15 ダンジョン制圧依頼

「ブフォアッ!」



 受付嬢が盛大に吹いた。


 無理もない、突然十人の裸の女を連れた人間が建物の中に入ってきたんだからな。



「あ、あんた、そいつら、まさか……」


「ああ、依頼通り、盗賊を捕縛してきたぜ。これでいいんだろ?」


「は、早いねえ……なかなかやるじゃないか……」



 俺は十人の盗賊たちを裸のままその場に並んで正座させる。



「ふーん、間違いなさそうだね……。依頼主の唇印ももらってきてるようだし……。うん、確認したよ、じゃあ報酬の金貨五枚、それにこいつらはどうする? 自分で奴隷商に売ってもいいし、傭兵ギルドで買い取ってもいいよ」


「じゃあ買い取ってくれ、売りにいくのもめんどくさいからな」


「わかったよ、んじゃ十人で金貨二十五枚でどうだい?」



 奴隷十人で二百五十万円か、一人二十五万円。


 ま、金は目的じゃないし、それでいいか。


 しっかし、この世界って日本で新車買うより安く奴隷が売り買いされてるんだなあ。


 人間の価値っていったいなんなんだろうか。


 受付嬢が鎖をひっぱり、今は奴隷となった元盗賊たちを建物の奥へと連れていく。


 ……過酷な強制労働が待っているだろうが、ま、頑張ってくれ、としかいえねえな。


 盗賊やら人殺しやらやっちまった自分を呪ってくれ。


 受付嬢が受付に戻ってきた。


 ……っていうか、受付嬢とかいってるけど、こいつ、結構年いってるよなあ。


 まあある程度のベテランじゃないと、傭兵ギルドに加入して仕事を斡旋してもらおうなんて荒くれ者どもをあしらうことなんてできねえんだろうけどな。



「さて」



 と俺は言う。



「次の仕事、貰いたいんだけど」


「うーん、そうさねえ。あんたら、かなり腕が立つみたいだから、もう一段階難しい仕事に挑戦してもらおうかね」


「望むところだ」


「じゃあ、ダンジョンに潜ってもらおう」



 ……ダンジョン?


 ってあれか、ゲームなんかでよく出てくる、魔物が巣食う洞窟みたいなところか。



「あんたも知ってるだろうけど、獣の民の国の南西は魔王軍の勢力圏と接している。そのあたりのとある場所に、小規模なダンジョンが作られた。そこを潰してほしい、というのが依頼さ。依頼主はアビアンナ・ローラ。つまり、ローラ族の族長様じきじきの依頼だ。そこにダンジョンがあると軍を動かしづらいらしい。ただ魔王軍を刺激したくないから、大規模に兵を動かして攻略するのもはばかられる、少人数でダンジョンに潜ってほしい、との依頼だ。報酬は金貨三百枚。人数は十人まで。小規模なダンジョンといえど、十人でひとつのダンジョンを潰すのはなかなか骨だと思うよ」


「潰すっていうのは具体的にどうするんだ?」


「魔物たちの軍事基地としての機能を破壊すればいい。入り口を岩でふさぐだけ、なんて駄目だよ、出入り口を他につくられたら何の意味もない。ダンジョン内の魔物をあらかた掃討した上で最深部のダンジョンマスターを殺してくれればいい。そこまでやってくれたらあとはローラ族の方でなんとかするってさ」


「ダンジョン・マスター……ってなんだ」


「あんた、腕が立つ割に何も知らないんだね。魔王軍が作るダンジョンには責任者として強大な魔物がダンジョンマスターとして派遣される。あいつらも組織だって動いてるからね。今回のダンジョンのマスターはおそらくトロールと呼ばれる魔物だ」



 トロールか。


 ゲームとかでなんとなく知っているな。


 おそらくこの世界でもトロールと呼ばれているわけじゃなく、俺の精神感応による自動翻訳によってトロールと訳されてる、気がする。


 その辺のシステムは自分でもよくわかっていないんだけどな。



「そのトロールってのはどんな魔物なんだ?」


「毛むくじゃらの巨人族だ、知能も高く、人語も解する。でかいわりにものすごく素早いから、並大抵の戦闘能力じゃ歯が立たない相手だが……あんたならどうだい、自信は?」


「もちろんあるさ」



 やっとでかい仕事がまわってきた。


 これはチャンスだ。



「よし、その仕事、受けるよ。人数は十人までとかいったけど、俺たちだけで……実質俺だけで十分だ。俺とこの四人の奴隷だけで制圧してくるさ」


「うーん……この仕事はローラ族の族長からだからね、なるべく成功させたい。あんたたちだけだと不安だから、もうひとり、あんたたちにつかせてもらいたい」



 お目付け役か。


 いや、しかしなあ。それだと目的に若干そぐわないぞ。



「俺たちは名を上げたいんだ、俺たちだけでやってくるさ」


「駄目だね、あんたたちはまだ傭兵ギルドに加入したばかりでその実力は私らには把握しきれてない。私らが信用する人物をつける。それがこの仕事の条件だ」


「……なら、仕方がない。そいつと一緒に行くよ」


「そうかい。よし、じゃあ……ミエリッキ! 仕事だよ!」



 受付嬢が奥のドアに向かって叫ぶ。


 少しして、そのドアが開き、一人の人物がそこから出てきた。



「例のダンジョン討伐だ、こいつらと一緒にいってくれ」



 受付嬢がそういうと、そいつは、ジロっと俺たちを見て、



「……強そうじゃないね。ま、私一人でもできる仕事よ、相方はなんでもいいけどね」と言った。



 白い肌、白い髪の毛、赤い瞳。


 キッサやシュシュと同じ、生粋のハイラ族っぽい。


 まだ若い、というよりも幼さすら残っている容姿。


 赤く輝く瞳は強い意志を感じさせた。


 長い髪を一本の三つ編みにしているのが特徴的だ。


 そして背中に剣を背負っている。


 剣、というよりも日本刀に近いように見えた。


 湾曲していて柄のつくりからして両手剣のように見える、やっぱり日本刀っぽい。ただし、通常の日本刀に比べてかなり長いように見える。


 そいつは俺の姿をジロジロと仰ぎ見る。


 仰ぎ見る、ってのはそいつの身長がかなり低くて、自然そういう形になるからだ。


 ただし、……なんつーか、胸だけはでかい。


 チビなのにでかいおっぱい……。


 あれだ、ロリ巨乳だ。


 パッと見、十代前半にしか見えない容姿だけど、その胸のでかさはキッサやサクラにも劣らず、そこだけ見ると成熟した女性のようにも見える。


 一言でいうと年齢不詳だ。


 そいつはふん、と鼻を鳴らすと、



「あんた、ガルド族ね……私の名前はミエリッキよ。私の足手まといにならないように頼むわね」と言った。


 


 

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