9 奴隷姉妹
へー。
なんでもしていいんだ、この子に。
この推定Iカップの!
俺専用の女奴隷に!
俺は何をしてもいい!
じゃあとりあえず、最初にしてもらうことはひとつだけだ。
それは……。
傷の手当てだよ!
姉奴隷の傷口、見てるだけで痛いわ!
そういえばバスルームに、薬や包帯のようなものが入っている救急箱らしきものがあった。
俺はそれをバスルームから持ってきて、土下座している姉奴隷とその隣の妹との間に置き、妹の方に言う。
「ほら、俺あっち向いてるから、お姉ちゃんの傷に薬でも塗ってやりなよ。……これ、薬、だよな?」
箱の中身を見て、妹奴隷はコクンと頷く。
土下座している姉奴隷の首筋がバスローブから覗いている。そこにも傷口はあって、血が固まってどす黒くなっている。
後頭部には見てわかるほどの大きなコブ。
あ、これは俺のせいだよなあ。ごめん。
「ほらお前も顔あげていいからさ。全身傷だらけだったろ、とりあえず傷口に薬塗りな、手が届かないとこは妹にやってもらえ。俺は……あっちでメシでも食ってるからさ」
きょとんとした顔の姉妹奴隷をそこに置いて、俺はパンやスープが用意されているテーブルに向かい、椅子を動かして彼女たちに背を向けると、パンを一つ手に取った。
「終わったら教えてくれ、この世界のこといろいろ聞きたい」
★
「あの、終わりました」
しばらくたってから声をかけられたので、俺はテーブルからパンやスープの皿を持って、姉妹のところに行った。
手当てを受けてほっとしたのか、姉奴隷はさきほどよりも落ち着いた顔をしている。
俺が姉妹の前に食べ物を置くと、姉妹は驚いたように俺を見た。
そのまま俺は姉妹と同じように床に座り込む。奴隷姉妹はさらに驚いた表情をする。
「いろいろ聞きたいことがあるんだけどさ。まあ、腹減ってるだろ? 食えよ」
姉奴隷はちらりと俺の目を窺う。
妹が手を伸ばそうとするのを遮ってまずは自分がパンの切れ端を口に運び、異常がないのを確かめてから、
「シュシュ、食べなさい」
と妹にすすめた。
よほど腹が空いていたのか、裸にYシャツ妹奴隷は、夢中になってパンを口に運び始めた。
「はむはむ、むぐ、お姉ちゃん、おいしい、えへへ、はぐはぐ、むぐむぐ」
その光景を微笑みながら見る姉奴隷。
そうだよね、幼女が物を食べるのってかわいらしくて思わず笑顔になるよな。
うんうん、この子、かわいいよな。
ましてや自分の妹、なおさらかわいく見えているに違いない。
しかしまあ、妹奴隷はものすごい勢いでパンを口に押し込んでいる。
アメリカのホットドッグ大食い選手権で優勝した日本人そっくりの食べ方だ。
よっぽど腹が減っていたのだろう。
「えっと、ちっちゃい方の名前はシュシュっていうのか」
「ええ。妹はシュシュ・スクランティアといいます。私の名前はキッサ・スクランティア」
「俺は田中鋭史っていうんだ。田中ってどこにでもある苗字だからエージってよんでくれ」
いや待て俺、よく考えたらこの世界に田中なんて俺一人しかいない気がする。
元いた世界では、支店の支店長の名前も田中でさ、こいつがまた独善的なカスで……。いや、まあそれはいいか。
「キッサ、シュシュ、これからよろしくな。俺は二十三歳だけど、お前ら、年齢は?」
「私は今年で十七歳、妹のシュシュは九歳になったばかりです。……エージ様は、この国の人間ではないのですね?」
「ああ、地球という星の、日本という国からやってきたんだ。いったいなにがなんだか」
キッサは納得したように頷き、
「異世界から人間……特に男性を蘇生させる法術については、噂を聞いたことがあります。ここでは男性は貴重ですから。つまり、エージ様はターセル帝国とはもともとは関係のないお人なのですね?」
「関係もなにも、今日初めてここにきたからなあ。ま、今は第八等だっけか、なんか身分もらってこの国の人間になったみたいだけど、まだ実感がわかない」
ほうっ、と色っぽいため息をついてキッサはいう。
「では、エージ様は私達の敵ではない方なのですね……」
「そりゃ別に恨みも何もないよ」
「エージ様、私はどうなってもいいです、どうとでもお好きにしてください。でも、妹だけは、かわいそうな目に合わせたくないのです。エージ様、どうか……」
キッサはまたも頭を下げる。
頭よりも先にでっかい胸が床について弾んだ。
Iカップ女奴隷の身体を好きにもてあそぶとか、そりゃ頭で考える分には楽しいけれど、実際その立場になってみると平和な日本で育った俺にはできそうにないしな。
しかしまあ、完全に否定してしまうのも、なんていうか、もったいない? みたいな?
