19 役得
「はい」
イーダが俺のそばまで来る。
「イーダ、悪いが、俺に法力を補充してもらうぜ」
「わかった……です」
ミエリッキが訝しげな顔をする。
「なに、ここでパルピオンテ移転法を使うの? 二時間もかけて? それだったら、やっぱりいったん帰って日を改めて……」
「せっかく火炎竜をたおしたんだ、日を改めたらまた同じように火炎竜クラスの魔物が補充されちまうかもしれん。あんなのと何度も戦うことはねえだろ? 新しい魔物が補充される前に、……つまり今日中にダンジョンを攻略しよう。それに、パルピオンテ移転法じゃないぞ。……粘膜直接接触法だ」
「はあああ!? もっと駄目じゃない、粘膜直接接触法なんてやっちゃったら、副作用であんた、戦えなくなっちゃうわよ?」
「ああ。ミエリッキにはまだ言ってなかったな。これは俺のとっておきだけど、仲間なんだから知っておいた方がいいだろう。俺はな、特異体質で粘膜直接接触法の副作用を受けないんだ。相手はもろに副作用をくらうけどな。イーダ、悪いな、また苦しませちまう」
「……いいえ、大丈夫、です。ご主人様みたいな強い騎士様のお力になれて、……嬉しい、です……」
と、ミエリッキが眉をしかめて、
「騎士? あんた、騎士なの?」
あ、と口をおさえるイーダ。
そこは秘密にしておきたかったよな。
俺がターセル帝国の騎士号を持つ封建領主だということは、ぎりぎりまで言わないでおくことにしてたのに。
傭兵ギルドといっても、国をまたいだ組織ではなく、基本的には獣の民の国を中心とするギルドだ。
ターセル帝国の公式政府の息がかかった人間だとばれると、へたすりゃスパイ扱いされちまうかもしれん。
うーん、どうすっかなあ。
いや、まだごまかせるかな?
「ああ。俺の母親は騎士号、つまりアルゼリオン号を持つ騎士だった。本来なら俺も騎士なはずなんだ。……けど今はお家騒動で没落しちゃってな。しがない傭兵さ」
山賊に身を落としたプネルのことを思い出しながら俺は言う。
プネルやプネルの仲間の没落貴族たちは、あのとき一斉蜂起をして、ヘンナマリ派討伐に一定の戦果をあげた。
その報奨として、今は騎士号とアルゼリオン号を得てどこか小さな村の領主をやっているはずだ。
今は俺が没落騎士だということにしておこう。
「ふーん、なるほどねえ。ターセル帝国の没落騎士はよく、誘拐を生業とするような盗賊とか山賊に身を落とすって聞くけど、あんたもそのクチか」
「まあ、似たようなもんだな」
うむ、なんとか納得してもらえたようだ。
さて、今はそれどころじゃない、法力を使いすぎて心臓までドキドキしてきた。
「イーダ、頼む」
「はい」
イーダが俺によりそってくる。
そしてくいっと顎をあげて目をとじる。
俺はその唇に吸い付いた。
すぐにライトブルー色に感じられるイーダの法力が俺の中に流れ込む。
一分ほど舌と舌とを絡み合わせる。
キスの経験が浅いわりには、イーダの舌使いはテクニシャンだ。
粘膜直接接触法関係なしに、すげえ気持ちいいぜ。
れろれろと舌同士を接触させ、お互いの唾液を交換する。
こんな十四歳の美少女とキスできるなんて役得なんてもんじゃねえな。
目の端でミエリッキが顔を赤くしながらこちらをちらちら窺っているのが見えた。
結構ウブなんだな、こいつ。
まあチェリーの俺がいうことでもないが。
さらにイーダから法力をうけとるために、彼女の小さな胸を撫でるように揉み込む。
よりいっそう強くライトブルーの法力が俺に流れ込んでくるのがわかった。
しっかし、こんなことをさんざんしていてまだチェリーだってんだから、俺も相当なもんだよなあ。
「ぷはっ」
ディープキスのあと、俺たちは口を離す。
イーダが俺を見る目がとろんとしていて、やけに艶めかしい。
「ご主人様ぁ……もっと……もっとぉ……」
やばい、早くも副作用が始まったみたいだ。
「キッサ、サクラ、頼む! イーダ、ほんとにすまんな」
俺に呼ばれて、キッサとサクラがイーダの後ろにまわり、その腕を後ろ手に縛り付ける。
そして、まるで罪人を連行するかのようにイーダを二人が挟み込むようにする。
ほんとに申し訳ない、副作用のつらさはさんざんいろんな女の子に聞かされた。
でも、まさか戦闘中に俺に抱きつかれても困るしなあ。
こうするしかない。
そんな俺たちをいまだ頬を染めながらも、呆れたような顔で見ているミエリッキ。
「……あんた、ほんとに粘膜直接接触法の副作用、受けないの?」
「ああ、俺は、だけどな。こっちのイーダはもう始まっちまったようだけど」
「…………はぁ。あんた、能力もそうだけど、いろいろめちゃくちゃよね」
「自分でもそう思うぜ」
なにしろ、異世界からの戦士だからな。
ま、それをミエリッキに言うわけにはいかないけど。
それを言ったら俺がターセル帝国の人間だって自白するようなもんだしな。
「さあ、先に進もうぜ」
火炎竜の死体を踏み越え、俺たちは巨大な階段を降りていく。
っていうか、この階段、段差が普通の三倍はある。
なにしろ火炎竜みたいな巨大な生物が行き来できるように作られてるんだからな。
少なくとも人間サイズ用にはできていない。
階段を降りるというよりも、崖を下るのに近い。
おかげで、おれたちは階段を降りるだけで結構な苦労をすることになった。
きっと人間くらいのサイズの魔物なんて、せいぜいコボルドくらいなんだろうな。
そう思っていたのは、地下二階にたどりついて探索するまでだった。
そこで俺たちは人型の魔物――いや、それ以上におぞましいものと対峙することになるのだった。
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