13 瞬殺
メイス。
RPGゲームなんかにも登場する武器で、トゲトゲのついたこん棒だ。
結構重い武器のはずだが、盗賊たちは細身の女だというのに軽々と扱っているように見えた。
「やあ」
気さくに挨拶してくる盗賊たち。
「どうも」
と返事をする。
「さて、ここの道は今、私達が管理してるんだ。管理費用として通行料金貨五枚ほどはらっていってもらいたいんだがね」
メイスをまるでチアリーダーのバトンのようにくるくると手の中で回しながらそういう盗賊。
いやいやメイスってそういう武器じゃねーから!
ま、よくみるとメイスが薄く青い光を帯びているのがわかる。
きっとなんらかの法術で軽く扱いやすくしているのだろう。
しっかし、金貨五枚か、通行料に五十万円っていうのは高すぎやしねえか。
日本道路公団もびっくりだよ、ETC割引とか、あるんですかね?
「いやあ勘弁して下さいよー」
へらへらと卑屈な笑みを浮かべて言ってみる。
「もし金貨の持ち合わせがないんなら、奴隷一人置いていってくれてもいいんだよ、あんたらを殺すのは簡単だけど、私らも死体を処理するのとかは面倒くさいしねえ。金貨五枚か奴隷一人。命の値段に比べれば安いもんだろう?」
「奴隷ですかー……売り物なんですがねえ」
盗賊は俺の連れているキッサたちをジロジロとながめまわす。
「こいつらがあんたの売り物かい……ふーん、そうさねえ、もらうなら……」
どうやら品定めをしているようだ。
「お、こいつ、ハイラ族とマーキ族のハーフじゃないかい? 珍しいね、こいつをもらってやることにするか、いいだろう?」
どうやらイーダがお気に召したようだな。
選ばれなかったサクラがちょっとムッとした表情になるのがわかった。
だからそういうのを奴隷根性っていうんだって!
「そうだ、お姉さま方、支払いはこれでいかがでしょう?」
俺は首から下げた巾着の袋を見せる。
「ん? なんだい、それ」
「これはニホンという国のお金で、九百八十二円と十銭あります。ま、銀貨一枚分の価値ってとこでしょうかねえ……」
「はあ? 銀貨一枚ぃ? そんなんじゃ足らないよ……」
眉をしかめて言う盗賊たち。
この三人、よくみたらそこそこの美人だなあ。
美人やっつけるのはなんか悪い気がするなあ。
でもなあ。すまんなあ。
えっと、どうしようかな……。
「いやいやこれをですね、私がこう握り込んでですね……」
俺は日本円硬貨を握りしめる。
ニカリュウの聖石――ニッケルが俺の法力を増幅させていく。
「こうして……こう!」
シュバッ! という音と共に、俺の右手からライムグリーンの剣が出現する。
「な……!? てめえ、やる気か!?」
メイスを構える盗賊たち。
「ばっかやろうが! 俺のかわいい奴隷たちをてめえらにやるわけがねえだろうが!」
俺は盗賊の一人に向かって剣を薙ぎ払う。
盗賊はメイスでそれを受けようとするが――俺の剣はメイスをあっさりと叩き折った。
それでも俺の剣は止まらない。俺の剣が盗賊の身体を袈裟斬りに透過する。
「ぎゃ! ぎ、ぎぎぎぎぎぎ」
盗賊はその場にばったり倒れ、歯ぎしりをしながら昏倒する。
心配するな、峰打ちじゃ。
殺しはしねえ、なぜなら殺しをやると俺の気分が悪くなるからな。
「敵襲ぅぅぅぅーーー!!」
残った盗賊が叫ぶ。
と、林の奥からわらわらと七、八人ほどの盗賊がやってくる。
そいつらも手にメイスを持っている。
「なんだてめええええ!?」
一人が俺たちに向かってメイスを思い切り振りおろす。
その途端、メイスの先から火球が出現し、俺たちに向かってすっ飛んできた。
俺は俺たちのまわりにライムグリーンの法術障壁を出現させる。火球はあっさりと障壁に弾かれて消失した。
うーん、ヴェルのあの火球を知っている分、ずいぶんしょぼい攻撃に見えてしまった。
ヴェルの火球は飛竜をも一撃で葬り去ったからなあ。
