、竜は少し離れた所に位置している。
(竜は気づいてないらしい。よし今だっ。)
その時、謎の声が聞こえた。
(つや……、達也、頑張って。)
(なんだ!?今のは。)
達也は一旦ボートの所まで泳ぎ、それから皆を集めた。
そして裏返しのボートを戻し、一人残らず乗船する。
どこだどこだと嘆く怪物を置き去りにして、ボートは旅立っていた。
━「ブロロロ。」とボートは音をたてている。
だれ一人として、言葉を発しなかった。
皆、突然の出来事に度肝を抜かして、ただ放心状態に心を任せるしかなかった。
そよ風は4人の肌を心地よく冷やす。
橙色の光が何とも言えない哀愁を含んで広がっていた。
━あたりはもうすっかり暗くなっていた。
乗船場を、ひょろりと生えた街灯が照らしている。
「ふぅ、やっと着いた。」
「で、これからどうするの?」
あたりを眺める達也に、ナツキが問う。
「んー、分からない。」
ナツキは少しがっかりした顔で達也をみつめていた。
あてもなく、闇路を歩いてしばらくたった。
ふと、後ろをのぞくと、ナツキは疲れきった顔をしていた。
その瞬間、黒々とした影が心をかすめる。
(これから先、果たしてやっていけるのだろうか。僕はこれからどんな化け物と対峙しようとしてるんだ?)
ナツキが気づいたので、達也は前を向き直った。
すると、
「ねぇ。」
「な、何?」
「もう疲れたから、どっかで休みましょう。」
(そうだな、この辺でちょうどいい所を……。)
列の後ろからグーッという音が聞こえた。
「兄貴、その前に腹ぺこです。」
━木製の扉は少し開いて、微かに光を漏らしている。
4人は離れた草の茂みに隠れて目をこらす。
「よし、今、家から出て行った。」
一行は、目玉に四本の手と二本の足を生やした化け物が、家を出るのを確認した。
そして、せかせかと小走りで扉の前に皆駆け付けた。
「ねぇ、やっぱやめようよ。」
「大丈夫だよ。食糧をとったらすぐ出るから。」
「ギィーッ。」
扉がゆっくり部屋の中に開け放され、白い光が彼らを出迎えた。
「こりゃ地味な部屋だ。」
それからナツキは入ってすぐの左にある棚に飛び付いた。
「んな事言ってる場合じゃないでしょ!リゲルちゃんは見張り役お願いね。」
2人はせっせと、そばに運よくあったリュックに食糧をつめていく。
シチはそれをベッドにぴょこんと座って眺めていた。
「ドサッ。」
達也はびくっとして振り返る。
ドアの入り口には横たわったリゲル、そして大きな目玉から4本の手足を生やした先ほどの化け物がいた。
「うわっ。」
と達也が尻もちをついた。
「てめぇら何してる。」
すぐさまナツキはとび蹴りを頭にくらわす。
「こざかしい!」
タンスにふっとぶナツキ。
「ギガントとマリーがサタン様にチクっていたのはお前らの事だったのか。」
達也(や、やばい! 死ぬ! 怖い!)
危険をとっさに感じ、後ずさる達也。
目玉から放たれた細長いビームが、達也の股ぐらを焦がした。
「よくよけたな。だが次はどうかな?」
瞬く間に一筋の光線が、達也めがけて放たれる。
達也(か、体が動かない!)
「キンッ。」
(前にいるのはナツキちゃん。)
ナツキはなべのふたを突き出していた。
化け物の方へと光線がはね返る。
「グギャ!」
黒焦げになった目玉の化け物はバタリと倒れた。
達也「はぁ…、はぁ、助かった。」
(化け物の背中からはプシューと煙が上がっている。)
「ギシ、ギシギシ。」
シチがベッドの上で跳ねている。
「あ、ありがと。」
達也は礼を言う。
ナツキは振り向いて言う。
「あんたってホント弱虫よね。」
(…よ、……弱虫。)
一同はまず悪魔を海に運んで、死体を沈めた。そして棚にあった食糧で腹を満たし、ようやく就寝の時がやってきた。
「じゃ、私はベッドでリゲルちゃんとシチちゃんとで寝るから、あんた床で寝てね。」
「おやすみなさい、兄貴。」
明りが消える。
達也はベッドのそばで、リュックを枕にして横になっていた。
(あぁ、今日は色々ありすぎた。なんだろ、今いちよく分からない。怖かった。あぁ、怖かった……。)
くたくたの体は、あっという間に夢の世界へと吸い込まれていった。
━あたりは真っ暗で何も見えない。
(ここはどこだ。)
すると、どこからともなく声がしてきた。
「お前にこの試練が乗り越えられるかな。」
残響が響き渡る。
「お前は誰だ!」
「私はサタンだ。」
それを聞いた僕は走り出す。
「うわっ。」
目の前にはあの竜がそびえたっていた。
慌てて進路を変えると、今度は目玉の化け物が待ち構えていた。
必死にビームをよける。
「うわあぁぁ!怖い、死にたくない!」
―「達也、達也!」
「あ、あぁ、ナツキ。」
気分とは反して、輝かしい光が窓から射している。
「ずっとうなされたよ。」
「昨日の悪魔が出てきたんだ。夢に。」
それからというもの、僕らは朝ご飯を食べたっきり何もする事がなくなった。
リゲルとシチは日なたぼっこ、ナツキは家の中をうろうろして、僕はベッドで考え事をする。
「これからどうする?」
と達也。
「んー、うかつに外に出られないし……。」
と、ナツキが言う。
そしてどんどんと時間が過ぎて、いつのまにか夜になった。
「ねえ、リゲルちゃん、悪魔の親玉がどこにいるか分からないの?」
「あっしは蘇った直後に群れを離れたので、どこが本拠地かは知らないんでげす。それに親玉のサタンはほかの悪魔たちと比べ物にならないくらい強いでやんす。」
また、それぞれが自分の世界に戻る。
しばらくして沈黙は破られた。
「なんか、本当に勝てるのかな。」
達也がベッドに横になりながら言う。
「だって相手悪魔だし、勝てるきしないっていうか……。」
「とことん弱気ね。」
その時、
今まで誰も開けようとしなかったタンスに、ナツキが気づいて近づいた。
ナツキが取り出したのは、黒いローブだった。
「それだ!」
と、達也が声をあげた。
黒装束の格好をした2人が、ある一件の店の前にたっていた。
「ここに行けば何か分かるかもしれない。まずは情報を集めるんだ。」
一人がゆっくりとドアを開けた。
悪魔達は話すのをやめて、じっと2人を睨めつける。
黒づくめの2人はカウンターに座った。
「いらっしゃい、デビルズバー へようこそ。」
何本もの手足を生やしたくも男が、コップをみがきながら言った。
「ローブをぬがなくても大丈夫ですか?」
「・・・・。」
2人は何もしゃべらず俯いている。
「注文はぁ、」
達也「コ、ココ、コーラでっ。2人とも。」
「はっはっは、さてはお客さん緊張してますね。だからお顔を隠してらっしゃる。」
達也(あー、早く抜け出したい。やっぱりやめればよかった。)
まばらに悪魔達は点在していて、時折大きな笑い声が響く。
すると、全身包帯づくめの男が、ナツキの隣に座った。
「やぁやぁ新人さんよぉ。一緒に飲もぉや。」
達也(うっわ~、またやっかいなやつが来た。)
ミイラ男は延々と自分の生い立ちや自慢話やらを繰り広げた。
そしてある時、不意にナツキのフードに手をのばした。
「どれ、かわいいお顔を見しておくれ。」
「やめてくださいっ。」
ナツキがすばやく手をふりほどくと、ミイラ男はプイと奥のテーブルに戻った。
店内に鳴り響くジャズソングが、大人の雰囲気を醸し出す。
達也の頭は、すぐにでもここを立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。
「君……。」
ふと声がして、達也はフードの下から、声の方をのぞく。
そこにはなんと、自分らと同じローブを着た者がいたのだ。
「君らぁ、人間だよね。」
戦慄が瞬時に爆走する。
度肝を抜かれて、達也は凍り付いた。
そして男は勘定を済ますと、達也達の手を引っ張って店を出る。
「なにをするんだ!」
男はフードをまくってみせた。
「僕も、人間なんだ……。」
━一同はひとまず家に集まった。
おじさん「いやー、こんなに生存者に出会えるとは。あ、私の名前は山田重五郎。よろしくね。」
達也は今までのいきさつ、旅の目的を話した。
「そうか、君たちは悪魔とどう戦えばいいか分かんないんだね。」
会話がやむ。
「まぁ、こっちは人間だからねぇ。そうだ、あれだ。あそこがある。」
山田重五郎と名乗るそのおじさんの話では、この町の森を抜けた砂漠に伝説の遺跡があり、その最深部にたどり着くととてつもない力が手に入るという事だった。
達也「どうしてそんな事を?」
「あ、あぁ私は考古学者なんだよ。古い文化や遺跡なんかを研究していてね。」
それから、就床の時がやってきた。
「出発は明日の夜。それじゃ、皆おやすみ。」
皆、床についた途端、熟睡していった。
━洞窟の天井からいってきの雫が落ちる。
その音と共に、バサバサとコウモリが乱れ飛ぶ。
「サタン様、ご報告に参りました。」
マルクスが跪いて言った。
「近々、相次いで悪魔が襲われる事件が起こっています。そしてある現場付近では黒いローブを着た連中が目撃されています。」
(なんだと、黒いローブは我らの悪魔族の伝統ある衣装。ギガントとマリーの報告も考慮に入れて、人間、もしくわ裏切り者の仕業か……。)
―時刻は正午。
「兄貴、メシ食わないんすか。」
「今は食う気分じゃないんだ。」
ベッドに仰向けになる達也の傍で食料をほおぼるリゲルとシチ。
ナツキはせっせと腕立てふせをして、山田おじさんは窓の外を眺める。
(遺跡の事は信じがたい。でももしそこに可能性があるかもしれないならその希望にたくすしかないか……。)
達也はそう思った。
「みんなで、みんなで力を合わせるんだ。」
おじさんが外をみつめながらぼそっとつぶやく。
透き通っていた空には、どんよりとした暗雲が垂れ込めてきていた。
―時刻は深夜。
一件の家のドアが開く。
人目を忍びつつ、こっそりと3人は出てきた。
布の上を、無数の水の玉がはじけて踊っている。
「いやー、ちょうどかさが3本あってよかった。」
黒づくめの3人は、ふりしきる大雨をきって進む。
通り過ぎる家からは、なごやかな笑い声が時折聞こえてきた。
上天から降り注ぐ冷雨は、地面へと吸い込まれる。
それが、煉瓦の道に、無数の波紋をつくった。
「兄貴、いつまでここにいればいいでげす。」
達也の懐から声がする。
「森についたらね。見つかったら終わりだから。」
雨に見張られつつ一同は歩いた。
「あ。」
いかめしく立ち並ぶ木々達が、達也の前に姿を現したのだ。
「ふぅ、やっとついたね。」
と、山田のおじさんは言った。
ついたまもなく、今度は森の中へと入っていく。
達也のローブからリゲルが飛び出す。
「達也君、懐中電灯を。」
「あ、はい。」
「よし、じゃぁもう遅いし今夜は適当な場所を見つけて休もう。」
と、おじさんが言った。
シチもナツキもローブから抜け出して、再び歩き始める。
静寂。
それを暗黒のベールが覆い隠す。
泥と落ち葉を踏みしめる音と、雨と葉の旋律だけが聞こえてくる。
一同は達也の持つ懐中電灯だけを頼りに進む。
達也は思う。
(なんだろうか、この不気味な圧迫感は。あぁ、それにしても早く休みたい。)
暗緑の樹木に囲まれ、道を行く事30分程度がたった。
木の群れはいったん後方に取り残されて、そこからは広場のように開けた場所になっていた。
その中央には大樹が生えている。
一同は大樹の下でくつろぐ事にした。
ある者は棒のように疲れ切った足を屈伸させて、ある者は天に向けて腕を伸ばす。
「ん?」
ナツキは根っこの近くに刻まれた一つの足跡に気づいた。
(オオカミ?いやでも2本だし。それにオオカミよりずっと大きい…。)
「ナツキ、もう寝るよー。」
「あ、うん。」
ナツキと2匹は達也のリュックにあった毛布を羽織って、他は地べたに寝そべった。
「あぁ、お家のベッドが恋しいよ。」
と、つぶやく達也。
次第に一人、また一人と目をつむった。
皆が眠りについたあと、どこからか物音が聞こえてくる。
茂みの中に、ぴかっと光る2つの眼があった。
━いつものように重いまぶたをこじあけた。
雨はもうすっかりやんでいる。
根っこの部分を下に寝たせいか、達也は背中が痛く感じた。
それをわずらしく思いながら、達也は皆をおこした。
「おはよう、達也君。ゆっくり寝れたかい?」
「あんまり……。」
素敵な朝日に迎えられて、なんて事はなく、中は朝でもほの暗かった。
達也は朝食を用意するために、リュックを探す。
あれ、ない。
「ナツキー、リュックは?」
「ふぁ~、知らない。」
皆でくまなく探しまわった。
「ちくしょう、オオカミにでもとられたのか!」
と山田のおじさん。
「兄貴ぃ。」
リゲルの声がして、その方向を見るとシチが指差している。
地面に落ちたビスケットを。
「しーっ……。」
達也達は草むらに潜んで息を殺す。
感覚をあけて落ちていたお菓子辿ってここについたのだ。
切り株に腰を据えた人物は緑髪で、無我夢中で食事にがっついていた。
「あんの野郎~!あったまきた!」
「ちょ、ちょっとダメだって。」
ナツキがずかずかと近づいていく。
「あんたねぇ。」
と瞬間その男は飛躍して、白銀のつるぎがナツキの喉を切る寸前で止まった。
その少年は騎士団の立派な制服のような格好をしていた。
「来たな、化け物どもめ。果ては変身タイプの悪魔だな!やつざきにしてくれる!」
緑色の髪の少年は、敵意をむき出しにして剣を振り回す。
「待ってくれ、僕達は人間だ。」
達也が止めに入る。
「もうこの世の中に人間なんていねぇーんだよ!」
剣が振りかざされたまま止まっている。
大きな影が彼を覆ったからである。
達也は瞬時に上を向く。
手足がなく、ちっちゃい舌をのぞかせ、しっぽをくねくねうねらせた巨大な生命体。
言葉を失っている間に、大蛇は襲いかかってきた。
3人は間一髪でかわし、蛇の顎が地面を撃砕する。
いちもくさんで猛ダッシュ。
隠れていた3人もつられて駆け出す。
木と木の間を一心不乱にすり抜ける。
「どうするんだ!」
と、謎の少年。
「分からないっ。」
達也はそう答える。
後ろからは大蛇が、すさまじい迫力で地を這い進んできている。
全員が力の限り走って、ある時達也は足をぴたっと止めた。
「まいたみたいね。」
周囲を確認すると、一時の安心がその場に流れた。
「ぜ、全員いるね……。」
おじさんは息を切らしながら言った。
「とりあえずこっからどうしようか。」
(なんか、自然とおじさんがリーダーみたいになってるな。)
と、達也は思った。
ナツキが口を開く。
「作戦があるわ。」
ナツキの話では、その作戦には一人おとりが要るようだ。
ナツキ「だれがなる?」
ほんの一瞬、ナツキの瞳と目が合ってしまった。
(えー、僕がならなくても誰かなるんじゃ……。おじさんあたりが妥当だよな。
あぁでもナツキにいい所をとられっぱなしだもんな。でも怖いしなぁ……。)
「よし、ここは最年長の私がやろう。」
達也は心の隅でにんまり笑った。
「で、その作戦はというと……。」
カラスの群れがそよ風に揺られて飛んでいる。
甲高い鳴き声が、暗く閉ざされた森に木霊した。
何か巨大なものが枯れ葉を掻き分ける音。
すると突然すごい音をたてて、一本の木がくずれた。
それから次から次へとなぎ倒されていく。
ある地点で音の主は止まった。
「はは~ん。」
その前でおじさんが硬直して立ちすくんでいる。
「いるのは分かってる。」
ナツキは想定外の言葉に息をのむ。
「おおかた気をとられている内に後からやるシナリオなんだろう?だがそれはオレ様には通用しない。一瞬早くこの老いぼれの首を噛みちぎって、そしてしっぽで後ろの奴の頬をぶってやろう。」
大蛇は不気味に笑って、そう言い捨てた。
あたりに緊迫した空気が流れる。
息苦しい沈黙が続く。
その時、おじさんの体は無意識に動いて、音が出る。
(あいつ!もしかし……)
リゲルは瞬時に、よぎった。
ぎちぎちの風船のような緊張感は破裂して、瞬時に大蛇が強襲した。
おじさんはかろうじてよけたが、地面がこっぱ微塵になる事は無かった。
達也「やったか。」
茂みから次々に人影が現れる。
大蛇はぴくりとも動かない。
何故なら、地面に突き刺さった剣が顎を貫いていたからである。
重圧から解放されて、それぞれ一息ついた。
(た、助かった…。)
達也はただ一人でに拍動する鼓動を感じていた。
「もうこりごり……。」
ナツキはぐったりと尻餅をつく。
「君のおかげだよ。」
と、山田のおじさんはナツキに声をかけた。
わずかな休息を取り、夕方なのでもう少し歩いて寝床を見つける事に決まった。
「て、なんであんたまでついてくるのよ。」
「ま、人間ていうのは確からしいし、それに剣という武器を持ったこのオレ様が仲間になってやってもいいと言ってるんだぜ。悪い話じゃあないだろ?」
「まぁまぁナツキくん。今や仲間は一人でも多い方が助かる。それに、剣は頼れる武器になる。」
まだぬかるみを湛えた土を踏みならしてゆく。
だがしばらく歩いていると、おじさんは静止する。
「その前に、ここはどこだ?」
一同は必死に走り続ける内に、自分達がどこにいるかも分からない所に来ていたのだ。
「どうやら少々やっかいな土地に迷子になったようね。」
(体が重い。ここんところ歩きっぱなしだったしな。)
と、思う達也。
前まであったわずかな明るさも消え失せ、一同は闇の中をただ黙々と歩いていた。
「そういえば、あの一つ目の化け物の件がサタンに報告されてる可能性もなくはない、これからはもっと用心しないと。」
と、山田のおじさん。
「そうでげすね…。」
「どうしたリゲル、疲れたか?」
「いや実はあの蛇、バジリスクといってあっしの友達だったげすよ。」
「友達!?」
皆立ち止まって3人が声をあげる。
「いいんでげす、兄貴達のせいじゃありませんから。気づいたときにはもう遅かったですし。」
リゲルは遠い昔の記憶を思い出していた。
「小六くらいの男と女、そしてチビ二匹と老いぼれ。よくこんなメンツで生き残れたな、今まで。」
「あんたねー、よくも私達の朝メシとってくれたわね。」
達也が反論する前に、後方にいたナツキが緑髪につかみかかった。
達也「あ、そういえば君、名前は?」
「だれがお前達のような平民に教えるか。」
「なんですってぇ。」
激昂するナツキを尻目に一同は足を動かし始めた。
懐中電灯のほのかな微光が闇を掻き分ける。
「ところで何でお前らは黒服なんだ?」
「あぁ、これはどうやら悪魔族が着る服で、僕らはこれでカモフラージュしてきたのさ。」
「あ、悪魔!?そういえばまだ何でお前ら化け物と2匹とつるんでるのか聞いてなかっ…。」
突如として、視界は闇に閉ざされる。
「ギャー、怖いー。兄貴ー!」
「だー!うるさいな。さっきの落ち込みようはどうしたんだ?」
ライトの電源が切れ、一同はその場で眠る事になった。
「ふぅ、オレ様がこんな所で寝ることになるとは。」
「それじゃあ皆、おやすみ。」
と、山田のおじさん。
━音も無い、風一つ吹かない森の中。
ナツキは何となく寝付けず、ずっと上の方にやっと見える夜空を見上げていた。
「父さん……。」
これから先への不安。
それに、暗黒が作りだす恐怖の渦とがごっちゃになり、ぐちゃぐちゃにかき混ざされてゆく。
「ぷわ~ん。」
何かが、ナツキの顔の上を通り過ぎた。
すぐ立ち上がって周りを見回すと、一つの小さな光の玉が空を漂っている。
(何あれ……。)
ナツキは吸い寄せられるかのように歩き始めた。
それは優しい光をまとって、ゆらゆらとナツキを導いていく。
途中なだらかな坂を下ると、一気に光の玉は速度を速める。
ナツキも急いで後を追う。
が、ナツキは寸での所で足をつまらせた。
そこに、大きな湖が広がっていたからだ。
「きれい。」
あたりはびっしり光の玉で満ち溢れ、水面は金色に染まっていた。
ふと向こう岸に、影が見えた。
それはゆっくりとこっちへ向かってきている。
光が影をなではじめる。
(え?)
