第51話
侯爵邸でイエルド・カルネウス伯爵の話を聞いたハリエットは、
「あら、あら、あら、あら、それは困った事になりましたわね〜」
と、小首を傾げながら、片手を頬に当てて、ため息を吐き出したのだった。
「クーデターを引き起こそうとした連中は全て捕縛が済んでいるので、王宮内に潜伏した帝国の間諜が策を弄する事にしたのでしょう。それが殿下と王妃の暗殺という事になる訳ですが、それが理由で明日の貴族院の大会議は中止、帝国の間諜の娘であるフィリッパ嬢とレクネン殿下との結婚を推し進めようとしていたマグナス王は現在、軟禁状態となっているのです」
フィリッパはここで攻略対象者と親密度をアップするターンに入るはずなのだけれど、王弟エルランドとイングリッドがうまい具合に動いてくれたおかげで、ヒロインムーブを阻止する事に成功したらしい。
アハティアラ公爵家の面々は捕縛され、裁判後に断罪される事になるだろう。完全にヒロインのバッドエンドを決定付けていた。
最推しであるレクネン王子が怪我をしなくて良かったと、ハリエットは安堵のため息を吐き出しながら、
「それで、なんで私が王宮に上がらなければならないのでしょうか?」
と、伯爵に向かって疑問を吐き出した。
「帝国が不穏な動きを見せている間は、エルランド様は自由に動ける駒であった方が良いと考える者も多く、レクネン殿下を次の王位に就けたいと考えているのでしょう?であるのなら、婚約者候補の方々を王宮に呼び寄せるなりすれば良いのでは?」
婚約者候補筆頭であるイングリッドがレクネンの伴侶となるのは想像がつかない、義妹のヒロインフィリッパは論外、それ以外にも三人ほど殿下の婚約者候補は残っていたはず。
「私のように年上の年増をまず王宮に呼ぶよりも、見目麗しい方々に先に声をかけた方が良いのではないでしょうか?」
ハリエットの言葉にイエルドが信じられないという表情を浮かべるため、ハリエットの首は更に傾いていく。
「もしかしてお父様の事を気にされてます?確かにお父様は私が後の王妃となる事を願ってやまない人ですけれど、私の手のひらでコロコロ状態なので何の問題もありませんよ」
「いや、そうじゃなくて」
「ああ、もしかして殿下が何か言っていました?ハリエットが近くに居ないと嫌だとか何とか文句でも言っているんですか?だとしたらお父様に言って、殿下の専属の侍女として王宮に上がれるように手配致しましょうか?」
「ハリエット様、それを本気で言っているのですか?」
イエルドから胡乱げな眼差しを送られて、ハリエットは思わずため息を吐き出した。
皆が勘違いしているようなのだが、推しはあくまで推しであり、推しの人生が豊かで幸せになるように下支えするのがファンの役割でもある。
推しがお金で困るようであれば課金するのもやぶさかでは無いし、出来る事なら何でもやろうと考えている。最善策としては侍女として殿下(おし)の側に仕えるのがベストなのかもしれないし、侍女として働いたことはないが、前世平民だったハリエットとしては、お茶を淹れるくらい今でも出来る。
「私、何か変な事でも言いましたかしら?お茶も淹れられるし繕い物も出来ますし、殿下の側仕えとして十分に働けると思うのですけれど?」
「そうじゃない、そうじゃないんです。ハリエット様、この際突っ込んだ質問をさせて頂く事になるがお許し頂けるだろうか?」
「ええどうぞ、私に答えられる事は何でもお答え致しますわ」
「それでは質問しますが、殿下は貴女を心底愛しているのです。貴女の為なら何十人と殺す事も出来ますし、貴女の為とあらば国だって滅ぼしますよ。そんな殿下に対して貴女はどういった感情を抱いているのですか?愛しているんじゃないのですか?」
「はあ・・・愛ですか・・・」
ハリエットの脳みそは一瞬、宇宙を彷徨ったが、すぐさま帰還を果たす事になった。
殿下が私を愛している?殿下が私を?愛している?
「ま・・まさかあ!オーグレーン一族は地味な見た目、地味な色味で一度は隣国から追放処分を受けたような一族ですよ?そんな一族の私を?あ・・あ・・・あ・・・・・」
顔を真っ赤にしたハリエットは自分の顔を両手で覆うなり言い出した。
「ないないないない!絶対ないですわ!その可能性はゼロです!」
「なんでゼロなんですか?溺愛しまくってますし、依存されまくっていますよね?今までのあの状態でそんな事を言います?それにハリエット嬢、貴女は十分に若くて可愛らしいですよ!」
そこで美しいと嘘でも言わないのがイエルドクオリティである。
「王妃になるのなら美しいだけで中身が無いなんて令嬢では困るんです!それこそ私に説教をするくらいの胆力の持ち主でなければ王妃など到底務まらない!」
「私、カルネウス伯爵に対して説教なんかしましたっけ?」
「したでしょう?赤ちゃんを放置するなんてあり得ない!赤子は国の宝だと豪語されていたじゃないですか?」
「それは真実を語っただけです、説教なんかではありません!」
「それに、殿下の頭をひっぱ叩いて怒るのも貴女だけですよ!」
「あれは!暗殺者が襲いかかってきた時に、身を挺して私を庇おうとしたから!」
「ほら!それくらいの方ではないと王国を率いてなんていけないのです!」
いやいやいやいや、そんな事はないだろうと思いながらハリエットがため息を吐き出すと、イエルドがうんざりとした様子でため息を吐き出した。
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