転生先、入れ替え希望!

棚木 千波

第1話 思ったのとは違う転生

 それは放課後、本屋に寄った所で偶然クラスメイトと会ったのがきっかけだった。


「ねぇ、今期はアニメ何見てる?」


「今? そうだな……。なんだかんだであの無双系見ちゃってるな。ほらあの転生して努力して最強になるアレ」


「あれかー。私も二話まで見たけどそこから先は手が伸びてないや。あそこから面白いの?」


「いや面白いっちゃ面白いんだけど、ストーリーというかキャラがいいんだよな。それで視聴継続してるわ」


「ふーん、そうなんだ。キャラねぇ……」 


 隣を歩くクラスメイトが悩ましいとばかりにこちらを見る。もう少し押せば仲間を増やせるかと思う反面、押しすぎてチャンスを不意にするのも嫌なので、どう布教したものかと思考を始める。


 目の前のクラスメイトはそんな俺の布教が通じるくらいにはサブカルに理解のある人間だった。幼馴染というよりもご近所さんと言う方がこの正しい気がする距離感の女子で、名を夜咲よるさき麻里奈まりな。長かった黒髪を肩上で整えたことで雰囲気が変わった、と思っていた高校入学当時が懐かしい。結局お互いの中身はそんなに変わってなかったんだから。


「どうせあの金髪の娘が好きなんじゃないの? 前にあんな感じの娘を推しだって言ってた気がするし」


「は? いや嫌いじゃないけどさ、それよりも主人公が面白い奴なんだよ。アニメはむしろそっちがメインで見てるし」


「主人公ねー。無双とかハーレムとか、そういうのあんまり好みじゃないんだよね。これもそんな感じじゃないの?」


「それでスカッとするのがいいんだろ。いやでもまぁ、そうか……」


 転生して異世界で無双する。可愛い女の子にも好かれるしなんならハーレムも作る。俺も男だしこの手のは幾つも追ってきたけど、この作品はそれだけじゃないんだと言いたい。けどそれがどうしても主軸になっている以上は他の点で攻めてもパンチが弱い気がしてきた。なので視点を変えることにした。


「ならマリが最近気に入ったのは? 別に転生系がイヤなわけじゃないんだろ?」


「えー? うーんと、面白かったのはアレかな、あの悪役令嬢の奴。ネットで原作全部読んじゃったし」


「あれかー。あれは確かに俺も好きだった。ああいう異世界系もっと増えればいいのに」


「いやあるけど。教える?」


 出てきたのは少し前から流行っている悪役令嬢ものだった。そのジャンルに俺が興味を示したことで脈ありとみたマリが布教カウンターを仕掛けようと目を輝かせる。なら布教し合えばいいじゃないということで今回は勝負がついた。


「探せば全然あるんだなぁ。或いはこういうのに憧れてたりするのか?」


「……それでうんと言うと思う? いやないと言ったら嘘になるけど」


 ジト目ながら否定を返さなかった我がクラスメイトだが、これも俺なりのさっきのカウンターだ。好きじゃないにしてもハーレムものが受け付けない男なんてそうそういないように、好きなキャラを傾向で問われたら素直に頷こうとは思わない。だってそれはそこさえあればいいというのと同じじゃないのか。いやそうかもしれないけど。


「そりゃ私にだってお姫様になりたいって思うことくらいあるよ。綺麗なドレス着て、イケメン侍らせてさ」


「そりゃそうだよな。別におかしい話じゃないか」


「アンタだってハーレム作りたいって思ってるんでしょ? やだきもーい」


「は? ねえよ。いやホントに。……けど無双してみたいとは思うな、確かに」


 馬鹿にしたように笑うマリを適当に追い払いながら、感じていたのは納得だった。これは憧れの話だ。誰だってなりたいものがあって、今は異世界系でそのイメージがしやすい。それくらいの妄想なら多くの人が一度といわず何度もやっているだろう。


