58 山賊

「さて、あんたがこいつらのご主人様だね。これだけの奴隷を運んでいるとなると、奴隷商人かい?」



 山賊の首領らしき女が俺に聞く。


 そいつはずんぐりむっくりした体型をしていて、顔立ちは日本人の男そっくりだ。


 こういう奴、学校の柔道部に一人はいたなあ。



「おや? あんたも……ガルド族か」



 俺の顔を見た首領がそういう。


 ガルド族?


 ああ、ヴェルが言ってたな、南の方に俺そっくりの部族がいるって。


 これか、なるほど日本人の男そっくりだ。これなら、女しかいないこの世界とはいえ、誰もが俺のことをガルド族(の女)だと思うだろう。


 あくまで地球上の美的感覚でいうなら、の話だが、なんとも残念な部族だ。


「ああ、そうだ、俺もガルド族だ」


 とりあえず、そう返事しておく。


「そうかい。このあたりでガルド族を見かけるのは珍しいね、あたしくらいしかいないと思ったけど」


 同じ部族だと知って、少し馴れ馴れしい口調になる首領。


 ジロジロ俺の耳を見て、



「子持ちか……ラスカスの聖石が二つともないな、若く見えるけど、あんた、結構年いってるんだね」


「まあね、よくいわれるよ」


「ちっ、ラスカスの聖石もない年増は、奴隷として売るにも値段がつかねえんだよな」


「そうだろう、だから俺だけでも逃してくれよ」



 話を合わせておくのが得策だろう。


 なにしろ……。


 ちらり、と馬車の方に目をやる。


 馬車のそばには五人の女の子――つまり、皇帝ミーシアと女騎士ヴェル、それに奴隷姉妹のキッサとシュシュ、そして夜伽三十五番が後ろ手に縛られ、膝を地面についた状態で座らされていた。


 ミーシアとヴェルは奴隷に扮しているので、貴族階級の人間だとは思われていないはずだ。ミーシアは髪の毛がほこりまみれだし、ヴェルは折檻の跡に見えなくもない傷跡が顔や身体のあちこちにある。


 どこからどう見ても、『主人に冷遇されている奴隷』としか思えない、はずだ。


 皮肉にも、むしろ本物の奴隷であるはずの夜伽三十五番が、いちばん小綺麗にしている。


 こいつらと遭遇した時、ヴェルは抵抗する気まんまんのようだったが、相手は武装した十五人と魔獣三頭。


 こちらは法力を使い切ってる上に、マナの移転法の副作用で一切法術が使えないのだ。


 普段通りの力が出せるならヴェル一人で一分もあれば片付くだろう。


 だが、今はそうはいかない。


 山賊たちは魔獣を連れているし、こいつらの中にはある程度戦闘法術を使える奴が何人かはいてもおかしくはない。


 というか、戦闘法術が使えなけりゃ、こんな世界で山賊なんてやってられないだろう。


 こっちは六人とはいえ、俺たちは今現在戦闘法術を使えないし、戦えば負けるのが目に見えていた。


 だから、戦おうとするヴェルを止め、俺たちはこうして無抵抗に捕まっているわけだ。


 山賊たちは、奴隷五人をこうして縛り上げ、その主人である俺に対して尋問を始める。


 幸い、俺のことは縛らないでおいてくれた。


 ……俺ごとき、簡単に殺せると思っているのだろう。


 奴隷として売ることもできない俺に、特に価値はないと判断したのかもしれない。


 首領は俺に剣を突きつけて言った。



「でだ。あんた、なにか、あたしらの得になるような話、あるかい? あるなら聞こう、ないならあんたをここで殺しておさらばだ。奴隷どもはちょうだいしていくけどね」



 俺は目の前の剣先を見る。


 恐怖は感じない。


 心は平静だ。


 日本にいた頃にこんな目にあったら、その場にへたりこんで泣きながら命乞いしていたはずだけど。


 いろいろなこと――特に、リューシアとの戦闘を経験したせいか、俺も肝が座ってきたようだ。



「そうだな――そこのハイラ族の二人――」



 俺はキッサとシュシュを指して言う。



「帝都で買ったんだが、いい値段したんだ」


「で? そんなのは見りゃわかるさ、南へ連れて行けば高値がつくだろう、南方はハイラ族が珍しいからね。あんたがわざわざ南じゃなくて西へこいつらを運んでいる理由は知らんが」


「こいつらは商品じゃなくて、俺の玩具として買ったからな。あいつらの首輪見てみろ」



 首領は目を細めてキッサたちの首輪を見る。



「……ずいぶん高そうな首輪させてるね……これは……拘束法術つきだね?」


「ああ、帝都で大枚はたいて法術をかけてもらったんだ。――俺が死ぬと、こいつらも死ぬ法術をね。俺から三十マルト離れても死ぬ」



 よく言われることだが、嘘をつくコツは、話の中に真実を混ぜ込むことだ。 


 首領がくいっと顎を動かすと、手下の一人が乱暴にキッサの髪の毛を掴んで顎をあげさせ、首輪を眺める。



「確かに、かなり強力な拘束法術がかけられてます」



 手下の報告に首領は、



「金かけて趣味悪いことするね……待てよ、ということはお前を殺したらこいつらも死ぬってことかい?」


「まあ、そうなる」



 首領は剣を下ろす。



「こいつら……南方地方に連れて行けば一人金貨五枚……いや七枚で売れる……その法術を解除するにはどうしたらいいんだい?」


「今教えたら俺が殺されるから教えない。二人合わせて金貨十四枚だ、俺を逃してくれると約束するなら教える。俺を殺せばゼロだ」



 とにかく、今はいい考えが浮かばない。殺されたらなんにもならないので、とりあえず時間稼ぎをしておこう。


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