その者は全身を光の玉で包まれ、水の上を歩いていた。
いよいよ全身が照らし出される。
(シ、シカ?トナカイッ…!?)
ナツキは逃げ出したくもなったが、神秘的な力に魅せられ、そうはしなかった。
その者がナツキの元にたどり着く。
「私は森の守り神、スサノオだ。」
「・・・。」
「君達にはとても感謝している。お礼に砂漠までのせていって差し上げよう。」
「えっ、何でその事をっ。」
「もう皆ついたようだ。」
四方の茂みからスサノオより少し小さいトナカイが3頭が出てきて、その背中には達也達がのっていた。
― 「うわ、くすぐったいな。」
スサノオ「はは、その子達はシャイニングピクシー、光の妖精さ。」
煌めく閃光にかこまれながら列は進む。
達也とナツキ以外はすっかり眠っている。
「森に邪悪な力が潜んでるのは知っていたがうまい事逃げられ、あの大蛇には困り果てていたんだ。」
「今や世界は悪魔に支配されてて、僕たちは…。」
「知っているよ。世界の事も、君達が何でここに来たのかもおみとおしさ。」
達也は急に眠気が差して、うとうとしはじめる。
「はは、いいんだよ寝て。明日の朝にはつくはずだ。」
それを聞いて達也もなんだかホッとして目をつむった。
―「ん…。」
ほっぺに当たる熱い感覚で目が覚める。
起き上がってみるとそこには馬鹿でかい砂漠が広がっていた。
━太陽はギラリと目を光らせて、これでもかと言わんばかりに炎のような暑さをまき散らす。
3人はここなら安全という事でローブを脱いで歩いていた。
「ケッ、どうせなら遺跡まで連れてってくれりゃー良かったのに。」
悪態をつく緑の髪の少年。
焼けつくような日照り。
しみでる汗。
「の、のどがかわいた。」
「だらしないな。」
「お前がさっき全部飲んだせいだよ!」
漫才のようなやり取りをする達也と緑の髪の少年。
達也はおじさんの水筒を分けてもらった。
砂丘を超えても、広がるのは砂の世界ばかり。
達也は高熱の砂を踏むたび、労力と水分が削り取られるように感じた。
生ぬるく乾いた風が吹きすさぶ。
ふと顔をあげる。
達也の瞳は、一件の建物のようなものが揺らめく陽炎の中にあるのを認めた。
「みんなもう少しだ、頑張ろう。」
全員が残った力を振り絞って歩き続けた。
「もうダメでげすぅー。」
「あー、疲れたぜ。」
緑色の髪の少年は遺跡の壁にもたれこむ。
遺跡は広々とした長方形で、平べったく石組みで出来ていた。
「た、達也君、くつろぎタイムといきたい所だがここは暑い。休むなら遺跡の中で休もう。」
「そうですね。」
一同はアーチ状の穴をくぐった。
中に入ると、壁に両側にとりつけられた炎がめらめらと燃えていて、それが道を照らしていた。
それぞれが、体から一気に力が抜けたように腰をおとす。
「ここにはありとあらゆる罠が仕掛けられ、そしてその試練の果てに最新部にたどり着けるのは心正しき勇者のみといわれている。」
「へー……。」
振動。
ズシンという音がして、とっさにナツキが飛び上がる。
振り向くか振り向かないかの内に皆が走り出した。
どでかい球体がすごいスピードで彼らを追いかけていた。
「さっそくかよっ!」
「こんなところでペシャンコは嫌でげすー!」
(なんてこった。こっちはまだろくに休んでもないのに。クソッ、どうすれば。)
と逡巡する達也。
球はもうすぐそこまできている。
おじさん「皆、あきらめるんじゃない。この遺跡は今までずっと勇者を待ち続けてきたんだ。必ず突破口はある!」
(突破口、突破口…!)
「皆、僕に続け!」
ジャンプしたかと思うと、達也の体は忽然と地面に消えた。
━達也に続いて皆も穴をすり抜けていった。
球の転がる音がだんだん遠のいていく。
「あそこだけ明らかに他と色と違ったんだ。もうここしかないと思って。」
「ふん、お前がここで休もうと言わなきゃこんな事には……。」
「おいおい、少しは感謝してもいいんじゃないかな。」
「今は喧嘩してる場合じゃないでしょ、ほら。」
ナツキの前にはドアが一つ、その前に立て札が置いてあった。
おじさん「なになに、これを読んでる者がいるという事は、力や宝が目的の私利私欲をもつ人間か、またはその力が必要な時がやってきたという事か。それはともかく、この扉の先には果てしない迷路が広がっている。
そこには様々なアイテムがちりばめられており、それはこの遺跡の最深部までの強力な助けとなるであろう。」
と、たてふだには書かれてある。
「よ、よし皆、これから先は何があるか分からない。用心してかかろう。」
と山田のおじさん。
達也が緊迫したおももちでドアを開けると、高い壁に隔てられた一本の道が姿を現した。
そこを突き当たると今度は左右に分かれている。
おじさん「多数決で決めよう。」
リゲルを除いた全員が右だったためそちらに進む。
するとその先は行き止まりの小さな部屋になっていて、その中央に宝箱が一つ置いてあった。
「よっしゃー、さっそくゲットだ。」
と言って達也が開けるいなや、黒いかたまりのようなものが箱の中から飛び出してきたではないか。
瞬時に何かがそれに突き刺さると黒い物体はパンッ、とはじけて消えてしまった。
達也が目を開けると宝箱に剣が突き刺さっている。
「これで借りは返したぜ。」
そういって緑髪は剣を抜き取った。
「人食い箱か。でもどうしよう、ここは行き止まりだ。引き返すかい?」
そういうおじさん。
「何かしらコレ。」
皆がナツキの方によると、床にうっすら光を放つ二重丸の模様がある。
「なんでげすかね、コレは。」
「うわっ。」
いきなりシチの姿が消えたのだ。
「これはきっとワープ装置だ!」
慌てて達也も光る二重丸を踏みつける。
プワンという音がなるとすぐに別世界になり、そこにシチがいた。
「よかった。」
後を追ってナツキ達も順々に出てきた。
「ったく世話をかかせやがって。もーいい!オレはがまんできん!」
「まて、はぐれちゃダメだ!」
「うるさい、オレが一番強い武器をゲット…!」
駆け出したかと思うと、急に地面がウィーンと開いて、緑髪は闇の中に落ちていった。
「おーい!」
「残念だ…。」
達也は内心ざまあみろと思わなくもなかった。
穴をまたいで再び歩いてゆく。
お次は通路に1つ宝箱があった。
「よし、今度は用心してあけよう。みどり君がいないから人食い箱だったら走って逃げるんだ。」
といっておじさんが慎重に開けると、
「・・・・。」
「いこいこ。」
中には何も入ってなかった。
皆はスタスタと空の宝箱を踏み越えていった。
それから幾多の道をゆき、なんども角をまがり、
盾を3つ、剣、弓、ヌンチャクと次々に獲得していった。
「お、これは杖だ。」
「よしここでいったん役割分担をしておこう。」
おじさんが弓、ナツキがヌンチャクで剣と杖が達也になった。
道にちらばる毒の斑点をよけて、炎吹き出る道を飛び越えていく。
「なんだこれ、マジックドリンク?」
「たぶんそれはMPを回復するやつね。」
「MPって、……ずいぶんゲームチックだなぁ。」
「まー、ようするにあれよ。魔法の力ってこと。」
また宝箱に巡り合う。
「種だ。」
「ほらよくある攻撃力とか守備力を少しアップさせるやつじゃないかな。」
「そういえばナツキ、どこいった?」
後ろについてきていないことを悟った達也はそう言った。
すると後ろの曲がり角からナツキが出てきた。
「なーんだいたの…。」
達也、という声がそれをさえぎる。
「私、バランスを崩して、それで毒を…。」
「えぇ!?」
よく見ると顔も青白く、汗もびっしょりかいていた。
達也は予期せぬ事態の連続に、ただただ困惑する。
━「ナツキ、大丈夫?」
「う、うん、なんとか…。」
5人はまた迷路を歩き続ける。
(やばい。やばいやばいやばい。
緑の髪のあいつに続いてナツキまで。
どうしたらいいんだ!
もしもの事があったりしたらおばあちゃんに合わせる顔がない!)
こくこくと進む時間。
それとは反対に、歩くたんびに一同の体力はすり減ってゆく。
体力の消耗がさらに気力をめいらせ、きりがない迷路へのもどかしさが鬱積する。
「ちくしょう!もうお手上げだ。角を曲がっても曲がっても道ばかり、これじゃきりがないよ!」
「兄貴、アレ。」
ぽつーんと宝箱が1つ、そして道は行き止まりだった。
それに駆けつけてババッと宝を開け、達也は一枚の紙切れを取り出した。
「こ、これは…地図!」
「おお!」
地図には迷路の図はもちろん全ての宝箱、ワープ装置の位置が標されていた。
「ふむ、ワープ装置にはそれぞれ番号がつけられている。これは恐らくどこからどこへワープするのをさしている。」
「となると僕たちはすでに全てのワープ装置を使っている。」
(まてよ、まだ通ってない道も宝箱もあるがそこから出口に通じるものは書いてない、という事は…)
「落とし穴!」
おじさんと達也が声を合わせて叫ぶ。
「達也君、出口となるものはもう落とし穴しか地図には印されていない。あれが、あの落とし穴こそが突破口への鍵だったんだよ!」
地図の助けもあって、以前よりも速いペースでワープを繰り返してゆく。
「よし、やっと人食い箱のとこまできた。ナツキ、ほら。」
達也はおんぶの体勢になった。
「ありがと…。」
最後のワープを終えると猛ダッシュ。
(もう少し、もう少しだナツキ!もうちょっとふんばってくれ!)
そしてようやくたどりつく。
文目も分かぬ漆黒が、達也達を誘うかのようにして開いていた。
(ここに行くことが本当に正しいのか。緑髪のあいつは生きているのかな。次はボスか?それとも…。)
「よし!」
達也は気合いを入れて穴に飛び込んだ。
すかさずナツキ達も降り立つとすぐに達也が前方の光景に釘付けになっている事に気づいた。
達也「これは…。」
いくつもの細長い槍(やり)のようなのような物が壁から伸び壁へと横に突き刺さっていたのだ。
「これはよくあるオーソドックスな罠だね。」
「だけどもう突き刺さっているという事は誰かが通ったという事。つまり緑の髪のあいつがいるかもしれないという事だ。」
そんな会話をしながら一同は槍と槍の間を縫っていく。
お次は針の道。
いくつもの鋭利な針達がピカリと待ち構えている。
(くそっ、これはジャンプじゃわたれない。あいつはどうやって…。)
そんな達也のくよくよした考えをリゲルの声が打ち消した。
「そうか、ここを渡ればいいのか!」
壁と道との間の細い淵の部分を足場にして渡っていった。
「怪しいな…、アレ。」
「ビームみたいなのが出そうでげす。」
小さい砲台のような物が地面から顔を除かせている。
達也とおじさんは背中にかけていた盾をジャキンと構えた。
「ナツキは僕の後ろについてきて。」
「後ろ?なめないでよ。」
すると突然ナツキが砲台の方へ飛びかかったではないか。
瞬時に放たれる緑色の光線を鮮やかに交わすと、あっという間に砲台の向う側についていた。
「す、すごい…。」
あとの2人と二匹も盾を使って追いつき、はしご階段を降りると、
「ふぅー、やっとご到着か。まったぜー。」
「お!いたんだね!よかったよ。」
「ここはどうにも俺だけで行く訳にはいかないみたいだったしな。ほら、こっから先の天井だけでっぱてるだろ。おそらくコレは天井が徐々に落ちてくる罠だ。ま、感ってやつさ。」
「で、どうする?」
「そりゃぁ、まっしぐらさ。」
すーっと息を吸ってため息をはく。
そしてよーいドンでいっせいに走り出した。
それと同時にウィーンと上から音がし、天井が迫り始める。
「やっぱり思った通りだ!」
「がんばれ、もうすぐだ!」
(目の前にはもうすぐ近くドアがある。もう少しだ!)
達也とシチ以外はもう着いて、ドアの所から見守っていた。
天井が頭上すれすれまで来た時、達也はスライディングを決めて皆の元にたどりつく。
「シチー!」
シチはてくてくと走っていたが到底間に合いそうにない。
「ちくしょう!」
「達也君ダメだ、いっちゃ!」
達也はおじさんの手を振りほどくと背中に手を伸ばし、盾を天井と壁の間に挟ませた。
「そうか、そういう事か!」
盾はミシミシと今にも潰れそうである。
なんとかシチ引き上げて、ドアを開けて行く。
天井は盾をグシャッと割り、そしてズシンと重たい音を響かせた。
━「うわっ…!」
緑髪の口を慌てて達也がおさえる。
入った瞬間真っ先に目に飛び込んできたもの。
それは巨大で、たくましく、むくむくと赤い毛で覆われ、そして2つの翼を生やした生物……そう、
ドラゴンだった。
ドラゴンは手首足首に4本の鎖が繋がれていて、大きないびきをかいてまどろんでいる。
「おいおいマジかよ。」
と緑髪が小声で言う。
辺りは体育館くらいの広さで、そこら中宝石や金貨の山が積み重なっている。
おじさんがドラゴンの後ろにドアが1つある事に気付いた。
「よし、きっとあれがゴールだ。気付かなければ戦わずに済むぞ。」
ぬき足さし足、慎重に忍び寄っていく一同。
(たのむ!神様。このまま何事もなく、このまま何事もなく。)
と達也は思いを馳せる。
「ガチャッ。」
電光石火のごとく全員が音の主の方を振り向く。
シチが、ドラゴンの鎖をふんでいた。
恐る恐る上を見上げると……
瞳が、開いていた。
突如、凄まじい衝撃はが一同を吹き飛ばす。
おじさん「み、みんなっ!大丈夫か!?」
「グフ、グフフフフ…。」
地面に当たったドラゴンの手の所からプシューと煙が出ている。
「ようこそ、ドラゴンの間へ。オレはスーパードラゴン。気付かれずに行こうとしたようだが残念だったな。」
「ここを通してくれ!僕達は君と戦いたくない。」
「ほう…そいつは」
うっすら笑みを浮かべて、
「無理な話だ!」
ドラゴンが引っ掻いてきたのでかろうじてよける。
「おじさんは弓で遠くから射撃して下さい!リゲルとシチはアイテムで補助してくれ、それとナツキは休んでて!」
「休む!?冗談じゃないわよ。」
そう言ってナツキはヌンチャクは手に走り出す。
「まったく…あ、緑髪コレ!」
達也は持っていた剣を渡した。
「なんだよ緑髪って…。ふ、これで二刀流ってやつか。暴れてやるとするか!」
緑髪もドラゴンめがけて駆け出した。
(よし、僕もこの杖で…。だけどコレどうやって使えばいいんだ?)