 さて、なんでこんな話を長々としたか、もうお分かりだろう。


 この話の数日後、俺は死んだからである。

 死因は刺殺だったがそんなことはどうでもいい。この日話したことがきっかけだとしか思えないから、この話から始めるべきだと感じただけなのだから。



 自分は転生した。その事実に気づいた時、驚きよりも喜びの方が強かった。

 転生ものを嗜んでいれば誰もが夢見るシチュエーション。その当事者になったのだから当然だと思う。そしてそれは転生した世界のことが分かってきた頃だったのもあった。


 ここは前世で見た別作品の世界とかではなかった。だけどファンタジー世界であることは間違いなくて、それを知った時の感動は大きかった。その後魔法があることや、剣技の強さがステータスの一つとして認められていることも分かって、幼いながらに心が躍ったものだ。


 ギルド、モンスター、冒険者。魔王或いはそれに近いものはまだ聞こえてこないが、大体のモノは揃っている世界。最高。ありがとう。なんていい世界。転生する際に神様とかに出会ったりはしなかったけれど、きっと何かしらの才能があると信じてたし、なくても前世の知識を使えばなんて妄想も止まらなかった。


 そして第二の生を受けて16年。前世と同じくらいの年月が経った頃、自分はある一室の椅子に腰を掛けていた。ここに座って相手を待つことが今の自分の役目であり、ここ数日は殆どをそれに費やしていた。


「――様がお見えになりました。入室を許可してよろしいですか?」


「はい、お願いします」


 柔らかな笑みと共に言葉を返し、お客様を招き入れるよう指示する。澄ました顔のまま頷いた高齢の執事がドアノブに手を掛けたのと同時に、自分の中で接待用の態度へと思考を切り替える。可愛らしく、だけども失礼のないように。


 だって、私はこの国の第三王女。シズリア=アンフェイルなのだから。


(ちっがあああああああああああああああああああああああああう!!!)


 魂の叫びが内心で木霊する。転生した事実と自分が女に生まれたことを認識したのが同時で、三歳にして天才子役もびっくりの崩れ落ちを体現することになった。

 いや百歩譲って女になったのはいい。生まれた家が問題で、何とびっくり王家だった。これじゃ冒険なんてさせてもらえる気がしない。失敗もいいところだ。


 それが分かってから、鏡に映る自分の姿も見え方が大きく変わってしまった。輝く黄金の髪は軽くウェーブがかかってて。大きく開いた瞳はエメラルドグリーンの光をキラキラと放っていて。それが自分であるということ以外非の打ち所がない美少女がそこにいた。


 その容姿のせいで百年に一度の美少女だの天使の生まれ変わりだの言われてしまい、王家の人間であることも重なって絶対に危険にさらされないようにと厳重な警護が敷かれてしまっていた。可愛い子なんだから少しくらい旅をさせてほしいんですけど。


 それでも冒険の夢を諦めきれずにこっそりと筋トレを始めるも、何かの呪いなのか異様に筋肉が付きにくい体質であることが発覚した。意地になって生活の全てをトレーニングに捧げたことでようやく念願の筋肉が付き始めたと思ったら、それを知った両親から頼むからやめてくれと懇願される始末。別にドレスの下がムキムキでもいいじゃないかと口喧嘩になったのは記憶に新しい。結局監視の目が増えたせいで計画は頓挫してしまったのだけど。


 こうして今は望まれた通りの王女さまを全うする日々になってしまった。無論不満はある。だけどこの世界で生きる中で私が今いる立場とそれに伴う責任を十分に知ってしまった。だから前世から抱き続けた夢には蓋をして、第三王女として生きることを決めたのだった。


 だけどまぁ、たまにその憧れに恋焦がれるくらいは。誰もが抱く理想の姿に溺れることくらいは許してほしい。そんなことを思いながら、扉の向こうからやってきたその方に微笑みを向けた。



 突然だが自己紹介をしようと思う。初めましての人は初めまして、私は夜咲麻里奈。どこにでもいる花の女子高生だ。別に何か特別な力があるとかもない。友達と遊んだり部活をしたり、帰り道や家では大半の時間をスマホで潰す。そんな平和な日々が私の日常だった。


