2-8
『行かせません!』
『どけ!』
ボイラーの火の精霊カズンと死闘を繰り返している風の精霊ソライ。そこに割り込むものがいた。
『ソライ!本当にソライだ!』
『メイラが喜ぶわ』
『ヒーサン、ミズサン?』
ソライは突然現れた見覚えのある精霊たちに驚く。
『火さん、水さん?なんだその名前は?馬鹿か?』
『言ったな!』
『メイラが付けてくれた名前を馬鹿にするなんて!』
二つの精霊はカズンの言葉に怒りをあらわにした。
『二人とも、メイラもここにいるのですか?』
けれども驚きから我に返ったソライに問われ、怒りの矛先が鈍る。
『いねーぜ』
『ティエンを助けたらもう用はないから、ここにはきっと来ないわ』
『それはよかった。それならアナタがたも去りなさい!』
『おっと、そうはいかないか』
カズンがソライたちが会話に夢中になってるうちにこの場を離れようとしたのだが、精霊たちは甘くなかった。
逃げようとしたカズンの行く手を阻む、ヒーサンとミズサンだ。
『名前を馬鹿にされて見逃すかよ』
『ソライも連れて帰るから、邪魔よ』
『アナタたちは』
怒りを燃やす二人に対して、ソライは呆れながらも懐かしい気持ちでいっぱいになっていた。
『ああ、ついてないな。精霊の愛し子の精霊か』
カズンは同じくボイラーの精霊でありながら交戦的であったアリーナと違い、三対一という不利な状況でほぼ諦めての境地に至る。けれども、ティエンが逃げたと聞けば何もしないわけにはいかない。
『え?』
『何!』
『ヒーサン、ミズサン!』
カズンはソライではなく、二人に火の槍を放った。そして混乱を突いて逃げ出す。
『逃げた?』
『情けない』
ヒーサンとミズサンはカズンを追う事をせず、その小さくなる背中をせせら笑った。ソライは彼の行動の意図が分かりすぐに後を追う。
『ソライ!何で追うんだ!』
『もう!』
メイラはソライを取り戻したいと思ってる。なので二人はソライを見捨ててメイラの元へ戻る選択肢は取れなかった。
☆
『ミシェル!』
ソライは必死にカズンを追ったが、一歩遅かった。
カズンはミシェルを確保するしており、追ってきたソライたちをせせら笑った。
『こいつの命が惜しければ、精霊の愛し子を連れて来い』
「俺には構うな。ソライ。どうせ、殺される。裏切ったのだから」
『んじゃ、見捨てていいな。ソライ。精霊鎖だっけ?奪い返してメイラの所へ戻ろうぜ』
『火!』
『そうか。精霊鎖だったな。こいつではなくてソライを囮に』
「させるか!ソライ!」
『ミシェル!』
ミシェルに呼ばれてソライは迷いなくその体に風の刃を放つ。
『狂ったか!?』
人質であり、現在の主であるミシェルをソライ自身が攻撃するとは予想外過ぎて、カズンはミシェルから手を離していた。
『ヒーサン!カゼサン!援護を!』
ソライがそう叫び、同時にミシェルの元へ飛ぶ。
カズンが止めようするが二つの精霊から同時に攻撃を仕掛けられ、どうしようもなかった。
『確保しました!行きましょう!』
『おう!』
『了解よ!はい、これあげる』
『あ、オレも』
ソライの掛け声に応えつつ、ヒーサンとミズサンはお土産とばかり、大量の火の玉を、氷の礫をカズンへ放った。
『クソッタレ!』
悪態は聞こえたが、攻撃を防ぐのが精一杯なのか、カズンが追ってくる事はなかった。
☆
メイラは、風の精霊カゼサンに連れられて上空かなり高く王宮に向かって飛んでいた。土の精霊ツチサンは、メイラたちの下を、飛ぶように地面を走りながら進んでいる。精霊たちが見えるのは精霊鎖を使うものか、精霊の愛し子のみ。なので、ツチサンの姿は誰にも見咎められることはなかった。
メイラと同じようにティエンを連れて上空を飛ぶフィンに気がついたのは、ツチサンが先だった。
人を連れていると目立つ。だからこそメイラは上空高く飛んでいた。フィンたちもそうなのだが、再会するのであれば地面の上がいい。メイラたちにティエンが来ることを伝え、人の目がない森へ移動するように伝えた。そうしてツチサンがフィンたちにメイラの場所を伝えることになった。空を飛ぶのは好きではないのだが、この際ツチサンは好き嫌いを言っているわけにはいかなかった。
森の中で再会する少女と少年。
「ティエン!」
「メイラ?!」
メイラはティエンに向かって走り、その胸に飛びこんだ。
「よかった。無事で」
「あ、うん。ありがとう」
女の子とあまり接触がなかったティエンは少し頬を赤らめながら応える。
「そして巻き込んでごめん。俺の事情に」
「事情?巻き込んでなんかないよ。だってソライと繋げてくれたんだもの」
「ソライ?風の精霊のことか?メイラの知り合いか?」
「うん。ばあばあの精霊なんだ」
「ばあばあ」
ティエンが知ってるソライはミシェルに使役されていた。メイラからばあばあのことは聞かされていた。精霊の愛し子だとも。精霊鎖の精霊になってしまったソライ。それは元の主、精霊の愛し子の死を意味してる。
「ティエン。悲しそうにしなくても大丈夫。わかってるから。ばあばあは死んじゃってる。だけど、私はばあばあはなんで死んだか知らない。ソライから話を聞きたいの」
「そっか」
『ソライ。無事に連れて来れるといいんですが』
二人の会話にフィンが入り込む。
「うん。きっと大丈夫だよ。ヒーサンとミズサンが二人でソライを連れてきてくれる」
『あのふたり、普段は喧嘩ばかりしてしてますけど、やる時はやりますよ』
「そうよね。カゼサン」
『少年よ。それにフィン。休んだらどうだ。後は待つだけだろう』
「そうね。ツチサン。ティエン。少し怪我してて痛そう。手当する。ツチサン。薬草見つけてくれる?あとカゼサンは水を」
『了解した』
『……メイラの願いであれば。フィン、メイラをよろしく頼みましたよ』
『任せてください』
カゼサンは気が向かないばかり顔を顰めながら、それでも森の中に向かって飛んでいく。ツチサンはどこかウキウキとした様子で薬草の採取に向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます