第10話 昼の戦い
昼休み。
飯だ飯だと学生たちが最も活気を出し、なんなら購買のグラタンパンを争奪し最も殺気を放つ時間だ。終礼と同時、廊下では怒涛のレースが展開されていた。
コーナーで差をつけろ! 学食までの近道は中庭を通れ!
窓を開けて彼らの青春奮闘劇の一幕を観覧しつつ、俺はランチタイムへしゃれ込もうとしていた。今日はなんと、コンビニパンだ! はい、明日もコンビニパンです。
お母上共々、弁当を作る発想に至らずムシャムシャと空腹を満たしていく。
……卓です……チョココロネのチョコの部分が思いの外少なくて、素材本来の味しかしません。今では、小麦より俺の方がグルテン豊富だとです。
流行のグルテンフリーダイエットに真っ向から挑む決意を抱いたところで。
「お、裕太! 一緒に昼飯食おうぜ」
周囲の視線を窺うように後ろのドアから教室を出ようとした裕太に、話しかけた。
なぜバレたと言わんばかりに驚き、彼はよそよそしく振り返った。
「いやっ、悪い。ちょっと、用があるんだ。卓は先に食べててくれ」
そう言うや、返事も聞かないで口笛を吹きながら退出していった。
「どこに行ったんだろうなあー、皆目見当つかないなー」
せや、トイレに行ったんや! あいつ、休憩時間になるといつも近くなるもんな。お花摘みに忙しいやっちゃな、この際園芸部にでも入部したれや!
俺が鈍感系主人公ならば、ヒロイン相手にこんなすっとぼけを披露しただろう。
「……花。早速、追いかけるぞ」
「もぉ~ご」
妙に口ごもっている。
一連のやり取りを隣の席から静観する花だったが、シマリスよろしくおにぎりをほお張ってパンパンに膨らませていた。
「もごもご、もごもごーもご?」
「多分、新校舎の屋上だ」
「もーごもご?」
「そろそろ、別のヒロインパートが発生するタイミングだ。裕太が誰の居場所へ向かったか予想する程度、プロのモブ役にとって朝飯前さ」
「もごー(特別意訳・今は昼飯中)」
ラブコメ主人公の脳内では校内マップが拡大され、ヒロインの居場所などが逐一インプットされるとオフレコで聞いた。ならば、彼奴の思考をトレースすればよい。
そもそも、主役様にヒロインの動向を告げる役目こそ友人キャラが仰せつかっているのだから。まぁ、彼らは女好きの悪友が聞いてもないのに教えてくると嘯く。適度に情報を与えないと詰んでしまうため、実は善意とやっかみを込めた配慮である。
「花、ラブコメ介入を開始する。とにかく顔出し。隙あらば、出しゃばれ」
「もご!」
もごも語は履修しておらん。日本語でおけ。
みんな大好き水素水を花に飲ませ、お口を空にさせる。
「よーし、おにぎり食べて元気100倍だよお。卓ちゃん、頑張ろ」
「なんか、君がやる気出すと心配になってきた……」
威勢だけは良い素人の扱いづらさを危惧しつつ、俺は廊下へ足を向ける。
とにもかくにも、新校舎の屋上へ移動するのだった。
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