セナの種族

「身分証はあるか? 無いなら、銅貨三枚で仮の身分証を発行出来るぞ」


 門の前に来た私達は門番の人にそう言われる。

 私は門番の人に話しかけられただけなのに、体がビクッとなってしまった。

 ……何を怖がってるんだ私は。……別にこの人とは、今話すだけで、それ以降に話すことなんてないんだから。……変に怖がる必要なんてない。

 そう分かってはいても、私は思わず体が硬直してしまう。


 一応、ポケットに銀貨一枚は入ってる。……だから、早くそれを渡して、仮の身分証を発行してもらおう。……ただ、渡すだけなんだから、早く渡そう。

 そう頭では思っていても、体が動いてくれない。


「マスター、大丈夫ですか? ……殺しますか?」


 そう思っていると、セナが私の手を優しく握って、小声で、門番の人に聞こえないようにそう聞いてきた。


「大丈夫だから、セナ、ありがとう」


 そうセナにお礼を言って、私はセナの手を握り返した。

 そして、私はセナと手を繋いでない方の手で、ポケットから銀貨を取りだし、門番の人に渡した。


「仮の身分証をお願いします」


 そう言うと、直ぐに門番の人は仮の身分証を二枚と、銅貨四枚を渡してくれ、街に入れてくれた。


「セナ、さっきはありがとね」


 私はセナに改めてお礼を言った。

 もしセナがあの場にいなかったら、私はあのまま何も出来なかったと思う。……銀貨を一枚渡すことすらできなかったと思う。


「……私は何もしてませんよ?」


 セナは小さく首を傾げながら、不思議そうにそう言った。


「ううん。セナのおかげだよ。ありがとう」

「そう、なんですか? よく分かりませんが、マスターの役に立てたなら良かったです!」


 セナと手を繋ぎながら、冒険者ギルドに行こうと歩き出そうとした所で、私は冒険者ギルドの場所を知らないことに気がついた。

 やばい、どうしよう。

 あ、でも、セナなら分かったりしないかな? 人の気配? とかを感じとれるなら、強さとかが分かってもおかしくは無いはず。……強いひとが集まってる所が冒険者ギルドだと思うから。


「セナ、この街で強いひとが集まってる場所って分かる?」

「えっと……全員弱いですよ?」


 私がそう聞くと、セナは遠慮がちにそう言った。


「……皆同じくらいの強さ?」

「あ、いえ、この街の中なら、少しだけマシな人達の集まりはあります!」

「……じゃあ、そこに案内して」

「任せてください!」


 この街の冒険者が弱いのか、セナが強すぎるのか、どっちなんだろう。……セナが自信過剰な可能性もあるか。……セナが強すぎるんだろうな。……セナの強さは知ってるし。正直、世間をあんまり知らない私でも、セナの強さは異常だと思う。……騎士を一瞬で倒したりしてるんだから。騎士の中でも強さはあるだろうけど、騎士になれるだけで、才能の塊だって聞いたことあるし。


 色々考えながら、セナについて行ってると、私のお腹がなった。

 すると、セナが私の方を向いてきて、目が合った。


「き、昨日のお昼から、何も食べてないから……」


 恥ずかしくなった私は、そう言い訳をした。……言い訳というか、事実ではあるんだけどさ。


「や、屋台の匂いとかがさ、美味しそうで……せ、セナはお腹とか空いてないの?」


 顔を熱くしながら、私はセナに問いかけた。


「私はまだ大丈夫ですよ。昨日、マスターの血を飲ませてもらったので」

「そんな吸血鬼みたいなこと言わないでよ」


 セナの言葉を冗談だと受け取った私は、苦笑いになりながらそう言った。


「私は吸血鬼ですよ?」

「え?」


 セナは当たり前の事のように、そう言った。

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