92 ドア・イン・ザ・フェイス
弾力!
ヴェルのおっぱいは、ものすごくハリがあって、プリップリッしていた。
騎士として鍛えぬかれた筋肉、背中を見ても、ヴェルの発達した背筋がわかる。
胸筋も同じで、推定Cカップといえど、ある程度の筋肉の上に乳房があるので、見た目以上にボリューム感がある。
筋肉質といっても、オリンピックのレスリング選手ほどじゃない。
でも一般の女子よりはしっかりした体格をしている。
キッサや夜伽三十五番みたいにふわふわ、という感じはしない。でも、それとは逆にギュッと引き締まった濃厚な感触。
「あ……ん……さ、三秒……あたしが……終わりっていったら……終わりね……」
といいつつも、もうとっくに三秒はたっているのにヴェルはまだ胸を触らせてくれる。
ちょっといたずら心……いや嘘だ、スケベ心をだして、ヴェルの乳房の頂点の、可憐な蕾をコリッとつまんでみた。
「んはっ! だ……め……!」
すげえ、あっというまに硬くなって……。
「だ、誰が……そこまで……んは、あ、やめ、いや…………やっていいと、言ったぁっ!?」
ヴェルが叫ぶと同時に、彼女のエルボーが俺のこめかみに突き刺さった。
「ぐぉあっ!」
俺は悲鳴とともにその場に転がる。
くっそいてえ!
こいつ女の子なのに鍛えすぎだろ!
ヴェルは胸をおさえてくるりとこちらに向き直ると、肩で息をしながら、
「ちょ、ちょっと今の触り方はないんじゃないの?」
「いや……悪かった……」
「ほんとよ! あんな……いや、悪くはなかったけど、さ……びっくりしたから……ごめん、痛かった?」
「目がチカチカする……」
うーん、しっかし俺たち、好奇心旺盛な小学生カップルのお医者さんごっこでもあるまいし、いったいなにをやってるんだろうな。
「……ま、これであたしの胸も大きくなるかもね……」
恥ずかしさからか、全身を真っ赤に染めてヴェルは俺をじっと見つめたかと思うと、
「ま、ありがと」
といって、まるで俺から逃げるようにミーシアの方へ駆けていった。
さて、まじでいてえな。
俺はさっきまでヴェルが座っていたバスチェアに腰をかけ、一休みすることにする。
と、背後に誰かの気配を感じた。
殺気を感じて振り向くと、そこに立っていたのはヴェルの妹、エステルだった。
「あんた、お姉さまに今変なことしてなかった?」
すげえ、殺意のオーラが目に見えるようだぜ。
「やってない!」
「うそ、なんかしてたでしょ!」
「よしんばやってたとしても、それはヴェルがしていいっていうから……」
「あんた、お姉さまの胸を触ってたじゃない! お姉さまがそんなこと許すわけが……」
「いやだって、男に揉まれると大きくなるから……」
ギラッとエステルが俺を睨みつける。
「はぁ? 誰がいってたの、そんな馬鹿なこと」
「ラータ閣下が」
「嘘……閣下が言うなら本当かも……」
「ついでに言っとくけど、俺が前いた世界でも同じことが言われてた」
エステルは疑いの眼差しで俺の顔をじろじろと見る。
俺はというと、エステルの胸に目が釘付けだ。
こっちもまだ成長途上、十五歳ってんだからまだまだ大きくなる。
でも今の時点では推定Bカップ、まあかわいらしいもんだ。
俺の視線に気づいたのだろう、エステルは自分の両手で胸を覆った。
いわゆる手ブラだ。
逆にいやらしいんですけど。
「エステル卿は」
俺は言った。
「ん? なによ」
「俺の奴隷よりも小さいですね」
「……殺されたいの?」
「大きくしてさしあげましょうか? ラータ将軍の監修のもと、皇帝陛下にもヴェル卿にもしてさしあげましたが、エステル卿はいかがいたしますか?」
我ながら調子にのりすぎてる、とは思うけど。
もうねー、ここまできたらさー、いくとこまでいかんと。
「そんなの迷信よ……」
「そんなことありません。たとえば十分間たっぷり私が揉みしだけば、今よりも二回り大きくなります」
「ばっかじゃないの! 十分間って長すぎでしょ!」
「そうですよね、十分間は長すぎですよね」
イエス。
……バット。
「でも、それなら三秒間ではいかがでしょう? それでも一回りは大きくなります」
う、と言葉につまり、少し考えこむエステル。
「三秒間……十分じゃ長いけど……そのくらいなら……」
ふふふ、馬鹿め!
これぞ営業テクニックの一つ、ドア・イン・ザ・フェイスだ!
最初にでかいお願いごとをし、断らせる。その後に小さなお願いごとをすると、受けいれられやすくなるのだっ!
例えば、最初に月々の掛け金数十万円の一億円の保険を薦めて、『そんなの無理』と断らせる。その後に、
『じゃ、貯金だと思って百万円の積立型保険はいかがでしょう? これだと毎月無理のない金額ですし、積立型ですから満期になれば百万円戻ってきます。損はないですよねー」
とかなんとか言えば、保険に加入させやすくなるのだっ!
お客は断ったことで少し引け目を感じているし、そこにつけこむのだっ!
こんなところで営業テクニックを使ってなにやってるんだおれはっ!
そうそううまいこといかないことも多いんだけどね。
「んーー」
でも、エステルはかなり迷ってるようす。
「将来の子育てのことを考えるとやっぱり大きい方がなにかといいですよね」
「ま、まあね……」
「それならこれからの長い将来を考えると、今たったの三秒間頑張ってみるのもいいですよね」
「そ、そうかも……」
よし、テストクロージングだ!
「十分間で二回りと、三秒間で一回り、どちらがいいですか?」
「う、うーん……」
「別にあとからまた十分間コースをやりなおしてもいいですし、今は『試しに』三秒間だけやってみるというのはいかがです? それで大きくなったら改めて後日、十分間コースについて考えてもいいですし」
「た、試しに……試し……そうね、試しにやってみても……」
「では、おまかせいただけますか?」
そして。
最強のクロージング、沈黙。
おっぱい触りたさに俺はいったい何をやってるんだちくしょう、でも触りたいもん。
エステルは、たっぷり二十秒間ほど黙ったあと、
「じゃ、三秒コースで……」
とぼそっと言った。
「じゃ、じゃあそこに座って……」
と俺が言い終わる前に、
「はいっ! さっさと済ませなさい!」
エステルはその場で万歳をした。
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