君の一射に魅入られて
海澪(みお)
プロローグ 部活見学
中学2年の頃だった。この頃から志望校のある生徒は学校側から掛け合っての部活見学が出来た。僕はその制度を利用してこの中学から程近い高校の部活に見学に来ていた。部活が多く、文化系の部もあり、見る部活を悩んでいたのだが、その時ふと目にしたものがあった。
──────弓道部。
高校のパンフと共に部活動が載っている冊子に掲載されていた写真に目が行った。手前側が男子、後方は女子が弓を引いている姿が収められていた。何故かその写真に惹かれて弓道部を見学することに決めた。そして見学当日。
「キミが……見学希望の生徒?」
「はい。その……未経験、ですけど」
「ははっ、何。私も未経験だったんだ」
「そう、なんですか?」
「あぁ。あ、靴を脱いだら踵を揃えて玄関側に向けて」
「はい」
弓道場は何処か古めかしいけれど古すぎずとても落ち着く匂いがしていた。そして恐らく僕の対応をしてくれている人は弓道部の部長なのだろう。その人の教え通りに靴を脱いで踵を揃えて爪先を玄関扉に向ける。そしてもう一枚隔てられた扉の向こうからタンッと何かが当たる音が頻繁に聞こえる。
「それじゃあ、時間いっぱいまで見学を楽しんでくれ。あぁ、私は2年の
「はい。僕は
「うんうん。礼儀正しい子は私は好きだぞ〜。ふふっ。ではここから先は私語は慎みつつ見学に励みたまえ」
戸を開けて矢嶋さんは中に入っていく。僕も後に続き一応戸を閉める。視線を前に向けると僕は驚いた。陽の光に差し込む弓道場は清廉な空気で、その中で弓から放たれる矢が空を切り、的に当たる音や惜しくも的には当たらず土に当たる音などが響いた。その中でも僕はとある一人の姿に見入った。
「──────……綺麗」
毛先の少し明るい茶髪を結い、キュッと横一文字に引き結んだ唇。細められた目。そして弓に矢を番えて的を見ながらの動作。その一挙手一投足に僕は目を奪われた。そして数秒その動作に目を奪われた僕はただ小さくそう呟いたのだった。
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