 そしてこれまた突然だが、私は死んでしまった。我ながら情けないとは思うが、その時のことはあまり思い出したくないので割愛する。本当なら私の話はそこで終わるのだが、実際はそうはならなかった。


 私は転生した。転生者という特別性を秘めて、私はもう一度生きることを許されたのだ。会ったことはないけど、多分神様とかの仕業だと思う。


 困惑もあったけど、また生きていけることが嬉しかった。あんな終わりを迎えてしまったこともあって、今度は天寿を全うしてやろうと意気込む私がいた。


 そう決意してから16年目のある日。私はとあるドアの前に立っていた。少し待つように言われてから、着ているシャツの襟や整っているはずの髪を何度もつい手で直してしまう。何せ数メートル先にいるのは超が付くほどのVIP。前世と今世の経験値を足しても平静を貫くには足りなかったらしい。


「どうぞ、お入りください」


「失礼します」


 軽い会釈を交えながらその部屋へと一歩を踏み出す。それはこの部屋の主へと近づく行為にほかならず、それ以上の距離を縮められるか否かがこれからの弁舌に懸かっていた。


「お初にお目にかかります。私はナハト=ノースティスと申します」


 これがこの世界での私。少し高めの少年の声で、あどけなさの残る顔で笑顔を作った。


(どうしてこうなったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!???)


 異世界に来たら男の子になっていた。こういうのって性別が変わらないのが一般的というか通説じゃなかったのか。この世界においても美形に入る顔立ちだったのが救いといえば救いかもしれない。


 青みのかかった黒髪に、凛々しさよりは可愛さが勝る顔の造形。16歳にしては高い身長だが、声も顔も背もまだまだ成長の余地が残っているように感じている。きっと2、3年もしないうちに更なる美形として成長を遂げるだろう。


 因みに生まれは地方の貴族の三男だった。貧しくはないが裕福とも言い切れない。だけど不自由はしなかったのでこの生まれに感謝はしているが、こうして第三王女に謁見するまでにあった苦労や諸々を踏まえると手放しに喜べるものではなかった。


 冒険者になるまでの修行の日々。相棒との離別。大事な仲間との出会い。今の立場になるまでに経験した戦いの数々。目を瞑ればこれ以上の思い出が蘇ってきて、今この場にいることの意味も増すような感覚が襲ってくるようだった。


(駄目だ、弱気になってちゃ。ここが正念場なんだ、気合を入れろよナハト!)


 脳内で喝を入れて逸れた集中を軌道修正する。きっと緊張のせいだと思い込んで目の前の美少女と向き合った。ここに来た目的を見失わないようにしつつ、必ずそれを果たすと決意を新たにしながら。



「お初にお目にかかります。私はナハト=ノースティスと申します」


「初めまして、ナハトさん。シズリア=アンフェイルと言います」


 互いに初対面の挨拶を交わす二人。微笑みを交わしながら出会えたことに感謝するような、朗らかな空気が場に満ちていく。


((この人いいなぁ! こっちに転生したかったなぁ!!))


 けど内心はどちらもしょうもない嫉妬でいっぱいになっていた。


(何この美少女。髪綺麗すぎて神ってない? 眼とかどうなってんのエメラルドそのものじゃん。この世のもんじゃないよこんなん。こんなお姫様になってみたかったなぁー!)


