第20話

 この世界は魔法と魔石によって発展した世界だ。


 世界が魔力に満たされている関係上、空気中に漂う魔力を吸い込んでいる関係で、人や動物は体に蓄積された魔力を『魔法』という形で発散することが出来るようになる。


 土中にもこの魔力が含まれている為、魔力が結晶化した石『魔石』が発掘されているし、魔石を動力源とした魔道具が数多く生み出される事にもなったわけだ。


 魔力が多く含まれているのが魔石となるけれど、その魔石が埋もれていた土壌の成分にも多くの『魔力』が含まれている。

 魔力が結晶化したものを『魔石』と呼び、魔力を多分に含んだ鉱石の事を『魔鉱石』と呼ぶ。


 この魔鉱石の中には、土壌の成分によっては麻薬のような効果をもたらすものがそれなりに存在する。


 アハティアラ公爵家が所有する鉱山で産出されるジオードという、魅惑的なほど美しく青い結晶を作り出す鉱物は、ハンマーで砕くと簡単に砂状に変化する。


 カンデラリアという快楽成分と興奮作用を持つため、依存性が高く、奴隷を酷使するために利用していた過去がある。


 今回、イングリッドに使われた毒にも魔鉱石が含まれていたのだが、この中に特別な物が含まれていた事が判明したらしい。


『賢者の石』と呼ばれる、歪な形状をした深紅の魔鉱石は、南海洋に浮かぶ多島郡を支配下とするチヤカリア王国でのみ産出されるものとなる。


 ベルディフ大陸統一まで後一歩という所にまで差し迫った、凶王アドリアヌスを殺した毒が『賢者の石』であり、多大な魔力を生み出す力と激しい快楽と依存を生み出す効果をも併せ持つ。


「「ああ、これこれ、下にピリピリするこの感覚、まさにこれこそ『賢者の石』と呼ばれる特級品だわ!何でこんなクソ高そうな魔鉱石使ってんだろう?混ぜ方がクソだから一気に粗悪品になっているのが悔やまれるな〜帝国って頭がおかしいのかな?」などと令嬢が言い出しまして、そこで改めて我々の方でも調べましたところ、間違いなく『賢者の石』が使用されている事が判明した訳でして」


 令嬢とは思えない発言を加えたアレッソの話を聞いて、塔の長であるミカエルは思わず自分の頭を抱えてしまった。


「令嬢がそんな事を?しかも鉱石を舐め回す?」

「砕いたものを少量、舌に乗せるという形をとっていた感じですが、何度も毒物を繰り返し確認しているような、堂に入った確認作業でしたな」


「令嬢は以前からこのような毒物の確認を行っていたという事だろうか?」

「鉱物毒についても亡くなったお母様から教えられたと言っておりましたので、毒物の判別方法もその時に教わったのかもしれませんね」


「イングリッド嬢の御母堂が亡くなったのは、令嬢が六歳の時ではなかったか?」


 しばらくの間、黙考した後にミカエルは問いかけた。


「アレッソ、お前は我が国で一番の毒の使い手と言われているが、お前はご令嬢の事をどう判断した?」

「天才、鬼才の部類に入るかと思います」


 アレッソは数々の毒を作り出す事が出来るが、第三者が作った毒物に対して、あそこまで詳細に判別する事は不可能だ。


『賢者の石』それは、多大な魔力を生み出す力と激しい快楽と依存を生み出す効果を併せ持つ。凶王アドリアヌスを滅ぼした『賢者の石』には秘された特徴が一つある。


 この世を滅ぼす力があるとまで言われる石は、チヤカリア王国でしか見つからない。その為、チヤカリア王家は厳重な守りの中に『賢者の石』を置き、決して他国には流れないようにしているのだが。


「帝国は鉱物毒を良く使用する、その中に『賢者の石』が利用されるようになったということは、チヤカリア王国が帝国に堕とされたか・・・」


 エヴォカリ王国が知らぬ間に、ベルディフ大陸の勢力図が大きく塗り替えられていた事になる。

 その事に今まで気が付かなかったミカエルはその場で歯軋りをすると、部下に指示を出すためにすぐさま立ち上がったのだった。


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