2人はドラゴンの足下にたどりつき、剣で切り刻み、ヌンチャクで殴りつける。
「ンアァ?ちょこまかとうざったいんじゃー!」
「ぐわっ!」
2人は足で蹴り飛ばされた。
「テメーらの相手はコイツらだ。」
ドラゴンは深呼吸をして反り返る。
そして大きく口を開けて何かを吐き出した。
「うわっ、何だコイツら。」
そこには剣を持った骸骨の戦士達が何体もいた。
とその時、一体のがいこつがいきなり達也に飛びかかった。
「ぐ…なんだコイツ。」
達也は押し倒され、杖を横にして剣を防ぐ。
(くそっ、力が強い…!)
その瞬間がいこつの力は、ドサッと転げ落ちる。
「おじさん!」
遠い所から山田のおじさんが弓でうってくれたのだった。
「おじさんとナツキはがいこつ達を、僕達はドラゴンをやります。」
残り2つの盾の1つはおじさん、そしてもう1つこっちサイドで、達也になった。
達也はリゲルから投げられた盾を受け取ると、はやぶさのごとくドラゴンの元へ駆け出した。
「ふん、かってにしきりやがって。いっとくが俺は俺のために戦うんだからな!」
「グフフフ!蟻が恐竜に勝てるでもいうのか。」
(よし、この杖。使い方が分からないけど実践あるのみだ!)
「うりゃー、出ろー!」
杖は振りかざされても何の変化も無い。
そのままドラゴンのしっぽではじかれてしまった。
(ぐ、なんとか盾で防いだけど…なんて威力だ。)
「はっ、情けねー!」
手慣れた手つきで緑の髪の少年がガリガリと足の肉に斬りつけている。
「地味にイテーんだよっ!」
またもや足蹴にされ、宙に浮き、はじきとばされた。
「緑髪ー!ちくしょぉー!」
達也もまたドラゴンに立ち向かっていった。
一方、ナツキは、
朦朧とした意識の中、ただ迫り来る敵達をなぎ倒す。
(皆には心配かけないようにこうして強がってるけど、
もう体力の限界かも…。)
ふと油断していると、横からの攻撃に気付く。
あぁ、間に合わないっ!
ピシュン!と何かがガイコツごと突き抜けた。
「ナツキくん!こんな所で負けてはいけない。君には世界を取り戻す目的があるんだ。」
見ると、山田のおじさんが凛として弓を構えていた。
「はいっ!」
―「大丈夫か!緑髪、オイ!」
緑の髪の少年はすでにもうボロボロで、傷だらけだった。
(そうか、僕達は超能力者でも魔法使いでもなくて、ただの人間なんだ。その僕らがあんな化け物と…。)
「緑髪はここで休んでて、ただでさえ盾がないんだから。」
「ふざ…けんな…グッ。」
達也が緑髪を安全な場所へと運ぼうとしたその瞬間、
「あちちちち!」
熱くメラメラしたものが達也の背中を焦がした。
「くそっ、火も使えるってのか。リゲルー!こいつを運んでやってくれ。」
「あいよ!」
達也はまた再び敵めがけて走り出す。
「はっ、こりない奴だな。どうだオレのファイヤーブレスと勝負するかぁ?」
ドラゴンは鼻から息をスーッと吸い込みだした。
(こうなりゃヤケだ、出ろ、出ろ出ろ出ろ出ろ!!)
すると、杖の先端は急に微かな光を放ち始めたのだった。
おぼろげな光は徐々に膨張し、そしてまばゆい程の光の筋となる。
それは燃えさかる炎の渦をも貫き、ドラゴンの大口に入って閃光と爆発音が一体を包んだ。
「な、なにが起こったげす?」
次第に各々の視力が元に戻ってくる。
「僕がやったのか…?」
「やったでげすよ兄貴!」
ドラゴンの口はあんぐり開いたままで、ふかふかと煙をふかしていた。
「ふん、これで少しは楽しめそうだな。
と、ドラゴンは言い放った。
(この杖、多分…。)
互いが見つめ合ったまま、様子をさぐりあう。
ただならぬ空気。
離れた所ではナツキ達が戦う音がしてくる。
先に動いたのはドラゴン。
鋭く尖った爪が次々に襲い来る。
懐にもぐりこみ、腹に標準を定める。
「甘い!」
ドラゴン今までたたんでいた翼を広げ突風を巻き起こす。
達也は回転しながら突っ込み、宝石の山を散らかす。
「何っ…!?」
舞い上がる宝石の中にも手の中にも達也の姿はない。
ピカッと稲光がすると共に、ドラゴンに痛みが走る。
なんとドラゴンの横に達也がいたのだ。
「先回り作戦!」
「お前が山を壊す前に裏側からすばやく移動してたのさ。」
「こざかしいマネをしやがってぇ!」
それから達也とスーパードラゴンは白熱した激闘を繰り広げた。
引っ掻きをよけて、しっぽのムチをかわし、翼の突風をかわして紅蓮の炎を防いだ。
緑髪はリゲルとシチいる離れた所から達也の熱戦を見やっていた。
(おかしい。達也はあれから何回も攻を食らわしているが、ドラゴンには疲労の様子が全く見えない。
それどころか翼の1つも壊せてない。)
その時、
「達也、そいつは倒せない!だって考えてみろ、かなりの数のぶちこんでもそいつはピンとしてる、剣、弓、ヌンチャクでも同じだろう。だがこの遺跡がゴール出来るように造られているなら、なにかドラゴンを倒す方法があるはずだ!」
と、緑の髪の少年が叫んだ。
「で、でもそんな事言ったって…」
出し抜けに、達也は何かにつまづいた。
足下には少しへこんだ四角いへこみがあったのだ。
「おらおらー!」
休む間もなく飛んでくるドラゴンの手。
すかさず避(よ)ける。
(確かにこのままやっても勝てる気がしない。なんだろう、アレは。室内の真ん中にある不自然なくぼみ…。ハッ、もしかしてゲームでよくある何かをはめて何かが起きるしかけ!まさか…!)
「グフ、やっと石盤に気付いたようだな。石盤は迷路の中にある。なんなら今取りい行ってもいいんだぞ。」
「嘘じゃないだろうな。」
「グフフ、オレは嘘はつかない。」
「リゲル頼みがある!今から迷路に戻って石盤を取ってきて欲しい。」
「達也君、何でまた石盤なんだい?」
遠くの方からおじさんが弓を撃ちながら尋ねた。
「さっきこの部屋の真ん中に不自然なへこみがって、ドラゴンの話では迷路の中に石盤があるらしんです。
それをはめたら何か起きるのかなって。」
それを聞いておじさんは早足でリゲルの元へと駆けつける。
そしてつくやいなや何やらリュックの中をさぐりはじめる。
パパッと鉛筆で紙切れになぐり書きすると、
「はい、リゲル君。地図にまだとってない宝箱に印をつけておいた。あとそれから…。」
おじさんはリュックから何十にもととぐろを巻いた物体をとりだす。
「このロープ使えば迷わず帰って来れるだろう。迷路で手に入れたんだ。見つけたらぐいっとひっぱればいい。」
「ありがとうでげす、おじさん!」
リゲルはロープの先端と地図を口でくわえて、ドアの方へと走っていった。
達也「頼んだぞー、リゲル!」
―ナツキの所のがいこつ達はあと残り数体である。
緑の髪の彼はシチのいる方へと走り出す。
「グフフ!作戦会議はもういいのかぁ!?」
ドラゴンが鬼の形相で噛みつきにかかる。
(うっ、まに合わない…!)
だが疾速する何かがドラゴンの顎(あご)をきりさいた。
「緑髪!」
「ゼェ…ゼェ…あのチビに回復薬をもらったのさ。あとリョクハツっていうのやめろ……。」」
ドラゴンは大声で悲鳴をあげている。
それは尋常ではなく、まるで断末魔のようである。
「てめーら…ゆるさんぞぉぉ!」
ぶち、ぶちぶちっと鎖がはずれていく。
「なぁ、これって竜の逆鱗(げきりん)に触れるやつか…?」
「多分…。」
突如、逆巻く炎のブレスが彼らを襲う。
(ちくしょう!リゲル、はやくきてくれっ。)
― ロープのとぐろは、上の方からシュルシュルとすごい速さですり減っている。
その頃リゲルはというと…
俊足で駆け抜け、もう針の道に差し掛かっている。
(へへ、こんなに思いっきり走るのは兄貴と出会った頃以来でげす。)
そして針の道をぴょんと飛び越えていった。
― スパンと一本の矢が真っ白な額に貫通した。
「お、終わった…。」
ナツキはその場にへなへなと倒れ込む。
「よく頑張ったね、ナツキくん。それじゃ私はあっちの加勢に行ってくるよ、君は休んでなさい。」
「いや、私も…行きます。」
「いや君は休むんだ。むしろ君には役割がある。リゲル君が石盤を見つけたらロープぐいっとする合図があるはずだ。そしたらロープ思いっきり引っ張るんだ。これは急がないとリゲル君がつぶされちゃうからね。」
ナツキを説得するとおじさんも達也達と合流した。
「ここからは私も戦うよ。」
「助かります。あいつは緑髪が逆鱗にふれてますますます強くなってて…。」
といってる最中にもドラゴンは引っ掻いてくる。
それをよけても手首についた鎖の二段攻撃が容赦なく襲い掛かる。
ドラゴンは唸りつつ、翼で風を起こしつつ、しっぽと引っ掻きを織り交ぜ、火を吐いてくる。
「くっ、近づきさえできんっ!」
「うおー!なめんな!僕はサッカーやってたから足には自信があるんだ!」
と、達也が襲いかかってきた手の上をどんどんとよじのぼっていく。
顔に剣を突き刺そうとしたとたん、はたかれてしまった。
(ここにきて僕はちょっと変わり始めてるんだ。水竜の時はなにもできなかったけど…。)
「シチ、回復薬とってくれる?」
ナツキは飲むタイプの回復薬をゴクゴク飲みながら、戦いの様子を眺める。
「ふー、ありがと、少し楽になった。にしても達也頑張ってるなぁ、前はもっと臆病だったのに。」
(あぁ、悔しい。皆頑張ってるのに何で私だけ…。何も出来ないのが悔しい!)
―リゲルはとうとうついに、迷路に辿り着いていた。
(ない、ないないないないない!まだとってない石盤らしきものが1つもないでゲス!ん、確かここは人食い箱のあたり…。)
通路にはすでに開いた宝箱が1つ。
「なんだ、これは何もはいってなかったやつじゃないか。」
少し期待しながら箱をのぞきこむ。
「あぁー!やっぱ入ってないでげす!いったいどこにあるというでげすー!」
リゲルはしびれを切らして、暴れまくった。
「ゴトッ。」
宝箱は倒れていて、床には一枚の板が落ちていた。
「そうか、底に敷き詰められていたから分からなかったんだ!」
リゲルはロープをぐいっと引っ張った。
―「遅いな、リゲル。」
「グフ、貴様らがくたばるか、あのチビ野郎がもってくるか、どっちが早いかな?」
ドラゴンと戦う3人も疲労困憊で、度々シチから回復薬をもらいながら戦っている。
その時、
「きた、リゲルから合図!」
3人の顔にも希望の光が見えはじめる。
「よっしゃ!」
「フッ、待たせやがる。」
ナツキは力いっぱいロープをたぐりよせる。
けれどもそれを毒が邪魔する。
体中からにじむ汗で手が滑りそうになる。
(今私が頑張らないと…!これが今!私の出来ることなんだ!!)
すると、ふと背後に気配を感じる。
「おじさん!」
一緒にになって、ひきあげていく。
その頃、リゲルはヒュンヒュンと高速ではりの道、ビームの罠とくぐり抜けていた。
いよいよ最後の罠を通り、天井が動きはじめる。
(まってでげす、もうすぐ、もうすぐ!)
ひっぱる感覚が消え、2人は反動で尻もちをつく。
ナツキが見上げるとそこにはリゲルが宙高く舞っていた。
―「ナツキー、コレ!」
リゲルは瓶のようなものを口から投げ渡した。
ナツキがそれを受け取るとそれには(毒消し薬)と書かれてあった。
「兄貴ー、石盤あったでげすよー!」
「よし、よくやった!あとは誰かが石盤をはめるかだ。一番強力な武器を持ってる僕が援護するよ。」
カンッと瓶が投げ捨てられる。
「私がやるわ。毒もすっかりとれたしね。」
「わかった、僕も今そっち側に…」
次の瞬間ドラゴンのかぎ爪攻撃が彼を襲う。
「だれが黙ってはめさせるかぁー!」
「ぐわっ!」
達也は突き放され、ドラゴンのかぎ爪攻撃が彼を襲う。
緑の髪の少年が達也を助けたのだった。
「緑髪、悪い!」
達也は彼の顔を見るやいなや、また駆け出した。
(はやく…行きやがれ。いっとくが達也、オレはあくまで自分のためにやったんだからな…。)
ドラゴンは炎を吐き出す。
いくつくもの火の玉が雨のように降り注いで、辺りは火の海と化す。
リゲルはナツキに石盤を渡して、達也はその後方に回り込む。
「準備はいい?ナツキ。」
「ええ。」
1、
2の、
3で飛び出した。
「本当の勇者だけがこの遺跡の最深部までいく事が出来るのだ!」
今までに無いほどの強烈な烈火の炎。
《達也、頑張って。》
(!?なんだ今の声。あぁ、今はそれどこじゃない!出ろ、出ろ出ろ出ろ出ろおおぉぉぉ!!)
輝かしい光がその場を飲み込み、ナツキの上で凄まじい爆裂音が起きる。
ナツキはそっと石盤くぼみにあてはめた。
煙霧立ち上る中、目を開けると、ドラゴンの動きは止まっていた。
「止まって…るのか?」
「やっとでげすー!」
「フン、俺は実は機械仕掛けのドラゴンの形をしただけの物体で、生命体ではないのだ。」
「くぼみとドラゴンの意識が連動していたってわけでげすね。」
達也、シチ、リゲルは抱き合って喜ぶ。
ナツキ心のつかえがとれたように胸をなでおろした。
「さ、ここは炎に囲まれて暑いから、ひとまず次の部屋に行こうか。」
一同はドアを開けながら思いも思いのの会話にふけっている。
「リゲルよくやったなー。」
「いやいや、ナツキもものすごく頑張ってくれたでげすよ。」
「緑髪のアドバイスがないと今頃ドラゴンの胃の中だったかもしれないし、おじさんの弓もうまかっ…。」
後ろを見ると、おじさんは何やら震えながら俯いている。
「おじさん?」
「ギャハ…ギャハハハハハハ!」
おじさんの体はどんどんと大きくなりはじめる。
━「こ、これって…。」
やがておじさんの体は服を破り、全身ムクムクした毛に覆われ天使のような翼が生え、顔はフクロウに変化していた。
「ぎゃは…ぎゃははは!ぎゃはははははは!」
おじさん、だったその者は狂ったように笑う。
皆は呆気にとられている。
「面白かったぜ~?君達との"お仲間ごっこ"。」
「どうゆう事だ!」
と達也。
「オレはあの日偶然ローブを着てBARにいた。そこにお前達がやって来たのさ。
しめたと思たぜ。他のやつらは分かってなかったが、オレは特別鼻がいいから分かった。
前々からこの遺跡の噂をかぎつけ、入りたいと思っていたがどうも心細くてな。
悪魔を利用すれば逆にこっちが裏切られるもしれん。
遺跡の力は悪の力をもつ俺ではクリアできないし、お前達を利用してサタンに突き出せば鼻が高い。そしてサタンを倒す野望に一歩近づくという訳だ。
ちなみにオレの本名はアンドラスだ。演技、うまかったか?」
こらえきれず緑の髪の少年がきりかかる。
アンドラスは片手で彼を投げ飛ばし、壁に叩き付けた。
「てめぇーらの相手は後でゆっくりしてやるよ。」
そういって目の前のドアを開けていた。
が、すぐさま悲鳴のような声が聞こえてきて徐々に遠ざかっていった。
ドアがすーっと薄くなっていく。
その横に新たにドアが1つ現れた。
「なんだ?」
すると、(ようこそ、いらしゃい)という声が彼らには聞こえようなた気がした。
その声は澄んでいて、それでいて優しかった。
「なんなんだ?」
「立てる?」
達也は吸い寄せられるようにドアを開けていった。
入るとそこには真ん中に棺桶らしきものが1つ、部屋は煌めかしい宝石で溢れかえっていて、椅子に青年が座っていた。
「怖がる必要はない、皆、いらっしゃい。」
青年は銀色の髪をして、古びた服を着ている。
ぞろぞろと部屋に入っていく。
「あなたは?」
ナツキの問いかけも無視してその青年は話をしはじめた。
「遠い昔、およそ1000年くらい前。人々は田を耕し獣を飼って、生活を営んでいた。
そんな時、ある日突然空から化け物が降りてきた。
人間にうつすべはなく絶望状態だった。
だがある時、私は突然不思議な力に目覚めた…。」
達也「もしや、あたなた…!」
「そう、私が悪魔を封印した男"アベル"だ。」
「やっぱり、学校で習った事があるんだ!」
と達也。
「さっきの奴なら針の落とし穴に落としておいた。
こうやって僕が見張っていれば、言い伝え通り勇者以外が辿り着く事はないってことさ。」
「な、なるほど…。」
「それはさておきよく辿り着いてくれた。僕は君達みたいな人を待っていたんだ。
ご褒美にそれぞれに合った力を与えよう。」
一同 「力?」
まず最初にナツキが選ばれ、アベルの所まで進んだ。
アベルは立ち上がり、ナツキの頭にポンと手をのせた。
「ふむ、君は格闘タイプか。
ナツキはポッと頬を赤くする。
アベルは目をつむって1秒、2秒、そして5秒程たつと
「はい、もう終わり。」
「え?全然何も変わって…」
「はい次はそこの緑君。」
呼び名にムッとしながらも、彼は前に進み出た。
「ホゥ、君は剣士タイプっと。」
緑髪も先程と何も変わらず儀式を終え、達也の番がやってきた。
「どれどれ…ムム!?難しいな。ふーむコレ…。」
達也はだんだん不安な気持ちになってくる。
「分かった!きみ魔法使いだね。」
無事に儀式が終わろうとしていた矢先、鮮烈な白光(はっこう)が広がった。
緑髪「なんだ今のは!」
「なるほど、君には大きな力が眠っているようだね。
だがそれを解き放つには同じくらいの力を持つほどのきっかけが必要かもしれない…。」
達也はその言葉の意味がいまいちよく分からなかった。
「あのー、あっしらは…。」
「おっとゴメンゴメン、忘れてた。こっちへおいで。」
二匹とも前へ進む。
「よし、君はこれだ。」
ボンッと小さな煙と共に現れたのは、漫画本だった。
「わーい、あっしが好きな(天使をやっつけろ)の最新刊でげす!」
「はは、良かったな。」
達也は笑う。
アベルははシチの儀式にとりかかる。
「んっ!?おや、君はまだこんな力を持っていたのか。でもどうやら使い方が分かってないらしい。」
シチの儀式もようやく終わった。
達也「あのー、シチに何を?」
「ん?ちょっとばかり元となる種に水をやってあげたのさ。」
「はぁ…。」
「それからナツキ君と緑君、君達には武器をあげるよ。」
ナツキにはヌンチャク、緑髪には剣が渡された。
「でもオレもう2本もってるけど…。」
「いいからいいから。」
剣の絵の部分には赤い球が当てはめられていた。
「さ、僕の力をみんなにやってしまったから、もうじきここは崩れる。
僕の最後の力を使って君達をワープさせよう。」
「崩れるって、あなたは!?」
「僕の体をよく見てごらん、だんだん透けてきてるだろう。僕はとっくに死んでいてこの棺桶の中に本物の死体がある。この体は魂の幻影なのさ。」
天井がミシミシ鳴りはじめている。
一同はアベルの指示で手をつないで、内側を向くように円になり、その真ん中にアベルが立った。
「あ、そうそう。達也に渡すものがあったんだ。」
アベルはスッと達也のポケットに何かを入れた。
「ちぇっ、お前だけズルいっつーの。」
アベルは真っすぐな瞳で達也をみつめる。
その姿はどこかたくましく、威風堂々としていた。
「皆、サタンは強い。心してかかるように。それから達也、自分に勝つんだ。」
「えっ…?」
「例え、この姿が消え失せようとも、魂だけはこの先もずっと砂の下で眠り続けるだろう!」
たちまち疾風が巻き起こり、彼らの体緑色に光りはじめる。
達也が最後にみたもの、それはアベルの透き通った青い目だった。
一瞬何が起こったか分からない内に、5人は暗くなった外に出ていた。
皆、口をつぐんで遠くの崩れ行く遺跡を眺めている。
達也は最後に見たアベルの瞳をまざまざと思い浮かべていた。
━夜空の満月が広漠とした砂漠を見下ろす。
「おじさん、信頼してたのに…。」
歩きながら達也がつぶやいた。
「オレは最初から分かってたぜ。まー、嘘だけど。」
すると突然達也の持っていた杖が砂になっていた杖が崩れだしたではないか。
ナツキのヌンチャクも緑髪の剣も崩れ始める。
「ちっ、使い捨てって訳か。まぁアベルさんからもらった剣があるからいいけど……、あ、お前アベルから何かもらってただろ。」
達也がポケットから取り出すと、それはただの赤い石だった。
「はっ、期待して損したぜ。」
それから達也達は砂漠を超え、森につき、スサノオに町までのせていってもらっていた。
「二度もすみません。」
「はは、気にしないで。」
達也はシャイニングピクシーに囲まれながら戦いの最中に聞こえた謎の声の事を考えていた。
(確かに聞こえた。スーパードラゴンとの最後の決着の時。そういえば水竜のときも聞こえたよな…。)
そんな事を考えながら、達也はうとうと眠っていた。
夜が明け、一同はスサノオに別れをつげた。
「やっとついた。連日歩きっぱなしだったからもう疲れMAX。今日はいい夢が見られそうだぜ。」
だが町につくなり達也達は唖然とする。
なんと、家が崩壊していたのだ。
緑髪「こりゃヒドい…。」
そこら中が瓦礫の山。
達也(誰がやったんだ…。悪魔同士の争いか?)
「ま、そんな事は置いといて今日は疲れましたし今日は寝ましょうぜ、兄貴。」
「そ、そうだな。」
一同は枯れ葉や木の枝を集めて焚き火をすることにした。
ほとばしる炎を円陣をくんで囲む。
「じゃ、私もう寝るね。」
「おう、おやすみ。」
と、達也は返した。
その次にリゲル、シチと順々に眠って行く。
沈黙の中、達也はじっとまっかな炎を見つめている。
炎のパチパチと燃えるたぎる音だけが聞こえてくる。
ふと、緑の髪をした彼が口を開いた。
「オレの名前はピガロ、ピガロって言うんだ。」
「ピガロ?変な名前だなぁ。」
「お前のだってこっちからしたらへんちくりんさ。それよりお前の旅の話を聞かせてくれよ。」
達也は仲間との出会い、ギガントやマリー、水竜から死にものぐるいで逃げた事や、大目玉に丸焼きにされそうになった事を話した。
「オレの父、グレイはルムル王国の軍をまとめる百戦錬磨の将軍として有名だった。王様からも気に入られてて、優しい父親だった。
だがある時化け物どもが王国を襲った。こっちの戦力はまるで歯が立たず、国はあっというまに戦いに追い込まれた。」
「ピガロはどうやって助かったんだ?」
「オレは父と一緒に戦おうとしたが無理矢理に地下室に入れられたんだ。そして約束を交わされた。朝になるまで絶対にここからでるな、と。オレは悔しかったがいいつけを守った。だが朝になってみてみるとどこにも父の姿は無かった。」
2人はそれからも互いの生い立ちからくだらない話まで語りあった。
「はは、それでさぁ…。」
達也が言いかけて止める。
ピガロの背後に不審な影が現れたのだ。
達也「だ、誰だ!」
その姿がたき火の明かりに照らされ、正体が明らかになる。
「やぁやぁ達也君。私だ、サタンだよ。」
「サ、サタンだって!?」
でっかい翼に、黒いムクムクした毛に覆われた者が、ピガロの頭を片手で鷲掴み持ち上げていた。
(まさかこんな所でラスボスに遭遇するとは…。どうすれば!)
「ピ、ピガ、ピガロを放せ!」
「やなこった。お前がおとなしく殺されれば生きて帰してやる!」
突如もう片方の腕が剣の形に変化し、まっすぐ達也めがけて伸びはじめた。
「うわぁー、死にたくない!助けてぇー、ピガロなんでもいいんだー!」
死にものぐるいでサタンの攻撃をかわし、気づくとやぶの中に迷いこんでいた。
「はぁはぁ、逃げちゃった。あそこにはナツキやシチ、リゲルたちもいるのに。」
罪悪感と後悔と恐怖とが一気に渦巻く。
「だって…人間所詮一番は自分がかわいい訳だし…。」
その瞬間、達也の胸がずきずきと疼きはじめ、やがそこから黒くてくねくねした煙のようなものが出て来たのではないか。
「う、うわぁぁ!な、なんだこれ!?」
そしてまたもや激痛が走ると、今度は2つのひんまがった角が胸の中から現れる。
「サタン!」
「俺はいつもお前の中にいるんだぜ。」
(悪魔は、自分の中に……!!)
―「うわぁ!」
達也が目を開けると外はすっかり明るくなっている。
ピガロとナツキが不思議そうな顔で達也を見ていた。
「サッ、サタンはっ! サタンはどこだっ!?」
「何ねぼけたこといってんだ?」
(え?じゃぁ夢…?)
「夢をみたんだ。だけど、どこまでが本当なんだ?
たき火ををして、そして君と話して名前はピガロっていったよな?」
「あぁ、そうさ。その後お前がオレの話の最中に眠りだしのさ。」
「へぇー、あんたピガロっていうんだー。変な名前ね。」
「あのなー…。」
達也とリゲルがいつもの言い合いを笑って見ていたそのときだった。
「あーいたいた。ほらいったろ?こっちの方から人間の臭いがするって。」
「うまそう、うまそう…。」
四方のしげみから次々と悪魔達が姿を現しはじめる。
「あ、兄貴…。」
(ん、なんかあいつの顔見覚えが…!そうだ前テレビで見たプロボクサーだ。)
「皆あの一番がたいがいい奴、テレビ見た事があるんだ、確かヘビー級とか…。とにかく人間かもしれないから殺しちゃダメだ!」
「まぁそれ以前に倒せるかの問題だけどな。ミドル級だかヘビー級だか知らねぇが、アベルからもらったこの力、試させてもらうぜ!」
ピガロは2つの剣を手に走り出した。
それに続いてナツキも飛びかかる。
(そうか、僕たちはアベルさんから力をもらっていたんだった。)
2人のヌンチャクと剣が勢い良く悪魔達に襲いかかる。
「いけ、子分ども!」
親分らしき悪魔がそう言うと、2人の悪魔はいとも簡単に2人の武器をうけとめる。
そしてポイッと2人を投げ飛ばした。
「ナツキ、ピガロ!」
達也も慌てて、右手を突き出す。
(成功…してくれぇ!)
悪魔2人はサッと身構えたが、
「…あれ。」
達也はあっさりふきとばされてしまった。
「グヒヒヒ、兄貴こいつらオレたちがやっちゃっていいですかぃ?」
「好きにしろ。」
子分の悪魔がじりじりと迫りよってくる。
ナツキとピガロの2人は気絶してしまっている。
(ち、ちくしょう!こんなことなら事前に練習しておけばよかった!)
今にも一人の手がナツキ触れようとしている。
(ここまでか!)
その時、激しい突風が吹き荒れた。
達也が見上げるとそこには赤色の大きな鳥がはばたいていた。
「ぎゃー!化け物ー!」
悪魔3人組は一目散に逃げて行く。
達也はポカーンと口を開けていた。
すると一人の男が赤い鳥から飛び降りる。
男はインディアンが身に着けるような民族衣装に身を包んだ格好をしていた。
「お怪我はは無いですか?同士。」
「ど、同士?」
ナツキたちも意識を取り戻し、男が出してくれたおにぎりを食べながら話をきいていた。
「かわいいー。」
ナツキが赤い鳥のくちばしに手を当てた。
「あはは、そいつは私の相棒、フェニックスのレッドだ。」
達也「へぇー、それであなたは…?」
「あぁ、私達はずっとあなた達を探していたのです。」
「私達?」
と達也が聞く。
リゲル、シチ、ピガロはむしゃむしゃとおにぎりをほおばっている。
「僕は達也でー、こいつらがシチにリゲル、ピガロとナツキです。」
「よろしく、達也君と皆。」
「なんで達也の愉快な仲間みたいなんだよ……。」
「はは、すまない、すまない。」
「あぁ、私はここから地の反対側の地、エポロンで暮らしていた。
そこはエポロン砂漠に囲まれた村。みんな自然を愛し、守護神であるフェニックスと共に平和に暮らしていた。だがある日えたいも知れない化け物どもが襲って来た。村人の大半は連れ去られてしまった。
だが、私には最大の武器があった。」
ナツキ「最大の武器?」
「そう、私は遥か昔世界を救ったアベルのたった一人の末裔なんだ。」
皆「ゆ、勇者アベル!?末裔!?」
ピガロとリゲルはおにぎりをふきだす。
「君達、アベル様を知っているのかい?」
「知ってるも何も、悪魔を倒すために砂漠の遺跡の最新部まで行って、アベルさんの魂に直接会ったんです。」
「なんだって! そうか、通りで君達3人から不思議なエネルギーを感じた訳か…。」
そして男はまた話を続けた。
「私は勇者様からもらったその力で化け物どもを追払った。
残った者は50人ほどだったが、ある日偵察兵から情報が届いた。
彼方の地で悪魔が暗殺されたり、人間の姿が目撃されたり反逆者がいる可能性があると。
そしてその反逆者は悪魔と々ブラックローブを着ていたことも分かった。そこで私達もブラックローブを着て悪魔達の撹乱を計った。その反逆者がただ単に悪魔という可能性もあったが、同士がいる方にかけたのだ。」
達也「じゃぁ、あの家の残骸は…。」
「あぁ、私達のと悪魔の戦いでできたものだ。今や悪魔達は私達のせいで警備が厳重になっている。サタンは元人間の悪魔を使っていくつもの部隊をつくった。そしてそれを全国各地にばらまき、さらに桁違いの強さの者を各部隊に一人ずつ幹部として配置しているようだ。」
「ますますややこしくなったわね。」
「それはさておき、君達に会えて良かった。君達2人が黒いローブを着てるの見て確信したよ。申し遅れたが私の名はライアンだ。」
それから少しおしゃべりをして、ライアンと達也達は分かれる事になった。
「あの、ライアンさん。よかったら僕達に一緒に旅をしませんか?」
「誘いはありがたいよ、達也君。でもエポロンの民が私の帰りを待っている。それに、私は基本一匹狼なんだ。」
「そうですか…。」
「それに、やらねばならない事もあるし…。」
と、ライアンが小さな声でつぶやく。
「え?」
「あぁいやぁ、何でもないんだ。」
レッドが大きな羽をつかって、ゆっくり上昇してゆく。
「皆それぞれいいものをもっている。だから一生懸命練習すればすぐにコツを掴めると思うよ。」
「はい!ライアンさんさようならー!レッドも元気でなー!」
レッドはけたたましい鳴き声をあげたかと思うと、さっそうと大空へと羽ばたいていったのだった。
━町の都会を離れ、海の上にぽつんと浮かぶ島。
その上にはひっそりとたたずむ祠がある。
そこめがけて何匹もの羽を生やした物達がとんでいた。
「ぷふぁっ!」
がたいのいい悪魔が岸に手をつく。
「おそいわよ。」
「仕方ねぇだろ、オレはお前と違ってとべねぇんだから毎回およがないといけねぇんだよ。」
体の大きい悪魔は陸に上がり、女悪魔と歩きはじめた。
「にしてもサタンさま、緊急集会って何かしら。」
「あぁ、いつもは二ヶ月に一回くらいだが。」
この二人はギガントとマリー。
過去に達也たちを追い詰めた二人だ。
「お、やってるやってる。」
洞窟内は大勢でざわめきあっている。
「ふむ、だいたいそろったことだ。コレより緊急集会をはじめたいと思う。」
全身鎧のマルクスが、サタンの座るとなりでそう言った。
サタンは両方の翼をたたんで体をつつんでいる。
「なぁマルクスってよぉ、いっつも鎧だよな。」
「えぇ、悪魔族の軍団長を務めその実力は未だ未知数。真の姿を見た物はまだ誰一人としていないという…。」
「皆も知っている通り、未だ黒い服をきた反逆者の乱逆は止まらない。
それどころか悪魔全体が疑心暗鬼に陥り、グループ同士でいがみあう始末。今日はこの状況を打開するするべくこうして集まってもらったのだ。何か案が有るものはあるものは挙手をするように。」
しばしの沈黙。
「まったく何も無いのか!使えない奴らめ、これだからお前達はっ…。」
『バサッ』
という音がマルクスの声をさえぎる。
サタンが翼を広げたのだった。
「私に、いい考えがある…。」
―場所は変わって達也たちはというと…。
「てぇやぁーっ!」
町の中の公園で特訓中であった。
ピガロは剣の稽古、ナツキは正挙突きの素振りをしている。
(もっと、もっと強く…!)
(絶対にこの力をつかいこなしてやるぜ。そして必ず父さん助けてみせる!)
と、それぞれ強く思うナツキとピガロだった。
一方達也はというと。
(ダメだ、全然出来ない。)
アベルさんのいってた大きなきっかけってなんだろう。
達也の焦りは密かに増大していた。
「でもそういえば僕たちこれからどうするんだ?」
「そういえばきめてなかったわね。」
「まぁ、のんびりやろうぜ。」
シチはブランコにのって3人をながめていた。
「なぁシチ、最近兄貴修行で忙しくて遊んでくれないんでげすよ。」
キーコ、キーコ。
シチはいつもと変わらない表情をきめこんでいる。
「あーもう、お前と話してもつまらないでげす。」
「リゲルー、昼飯いいー?」
「あ、もうそんな時間か。」
この時間になると食料をスーパーなどから調達してくるのはリゲルの役目になっていた。
「じゃちょっくらいってくるでげすー。」
(全く人使いあらいなぁ兄貴は。でもこれぐらいしかあっしに出来る事はないでげすからね。)
だれも通る気配がない横断報道をのこのこ渡る。
(ついたついた、ここのスーパーが一番安全なんでげす。)
リゲルはかごに次々とパンやら弁当、ペットボトルにチョコレートなどをすばやく入れていく。
「ふぅー、これで終わりーっと。」
リゲルは外に出た。
「んー、なんかこのまま帰るのもなんかつまらないでげすね…そうだ!」
数分後…。
リゲルは本屋にいた。
「天使をやっつけろの24巻!やっとみられるでげすよー。」
その時ガサッと本の落ちる音。
リゲルが後ろの列を恐る恐るのぞくと、
「あ、お前リゲルだよな?」
そこにはなんとコブラの姿をした悪魔がいたのだった。
「昔よく遊んだよなぁ?おぼえてるか、オレだよヤマタノさ。
お前相変わらず漫画好きなんだな…。」
と、相手が話しているにも関わらずリゲルは一気に走り出した。
(やばいでげす、なんとかまかないと…!)
「おいおい待てよー!」
コブラの悪魔もすぐさま追って来た。
「なにも逃げるこたーねーだろー!まてったらー!」
くねくねと死にものぐるいで角を曲がるリゲル。
向うもしぶとくついてくる。
「ぬおーっ!!」
リゲルはビニールを咥えて、我を忘れて走りまくった。
そして気がついたときには空は赤くっていて、追っ手の姿もいつのまにか見えなくなっていた。
―「何だコレ?」
「ねぇ、今日の食料これだけなの?リゲル」
公園の真ん中でたき火をする達也達。
スーパーのかごの中にはお菓子がちょっと菓子パンが少ししか入ってなかった。
「あは、あはは、途中でこぼしちゃったみたいでげすね。」
「そのくせ好きな漫画だけは買ってきやがって。」
「あは、あはは…。」
そうして夜は明けっていった…。
―ここは遠い彼方の地。
一人の男が険しい山道をのぼっていた。
「ふぅ、やっとついたな。」
山の頂上には井戸があった。
ライアンはリュックからペットボトルを取り出した。
「これがこの水があればこちらの勝算はグッと上がる!」
ライアンは力強く握りこぶしつくってみせた。
それは突然だった。
いつもと変わらない朝。
いつもと変わらない仲間達。
毎日公園で特訓をしようとしていると、
バサッ、と静かな音をたてて何者かが着地した。
振り返るとそこには悪魔がいたのだった。
「げへへ、やっとみつけたぞ…。」
「でやーっ!」
ピガロがきりかかるも、翼の攻撃だけでふっとんでしまった。
「まぁ、そんなカッカすんなって。なにもお前らを殺しに来た訳じゃねぇんだ。」
「なにっ!?」
「いいだろう、特別に教えてやろう。オレの名はアバドン。オレはお前らをサタン様の元へ連れて行くためにきた。」
アバドンはゆっくりと語りだす。
「あれはこの間ひらかれた緊急集会の時だ。」
―「私にいい考えがある。確か一番最初にひがいにあった大目玉のキュクプロスにはいがみ合っていた悪魔がいましたね。」
「はっ、確かあいつ仲が悪かったのはアバドンでしたな。」
「そうです。しかもそのアバドンには常に黒服を着る癖がありましたね。
洞窟内が一気にどよめきだす。
「ちょっと待ってください!オレにはちゃんとしたアリバイがっ…。」
アバドンがおさえきれずに立ち上がる。
「だまれ!」
アバドンはサタンにこちらへ来るよういわれて、中央のサタンのイスの前にひざまずいた。
「いいです、一週間あげましょう。そのあいだあなが黒服の犯人の首をここへもってくるのです。おっと、生かして連れてくるのですよ。
それができなければこの件はあなたが犯人という事で解決です。」
「そんなっ…。」
「いつまでもこの問題をひきづる分けにはいきませんからね。
―「ということだ。ホント苦労したぜ、お前さがすの。」
(やばい、このままじゃ本当にサタンのもとへ…。こういうときにライアンさんが来てくれれば…。)
「さ、悪あがきしても無駄な事は自分でも分かってるだろう?おとなしくするのが利口だぜ。」
にたにたとニヒルな笑みを浮かべて、一歩ずつ近づいてくる。
そして…!
アバドンが一気にこちらめがけてダッシュしてきた!
「うおーっ!」
「何っ!?」
(その時、自分でも何をやってるか分からなかった。
ただ無心に守らないという思いだけがあった。)
「達也!」
達也がアバドンに向かって突撃した瞬間、達也の体がまばゆい光を放ちはじめた!
「こいつ何をっ!?」
そして白い閃光が当たりをのみこんだ。
しだいに戻ってゆく視界。
ナツキの瞳には一体の悪魔の姿をだけがあった。
「た、達也…?」
「はやく…、逃げて、くれ。」
「え?」
「はやく逃げろっつってんだ!ピガロ連れてリゲルシチと遠くに逃げてくれー!」
ナツキは動揺しつつ気を失ったピガロを背負って、リゲル達と走って行った。
「このやろ、クソ!小僧何を!ま、まさか!このオレと合体しやがったのか!?」
一体の悪魔は苦しそうにもがいている。
そして、
「ぬおぉぉぉぉー!」
と唸り声をあげたかと思うと爆風が舞いおこった。
「ふぅ、おどろかせやがってチクショウが!さぁて、逃げた奴らを捜しに行くとするか…。」
アバドン?はまたたくまに青空へとはばたいていく。
果たして達也は…?
━闇に覆われた森。
蛇が地を這い、オオカミのとおぼえが木霊する。
そしてオオカミよりもおぞましい、けたたましい叫び声が響き渡った。
その者はがけの上に立って、黒い毛に二枚の翼、だが顔は達也のもの、それだった。
「どうするのよ。」
「しるかよ、何でオレに聞くんだよ。」
ここは森の中。
ナツキ、ピガロと二匹は、たき火をしてなにやら話している。
「昨日はライアンさんが助けてくれたから良かったけど、次はどうなるか…。」
「これはもう戦うしかねぇ。」
達也と一行がはぐれてから一ヵ月以上が経とうとしてた。
「戦う!?あれは達也でもあるのよ?」
「あぁそうだ、あいつには悪いが…。」
その時リゲルがピガロにとびかかった。
「兄貴と戦うなんて許さないでげす!」
「てめっ…この!」
ピガロはリゲルを木になげつけた。
「リゲルちゃん!」
「チッ、このクソヘビが!で、じゃあどうするのが一番いいか決めようじゃねぇか。」
ナツキ達は長い間あれだこれだと話し合った。
そして出た答えは
「じゃあ達也を倒さずに、サタンを倒すってことでokね?」
「そういうことだ。」
と、その時だった!
「お取り込み中悪かったかな?」
ピガロが背後に気配を感じ取り、咄嗟に剣を抜こうとするがアバドンの素早いみねうちが決まった。
ナツキがリゲルとシチをかばう。
(ライアンさんこないかな。あぁもうダメだ!)
アバドンの足下が動いたかと思った瞬間にはナツキは気絶していた。
―「ん、ここは…。」
ナツキはぼやつく視界の中で目をあけた。
どうやら自分たちは洞窟の中にいて、ピガロ達と一緒に縄で縛られている事が瞬時に理解出来た。
洞窟の中はたくさん異形の悪魔達で溢れかえっていった。
「ほら、起きなさい。」
ナツキは小声で背中側にいるるピガロに話しかけた。
「んっ、ここは!」
「どうやらサタンのアジトのようよ。」
「なんだと。」
(あれがサタン…。)
漆黒の黒い毛に身をつつみ、ねじれた二本の角、翼は背中におりたたんでいるその姿をみて、ナツキは改めてそう悟った。
サタン「よくまにあったな。」
「へぇ、ほんとにてこずりましたよ。」
とアバドンはひざますいて言った。
「ところでそのお顔は?」
「実はこうしてこうでして…。」
「ほうそれは実に興味深い。ま、悪魔を何匹も倒すグループのリーダーなら不思議な力を持っていてもおかしくはないが。」
サタンがゆっくりナツキたいの方へ近づく。
「お前たちに、少しばかり質問がある。死ぬ前に教えてくれないか?」
サタンの問いかけにナツキは舌をつきだし、あっかんべーをきめこんだ。
「フン、行儀がなっておらんな。実はさっきからあなた達から不思議な力、いえ力というより臭いを感じる。似てるんだ、そう、以前私達を封印した忌々しい男、アベルの臭いになぁ!」
「知らなねぇでげす、そんなやつ!」
「おやあなたどこかで…。そうでしたか、集会にもこないと思っていたらまさか人間側に寝返っていたとは。そこのチビもどこかでみたような気もしますが…。まぁいいでしょう、こいつらに百地獄の準備をして下さい、マルクス!」
「はっ!」
「皆のもの、今日は宴だ!宴の準備をしろ!」
サタンはご機嫌な調子で言った。
聞こえる、ナツキとピガロの声が。
ここはどこだ?そうかアバドンとか言う奴と合体したのか。
くそ、くるしい。息が苦しい!
ここから出るにはどうすれば!
くそ動け!動け!
勝つんだ、自分の中の悪魔に!
と四人が縄をほどこうとあがいていると、
『ブシュ』
ナツキはまのあたりにしていた。
サタンの腹をえぐって一本の腕が貫通しているところを!
洞窟の中が一気に静まり返った。
「ん?こ、これは……!」
「サ、サタン様、違うんです。オレ、体が勝手に…!」
なんとサタンを攻撃したのはアバドンだった。
「おのれアバドン!どうなるかわかって…。」
その瞬間、アバドンは苦しそうにうめきだす。
アバドンを突き刺していた手を引き抜く。
「ぐぬおぉぉぉおぉー…!」
そしてなんと体が金色に輝きだした。
皆の視界が戻りだす。
そこにはなんと元の達也の姿があった。
「なんだ?お前はっ!」
「オレは、俺だ!」
洞窟内の悪魔達が一気に沸き上がる。
「うおーっ、あいつがサタン様をやったぞー!」
「うおーっ!」
すると、
「静まれ!」
とサタンが言い放つ。
「ふはは、おもしろい!気に入ったぞ、私の城に直々に招待してやろう。そこで人類VS悪魔の最後の戦いとしゃれこもう。待っておるぞ!」
サタンは翼を広げて、空高くと舞い上がった。
「いくぞ、皆の衆!」
というとたちまち悪魔達を竜巻が取り囲んだ。
「地下牢の人間どもも全員ワープさせてやる!」
「崩れるっ!」
達也は迅速な動きでナツキ達をかついで、そして気付くと中に浮いていた。
落ちてくる瓦礫をよけつつ、洞窟を抜け岸に四人をおろす。
「た、達也よね?」
「あぁ、そうさ。」
達也は四人の縄をほどいてあげた。
「兄貴ー!」
リゲルとシチが嬉しそうとびつく。
「お前に追いかけられてこっちは散々だったんだからな!?」
ピガロがつかみかかる。
「ごめん、あとで詳しく話すよ。」
「にしてもあんた空を飛んでたわよね?」
「うん、多分…。」
「兄貴、こいつ兄貴が悪魔になっているとき兄貴を殺そうとしてたでげすよ。」
「てめっこの。」
洞窟はすっかり崩れていて、悪魔達の姿はどこにもない。
海では、オレンジ色の影が切なく伸びだしていた。
━「達也、起きてみろよ!」
眠気まなこで達也は朝を迎えた。
達也とピガロは崖の上から景色を眺めた。
地平線の向うで、うっすら赤い線が空を貫いている。
それだけじゃない、世界そのものが変わっていた。今まであった民家、店などどこにもなく、まるで映画にでてくる悪魔世界にかわっていた。
空も暗雲で満ちている。
「もしかして、サタンの城じゃないだろうか。」
「あ?」
「あいつ、城でまってるっていってた。アレは僕たちへの挑戦状じゃないのか?」
ナツキのご飯できたよー、という声がする。
―5人はおかゆを食べながら話をしていた。
「つまり、あの時は僕に不思議な力がはたいて、よく分からないけどまぁ合体しちゃったみたいなんだ。その時、僕は自分の意識をやつの体の中で無意識にわずかに自分の力で守っていたんだよ。」
「まぁ、よく分からんが。」
「それで僕はやつにのったられながらもナツキたちをわざと連れて行かせて、サタンに接近できる時を待ってたって訳さ。」
「なるほどー、さすが兄貴!」
「にしてもお前もう力使えるようになったのか?」
「あぁ、なんかあの事件があってからね。でもまだまだかな。ってことでみんなでこれから修行しないか?」
「修行?」
「うん、これからは戦いも激しくなるし、なにせ僕は力をコントロールするまでには至っていない。最後の冒険の前にさ。特に何もないだろ?予定は。」
「そうだけど…。」
「いいな、それ!よしそうしようぜ!」
一行は朝食を済ませ、まずは修行場所を探す事にした。
すると、突然激しい風が吹き荒れた。
「あれはっ!」
見覚えのある赤い鳥がはばたいていた。
「レッドだ!」
と達也がいった。
「久しぶりだね、皆。はっ、達也君じゃないかな!どうして…。」
「はい、立ち話もなんなんで。」
一同は公園のベンチで話をしていた。
リゲルはシチはまたライアンのおにぎりを食べている。
「やっぱライアンさんのつくったおにぎりはおいしいでげすよ。」
達也は今までの事情をライアンに話した。
「そうか、そんな事が…。」
「僕はみんなを襲ってた時、ライアンさんが助けてくれたみたいで、ありがとうございました。」
「いいんだよ、ところで君達はこれからどうするつもりかな?」
「僕らはこれからいい場所をみつけて、最後の戦いに修行をしたいと思います。」
「そうか、じゃぁ僕たちはサタンの城に先にいって作戦をねっておくよ。いずれはそこでおちあおう。でもその前に…。」
「その前に…?」
「私と手合わせしてくれないか、達也君。」
━一行は場所を変えて、離れた所にある孤島にきていた。
「いいんですね、ライアンさん。」
「あぁ、加減はいらんよ。」
離れた所からピガロ達が観戦している。
「どっちが勝つでげすかね。」
「そりゃぁライアンさんにきまってんだろ。」
達也が先手をきって駆け出した。
達也の手を包むようにして、青色のエネルギー物質のようなものがゆらめく。
(この力は!すごい!!何か力がぐんぐん湧いてくるようだ。)
達也は自分でも己の力に驚く。
それが次第に大きくなってライアンめがけて放たれた。
ライアンは身動きせず片手でそれをはじく。
そして、弧を描くような空を切る刃を無数に繰り出す。
かろうじでそれをよける達也。
休むまもなくライアンが弓を打つ構えをとると、光り輝く矢が放たれた。
矢は達也の頬をかすめた。
(つ、つよい!さすがライアンさんだ!)
達也は戦いを楽しんでいた。
心の底で本気で戦いを戦いを楽しんでいた。
「何か変わったなぁ。達也って。」
「あぁ?そうか?」
「だってはじめて一緒に旅してた時なんか、超がつくほどの臆病だったのに。今ではなんかたくましくなったし。」
「へーへー、そうかいそうかい。」
いじけぎみにピガロがいった。
達也も負けじと球状のエネルギーのかたまりを矢次はやに放出した。
ライアンは一つも逃さず一つ一つはじいてくる。
いよいよ今まで一歩も動かなかったライアンが動き出し、。
すーっと大きく息を吸い込むと、手の先から神秘的なエネルギーで出来た剣をつくりだした。
「よーっし、こっちだって!」
達也もみようみまねで、両手で光る剣を2つくりだした。
2人の剣が踊るようにぶつかりあう。
ライアンは、てなれた手つきで、達也はかろやかなみのこなしで剣をさばきあう。
「見事なものだよ、達也君。君はどうやら魔法が得意な戦士タイプなようだね。でも、すきも無駄も多い!」
剣を大きくふると、達也ごと剣をはじきとばす。
達也は尻餅をついて、不思議な力で出来た剣は消え去ってしまった。
「君かこれからもっと伸びる。そしてもっともっと強くなってサタンを倒してくれ!」
「サタンを…。」
達也の心に絶対に勝って、地球を救ってやるという思いがこみあげた。
(母さん、父さん待っててね。僕が必ずこの世界をとりもどすから!)
いよいよ、達也の血みどろの修行がはじまろうとしていた!
