心が埋まっていく

「じゃあ、早くここから出よう」

「はい!」


 そうやって私たちは階段を上がって、地下から出た。

 すると、地下から出た瞬間にその場にいたメイドと目が合った。


「あ」

「殺しますか?」

「へ?」


 そのメイドは私たちが地下からでてきた驚きと、単純に物騒な言葉が聞こえた恐怖で目を丸くしてびっくりしている。


「殺さないから、早くここから逃げよう」


 さっきの騎士はともかく、メイドがいたところで何も出来ないでしょ。

 そんなことしてる暇があったら早く逃げよう。


「だ、誰かっー!」


 突然メイドがそう叫び出した。

 

「……やっぱり殺しますか?」

「だめ。早く逃げよう」


 そうして私たちはそのメイドを放って走り出すんだけど……私の足が遅すぎる。……そもそも体力がない。


「ま、待って……」

「はい、どうかしましたか? マスター」

「……私のことを運びながら逃げられる?」

「はい! もちろんです!」

「じゃあ、お願い」


 そう私が言うと、お姫様抱っこをされた。

 ……背中に乗せるとかじゃないんだ。


「しっかり捕まっててくださいね」

「あ、うん」


 そう言われたので私はその子の後ろに手を回して、落ちないようにする。

 すると私の胸がその子に押しつぶされるように当たってしまう。

 そんなに大きいわけじゃないけど、中くらいはあると思うから、邪魔じゃないかな?


「あっ、んっ……ん」


 その子は、まるで口元がニヤけそうになるのを我慢するように、声を上げた。

 まぁ、そんなわけないか。


「大丈夫?」


 そんなわけは無いから私は単純に体調が悪いのか、私が重いからなのかと思い、そう聞いた。


「だ、大丈夫です! あ、で、でももうちょっと強く捕まっててください。お、落ちないように」

「分かった。けど、痛くない?」

「大丈夫です!」


 私は更に力を込めて、落ちないようにする。

 

「ふへへ」


 すると、その子からそんなだらしない声が聞こえた気がした。

 だから私はその子の顔をのぞき込んだ……けど、そこには笑っていた様子なんて一切ない普通の可愛い顔があるだけだった。

 

「どうかしましたか?」

「なんか、変な声出さなかった?」

「……気のせいだと思いますよ」


 気のせい……だったのかな。

 まぁ、こんな状況であんなだらしない声なんて出さないよね。

 




「どこに向かいますか?」


 屋敷を出たその子がそう聞いてくる。


「取り敢えず、この街から出たい」

「分かりました!」


 私の生まれ故郷ではあるけど……こんな街、居たくない。……まぁ、領主に目をつけられた時点でこの街には居られないんだけどさ。

 いや……街自体は嫌いにはなれないや。……ただ、この街にいる人の何人かが嫌いだ。

 

「マスターには私がいますよ」

「……うん」


 何も言ってないのに、そう声をかけられた私の心は一気に軽くなった。

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