91 頭突き



 二つの衝撃が俺を襲った。


 ひとつ目は、ラータは俺の後ろから覆いかぶさるように俺の両手首を掴んでいるわけで、つまりラータのでっかい推定Hカップの胸が俺の背中におしつけられている。


 むにゅっとその柔らかな素晴らしい感触で俺は気絶しそうになった。


 ふたつ目は――


 ミーシアに申し訳なさすぎて、あまり描写したくない。


 ラータが俺の手を無理やりミーシアの慎ましやかな胸にもっていき……。


 持って行かれたら男の本能として触ってしまうわけで、俺が悪いんじゃない、本能が悪い。


 で、推定Aカップの成長途上のおっぱいの感触は……。


 やっぱこの辺でやめとこう、皇帝陛下、申し訳ございませんでした。


 ただ一言言うならば、ちゃんとふわふわしていて、今のままでも十分素晴らしいでございますことでしたよ。


 顔と目を真っ赤にしたミーシアが振り向き、俺の鼻っ面に思いっきり頭突きをくらわしたけど、このくらいは仕方がないだろう。



「エージのばかぁ! もう! ばかっ」



 そしてとどめのグーパンを、またもや鼻っ面にくらった。



「いってえ……」



 思わず鼻をおさえてしゃがみ込む。



「まあまあ陛下、おさえておさえて。男に揉まれると大きくなるそうですから、きっとこれで先帝陛下のような立派なお乳になりますよ」



 ラータがしれっと言う。



「もう、ラータも馬鹿ぁ!」



 カンカンに怒ったミーシアがラータを追いかけ回す。


 ラータは笑いながら逃げ回る。


 裸の追いかけっこだ。


 っていうか陛下、腰に巻いたタオル落ちちゃってますよ、みっともないからやめたほうがいいですよ。


 あとラータ将軍閣下、走って逃げまわるのはいいですが、そのたびにあなた様のHカップがたゆんたゆんと揺れて、なんというか、ありがとうございます、あと陛下は胸の大きさよりもまだ生えてない方を気にしたほうがよろしいかと存じます。


 声に出したらヴェルあたりに本気の右ストレートをくらう予感がしたので、心の中でだけ呟いておく。


 ふとそのヴェルを見ると、腕で胸をかくしたまま、ちらちらと俺を見ている。



「あ、あのね、エージ……あたしのほうがあんたより偉いんだから、湯伽となると、あんたがあたしの身体を洗うわけ。いい?」



 ん?


 洗って欲しいのか?



「かしこまりました、騎士様」


「いやあんたも騎士だから」



 とかなんとかいって、洗い場に座るヴェル。


 しょうがない、背中くらい流してやるか。


 泡で背中をこすってやってると、ふとヴェルが言った。



「あたしも……もう少し大きい方が、かっこいいかなとか思ってさ……」



 ヴェルの胸は推定Cカップ、均整のとれた筋肉質な身体だから、いまのままで十分見目麗しいとはおもうんだけどなあ。



「だから……ね?」



 ん?



「わかるでしょ?」



 んん?


 これは、まさか……。


 ヴェルのやつ、俺に……揉まれたがってる?



「……いいのか、俺、男だぞ?」


「……だから、男に揉まれると大きくなるんでしょ? 三秒ね、三秒間だけ!」



 ……なにこの展開。


 あるのか、こんなこと。


 別に付き合ってるわけでもない女の子に胸を揉んで欲しいとか言われたぞ!?


 薄い本か!


 しかしまあ、この間もいい雰囲気になってたし……。


 男なんて一度も見たことない女の子が、(まったく信じられないことに)俺ごときになんらかの好意を抱いてくれるなんて……。


 普段から皇帝陛下とSMプレイしてるような奴でもあるし、好意だけじゃなくてきっと好奇心もあるんだろうな……。


 といっても、俺だってもともと女の子に全然縁のなかった男だし、揉んでくれと言われてもはいそうですかとあっさり揉むほどの勇気はない。


 ないんだけど。


 前の世界で、俺に優しかった係長が飲み会の席でふと漏らした言葉を思い出した。



『いいか田中、据え膳食わぬは男の恥っていうだろ、あれ本当だぞ。いや不倫とかはダメだけどな、そうじゃないなら、チャンスってのはそうそう転がってないんだ、逃げたらあとで後悔するぞお。なによりな、据え膳食わねえのは男以上に女に恥かかせてるんだからな!』



 なるほど、俺の勇気のなさでヴェルに恥をかかせるわけにはいかないな。



「……いいんだな?」


「さ、三秒だけね」



 よ、よし。


 今までも何度も胸を揉んできたけどさ。


 それはは法力補充のために、とか、体力回復のため、とか、ラータに無理やり手首を掴まれて、とか、いろんな理由があったわけだ。


 今回は違う。


 俺が胸を揉む、と決めてそして揉む。


 うむ、これは……緊張するぞ。


 ぶっちゃけリューシアと命がけの戦闘したときより緊張する。


 バスチェアに座るヴェルの後ろから、そおっと手を伸ばし――



「…………」


「………………」



 俺もヴェルも無言。


 俺たち二人はまったく同じタイミングで、ゴクリとツバを飲み込む。



「じゃ、じゃあ……」


「三秒よ……」


「ああ……」



 俺は静かに、ヴェルの胸を触った。 

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