ここは、サタンの城。
怪しげな緑色の溶液がはいった、治療カプセルにサタンは入っていた。
("フフフ、人間ふぜいが。面白い。待っていろよ、達也!")
一方、ここ人里離れた孤島で、激しい戦いが繰り広げられいた。
「うおーっ!」
ボロボロになった服をきて、髪をひげも長くなったこの少年はピガロ。
達也も同じくらい汚らしい格好をしている。
あの日から3ヶ月もの月日が流れた。
食事はいつも大木や落ち葉で作った小屋でリゲルが準備してくれいていて、島の果物や、釣れた魚などを使って料理していた。
シチはそのお手伝い。
今日はいよいよ最終日であった。
「必殺、俊速剣!」
「何っ……!?」
ピガロのまわりに剣の分身がいくつもあらわれる。
そばにある木や枝が次々と切られていく。
達也は両手勢いよくつきだす。
すると、達也が放った魔法の力でピガロは投げ飛ばされてしまった。
「くっそ~、魔法使いは卑怯だぜ。」
達也はライアンさんとの勝負のあと、もらったアドバイスを今一度思い返していた。
≪全集中力を静かに高め、邪念をはらい、魔力を用いて、物質、エネルギー、精神力をコントロールするんだ。≫
(全集中力を……、邪念を払う…。)
2人はそろそろ日も暮れたから終わろうということになった。
「それにしてもお前強くなったよなー。」
「ピガロだって。俺は必殺技なんてもってないもん。」
「へへ、オレ実はこの3ヶ月間に、三つも必殺技考えたんだぜ。」
と、くっちゃべっている間に小屋につく。
ナツキは一足はやく修行を終えもどっていた。
「今日はもお疲れさまでげす、兄貴。」
今日のメニューは、ジャガイモのスープに海藻サラダだった。
「お、オレ様の好きなカレーか。昔父さんと一緒に食べたな、へへ。」
「うーん、シチの好きなシチューも食べさせたかったなぁ…。」
それからも達也たちの修行は続き、そしてついに、
「やったぁ!ねぇピガロ!!俺っと力をコントロールできるようになったんだ!」
達也は度重なる修練の結果、空を自由に飛ぶ、エネルギー物質の操作、バリアの生成、手をかざした場所をピンポイントで爆破する、などの能力を会得していた。
「二人とも―、ご飯できたわよー。」
ナツキの声が2人を呼んだ。
「げ、今日も海藻サラダにじゃがいもスープと微妙な味のする果物かぁ……。」
「文句いわないの。ささ、食べた食べた!」
達也たちは、いつものように夕飯を食べていた。
「ナツキもちったぁ強くなったかぁ?」
「あんたねぇ…。」
「静かに!」
達也が叫んだ。
「どうしたのよ急に…。」
「分かるんだ、いる!きてる!」
「おいおい何がだよ。」
「悪魔、悪魔がこの島にきてる!」
━3人は、暗闇のしげみに身を潜めていた。
「フン、最終日は本物で練習ってか?」
しーっと達也が口を覆い隠す。
「人間の臭いがするっていうからきてみたはいいが…。」
「ちっともいねぇじゃねぇか!」
(雑魚が5匹。いやまて、一匹だけ強い力を感じる!)
「ナツキとピガロで二匹づつ頼む。僕が一番強い奴をしとめる。」
と小声で言う。
「なんだと?」
「じゃぁいくぞっ。」
「ちっ、調子にのりやがって。」
3人はそれぞれ別の方向に散らばって行った。
かまきりのような姿の悪魔がくんくんと臭いをかいでいる。
「フフフ、オレ様の目はどんなに暗くても何でも見えるんだぜー。」
「てやっ!」
ナツキの回し蹴りが首にクリーンヒットした。
「どーだ、カマやろう!」
一方ピガロはというと。
「くそっ、こいつ。透明になりやがる。」
「グへヘー、この状況で透明になれるオレ様が百倍有利だぜ!」
(落ち着け、オレはこの3ヶ月間死ぬほどきつい修行を達也とやってきたんだ!精神を研ぎ澄ますんだ。)
「どうしたー?剣を持つ手が震えてるぜー?ママのおっぱいがこいいしかー、えー?」
「そこだ!」
ピガロのなげたレイピアが空を切り裂く。
レイピアがある所でピタッととまった。
「ぐへ!」
悪魔はバタッと地べたに倒れた。
「フン、ざまーみろ!」
ピガロは悪魔の腹に蹴りを一発おみまいした。
―「フフフ、オレ相手に一人で挑むつもりか?お仲間は要らんのかな?」
その悪魔は全身綿雲で形成されていた。
「フフフ、オレの体をみておどろいてるのだな?おれの名はクラウド。クラウドマンとよばれている。」
「どうした、こわくてなんもできんか?おい、聞いてるのか…。」
「たいしたことなさそうだな。」
次の瞬間、達也はもう元の位置はにはいなかった。
「なにっ、はやい!」
「ここだ!」
達也の背後からの強烈なパンチが腹を貫通した。
「いてーちくしょー…なんてな。」
「なにっ。」
「おれは無敵なんだよー!」
クラウドマンの体は煙のように化し、もくもくと手をすりぬけて移動していく。
「普通に攻撃しても無駄ということか。」
達也は魔法によるエネルギー波のようなものをめった打ちした。
「ぬおーっ!」
全てクラウドマンの体をすりぬけていく。
「フハハ、無駄というのが分からんのか。今度はこっちからだ!」
いくつにも分かれていた体がヘビのようにつながってゆく。
そして…
「ぐわーっ!」
達也の体を締め付け始めたではないか!
「どうだー!えー?」
「なんてね!」
達也の周りから紅蓮の炎がまきおこりはじめる。
「およせよせっ、許してくれ!」
「普通の攻撃が無駄なら、焼き尽くすまでだ!」
―「達也ー!」
2人がやってきたときには、クラウドマンは灰とかしていた。
「大丈夫か?」
とピガロ。
「うん、楽勝だったよ。」
「じゃ、弱かったんだな。」
「いや、僕が強すぎたらしい。」
「え?」
その夜、3人は明日から再びはじまる旅に様々な思いを抱きながら眠りについた。
━孤島を離れてどれ程たったろうか。
3人の戦闘スキルは厳しい修行により、前とは比べ物にならないほどに向上していた。
ある時は雨降る山の中を、川をまたぎ、つらい坂道を超えた。
そして今は海を船で渡っている最中であった。
「ナツキとはじめて出会った頃が懐かしいなー。そっか、ピガロしらないんだっけ。」
「ふっ、くだらん。」
波も時間もゆっくりと過ぎてゆく。
小さな大きな波が、どんどんと船をおきざりにしていった。
達也にはこの時間とてもいとおしいく感じた。
そろそろ眠気がさしてきた、という時だった。
ザバアァ!
達也達はたっぷりと水しぶきをくらった。
「がアァァ、待っていたぞこの時を!今度こそまるのみにしてやる!」
「あ、君いつかの水竜じゃないか。」
水竜が勢い余って食いかかろうとすると、
「なぁ、コイツだれなんだ?」
「あぁこいつは…。」
「ダァー、なめやがってー!」
今度こそと水竜が飛びかかると達也は軽めに水竜の腹にみぞうちをくらわした。
「ぐ、ぐおー…。」
「ね、僕強くなったからやめといた方がいいよ。」
「はい、人違いだったみたいです…。」
水竜はのそのそと去って行った。
「ふー、武術の方も鍛えておいて良かったよ。」
「どうやらお前の力は魔法によるものだけじゃないようだな。」
「え?」
「つまりはだな、魔法と近接格闘もこなせる両用型の戦士ってことだ。」
夕方までには岸についた。
その夜は森の中でたき火をして明かすことになった。
「じゃ、私寝るね。」
他の皆はすでにもう寝ていて、ピガロと達也だけが話していた。
そしてそのピガロもももう眠りに入った。
達也は一人で色んな事を考えていた。
たき火をみつめながら。
母さん父さんの事、学校の事、これからの事。
まさか普通の小学生だった僕が、世界を救うためにサタンと戦うはめになるとは。
勝てるのか?勝てるかな。どうしよう。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。
そういやぁ、リゲルやシチはサタンを倒したらどこに行っちゃうんだろう。
上の世界に帰るのか?いや、下か?
そんな事を考えると自然に涙が出そうになった。
クソもうよそう、考え事は。
ちろちろ燃えるたき火で、視界が蜃気楼のようにゆらめいている。
ふと寝てるナツキに目がいく。
光に照らし出された寝顔は安らか。
いつもしているへそ出しルックが彼女のチャームポイントである。
やがて何秒もおへそに見入っている自分にハッとなる。
何を考えているんだ僕は。
よしもう寝よう、と思って達也は眠っていったのだった。
━旅は続く。
「ねぇ、あとどれくらいかな。あの赤い線まで。」
「だいぶ近くなってきたしもうすぐじゃないかな。」
その日もずっと歩きっぱなし。
いままで横断歩道やらデパートやらがあった所なんかも全て悪魔の世界に変わっていた。
空は黒く染まって、全てが世界の終わりをしらしているかのようである。
「まるで地獄を歩いてるみたいだぜ。」
と、ピガロが吐きすてた。
でも懐かしいなぁ。こうして歩いてると、おじさんと雨の中森を歩いたり、砂漠や大蛇がでる恐ろしい森の中を歩いた事が昨日のようみたいだ。」
時刻はすでに夜更け。
途中から雨がふりはじめたので、雨宿りができるところで眠る事にした。
「おい達也、俺のレイピアしらないか?」
「ん、知らないけど…。」
ピガロは雨の中、達也にこっちにこいとうながした。
他の皆も何事だと起きだした。
「この野郎っ!」
するといきなりピガロが達也をぶん殴った。
「なにすんだっ。」
達也も思わずやり返す。
「このやろう!」
「なにクソっ。」
ずぶぬれになりながらなぐりあう2人。
「とめないとでげすよ!」
「だめよリゲルちゃん、男の子はああやってなぐりあう時が必要なのよ。」
篠突く大雨。
こけながらも、滑りながらも続く乱闘。
「僕は何も知らないんだったら!」
「だまれ!」
ピガロきつい一撃が腹に直撃。
「お互い葛藤して、悩んでそのそのためこんだ今こうやって発散しあってるのかもね。きっとそれが必要なんでしょ。」
「ちくしょう…。」
といってさきに戻って来たのはピガロ。
達也は痛みで腹を抱えたまま四つん這いになっている。
そして、そのまま朝がきた。
結局ピガロのレイピアは彼の布団の下敷きになっていたということで解決した。
達也はアレからその格好のまま寝ていたようである。
そしてそれから何日も歩き続けた。
ある日の事だった。
「もうヘトヘトでゲス…。」
「シチ、大丈夫か?」
と時々達也がこうしてシチに気を使う。
「あ、あれ!」
ナツキが指を指したものは、
「レッドだ!」
レッドが着陸すると同時に疾風が舞う。
なにやらレッドがくわえているので達也がとってみる。
「手紙だ!」
「よんでみろ。」
『やぁ皆、元気かな?これを呼んでいるという事は、レッドが無事に着いたという事だね。
私達はもうとっくについて今作戦をねっているところだ。
用件はただ、レッド達に乗ってくればもっとはやく着くということだ。それではよい空の旅を。』
「レッド達、って何でゲスかねぇ。」
「わぁ!」
ナツキが感嘆したその理由は、フェニックスの群れがこっちへ向かって大空を飛んでいたからである。
―「アニキー、こわいでゲスーよ!」
「フーー!」
リゲルとシチはナツキと一緒に、皆が乗っているのは合計で3匹だけで、その周りを大勢のフェニックス達が飛びかっていた。
達也はただただこの、自分が空になって行くような感覚に身をまかせた。
(ふぅ、これで空も快晴だったら最高なんだけどな。ふぅ、気持ちいな、レッドの背中…。)
「…つや!達也、起きろ!」
「ん…?」
達也はいつのまにかレッドの背中で寝ていたようである。
「あ、あれは…!」
達也は目ん玉をカッと開いた。
「見えたぞ!サタンの城が!」
━「お久しぶりです、ライアンさん。」
「やぁ、まっていたよ。空の旅はどうだったかな?」
「はい!最高でしたよ。」
ライアン達一族は城から離れた所にある森の中に、テントを開いていた。
「戦いは明日の朝。今夜作戦を説明する。達也君達は疲れただろうし夜まで一休みするといいよ。」
達也達はテントに案内され、今までの溜め込んだ疲れと共に眠りこけた。
そして夜。
エポロンの民達はキャンプファイヤーをし、円陣を組んでそれを囲む。
達也達はエポロンの民にひとりづつ自己紹介をした。
「以上で作戦の説明を終わる。まぁ簡単にいえば私達が道を開くからその間に達也達が城に入るという事だ。」
「最初に言っていた秘密の作戦って何なんですか?」
「それは明日のお楽しみさ。」
説明も終わり、就寝の時がやってきた。
一つのテントに5人並んでよこになる。
「おやすみ、皆。」
そういって達也は静かに目を閉じた。
数分後。
達也はいつまでたっても眠れないので隣をのぞきこむ。
そこにはいるはずのナツキの姿が無かった。
達也はコッソリテントを抜け出す。
「眠れないのかい?」
「満月がきれいね。」
「僕らがはじめて会った日の夜みたいだ。覚えてる?」
2人はしばらく黙りこくる。
「ナツキ、僕は、僕は怖いんだ。」
「あら、まだ臆病癖は直ってなかったの?」
「当然さ、いくらたくましくなったとしても怖いものは怖いんだ。」
「みんなそれは同じよ。でもあんたは強くなった。だから自信をもって戦えばいいのよ。」
そういってナツキはさっていったのだった。
天気は上々、なわけはなく、ぎすぎすとしたまっくろな雲に満ちている。
城の背中では雷鳴がとどろく。
そんな中、悪魔軍団と人間達が対峙する。
達也達3人は一番後ろの方に立っていた。
城の前には既に数えきれないほどの悪魔達が列をつくっていた。
すると、相手の将軍らしき者が先陣をきってこう言い放った。
「いいぞ、いつでもかかってこい。攻めてくるタイミングを選ばせてやるのはハンデだ。ありがたく思えよ。」
「緊張するな…。」
と達也。
全員が息をのむ中、ついにライアン剣をふりかざした。
「勝利は我らの手の中にー!」
「おぉー!」
いよいよいっせいに互いの群れが動き出した。
「いってくれレッド!」
ライアンが叫んだ。
レッドがバサバサと大空を舞いはじめる。
なにやらレッドは足で桶のような物を掴んでいた。
レッドを桶を悪魔達の真下に落下させたではないか。
すると、きらきら煌めく水が悪魔達めがけて降り注いだ。
「なんだこりゃぁ?」
「おい!かまうないけー…!」
とその時、一匹の悪魔が暴れだす。
「ぐおぉー!」
みるみる内に体は小さくなっていき、その場に倒れた。体を覆っていた黒い体毛は無くなっている。
それから次から次へと倒れて行く人だかり。
「いったいどうなっているんだ!」
悪魔軍団で一番強そうな者がさけんだ。
レッドにつづいて他のフェニックス達も飛びはじめる。
「鳥だ、鳥をうちおとせー!」
無数の弓矢が上空に放たれた。
「そうはさせんぞっ!」
ライアンが空に向けて手を握りしめるとそれは失速して地に落ちて行った。
「そうか、やつがあっちのリーダーという訳か…。」
悪魔側の将軍はそうささやく。
それからも謎の水の雨がフェニックス達によって降り注がれ、悪魔軍の大半がもとの人間の姿で丸裸で倒れていた。
「なんということだ、あんなにいた悪魔達がたったの50人人ほどになってしまった。」
と、将軍とおぼしきものが言った。
「やったぞ、大成功だ!」
と歓喜の声を達也があげる。
(フフフ、悪魔達の奴おどろいているな。それは聖なる水といって、浴びると邪悪な力を浄化するがあるんだ。苦労して山までくみに行った甲斐があったってもんだ。)
とライアンは心の中でそうつぶやく。
「足をとめるなー!」
再び悪魔の群れが動き出した。
ライアンがピューッと指笛をふくと、待機して残っていたフェニックス達が飛んで行く。
お次は炎をまとった石が落とされる。
「ぐわぁーっ!」
どんどんと押しつぶされて行く悪魔達。
だが将軍だけは軽々とよけ、衝突する石は簡単に薙ぎ払われていた。
「達也君達、今だ、今しかない。やつらはあれくらいで死にゃぁしない。あいつは私が食い止める!」
「分かりました!」
3人は走り始める。
「ほうあいつらはアバドンの時の…。今のうちに城に入ろうという作戦だろうがそうはさせんぞ!」
将軍の手のひらから光線が放たれた。
達也「まずい!」
ビームは何者かによてはじかれた。
「ライアンさん、ありがとうございます!」
「はやく、急いでくれ!」
「私の攻撃を方ではじくとはな…私の名はベリアルだ。」
そして達也達が城に到着する。
「いよいよ…。」
と達也。
「小便もらすなよ。」
達也は扉を開けた。
3人が入ると、不気味な音をたててドアが勝手に閉まる。
「なんだ…アレ。」
目の前を見ると3つに分かれていた。
"ゴロンッ"
低くて大きい音がして、3人が恐る恐る後ろをのぞいた。
「にげろー!」
なんと巨大な石ころが天井から落とされたのである。
死にものぐるいでダッシュする3人。
「この展開前にもあったぞ!」
3人は気付かぬ間に分かれ道に一人ずつ散って行った。
「なんだコレ、あかねぇぞ!」
3人が入った途端鉄格子が下りて来た。
「ピガロ、ナツキ、きこえるか!」
「うん!」
「でかい声だすな、聞こえてる。」
「そっちはどう、何か見える?」
「何も見えん、まっくらだ。」
「僕もだ。とりあえずこのまま進んで行こうと思う。最終的にはサタン部屋に通じているはずだから必ず合流しよう!」
こうして達也達3人はそれぞれ別々に行動することになった。
しばらく歩くと道の壁にランプ取り付けられていて、明るくなってくる。
ピガロは通路から一つの小部屋に辿り着いた。
すると…
「ピガロっ。」
「お、お前…。」
なんとナツキと合流したのだった。
「案外はやく会えたわね。達也もそのうちくるかしら。」
「いや、この部屋に通じている道は2つだけみたいだしそれは…。」
2人は一瞬目と目をあわせて、それからある一つの扉をみつめた。
「さぁ、いったいこの向う何がまっているか楽しみだぜ…。」
ピガロは手をふるわせながらも扉を開ける。
「やぁやぁ、いらっしゃい。まっていたぞ。」
そこにはえらくがたいのいい奴と女の悪魔がいたのだった。
一方、達也は。
「お、明るくなって来たぞ。」
「こんにちわ、達也君。」
どこからともなく声がする。
「その声はサタンか…。」
「ご名答、用件はというと今からあるゲームをしようと思うのだよ。ルールは簡単、これからある悪魔と戦ってもらう。ちなみにそいつに勝てないと私のところまでこれない。ま、戦う前に死んでは意味が無いがな。」
「なにっ!?どういう意味だ!」
「ほら天井をごらん。もうとっくにゲームは始まってるんだよ、達也君。」
ハッとなって達也は上を見上げる。
みると今にも天井が達也を押しつぶそう迫って来ていた!