(主人公みたいな顔してますねこの人。ぱっと見冴えないようでいて何人もヒロイン候補がいる気配がする。しかも剣も魔法も強いんでしょう? なんでこっちに生まれなかったのかしら……)


 偏見のクロスカウンターを無意識に決めながらのファーストコンタクト。つまり表面上以外は最悪の出会いだった。二人とも日頃からこんなことを考えて生きているわけでは決してなく、この二人だったからこその奇跡だった。  


「どうぞお掛けになってください。私も噂を聞いて気になっていた所なんです」


「失礼します。噂というのはもしかして……?」


 そんな内情を知る由もなく会談が始まった。通常なら単なる謁見の場に過ぎないのだが、今回はその相手の事情が異なっていた。


「えぇ、大砂漠に現れた古代竜の討伐。その立役者だったあなたの噂です」


 それは冒険者としての名声が王家まで届いたことの証明だった。国の内外問わず出没する厄介なモンスターの撃退及び討伐。それが冒険者と呼ばれる者たちに課せられた役目の一つだ。この少年はその大役を既に担うだけの力を身に着けていたのだ。


「私の力だけではありません。私を信じ力を貸してくれた仲間たちがいたからこそです」


「謙遜なさらないでください。それもあなたの力の一端なのでしょうから」


 真面目に返すナハトを嗜めるように言うシズリア。無論小さく笑うことで冗談だと伝えることも忘れていない。


(最年少で最高位のファーストになってるんだから謙遜しなくてもいいのに。私だって戦うことが許されていればそれくらい楽勝のはず。だって転生者だし!)


 あと心の内に燻るイラつきを隠すのも忘れていなかった。前世経験から妙に主人公っぽいと意識してしまうシズリア。そのせいで変な対抗意識も一緒に燃えていた。


「仲間の皆さんのことも聞いています。どの方も頼もしいと評判みたいですね」


「はい。彼女たちにはいつも助けられてばっかりで……いやすみません。振り回されてばっかりですはい」


 言っている途中で何か思い出したのか、一瞬生気を失った目で顔を逸らした。どうやら彼は彼で苦労があるようだった。


(大変そうだけど、今彼女たちって言いましたよね。やっぱりハーレムじゃないですかコイツ。幸せ税ですちゃんと納めなさい)


 こちらも一瞬だけ見下すような目を向けて嗤う。ここ10年の社交界で培ったスキルの一つだ。万が一にもバレることはない。


「それでもあなたたちのパーティが街を救う一助となったのは事実です。ですので王家公認の証、ゼロランクへの昇格を認めようと思います」


「本当ですか! ありがとうございます!」


 ここに来た目的が果たせるとわかり、途端に歓喜の表情に変わって頭を下げるナハト。礼に欠けているとしても、素直な喜びと感謝を示せる人間には好印象を抱くものだ。よっぽどひねくれていない限り。


「今回の件だけではありません。それ以前から何度か私の耳に入ることがありましたから、今回の件はきっかけにすぎませんよ。ぜひその力で多くの人々を――いえ、冒険者らしく生きてください」


 本心には本心をと、若き冒険家に心からのエールをシズリアは口にした。せめて自分にはできなかった生き様をと、そんな気持ちも籠っていたかもしれない。


「はい、それは必ず。相棒と約束しましたから」


「相棒? 今のパーティメンバーの中にそう言わせる方がいるのですか?」


「いいえ、今のパーティにはいません。アイツはこことは違う空にいる。だけど別れる前に約束したんです。お前はこっちで最高の冒険者になれって」


 照れくさそうに言う少年だが、後半は何かを堪えるような声でもある気がした。言葉にはできないほどの何か。それが彼と『相棒』の間にあることは予想に難くなかった。


(相棒って何!? 絶対ドラマティックで熱い友情物語が裏にあるんだわ! その手の出会いの方が羨ましい!)


 そしてそれを勝手に膨らませたシズリアが微かに顔を紅潮させる。ここまでくると嫉妬よりも羨望の方が上回っている。冒険者として自分が手にしたかったものを大体持っているナハトは、シズリアにとっては憧れの星そのものになりつつあった。


「もしかして、ゼロランクへの昇格を希望したのも?」


「その一環です。でもまだまだ進む先は長い。もっと頑張らないと」


 それはこの世界を生きるナハトの言葉であり、また前世から続く麻里奈の本心でもあった。かつての憧れもまだあるが、それとは別に生きる道を既に決めている。だからこそ今ナハトとしてここにいるのだった。


