テロリスト

8月時50分、スタジオを映すモニターにはメインキャスターの新堂 和樹アナの姿が映し出された、その横には女性キャスターの安森 昌子アナが並びまもなくNEWS JAPANの報道番組が始まろうとしていた、スタジオはいつものように明るい空気だが本番前になると生放送という失敗が許されない緊迫とした空気に一変する、「まもなくお時間です!」スタジオにいたスタッフはADの掛け声ですぐに散っていく、「ウッウン!、アー、アー」新堂は冷静にマイクテストの確認をしている、そのスタジオの裏ではプロデューサーの坂口が機嫌良さそうに近くのスタッフと座りながら雑談を交わしていた、「今日は昨日の爆破事件について長く取り扱いましょう」

坂口は椅子に背中をもたれながら笑顔で話した、「視聴者の誰もが今最も知りたい事件ですからね」するとスタジオからはカウントを数える声が聞こえてきた、「3、2、1」。

番組がスタートすると、画面からはスタジオの上から映す映像が流れた、そしてスタジオのカメラのアングルはスタジオに立つ新堂と安森の二人を映し出した、「おはようございます、朝のNEWS JAPANです、まずは速報をお伝えします」番組はキャスターの新堂の一言から始まった。その頃同テレビ局入り口では、いつものように番組関係者が度々入り口から入り、受付の警備員に証明書を見せたりと静かな時間が流れていた、「お疲れさまです」テレビ局一階の警備員の更衣室で仕事を終えもう一人の先輩警備員に挨拶をした木村 守は挨拶を終えるとすぐにロッカーへと向かい、制服から私服へと着替えた、私服は黒のジャージにズボンはデニムと余り目立たない服装へと変わり、ロッカーの扉を閉めた、更衣室から出ようとしたとき一旦足を止め木村はもう一度ロッカーを開けた、目線を下へと下げた、木村はグッと息を呑んだ、ロッカーの中には拳銃が置かれていた。




都内ビルの中にあるカフェ店のテレビにはNEWS JAPANの報道番組がつけられていた、「早速メディアも情報を掴み込んだか」巻町は唇を噛みしめそのテレビに視線を向けていた、「すいません、お待たせしました」店内の奥から若い女性店員がこちらに駆け寄った、「いえ、突然伺ってしまい申し訳ありません」店の外で煙草を吹かしていた沢田は店員が来ると慌てて煙草を灰皿の上に捨て店の中に入った、「それで昨日の事をお話すればいいんですよね?」 「えぇ、何か気になる事があれば何にでも」 「私中村と言います、昨日爆発が起きる数時間前に怪しい客がそこの席で暫く座ってたんです」 「怪しい客?」 「えぇ、それも随分と怖い顔をしてずっと外を見ていたんです」そう話すと沢田はゆっくりと中村が指差した席へと歩いた、「その人物はどのくらいこの店にいました?」 「確か2時間はいた気がします」沢田はその席を見つめると目線を反らした、ここの席の横はガラス越しになっておりここからだとスクランブル交差点も全体を見ることが出来る位置にある、「一体何がしたかったんだよ犯人は、」沢田は窓の外から見える変わり果てた外の景色をじっと睨んだ、すると巻町はこの店の監視カメラを見せるよう懇願した、中村はすぐに承諾してくれた。




テレビ局3階の個室トイレでは、木村はトイレに座り込んだまま震える手を必死に抑えていた、「くそ、くそ!」木村の平常心は中々保つ事が出来ずにいた、トイレペーパーの台に置かれた拳銃を見ると長くゆっくり息を吸いながらパニックをどうにか抑え込んだ、その五分後、台に置いていた拳銃をポケットに隠すとそのままトイレから出た、木村は鋭い視線で辺りを見渡しながら廊下を歩いている、やがて木村は第1スタジオへと潜り込んだ、小さく息を吸いながら歩いているとスタジオから声が聞こえてきた、ふと見上げるとキャスターの新堂の姿が見えた、おそらくニュースを読み上げているのだろう、すると次の瞬間木村の肩に何者かの手が触れた、「君?関係者の人?」思わず振り向くと相手のスタッフは驚いた顔を見せた、「だれだ、お前!」すると木村は突然キャスターのいるスタジオへと走り出した、「おい!」突然スタジオに見知らぬ人物が現れた事により、原稿を読み上げていた安森の口が止まった、「君!今すぐそこから出なさい!」先ほど肩を叩いたスタッフが木村に必死に問いかけている。

