過去から今に至るまで
きっかけ
さて、紹介文にもあるとおり、なぜ自分はうつ病になったのか。それについて、少し事細かく説明しておきたいと思う。
きっかけは単純に言うと、友人の自殺未遂が原因である。
その友人というのが高校吹奏楽部時代の戦友、という言い方は変かもしれないが、自分にとっては辛い部活を一緒に乗り越えていった戦友の一人である。名前は仮に「S」としておく。
Sは少し変わったやつだった。というよりも、ひどいアニメオタクだった。話題の引き出しが基本的にはそこしかなくて、結構周りから浮いているやつだったが、それでも女子ばかりの同級生の中では唯一の男子とも言えるSは自分の心の拠り所でもあった。彼の話の幅は広くて、よくやっているアニメ、ライトノベルから18禁アニメ、GL、BLと手塚治虫で止まっていた自分にとって彼の話は目新しいものばかりだったのをよく覚えている。
彼から勧められたものの一つに、ライトノベルがあった。Sは熱心なライトノベルの収集家で、よく部活に持ち込んでは私に読ませてくれた。その中のいくつかにカクヨム発のものがあったりなど、それがのちになって自分自身が小説を書くルーツになったりした。そんな彼に、自作の下手くそな小説を読ませて、書籍化も夢じゃないなんて言い合った日は今となってはいい思い出だ。
だが、そんなSはあまり周りからいい目ではみられていなかった。
というのも、吹奏楽部というのは基本的に実力至上主義である。彼のポジションはパーカッション。いわば楽団の心臓と言っても過言ではないポジションである。その中で、彼は心臓になりきることができなかった。顧問からも辛い言葉を浴びせられ、連帯責任にされて、それに焦った同学年の人間も同じように彼を叱責した。
吹奏楽部は実力至上主義である。うまいやつは褒められ、下手な人間はたとえ学年が上でも淘汰される。そんな世界で彼はうまく生きていくことができなかった。言い訳をするつもりは毛頭ない、自分も彼に対してひどい言葉を口にしたことがある。ただ一人、自分の書いた小説を褒めてくれた人間に対して。
そのことが原因なのか、今になってはわからない。
彼は、部活の遠征の日に姿を消した。
当時、自分の通っていた高校の教頭だった父から詳しい話を聞いた。
彼は、その日自転車で学校に向かう途中、自転車とスマートフォンを田んぼに捨て、その足で山へと向かい川に入って入水自殺をしようとしたそうだ。そして、日が暮れるまで冷たい水の中に入っていたが死ぬことができず、かつて通っていた小学校の校庭で夜が明けるまで過ごし、そして一日経って自宅の納屋で首を吊ろうとしたところを家族に発見されたそうだ。
かろうじて一命を取り留めた彼だったが、Sは吹奏楽部に関するすべての記憶を自衛のためなのか、すべて失っていた。
Sは前日に、スマホを持っていなかった私に電話をよこしてくれていた。その時に、少しでも気づいていれば。少しでも何か声をかけてあげれば。
いや、そもそも。自分が、それより以前に彼のことを護ってあげていれば。
この事実は公にはなっていない。それらをすべてもみけしたのは当時教頭をしていた自分の父だ。そして、そこまで彼を追い込んだのは吹奏楽部の顧問だ。この二人のことを、自分は一生許すことはないだろう。だが、それ以上に、彼のことに気づくことのできなかった自分も同罪だ。
こうして、私には一生自分のことを許すことのできない自責の念と後悔が高校時代に刻まれることになった。
彼がどうしているのか、度々父に尋ねることがある。彼は、現在旅館の職員をしているらしい。だが、それは彼が望んだ進路ではないのだろう。彼の人生を狂わした一端は自分にある。そうとしか考えられなかった。
この後悔と自責の念は、現在にまで続くものになる。
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