サタンはなおも会話を続けた。
「お前とお前の仲間達と、さてどっちがここにつくのがはやいのかな?ククク、楽しみだ。」
なんとかぺっちゃんこにされるをまぬがれた達也。
「さぁて、どんな奴が待ってる事やら。」
息もつく間もなく次のフロアへのドアを開けてゆく。
部屋の中央には何者かがマントを羽織って立っていた。
「だれだ、貴様!」
「フッフッフッ、まっていたぞ。我が名はマルクス!お前は今日ここでこの私によって殺されるのだ!」
マルクスはマントをぬぎ捨てた。
マルクスの体は鉄の鎧で覆われている。
(こいつが噂のマルクスか…。ライアンさんに聞かされていたが、コイツかなりできるとみた……。)
マルクスしなやかに鞘から剣を取り出した。
「さぁ、どうした。どっからでもいいぞ。」
「ていっ!」
達也は両手をマルクスの方に向けた。
その頃、地上では悪魔達と人間達が血で血を洗う戦いを繰り広げていた。
悪魔達は悪魔の馬に乗って疾駆する。
空では悪魔化したフェニックスと赤いフェニックス達が空中戦を繰り広げていた。
そして悪魔将軍ベリアルとライアンもまた激しく戦っていた。
ベリアルの大剣をかろうじて避けるライアン。
「一つ聞きたい事があるんだが、あの水はなんなんだ?」
「ふ、いいだろう。あれは聖なる水といって悪い力を浄化する力があるのさ。だから元々悪魔のお前ら以外は全員人間に戻ったという訳だ。」
「おのれ、いきなマネをしやがって!」
―「あら、あんたみた顔ね。」
「あ!前に私達をおっかけたっ…!」
ピガロとナツキを待ち構えていたのはギガントとマリーの2人だった。
「もう一人のガキはいねぇみたいだが…はじめるとするか。オレたちをやっつけないとサタン様の元へはいけねぇからな。」
「けっ、さっさと片付けるか。」
ピガロはアベルからもらっていたレイピアを振りかざし、ギガントに切りかかっていった。
そしてナツキも女の方に飛びかかるが、
「ズシッ。」
と重たい音がしたのはギガントの巨大なこんぼうが、通るのを邪魔したからだった。
「おっとお嬢ちゃんの相手はオレだぜ。」
「えっ!?」
再びこんぼうふりまわしてきたので2人は後退する。
マリーはただにんまりしてこっちをじっと見つめているだけである。
(あのでくのぼう一体何を考えてやがる…。2人で戦えばいいものを。まぁいい、こっちにとっちゃ好都合だぜ。)
「いくぞ、ナツキ!」
―そのころ、シチ達はというと。
テントの外からは生々しい音が聞こえてくる。
「アニキ達は大丈夫かな…。」
するとその時、
シチはあるものを手に持っていた。
「あっ、これ!アニキわすれてるでゲスよ!シチ、これを一緒に届けに行くでゲスよ。」
リゲルは戦いの最中のライアンに承諾を得て、レッドに乗って行く事になった。
「待ってでゲスよー、兄貴!」
場面はまた戻り、ピガロとナツキのいるフロア。
「あの図体でなんてスピードなんだ!」
ピガロは横を見るとナツキが息をきらしている。
「おいおい、それぐらいでへばんじゃねぇぞ。」
「違う、気付かないの?この足の重さは普通じゃない。きっとあの女のせいよ。」
マリーはくすっと笑った。
「ようやくきづいたようね。坊やの方もそろそろ効いてくる頃よ。」
すると突如今まで剣を振りかざしていたピガロの動きが止まった。
「どうしたのよ、ピガロ!」
するといきなりピガロが剣をきりつけてきたではないか。
すかさずナツキは避けたが、腹がスパッと少し切れた。
「なんなの!?どうしたってゆうのよ。」
ピガロは何も言わずその場に突っ立っていた。
悪魔の2人組はクスクス笑っている。
「あんた達の仕業ね、なにをしたの?」
「いやいや、このマリーはよぉ、戦いに関しては丸っきりダメなんだが、ふしぎな力があるのさ。」
とギガントが語りだす。
「フフフ、その通り。精神を同調させて体力を徐々にうばったり、幻覚をみせたり、さらに相手が男ならこっちの仲間にする事だってできるのよ。」
「この卑怯者っ…っ!」
ナツキが飛び蹴りをくらわそうとするとそれをピガロが邪魔する。
「ナツキも速くこっちへおいでよ。とっても気持ちいよ。」
ピガロは死んだ魚のような目をして、静かに棒読みでそうつぶやいた。
「フッ、いまに目を覚まさせてあげるわ。」
2人相手に苦戦をしいられるナツキ。
剣とこんぼうを両方かわし、しかも仲間のピガロ全く手が出せずにいた。
そしてただでさえナツキはマリーの術によって体力が少しずつ削られていたのだ。
「父さんっ!?」
そう、ナツキの目の前にはナツキの父親が立っていた。
それだけじゃなかった。
見渡すと回りには達也、リゲル、シチもいたのだった。
「みんなっ助けに来てくれたのね。」
だが、達也達は無表情で攻撃をしかけてきた。
(なんで?どうして!?みんなどうしちゃったの!)
それに加えて、体力がどんどん搾り取られ、視界がかすんでゆく。
遠くて女悪魔の笑い声も聞こえてくる。
ナツキは達也達に囲まれて袋だたきになっていた。
(こんなの前にもあったっけ…。そうよ、私はいくつも試練を乗り越えて来た!今度は私が達也の力になる番!なめんじゃない、なめんじゃ…)
「なぁーーい!」
シチもリゲルもお構いなしになぎ飛ばして、ピガロを一発で気絶させる。
「なにっ、なんだっていうの!?私の幻覚を破るなんて…。」
焦燥するマリー。
ナツキはものすごい勢いで2人の方へと突っ込んで行った。
―達也は魔法の力でマルクスに応戦していた。
マルクスはそれを正面からそれをぶった切り、爆風とともに煙が立ち上がった。
「くそっ、敵が見えない…!」
といってる途中に、マルクスは達也の後ろから振り回した。
寸前で達也は気配を感じて転びながら避ける。
そして転びつつもを連続で浴びせた。
負けじとマルクスはそれを一つ残らずきりふせる。
「ふ、お前達也とかいったな。以外と対した事無いもんだから、ここらで終わらせる事にしたぞ。」
「後ろ気をつけた方がいいよ。」
達也はうっすら笑みをうかべて言った。
「なにっ!」
しかし振り向いた時には遅い。
達也は狙ってを壁に反射させたのだった。
倒れたマルクスの顔の鎧部分が破壊されていて、半分オオカミの顔がのぞいていた。
「悪魔将軍ともあるお方がこんな終わり方だなんてな。それじゃ、お先にいかせてもらうよ。」
そういって達也はついにサタンの部屋へと通じてるであろう扉を開けて行った。
そしてそこでまっさきに達也の目に飛び込んで来たのは…。
静かに椅子に腰掛けるサタンと、傷だらけになって倒れているナツキとピガロの姿だった!
「ピガロ、ナツキ!」
達也は思わずそ叫んだ。
「達也、ダメだコイツ強すぎる…。」
ピガロはなんんとか意識があった。
ナツキはすっかり気を失っているようだった。
"パンパンパン”
部屋の中に拍手の音がこだました。
サタンが席から立って拍手していたのだ。
「いいねー。美しいよ、美しい。まさに仲間のピンチにすぐさま駆けつける救世主だ。」
「貴様ぁ!僕の仲間に何をした!」
「そうかっかするなよ達也君。私はただ2人と遊んであげただけさ。」
達也は聞く耳を持たず、まっすぐサタンへを放った。
サタンは糸も簡単に翼の突風だけでそれをはじきとばす。
「そう焦るな。実は君にどうしても聞きたい事があるんだよ。前も聞いたようにお前達はどこでその力を手に入れた?」
「ふん、冥土の土産に教えてやろう。この力はアベルさんから授かったものだ!遠い砂漠の遺跡の奥に行って、アベルさんの魂に直接に会ったのさ。
「何だとっ、くそ、そういう事か。知っていれば潰したものを…。」
サタンは悔しげな顔をしている。
「まぁいい、ここでその血を根絶やしにすればいいだけのことだ。へへへ。さぁいいぞ、どっからでもくるがいい!」
いよいよ達也とサタンの一騎打ちが幕を開けた。
サタンは目からギザギザした光線を放つ。
達也も青色のを放って応戦。
サタンの繰り出す技は多種多様で、どれもバリエーションに富んでいる。
避けても避けても追ってくる追尾型ビーム。
分身、分裂もお手の物。
動きは光のように速い。
翼をひと扇ぎすればたちまち竜巻のような風が巻き起こり、達也は苦戦した。
そしてある時サタンは軽めに片手から黒い弾生み、それを発射した。
達也はサタンの目をじっと見つめながらそれを片手ではじきとばす。
「お前、本気でやってないだろ。」
と達也。
「ふ、ばれていたか。じゃぁほんの少し出してやろう。」」
次の瞬間サタンは意味の分からない呪文を唱えたかと思うと、両手から紫の光線を放った。
「いけ、私のかわいい子ども達!」
見た目を一言で形容すると、小柄の悪魔で、それはインプのようだった。
インプ達はゲラゲラよだれを垂らしながら達也に襲いかかって来た。
(これ前もあったよな。ち、これじゃ分が悪すぎる…。)
だが達也の目の前まできた一匹の首が切り落とされる。
やったのはピガロだった。
「お前もう…。」
「へ、これくらいなんともねぇさ。こいつらはオレとナツキにまかせろ。それよりお前はさっさとサタンを倒してこい。」
遠くを見るとナツキがインプ達と格闘していた。
「へへ、頼もしいや。」
そういって達也はサタンの方へと歩いて行った。
サタン「それではまた始めようか。」
再び2人の戦いが再開された。
達也が手をかざした方向が次々と爆発していく、サタンはまるで遊んでるかのように軽々とよける。
「ほらみてみろ。」
ある時サタンはこんなのを見せてきた。
それは次元がさけたように普通の空間が破られており、その丸い穴から水晶玉のように外の様子が映し出されている。
「はっ、ライアンさん!」
外はまさに修羅場と化していた。
剣を交える音が絶え間なく響き、エポロンの民の人達の死体もその場にごろごろと転がっている。
その中でライアンは悪魔軍の将軍ベリアルと戦っていた。
全裸の人間達が大量に戦場に横たわっており、とにかく外は異様な光景となっていた。
「これがなんだっていうんだ!」
「フ、君が外が心配なんじゃないかと思って親切に見せたまでだよ。それよりあの二匹のチビがこっちに向かってるらしいぞ。」
「なんだって!」
サタンは指を空間に向けると、場面が変わる。
そこには必死で罠をよけているリゲルとシチの姿があった。
「なんでも君に忘れ物を届けるとかでフェニックスにのってきたそうだ。だが城の中に入った物の落とし穴に落ちて、だから地下の方から君達とは違う道でこっちにきているそうだ。」
(ちくしょう、無理しやがって…。)
「達也君、私からここで一つ提案があるんだが、このままじゃら埒があかない。そこでゲームをしよう。私は今から必殺技を出す。」
「必殺技だと?」
「そう、それも今までより少し強い力でな。それに耐えられなければ君はそれまでだと言う事だ。」
そう言うとサタンは両手を達也の方へと向けて力を集中させる。
みるみるうちに禍々しい黒色の光が渦を巻きながら集まって行く。
その桁違いの力にピガロ達も動きが止まっていた。
そしてインプ達もが驚いて目をやっている。
「ちょっとまっ…。」
「食らえ!」
途端にすさまじい破壊力で黒い光線は放たれた。
(し、死ぬ!)
達也はギリギリのところでバリアを張ろうとしたが間に合わなかった。
ピガロ「あ、あいつ正気かっ!?」
「達也ぁ!」
そして時を同じくして、リゲル達もまた天井がガタガタ揺れるのを怖がっていた。
「兄貴ー!助けてでゲス~。」
外の方では…
「く、崩れる!一体城の中で何が…。」
「フッ、きっとサタン様がお怒りになられたのだ。まぁあのガキどもがまともに戦えるとは思えんがな…。」
とライアンと、悪魔将軍ベリアル。
サタンの間は一瞬にしてまばゆい光に包まれる。
そして、城はガラガラと崩れて行った。
―サタンは城の残骸を見つめながらつぶやく。
「ふぅ、少しやりすぎてしまったかな?それにしても我が子まで殺してしまうとは計算外だった。」
すると瓦礫の山から一本の手が突き出した。
達也だった。
「何っ!?」
驚くサタン。
を、尻目にピガロやナツキ、リゲルとシチを順々に運んで、離れた所に避難させた。
「おい、お前どうやって助かった?」
「なんでだろう、自分でもよくわからないんだ。はっ、もしかして…!」
達也はふとズボンポケットにてをつっこむ。
手のひらにのっていた物とは…
こなごなにくだけた赤い石だった。
「なんだ!それは。」
「よかったもっといて。これはアベルさんが渡してくれたお守りなんだ!」
と達也は言い張った。
「ク、こざかしいまねをしよって。」
これにはサタンも少し怒った様子で、無言で片手を天にむけた。
「舞台は最後の戦いにふさわしくしてやろう。」
ナツキは微かに何かが頬に当たるのを感じた。
冷たく篠突く雨が、死者達とその血潮を洗い流すように降り始める。
「ケッ、なんでもありだなおい。」
ピガロが毒づいた。
雨の中、達也とサタンが睨みあう。
「ピガロたちはそこで休んでくれ。もしもの時のために…。」
「もしもの時のためにって…。」」
達也はそれ以上は答えなかった。」
「第2ラウンドといくか。」
「あぁ。」
またもや激しい戦いが始まった。
達也は気がつくと宙を浮いていた。
漆黒の空で、雷の光にまじり、花火のように光と光がぶつかりあう。
達也とサタンは目にも止まらぬ速さで移動していたのだ。
(おかしいな。さっきから軽くではあるもののダメージは少なからず与えているはず…。
なのにやつは息一つきらしてない。ん、いやまてよ!)
達也は気付いた。
息を切らしていないだけではなかった。
いままで達也と戦ってできた傷が一つ残らず消えていたのだ。
「サタン!お前、もしかして再生能力をもってるのか!?」
「フ、ご名答。」
(腹の傷が治ってる時点でそれに気付くべきだったか…。でも確かにアバドンと一体化して腹を貫いたとき、手応えがあった。ん、ということはいくら再生能力があっても一定の威力があれば通用する……!?そして、もしかしたら腹を狙った方が他の部分よりダメージが高いという事!?)
