27 魔王

「あ、そうでした。洗礼の話でしたね」


「ああ、教えてくれ」



 ずいぶんとキッサと話し込んでしまっている。


 今はヴェルが先頭に立って歩き、そこにミーシアがまとわりついている。


 そのあとを、俺やキッサ、それにシュシュがついて行く。


 石畳の大通りは、帝都を脱出しようとする民衆でごった返していた。


 俺と会話しながらも、キッサはキョロキョロとあたりを見回して警戒を怠っていない。



「神々はそれぞれ得意とする法術の分野があるわけですが、産まれたときに決まる加護の神とは別に、自分の意志で神と契約することもあります。洗礼を受け、あらためて神と契約するのです。そうすることで、二系統の法術を身につけることができるのです。私はレパコの神と契約し、闇夜の中や隠れた場所のものも見える暗視や透視の法術も身につけました」


「つまり、その組み合わせで使える法術の種類が増えるわけか」


「そうですね、理論上はほぼ無限だといわれてます」



 もう反乱軍の攻撃はほとんど止んでいる。


 空を埋め尽くしていた魔物たちの姿もまばらになっていた。


 あのどでかい空飛ぶドラゴン、飛竜も今は見えない。


 振り返って帝城の方角を見ると、暗くてよくわからないけど、宮殿の炎はかなり小さくなっていた。


 おそらく、今頃反乱軍たちが帝城になだれ込み、掃討戦に入っているのだろう。


 この国の皇帝、ミーシアがまだ生きていて、帝都からの脱出を図っていることに反乱軍が気づくのは、いつだろうか。


 まだ時間的な余裕はあると思うが、油断はできない。


 キッサは話を続ける。



「暗視・透視と、遠視を組み合わせると……私の場合、体調によりますが、半径六カルマルトほどの索敵範囲があります。一方向だけなら障害物があっても十五カルマルトはいけます。そこまで索敵範囲を広げるとかなり疲れるので、長時間は無理ですが」



 十五カルマルト、つまり十五キロメートルか。


 地平線までの距離は四キロか五キロだったと思う。


 それを考えれば、レーダーとかがないこの世界では、キッサの能力はかなり有用だといえるだろう。


 でも長時間は無理、か。


 法術を一気に使いすぎると死ぬこともあるとか言ってたな。


 無制限に使えるわけではないらしい。


 この世界における法術ってのがどんなものか、だいたいわかってきた気がする。


 でも、もうちょっといろいろ聞きたいことがあるな。



「さっきいた飛竜ってのは、やばい魔物なのか? そもそも、魔物と魔獣ってどう違うんだよ」


「魔物は異世界の一つ、魔界からゲートを抜けてこの世界にやってきた存在です」


「ゲート?」


「はい、大陸の西側にはゲートと呼ばれる異世界に通じる門がいくつかあるのです。あるというだけで、なぜ、どうしてそんなものが存在するのかはわかっていません」


「そこから魔物が湧いて出てくるってことか」


「そうです。魔獣はもとからこの世界にいた動物が、魔物の影響を受けたり魔物と交配して産まれてきたもの。私達ハイラ族がそうしているように、魔獣の方はやりようによっては使役できますが、魔物はこの世界の理がまったく通用しない生き物です。魔物にもたくさんの種類がいますが、その中でも飛竜はかなり上位の存在といえるでしょう。昔、飛竜が一匹、獣の民の国に現れたことがあるんです。そのときは千人を超える討伐隊が組織され、飛竜を殺すことはできたものの、半数以上は戦死、ほぼ全員がなんらかの傷を負ったそうです」


「それが、三匹かよ……」


「何者なのか、まだほとんどわかっていませんが、数十年前に魔王を名乗る者が現れました。奴はこれまでバラバラに人間を襲っていた魔物たちを組織し、戦略的に人間の領土を侵略しようとしています。今回、反乱者は魔王と手を組んだのでしょうね。反乱軍と歩調をあわせて飛竜が三匹も同時に攻撃してくるなど、そうとしか考えられません」



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