第12話

 エルランドは生まれ変わる前、このような形で異世界転生をする前は、普段は運送屋でトラックの運転手として働きつつ、即応予備自衛官としての訓練を受けていた。


 十二歳の時に学校近くにある河川が氾濫し、多くの家が水に飲み込まれる中、自衛官に救出された事があった為、高校卒業後に自衛隊に入隊する事にしたのだ。


 十年ほど自衛官として働いたのだが、体を壊して退職する事になったのだ。上司の勧めもあって、辞めた後も、即応予備自衛官として籍を残す事になったのだった。


 即応予備自衛官の場合、一年のうち三十日を教育訓練に当てなければならない為、休みの取りやすい派遣の運転手として運送会社に勤める事にした。


 運送会社で働いて得た給料にしても、自衛隊から与えられる手当てにしても、たいした金額になりはしない。結婚するのも、子供を持つのも、この給料形態では絶望的。

 普通の幸せについては諦めながら、有事の際には国の為、人の為に役立てる人間でありたい。


 そんな信念を持ちながら、生活していくのはやはり苦しくて、息抜き代わりに利用していたのが無料で読める小説のサイト。悪役令嬢が出てくるのが特に大好きで、悪い奴らが、ざまあされたり、ざまあされたり、ざまあされたりするのを読みながら、日頃の鬱憤を晴らしているところもあったのかもしれない。


 久しぶりに自衛隊の同期で集まる事になって、しこたま酒を飲み過ぎたのは間違いない。急性アルコール中毒を疑われて、救急車で搬送されて、病院で可愛い看護師さんに点滴を打ってもらって、病院から徒歩で帰ろうとして、車に轢かれて、異世界転生したわけだ。


「ああー・・軍人生活に違和感ないのは当たり前なのかも〜・・魂に染み込んだ自衛隊魂みたいなものがあったのかも・・」


 十五歳で初陣を果たしたエルランドは、あっという間に将軍位に就き、今では王族の代表として軍部の統括を任されている。


 そんなエルランドがまず始めた事が森林地帯での野外訓練であり、食料などは一切持たずに、現地調達で3日間を過ごす事を全部隊に実施させた。


 眠る時には切り倒した丸太にしがみつくようにして寝るように指導、自衛隊のように幹部候補生には食料の支給なんて事は行わない。

「幹部はいいな〜」

と、前世では散々羨ましがってきたエルランドは、訓練中の階級による待遇の格差を作る事をやめた。


 幹部も幹部候補生も、全ての人間が現地調達、寝る時には丸太にしがみつきながら暖をとって就寝。


「毛布にくるまって眠るよりも、丸太にしがみついた方が案外暖かったりするんだな〜」

と言って、一部の人間には好評価となったものの、丸太で就寝については物凄く不満が出たのは間違いのない事実。


 どんなに文句が出ても、定期的に野外訓練を全部隊に実施し続けたのは、

「知らぬ間に・・自衛隊魂が・・・」

と、思わずにはいられない。


 回復したエルランドは仕事に戻る事となり、執務室で書類を裁きながら密かに頭を抱えていると、側近のウルリック・ルイマンが紅茶を盆に乗せて戻ってきた。


 ウルリックは髭面の熊みたいに大柄な男なのだが、人懐っこい性格から協調性が高く、戦地で部隊を動かす際には非常に優秀な働きを見せる男でもある。


「毒味は済んでいますので〜」


 エルランドのデスクの上にマグカップを置くと、そのまま、自分の席へと戻って行ったウルリックは、マスケット銃に剣を装着したものを持ってエルランドの前まで戻ってきた。


「エルランド様考案の銃剣なんですけど、最終検査を済ませたものをお持ちしました。重心の位置をやや低めに設定し直して、剣の位置も銃弾発射の邪魔にならないように設置出来たと思いますので、後ほど、確認頂ければと思います〜」


 銃を受け取った途端に、銃床を頬に当てて即座に構えてしまう自分を何とかしたい。

 そもそも、この世界は、剣と槍と弓矢と魔法で戦う世界であり、銃なんてものは存在しないはずだった。


 王族であるエルランドは風と炎の魔力を持って生まれ出たのだが、優秀な魔法使いでも、炎で相手を追い払ったり、風の力で衣服を切り刻むという程度の事しか出来ない中、鉄の筒と小石を使って、殺傷能力高めの技術を磨いたのがエルランド八歳の時の事となる。


以降、知識の塔のお歴々とは仲良くやっている関係で、この世界になかった武器がポコポコ生まれ出ているような状況なのだが。


「ああ・・勝手に時代を動かしていた・・・」


 エルランドは前世で、銃剣道選手大会で優勝をした経験がある。そのため、マスケット銃の開発に目処が立った時点で、前線で敵軍と衝突する事が多い第六師団に対して銃剣道の特訓を行っていた。


 訓練中に使っているのは、マスケット銃に剣を取り付けた長さで作った木銃であり、それを一昔前まで使っていた全身鎧(プレートアーマー)を装着した上で、戦闘訓練を行っていたわけだ。


 ちなみに、銃剣道は剣道と同じように防具を装着した状態で、銃剣術用の木銃を使って戦うスポーツであり、競技人口のほとんどが自衛隊関係者という事になる。


 銃剣がまだ完成していないというのに、弾が尽きた後の接近戦に向けての訓練をすでにしているのだから、どうかしていると言えるだろう。


 


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