その時から達也は密かにサタンの腹を攻撃する隙をうかがっていた。
そしてついに達也の青いが腹に直撃した。
これにはたまらずサタンも叫び声をあげる。
「ぐぬおーっ!!」
「やったぞ!」
「やったでゲスよ!」
サタンは腹を抱えながら、ひょろひょろと地におりていく。
「小僧…、さすがに今回は腹に穴があくかと思ったぞ。いいだろう、そんなにみたいのなら見せてやろう、真の姿を!」
サタンはうなり声をあげつつ体に力を入れはじめる。
「あちゃー達也のやつ、本気で怒らせちゃったみただぜ。」
しまいにはゴゴゴゴ…という地響きがなり始めた。
「まさかこれほどまでとは…。」
とこぼす達也。
達也達の後方で戦っていたライアンも異変に気付く。
「一体何が始まろうというのだ…。」
「うほー、オレたちでさえ見た事が無いサタン様の本気をみれるとはな。」
ベリアルが剣を交えながら言った。
やがてサタンは雄叫びをあげて、まわりにカッと閃光が広がった。
達也が閉じていた目をあけると、一見なにも変わってないサタンの姿がそこにあった。
だが違った。
体の筋肉が全体的にはち切れんばかりに盛り上がっていて、サタン自身も少しだけ巨大化しているではないか。
それだけではない。サタンの邪悪な気、までもが増幅していたのが達也には確かに伝わってきた。
「さぁ私の完全体相手に何分たっていられるかな?」
「サタン、今度は僕の方から一つ提案があるんだけど。」
と達也は落ち着いて言う。
「なんだと?」
「いや、すこしだけ待ってくれればそれでいいんだ。」
「ふん、どうせどこかに逃げるつもりだろう。そうはいかんぞ。」
「違うさ、簡単に言うと僕も完全体になるっていう事さ。」
達也はそう言ってピガロの達の方へ歩いていった。
「皆、これから少しだけ僕に力を貸して欲しい。」
「どうしたっていうんだよ、あらたまって。」
「兄貴のためなら何だってするでげすよ。」
「うん、私も!」
達也は泣くのをぐっと堪え、コレからの事を説明した。
サタンは無言で達也の方をじーっとみていた。
(なにをしてやがる……、あいつら。)
「いい?アイツに勝つには僕の一人の力じゃとてもじゃないけど無理。そこで皆の力が必要なんだ。」
「どうすればいいの?」
皆は輪になって達也を囲んでいた。
「目をつむって心の中を静かに、落ち着けるだけでいいんだ。」
しばらくして、
「お、きたきた。」
達也の周りにぷかぷかとしゃぼんだまのような光の弾が浮いている。
その玉がすーっと体の一部になるかのように、達也の体に吸い込まれて行く。
最終的に達也の体は一つの発光体になっていた。
皆は口をあけてつっぷしている。
光が消える。
だが、そこには何も変わってない達也の姿があった。
ナツキ達はぺしゃりと疲れ果ててその場に倒れ込んだ。
「皆、ホントありがとう。あとは休んでくれ。」
達也は皆を避難させた。
「お前何もかわってねぇじゃねぇか。こんなことまでさせておいて負けたら承知しねぇーからな…。」
と、ピガロはちからなく言ってみせた。
「フハハハ、それが貴様の完全体とは、とんだお門違いだぜ!」
灰色の雨が、向かい合う2人に容赦なく降り注ぐ。
「どうかな?互角ぐらいにはなるんじゃないかなー、なんて。」
「ふん、つよがりを言うな!」
また2人は消えた。
「おいおい、これじゃどうなってるかわから…。」
ところがピガロのよこをみると、ナツキが食い入るように目を見張らせていた。
「もしかしてお前、みえてるのか?」
互いの肘と肘がぶつかる。
それに合わせて雨粒が衝撃ではじきあう。
一つ一つの行動のたび、周囲の空気という空気が振動しあう。
「い、いいぞー!達也、これならマジでいけるかもしれんぞ。」
とピガロは希望の叫びをあげる。
―ベリアルの生首がドサッと切り落とされる。
「くっ、おれはやられてもサタン様はそうはいかんぞ。きっとサタン様が…。」
ライアンは達也の元へ加勢へいこうと急ぐと、
「はっ、なんてこった!」
そこにはボロボロの達也の姿があった。
「あっけなかったな。」
(そんな、このままじゃ達也君、そして世界までもが!ちくしょう、ちくしょう!)
と、ライアンは心の中で叫ぶ。
サタンはじりじりと動けなくなった達也のとこまで迫っている。
ライアンはこう思った。
(残る方法は一つ。全てを達也君に託すしか…。)
ライアンは自分の中にある全ての力を達也に向けて集中した。
(あ、暖かい…。この感じはもしかして……、ライアンさんか?)
達也はじわじわと何か大きなエネルギーが伝わってくるのを感じていた。
ぞくぞくと鳥肌さえたってくる。
(達也君、あとは任せたぞ。あの言葉を、あの言葉を思い出すんだ…。)
ライアンの視界は真っ暗になり、そしてバタッとその場に倒れた。
「ラ、ライアンさんっ。」
ナツキ達はライアンさんに気付いたが、もう歩く力すら残っていない。
サタンは達也を見下ろす。
「ははは、あの男何故か死におったわい。さ、お前もすぐに…。」
達也はむくっと立ち上がると、両手をサタンの腹に当てた。
「なっ…!」
避ける暇もなくサタンはふきとばされた。
サタンはまたもや激痛で絶叫した。
「ライアンさんはなぁ、僕のため、いや世界のために最後の力を僕に託したんだ。」
「ふん、ま、まぁさっきよりマシになったようだな。」
「オレはライアンさんの死を決して無駄にはしない。そして、この手でお前を殺す!!」
その時サタンの顔に一瞬恐怖の上々が浮かんだようにもみえた。
サタンは鬼の形相で達也にとびついていく。
だが達也のスピードはサタンのそれを一回りも二回りも上回っていた。
何ども達也めがけて飛びかかるが、その時にはもうすでにべつの場所に達也は立ってる。
「うがーっ!」
サタンは狂ったように目を充血させ、悔しそうに叫び散らす。
「このオレ様が人間なんかに…しかも二度も、それもガキなんかに!やられてたまるか…。」
リゲルははらはらしならがらみいっていた。
その時シチがリゲルにチョンチョンとしてくる。
「ん、どうしたで…ハッ!」
リゲルは忘れていた。達也に届ける忘れ物の事を。
「シチ、ありがとうでげす。あっしもなぜかさっきから嫌な胸騒ぎと言うか予感がするでするんでゲスよ。」
リゲルとシチは瓦礫の下にまだ眠ってるであろう忘れ物を取りに行った。
サタンに見つからぬよう、コッソリと。
ピガロ「お、おいどこ行くお前ら…うっ。」
「ちょっといってくるでゲス!」
達也は今度はこっちの番といわんばかりに、サタンをめったうちにしだした。
の嵐、手裏剣のような刃がサタンの体を切り刻む。
手をかざした先の地上が、ドーム状に爆発し、それによってサタンぽーんと軽々と空へと打ち上げられる。
そして真下からを腹だけに集中攻撃した。
達也の表情から、感情らしきものが消えていた。
すると目の脇にちらっとリゲル達の姿があった。
みると瓦礫をを掻き分けているようだ。
(あいつら何を…?)
サタンはべちゃっと泥の中へ落ちていった。
「はは、悪魔軍団の王とあろうものが情けないもんだぜ。」
顔を泥に半分うずめながら、サタンこう言った。
「ちくしょう、このオレ様がこんな手を使うことになるとはな…。」
「ん!?」
「こい、ガーゴイル!」
サタンは指笛を吹いてみせた。
「ガーゴイルだって?」
達也は慌てて見渡すが特に変わった様子はない。
だが一瞬ににして気配を感じて空の方をみやった。
まっくろな空に小さく何かが羽ばたいているのが見えた。
(ん?やつは何かを持っている、何か生き物みたいな物を2つ…。)
その者が着地した。
翼を丸め、頭に生えた一本の尖った角、そして体は真っ黒でくちばしだけ黄色、加えて片目がえぐられていた。
その者が両脇に抱えていた人物は悪魔と化した達也の両親だった。
その時達也は突然頭痛に教われると同時に、脳裏にあるシーンが一瞬にしてとびこんできた!
それは達也の家だった。
達也はせかせかと階段に上がって行った。
キッチンで洗い物をする母と、すこし酔った父親。
その時いきなり扉が倒されて、そこには禍々しい怪物がいた。
それが、今、目の前で両親を抱きかかえている悪魔本人だった。
(そうか、そうだったのか…コイツが母さん達を…。)
「フフフ、驚くなよ達也。コイツはオレがもしもの時のためいと戦いにも参加させず別の場所に待機させていたのよ。名はガーゴイル、スピードだけなら悪魔の中でもトップクラスだ。」
サタンは泥にうつぶせになったまま言った。
「母さん、父さん!」
達也はサタンの話など聞こえていない様子だった。
「まぁ焦るな。お前の両親は大変に役に立ってくれたぞ。父親のパンと母親のシチューは絶品でなぁ、私の専属両人として雇ってやったのだよ。」
サタンは立ち上がって泥をはらいながらそう言った。
「達也、逃げて!逃げるのよ!」
(母さん、僕の事を…?)
「そうだ。こいつらは他の人間どもと違って悪魔となっても決してお前への愛を忘れる事はしなかったんだ。だが…。」
サタンは少し間をつくって、
「その愛がたまらなく、……ムカつく!」
「母さんと父さんを放せ!」
「やなこった、ただしお前が一歩でも何かしようとしたもののならそいつらの首を一瞬にしてガーゴイルちょん切るだろうさ!」
その頃リゲル達は…。
「ほらいわんこっちゃない、やばいでゲスよ!はやく忘れ物をっ…!」
リゲルはついに見つけた。
「ぐっ…!どうすれば…。」
ピガロ「ちくしょう!」
サタン「死ね。」
冷たい笑みを浮かべサタンは、掌中からどす黒い何かを達也に向けて発射した。
その時、
リゲル「兄貴!これ忘れ物でゲス!」
宙に放たれたのは、なんと鍋のふただった。
「なんだと!?」
(そうか。あれは、あのときのラッキーアイテム!)
「サンキュー、リゲル!」
達也は鍋のふたを受とり、そしてギリギリセーフで黒い物体にあてた。
すると見事なほどきれいに光線はガーゴイルの方に反射した。
「ギャアアアー!」
黒い何かはガーゴイルのもう一方の目をつらぬいていた。
その瞬間達也の母と父が解放される。
風を切って、達也は疾駆する。
「とどめだ!、サタン!!」
サタンはあまりの恐怖で動けずにいた。
達也はその一瞬にすべてを込めた。
雨粒をはらいのけ、今よりもっと、なによりも速く。
いままでの思い出が、走馬灯のように蘇る。
シチ、リゲル、ナツキ、ピガロとの出会い。
島で帰りを待っているだろうおばあちゃんの事。
ギガントとマリーから必死に逃げたり、実は悪魔だったおじさんと森の中を歩いた事。
水竜に襲われて心の底から恐怖したと。
目玉男に焼き殺されそうになったこと、ミイラ男に長話をきかされたこと、地を這ってくる追ってくる大蛇にまたもや恐怖し、スサノオとシャイニングピクシーに救われたこと。
迷路を攻略し、ドラゴンと死闘を繰り広げたこと。
アベルさんの青い瞳、アバドンから仲間を守った事、レッドの背中。
雨の下も青空の下も夜空の下も共に旅をし、共に寝て、笑い合って、苦しみ合った日々を、達也は鮮明に思い出していた!
達也の渾身のがサタンの体に命中した。
凄まじい勢いでは膨張し、サタンの腹を貫いた。
「お…おのれ!またしても人間なんぞにぃぃい!!」
サタンはこうして地獄の底の断末魔と共に、消えた。
達也はそのばにくずれおちた。
その表情は安堵に満ちていて、そして安らかだった。
今まで暗闇に閉ざされていた空が、嘘のように明るくなってゆく。
どしゃぶりの雨もしだいにおさまってゆく。
遠い島のおばあちゃん、森の守護神スサノオも、同じ時に同じ空を見上げていた。
「やった…。」
ナツキがぼそっとつぶやく。
それに続けて
「やったぜ!やっちまったよ!」
シチとリゲルは緊張のし過ぎでフーッとため息をついてみせた。
達也は横になりながらもこう言った。
「やっと終わった…。」
と。
皆して動けずにかたまっていると、くもの間から何やらキラキラ光り輝く光がさしこんでくる。
「何だろ、あれ。」
不思議そうにナツキがつぶやいた。
それは光というより光の道に近かった。
それをすべるように何かが下りて来た。
その人物は雲にのっていて、仙人のような髭を生やし、片手には杖を持っている。
その老人は全身光り輝いていた。
老人は達也たちの前まで歩いてきた。
「失礼ですけど、どしらさまで?」
達也は倒れふしたまま尋ねた。
「私は神じゃ。」
その場にいた全員が驚愕した。
神はこう話した。
「上の世界も下の世界も、サタンが誕生するまでは平和だった。悪魔は悪魔界に天使は天使界に神の監視のもと区分されていた。だがサタンは神に支配されるのが退屈で、ある日悪魔界に穴をあけた。」
「それでそれで?」
とピガロ。
「それで私は急いで穴を埋めようとしましたが既に遅く、地上におりたった悪魔は全部で50体でした。神が下界に手を出す事は出来ませんのである一人の男に力を授けた、という訳です。」
神は放ったらかしてすみませんと言うと、一人づつ回って体力を回復してくれた。
「うおー、もうピンピンだぜ。」
達也も手当てしてもらい、立ち上がる。
「兄貴ー!」
「皆!」
達也達は互いに喜んで抱き合った。エポロンの民の生き残りも達也たちを祝福していた。
「いてて、あれここどこ?
一人の全裸の中年男性がこの異様な光景に
「おっと。」
神がホイッといって指をさすと、たちまち全員に服が与えられ、気づいた中年男性は魔法で再び眠らされた。
「皆さんにはちゃんとお洋服を着せておきましたからね。」
「はぁ…。」
するといきなり達也が何かに気付いて走り出す。
「母さん、父さんっ!」
2人は人間の姿にもどり、服をきて気絶していた。
「よかった…。」
「達也君と、いったかね。」
神様が口を開く。
「どうでしょう、これから上の世界で一緒に暮らしませんか?もちろん他のお友達や家族の方もokですよ。」
達也は少しビックリした顔で、少し考えてから、
「いえ、ありがたいですけど、僕はこれからもこの地球で暮らしていきます。」
「そうですか。まぁそれがあなたの出した答えなら仕方ないですね。それで、戦いで亡くなられた方々は…。」
達也達はライアンさんや一緒に死んでいった人の方に目をやった。
「僕たちとエポロンの人達とで墓をつくるので大丈夫です。」
そこでピガロが口をはさむ。
「いちおきくが生き返らせたりは出来ないのか?」
「残念ながらできませんね。神は絶対に下界に手を出しては行けないのです。たとえどんな理由があっても。申し訳ございません…。」
「ちぇっ、ケチな野郎だぜ。」
達也が尋ねる。
「あの神様、悪魔達はどこへいったんです?それと世界中の人の記憶とかはどうなるんです?後オレたちはこのままこの力を持ち続けて生きるんでしょうか?」
「悪魔たちはサタンの消滅とともに消え失せました。いったん魂だけとなりそのあとべつの生き物に生まれ変わります。
ちなみにどの生き者になるかはくじ引きで決めます。
次に記憶についてですが、この事に関してはほかの人間たちの記憶には一切残りません。あたたの両親は悪魔になっても心を奪われなかったので例外ですが…。
あなたたちに関しては今ここで能力を消して欲しいなら消す事もできますよ。」
達也は普通の人間として暮らしたいという願いから能力を消してもらった。
他の2人もそれに賛成して、消してもらった。
「達也さん、もうそろそろお別れの時間が…。他の悪魔より少しひいきしてあげましたが。」
「え?」
すると後ろから声がした。
「アニキ。」
みるとなんとそこには体が透けているリゲル、シチの姿があった。
「おい、何だよコレ。」
リゲルとシチは何も達也に抱きついた。
達也の目からはボロボロと涙がこぼれる。
「こんな泥棒のあっしを仲間に入れてくれて、あっしはっとても楽しかったでゲスよ!」
2匹はいよいよ神の雲にのり込んだ。
ナツキもボロボロないて、ピガロは照れくさそうに手だけあげて見送った。
神ののった雲はエスカレーターのようにゆっくりとあがっていって、次第に綿雲の中へと消え去った。
その時オレには確かにきこえた。
『ありがとう、達也。』
と。
その時オレ初めて謎の声の主が分かった気がした。
達也は力がぬけたようにしてその場に泣き崩れた。
二匹は天遠く、眩い光と共に消えていった。
━あの悪夢から2年がたった。
神様と別れたあと達也とピガロ、ナツキの3人は、エポロンの民の人達で、ライアンさん達の墓をつくった。
場所はライアンさんの住んでた近くで、そこまでレッド達にのって行った。
達也ももう高校3年生。世界の人達はあの事なんてまったくなかったように生活してる。
達也の担任やクラスの人たちも、世界を救ったのが達也だとは到底気づかないでいた。
ピガロはあの後ちゃんと親父さんと出会えたようで、
ナツキも、島で元気にばあちゃんとやっている。
夏休みには島に遊びに行ったくらい、いまでも達也たちとちょくちょく遊んでいる。
(オレはこのことは絶対忘れないし少しずつ後世に伝えて行くつもりでいる。)
「達也ー、ごはんよー。」
おっともういかなきゃ。
達也は勢いよく部屋から飛び出し、階段をスルスル下りて席についた。
「うおぉー、今日もうまそうだなぁ。」
達也には、今でも突然どこからあのチビ達が飛び出して来て、声が聞こえてくるんじゃないか、なんて気がしてならなかった。
(またどこかであえるのを楽しみにしている。
あいつの好きなシチューを食べながら…。)
~END~
悪魔をやっつけろ!! 星野レンタロウ @renorange
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