第52話 百合さんと幼年期の終わり


今日はふたりなかよく手を繋いでの登場です。


百合さんとひーくんではありませんよ。


しおりさんとみどりさんです。

いつの間にか気を許せる友達になり、いまではいつも一緒に居る仲良しさんです。


「おにいさんとおねえさんのごそつぎょうおめでとうをしたいです」


優しくしてもらいましたからね。

お祝いをしたいと考えるその気持ちが素敵ですよ。



「わたしはおてがみをかきました」


しおりさんは本が好きですからね。作文や読書感想文も優秀だと聞いていますよ。

二通作ってきたのですね。


読んでも良いのですか


「わるいところをおしえてください」


わかりました。読ませていただきま・・・


しおりさん あなた何者ですか

小学生の書く文字ではありませんよ。とても美しい文字ですね。


しかも内容が・・・ これは泣きます。

便せん一枚で泣かされました。


素晴らしいですよ。この内容で渡しましょう。

お姉さんに封筒を用意させてくださいな。

お兄さんとお姉さんへわかるように宛名を書いてくださいね。


・・・やはり上手です。美しい文字です。



§



「わたしはおにいさんとおねえさんのえをかきました」


良い考えですね。これがみどりさんの書いた絵・・・


呆然・・・ かなり上手です。少なくとも私より上手です。


絵師です。薄い本出せます。 



あなたたちは何者ですか


本当に小学二年生ですか

もしかして『永遠のしょうがくにねんせい』ではありませんか



しかも絵の内容が爆弾を抱えております。



「らぶらぶのはーとをたくさんかきました」


『ベンチに座って微笑んでいるふたり』

『手を繋いで微笑んでいるふたり』


どちらの絵もハートが舞っています。

素晴らしいです。びゅぅてぃふぉです。わんだほぉです。


額装しましょう。デジタル化もしましょう。



「おにいさんとおねえさんはけっこんするのですよね」


みどりさんからは結婚確定に見えていたのですね。

百合さん 後輩の前で何をしたのでしょうか。

かなり甘いことをやらかしているのでしょう。



しおりさんとみどりさんからのお祝いの気持ち

卒業式の後、みんなの前で渡しましょう。


甘い爆弾を添えて・・・



◇◇◇◇




「雪ねえさまも卒業式 来てくださいね」



保護者向けの卒業式案内を持ってくる百合さん


出席したいのですが、一般のじゅうななさいは卒業式には出られないのですよ。



「雪ねえさまは私のお姉さんですから大丈夫です」


涙腺が緩むくらいに嬉しいことを言ってくれますね。



でも先生がお姉さんの顔を知っているのですよ。驚かれてしまいます。

終わってから卒業証書を見せてくださいね。



「『聖女の術』でもダメでしょうか」


どうしても出席してほしいのですね。でも私は聖女ではありませんよ。

それに卒業式に出席する聖女の術って存在するのでしょうか。



――――



卒業式が終われば春から中学生ですね。


百合さんの制服可愛かったですよ。

ひーくんも制服を着ると格好良かったですね。見違えました。


「ひーくんはモテるでしょうか」


中学校になると他の小学校と合流します。

他の小学校にも可愛い女の子は沢山居るでしょうからね。


心配ですか



「だれにでもやさしいからうわきしそうです」


浮気・・・ 浮気と仰いましたか


百合さんにとってひーくんはもう自分のものになっているようですね。

これは指摘したら負けでしょう・・・


ひーくんは百合さんがモテないか心配していると思いますよ。



「わたしはうわきしません」



『クリティカルヒット事件』があってから好意を隠さなくなりましたね。


でもお付き合いしていないんですよ。



両家納得のおふたりが両片思いですよ。

しかもお互いの好意には気がついています。

あと半歩だけ踏み出さない理由は何なのでしょうか


殿方の気配もないお姉さんに配慮しているのでしたら・・・・

どうしましょう。

悲しくなって参りました。



――――



心配なら中学に入る前に思い切って告白しますか

きちんとお付き合いすれば浮気されないと思いますよ。


まあ 心変わりしそうもありませんけどねっ



「べつに ひーくんなんか・・・」


この乙女 面倒な子です。

あんなに衝撃的な甘さを振りまいておいて「別に」なんてねぇ



急に心配顔になる百合さん 何か不安要素がありましたか



「卒業式にほかの女子がこくはくしたらどうしよう」


今の百合さんたちを見ていたら横やりは入らないと思いますよ。


でも駄目なことをわかっていて想いを伝えれば十分だと踏み出す乙女も居ますからね。

心配をし始めたらどんどん心配になって・・・



「雪ねえさま こくはくしないと取られちゃいますか」


大丈夫ですよ。百合さんの歩く速さで進みましょうね。

andante 歩く速度で良いのです。



それにね ひーくんは百合さんのこと大好きですよ。


薔薇の花をもらったんでしょ 花言葉はわかりますか



「花ことば 気にしてませんでした」


殿方から花を頂く時は気にしてあげましょうね。



薔薇の花ことばは『愛情』ですよ。

一本の薔薇は『あなたしかいない』と言う意味もあるのです。


有名な花言葉です。覚えておきましょうね。



「愛情・・・ あなたしかいない・・・」  ぼふっ


赤い顔の百合さん 動かなくなってしまいました。


帰ってきてぇ



――――



ひーくんは花言葉をわかって贈ったのでしょうか

きっとわかっていませんよね。


無自覚でのクリティカルヒット

ひーくん 罪作りなお方です。





百合さんの小学校




伝説の告白の木はありません。


体育館の裏は物理的に入れません。


校舎屋上も施錠されています。



私が調べた文献によるとそのような場所が用意されているはずなのですが・・・


恋する乙女に優しい学校を希望します。



――――



卒業式をきっかけに勇気を振り絞る恋する乙女


全国で何人いるのでしょうか。



どれだけ笑顔になれるのでしょうか。 どれだけの涙が流れるのでしょうか。


その踏み出した勇気 踏みとどまった勇気



選んだ道が後悔になりませんように


どうか未来の幸せに繋がる選択でありますように






幼年期の終わりを告げる春


児童から生徒へ 


もうすぐ新しい物語が始まります。






恋する小学生 百合さん



明日 小学校を卒業いたします。

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