第41話
「ご先祖様は代々、次に賢者の石を使われた時にこそ、我が一族が阻止をするのだと息巻いていたそうだ。白光水晶の調合に成功して二十年か、それで今、賢者の石が使われたという事は、チヤカリアが堕とされたか」
「帝国は我らの知らぬ間にチヤカリアから賢者の石を運び出したようです。お嬢様は毒を盛られたのですが、そこで使われた毒の中の成分に賢者の石と同一のもがあると、知識の塔にて確認されたというのです」
「知識の塔には確かに、賢者の石のカケラが保存されている。そういえばチヤカリアから我が領地に運ばれてきた年に、お嬢様は王都から領地に居を移していたはず」
「夫人に見せられた賢者の石の事を覚えていたのだそうです。それで、賢者の石が恐らくレスキナ帝国の皇帝に使われたのではないかと」
「つまりは、毒物は帝国由来のものだったという事か?」
「そうなんです」
リンドロースは帝国が王国に麻薬を蔓延させるために、アハティアラ公爵領に麻薬の精製工場を作っている事。その事に公爵家当主と元側近が関わっている事、帝国が八万の兵士を用意して我が国を蹂躙するつもりでいるという事を兄に語って聞かせる事になった。
「ふむ、とにかく皇帝を正気にするのがまず第一と言えるだろう。幸いにも弟のオリヴェルが皇宮で専属薬師として働いているだろう?あれを使って解毒剤を皇帝に飲ませよう」
「帝都まで誰を送り込みましょうかね?」
「お前に決まっているじゃないか!」
兄は容赦無く、疲労困憊のリンドロースに向かって笑みを浮かべた。
「お前ほどオリヴェルに似ている兄弟もいないし、お前は帝国の公用語も問題なく使えるではないか。お前以外に適任はいないだろう?」
「似ていると言えば兄上だって十分に似ていると思いますが?」
「それじゃあ、お前が私の代わりに白光水晶の採掘を行ってくれるのか?」
白光水晶は通常の水晶と違い、魔鉱石の中に埋もれながら成長する事になる。採掘する際には最新の注意が必要だし、狭い穴の中での作業となるため、足腰が大変な事になる。
「採掘よりかは、よっぽど楽だと思うのだがのう?」
「そうですね・・帝都には私が向かいましょう」
「それじゃあ、お前が持っていける限りの白光水晶を用意しよう」
「え?」
「だって、向こうじゃ大勢が洗脳されている事だろうから、絶対に他では用意できないこの白光水晶が必要となるだろう?」
「あああー〜」
国境線上にはすでに帝国兵が集まり始めている。
海路を使って帝都を目指してもいいが、陸路と比べると倍は日数がかかる事になる。急いで皇帝を正気にするには陸路一択といった所だろうが、大荷物を抱えて敵の間をすり抜けて移動とか、考えるだけで気が重くなってくる。
「おそらく、賢者の石を含んだ麻薬とやらは、エヴォカリ王国中に広がっておるんだろうな?であれば、一族総出で解毒剤作りを始めなければ」
「そこの所は、領主館にお嬢様が居るので相談頂ければと思います。何でも複数の都市がすでに麻薬の汚染で酷い状態となっているようなので、カルネウス伯爵の持つ商会が解毒剤については一括管理をすると言っています」
「それは重畳、過去にも効果の弱い解毒剤でも取り合いとなって大騒ぎになったというからな。金持ちに独占されないように配られると良いのだが」
「まずは貧民街に配ると言っていましたので、大丈夫じゃないですか?」
「はあ?」
貴族は階級意識が強いもの。強力な解毒剤が手に入れられるというのなら、まずは高位の貴族が独占するものと考えたのだが・・
「レクネン殿下主導で解毒剤の分配は行われるとの事です。殿下としては腐った貴族はこの際ゴミ箱に捨ててしまって、住みやすい国作りをしたいのだと」
「嘘だろ?」
「本人から直接聞きました」
リンドロースはカルネウス伯爵邸を訪れた際に直接、王太子殿下と顔を合わせている。ゴミはゴミ箱にと、殿下は面白い事を言っていたが、あの様子では本気でゴミ箱に捨てるのだろうとリンドロースは考えていた。
そのゴミの中にはきっと、アハティアラ公爵やマグナス国王陛下も含まれるのに違いない。そう考えると、当主を無視して館を飛び出して来たのは結果オーライだったのではないかとも思うのだった。
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