こんな盗賊どもと比べるのも悪いが。
「キッサ! 伏兵はいないか?」
「見てみます! 我を加護するキラヴィ、我と契約せしレパコの神よ、我に闇の向こうを見せしめよ!」
キッサが透視と遠視の能力で周辺の索敵を始める。
ほんと、キッサの能力は便利だな。
「他に敵影なし! ここにいるだけです!」
いちおう、いつかの緑髪みたいにキッサの能力をすり抜ける透明化能力のやつがいるかもしれないとは頭に留めておこう。
ま、あんな帝国の暗殺部隊と同じ能力、こんなとこにいる盗賊共がもっているわけもないけどな。
「んじゃあ、行くぜ! お前らは俺の陰に隠れてろ! ――おるぁぁぁ!」
気合を入れて能力を発動する。
ブオン、とスターウォーズのライトセーバーみたいな音とともに、俺の剣は変形して扇形となる。
最大射程範囲がなにしろサッカー場二面分だ。
盗賊たちの火球が次々と襲い掛かってくるが、その火球ごと、俺の扇が辺り一帯を包み込む。
バリバリ! バチバチ! という大音響とともに、盗賊たちが張った法術障壁は破壊され、そして俺のライムグリーンの光に彼女たちは飲み込まれた。
あとに残ったのは、ただ静寂のみだった。
森の奥の山道、とおくで鳥が鳴いているのだけが響く。
「…………すごい、です……」
イーダがぽつりと言った。
「こんなにたくさん敵がいたのに……あっというまに倒しちゃった……です」
「ま、こんなもんさ。おっと、イーダにはまだ言ってなかったが……俺はターセル帝国では知行を持つ第四等騎士なんだぜ?」
「な……ほんと? ……です?」
驚いた顔をするイーダ。
「もちろんです。エージ様は帝国の皇帝陛下の恩寵も篤い騎士様なのです」
キッサがまるで我がことのように誇らしげに言う。
ふふふ。
照れるな。
皇帝陛下の恩寵が篤い……かどうかは知らんが、少なくとも陛下の記憶から俺が消え去ることは無いだろう。
なにしろ……。
「おにーちゃん、ちいねーちゃんのお腹蹴ったりしてたよー?」
シュシュが屈託なく言う。
うん、そういえばそんなこともあったなあ。
本人はドMだから喜んでいたけど。
あと、この大陸で皇帝陛下のことをちいねーちゃん呼ばわりした上に、その皇帝陛下本人からもその呼び方を半ば公認されてるって、むしろ俺よりシュシュの方がすごくね?
「すごい……そんなすごい方をご主人様にできて……よかった……です……。自分を自分で奴隷に売ったときは、すごい不安だった……です。でも、ご主人様やさしい……です。よかった……です」
イーダがキラキラ光る碧い目で俺を見る。
ふふん。
もっと褒めてくれたまえ。
「あのお、ご主人様、この者たちはどうしますか?」
サクラが俺に尋ねる。
見ると、十人ほどの盗賊がうめきながら地面に倒れている。
当然全員女で、しかも若い。
うーん……。
「エージ様、殺して耳を切り取りますか? 傭兵ギルドの契約では、殺すなら耳を取ってくるか、または生け捕りが条件でしたけど……」
キッサの言葉に、俺はちょっと悩む。
耳を取る……のはかわいそうな気もするなあ。この世界には女しかいないわけで、耳に埋め込まれたラスカスの聖石の力で子供をつくるのだ。
耳を切り取っちゃうと、一生自分が聖石母になれないことになる。
そもそも、耳を切り取るのは殺してから、っていうのがこの大陸の文化らしいし、殺すのは夢見が悪くなるのでできればやりたくないし。
「……捕らえるか」
俺がそう呟くと、キッサが、
「では、奴隷として連行しますか」と言った。
「あのお、考えたんですけど」
サクラが言う。
「私たちは傭兵ギルド内で名をあげたいんですよね? じゃあ、目立つ方法でこの人達を連行したらいかがでしょう」
「ん? どうやるんだ?」
「裸に剥きましょう」
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