スタジオの裏では大変な騒ぎとなっていた、「すぐに映像を消せ!早く」坂口はモニタースタッフに慌てて指示を出していた、映像はすぐに切り替わりスタジオの画面から文字だけを映した画面に切り替わった、「おいAD!すぐにつまみ出してくれ」坂口は思わぬ事態に怒りを露にした、スタジオはカメラが消えているのを確認すると、ADとスタッフ二人係で木村を取り押さえようとした、次の瞬間、「バーーーーン!!」デカイ銃声音がスタジオに鳴り響いた、木村はポケットに入れていた拳銃を取り出し一発天井に向かって発砲したのだ、思わず皆が頭を抱えその場はパニックに陥った、「おい!銃、銃持ってるぞ!」坂口はモニター越しに見えるスタジオの状況に驚きを見せ言葉が出なかった、「キャーー!」スタジオにいるキャスターの安森は思わずその場で叫んでしまった、「待ってください、貴方の目的は何ですか」新堂は冷静を保ち木村に問いかけた、「目的を話すにはまずはカメラでテレビを全国に繋げろ!」そう言うと木村は持っている拳銃を新堂の方へ向けた、新堂は一つ額に汗が流れ込んだ、「まずいぞ、このままじゃ新堂さんや安森さんの身体が危険だぞ」坂口やモニタースタッフは木村の要求に頭を抱えた、「早くしろ!全国に今すぐこの中継を繋げるんだ!」すると次の瞬間またも木村は拳銃で一発、今度はスタジオの壁に発砲した、「あと10秒で繋げなければ、誰かを殺すぞぉぉ!」木村は怒号を上げて怒りを露にしている、彼の目は既に覚悟を決めた危険な目をしている、「坂口さん、このままじゃまずいですよ!」

「そんなのわかってる!だがテロを生中継で視聴者に流すことはとんでもない事になる」

「そんなこと言ってる場合じゃありませんよ坂口さん!時間がありません!」木村はゆっくりとカウントを数えながら拳銃の引き金を引き出した、「わかりました、すぐにカメラをつけ直してください」突然新堂がスタジオの椅子から立ち上がり木村に話しかけた、「坂口さん!!」 坂口は険しい表情で腕を組みながら悩み込んだが、致し方なく全国のテレビをスタジオに繋げる事を選んだ、「フー、最悪だな」坂口は頭を抱えた。

裏スタジオからADがテレビに繋げたことを新堂に手で知らせると、新堂は木村に伝えた、「たった今スタジオを全国に繋げました、先ずは武器を下ろしましょう、武器があると我々とも話し合う事が出来ませんから、お名前は何ですか?」 新堂は優しく木村に問いかけた、しかし木村はそれに応えることなくカメラの前へと向かった、「話し合いなんかしてる場合じゃないんだ」すると木村は新堂方を振り向いた、「もう時間がないんだ!!」木村はデカイ声で新堂に言い放った、「一体何に時間がないのですか?」

「俺はこれから何が起きるか全部知っている、今この番組を見ている人間は今すぐ東京から逃げろ!、じゃないと…」  「一体何をおっしゃているのか」  新堂は木村の言動に理解が出来なかった、その時スタジオの裏では、モニタースタッフに坂口は耳打ちをしていた、「タイミングを見計らって放送を切り替えるんだ、」 坂口は焦りの表情を見せながら、スタッフにそう告げたのだ、「しかし坂口さん、もし犯人張れたら新堂さんと安森さんの身が!」  スタッフは最悪の事態を考慮してカメラを切ることに否定した、「ひとまず警察に通報しましょう、テロリストは今新堂さんに任せるしかない」。





警視庁はテロ事件が発生したと放映後にすぐさま伝わり緊急のSAT部隊が警視庁へ召集された、警視正の北尾は険しい顔を見せながら足早く廊下を歩きとある部屋への前へと着くとノックを叩きすぐさま部屋へと入り込んだ、「失礼します、警視長官SATの準備が整いました」部屋の中はとても広いが中は薄暗くモニターが長官などに見えるようになっている、部屋は警視庁の上層部の者達が顔を揃えて並ぶように座っていた、「北尾君、すぐに容疑者の制圧をよろしくお願いします」長官の金子は眼鏡を整え鋭い視線で北尾を見つめた、「はい」 薄暗い部屋の奥に座る警視長官の金子はただならぬ空気感を持っている、北尾はその一言に息を呑んだ。





その頃沢田達は、昨日の夕方から店を訪れていたと言う怪しい人物と共に、丁度昨日の渋谷スクランブル交差点が見える位置にあるビル内にあるカフェの監視カメラの映像を調べていた、「沢田さん、これが昨日の8時丁度の映像です、この時間帯で例の席に座る人物が現れました!」 「見せてみろ」すぐに沢田は監視カメラの映像を見た、「こいつが爆弾犯か、」沢田はじっと映像を見つめた、カメラの映像には黒い革のコートを着た男が例の席に座っていた、おそらく中村が話していた人物はこの男だろう、そう沢田は確信した、「巻町!すぐ鑑識にこの映像に映る人物の解析を頼む」

「わかりました」 映像に映る男の足元には黒いバッグが置かれている、巻町が去ったあとも沢田は暫く映像を見つめていると、突如沢田の目付きは変わった、「どういう事だ、これは!」沢田は思わず映像を見て驚いた。

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