「なるほど、ゼロランクすらもただの通過点だと。私も行く末が気になってきました、ナハトさん」


「! はは、じゃあ見ていてくれると助かります」


「ええ、この世界の冒険者たちの武勇伝はどれもワクワクしますから。王都にいる私の耳に届くくらいの活躍を期待していますよ?」


 お気に入りのおもちゃを見つけたような笑みになってしまって、少し緩みすぎたかもしれないとシズリアは思う。けどそれを許してしまうほどの魅力をナハトは秘めていた。やっぱり主人公みたいだなと、先ほどの直感を褒めたいくらいに。


「シズリア王女も冒険がお好きなんですね」


「はい、それはもう。叶うのなら私もあなたのような冒険をと考える時期もありました。もうそれは届かない星となりましたが」


「……ああ、婚約の話ですか」


 触れるかどうか迷ったが、観念したような気持ちでナハトは相槌をうった。あちらから振ったのなら付き合うのがこの場の正解だと悟った故の即断だった。


「はい。王家に生まれた以上分かってはいますが、それでも多少の心労は溜まりますので。次もこうして会えるかも怪しいですから」


「こちらも噂で聞く程度でしたが、やはり大変そうですね」


 ナハトは今の王家の情報を知らない。元々自分とは関わりの薄い世界であること、単純に知る機会が失われた末の現状であり、こうして王都に来ることで人伝に耳に入ってきたことが精々だ。そんなホットニュースを当事者から聞けるならむしろ儲けものだとすら思っていた。


「来る日も来る日もお見合い、やれ挨拶回りで疲れてしまって。息つく暇もないんですよ」


(ふーん、やっぱり王女ともなると大変なんだなー。そうなると冒険者としての今の方が気楽でいいかも)


「あ、だけど先日は舞台俳優のハーゲンさんとお話させていただいて。知ってますか? あの有名な――」


(嘘、あのハーゲンと!? 主演舞台はチケット即売れで私も取れたことないのに! これが王家のコネってやつかきたねぇ!)


 イケメンマウントが来ることは予想していたが方向が予想外だった。もしかして自分の方から王家の力を使って話しかけにいったんじゃ? とそんな邪推すらしてしまう。世界が変わってもサブカルへの興味は尽きなかった故の動揺だった。


「やはり色々な人との出会いがあるんですね。なら運命の相手とも出会える、というのは言いすぎでしょうか?」


「いえいえ、私もそうなってほしいと思っていますから大丈夫です。だって私たちはまだまだ夢を見ることが出来る。ナハトさんが最高の冒険家を目指すように、私も私なりの幸せを。最愛の殿方と添い遂げる、なんて物語みたいな憧れを持っていますから」


 片目を閉じ、唇に近づけた人差し指で秘密の合図。金髪の美少女が悪戯を内緒にするような態度には、同姓ですら気を引く魅惑の力が満ちていた。


(は? これで落ちない男はいないだろ。見た目のわりに面食いなんじゃないのこの娘。可愛いは正義ってこういうことなんだろうなちくしょう!)


 ナハトが感じたのは敗北感。今はもう男だからいいじゃんという気持ちと、でも勝てないなと受け入れ態勢を整える自分が同居していた。


「……そうですね。では自分はそろそろこれで。ゼロランクの件、ありがとうございました」


「わかりました。微力ながら応援していますね、ナハトさん」


 こうして話は終わった。多少の差はあれどお互いに得たものを確かめながら、二人の距離は開いていった。最後に目を合わせた一瞬、思考が再びシンクロした。


((ああなれたら、そっちもよかっただろうな/でしょうね))


 けれどもそれは一瞬のこと。そんな気持ちはページをめくる様に裏返し、それぞれの日々に戻っていった。


(あの時のマナがなりたかったのも、こんなお姫様だったのかな)


(アイツが想像してたのが、こんなのだったりするのかしらね)


 結局それはすれ違い。交わることなんて――。



















「あ、ハーゲンさんの舞台チケット。予定が合わなくて困っていたのですが」


 シュバッ


「この御恩は忘れません、シズリア王女」

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