おそらく今この場でこの子に襲いかかって童貞捨てたっていいはずだとは思うんだけど。
俺、そればっかり考えちゃうくらいには性欲さかんなチェリーボーイだしな!
でも、うーん。
違うよな、俺の理想は俺に惚れきった女の子といちゃいちゃらぶらぶで抱き合ってお互い照れ笑いを浮かべながらのエッチだし。
うん、違う違う。
「ま、心配すんな、キッサにもシュシュにもひどいことするつもりはないからさ。俺がいた国では人が人をモノのように扱う文化はなかったし。ほら頭あげてくれよ」
カス支店長とゴミハゲ課長の顔を思い浮かべて、いや、そうでもなかったけどな、と思いつつもそう言う。
あいつらにとって俺は家畜以下の扱い受けてたような……。
いやいやだからこそだ。
俺は絶対そんなことはしないぞ。
姉奴隷キッサはそれを聞いて安心したのか、全身から緊張を解くと、
「良かった……」
と呟いた。
「それよりさ、戦争捕虜ってきいたけど、お前兵隊かなにかなのか?」
キッサはゆっくりと首を横に振り、
「いいえ。私達は、ここから見て北西、獣の民が治める辺境の地ハイラの、…………農民の娘です」
「農民? 確か、戦争捕虜奴隷って……」
「戦争? あれが?」
不快そうに眉をひそめるキッサ。
「あれは戦争などではありませんでした。只の虐殺です。平和に暮らしていた私たちの村に突然あいつらが襲ってきて、牧畜のために飼っていた魔獣を皆殺しにしたのです。蓄えていた食料も全て持ち去られ、自警団――戦闘法術が使えた私も所属していたのですが――そのほとんどは殺され耳を切られました。シュシュのような幼い子供や戦闘法術が使えない非戦闘員は捕まえられ、こうして奴隷となって帝都に売られてきたというわけです」
うわあ。
思った以上に重いぞこの話。
「なんだあいつ。ヴェルとか言ってたっけか、あいつ、騎士とか言ってただの盗賊団じゃねえか」
しかしまあ、地球の歴史で見ても、騎士が盗賊団っていうのはそうそう間違いじゃなかった時代もあった。
中世ヨーロッパでも、誘拐して身代金を取るのが生業の騎士とかいたはずだし。
「もぐもぐ、はぐはぐ、このヒルビの肉、おいし、柔らかい! はぐはぐ」
俺たちの会話を聞いてるのかいないのか、妹奴隷シュシュは一心不乱に食い物を胃袋に流し込んでいる。
頭ごと動かして食いついているので、銀色に輝く髪の毛がそのたびにばさばさと宙に舞う。
くりくりして大きな紅い瞳は今かじりついている肉に一点集中、そのせいでちょっとより目になっている。
食うのに必死なより目の幼女。
かわいい!
ふと見ると大量にあったはずのパンや肉がほとんどなくなりかけていた。
あっという間だな。
こんな小さな身体のどこに入るんだか。
「おいし、こんなおいしいパン初めてだよ私、はぐはぐ、むぐむぐ、む? むぐうううう!!」
そしてパンを喉に詰まらせている。
「ほらシュシュ、あなた急いで食べ過ぎなのよ。スープを飲みなさい」
「じゅるじゅる……むぐん。ぷっはあ」
至福の笑みを見せる幼女奴隷。
いやあ、食い意地はってる幼女もかわいい。
守りたい、この笑顔。
その銀髪妹奴隷、シュシュは、食いながらも話を聞いていたらしく口を挟んできた。
「でもお姉ちゃん、村の大人達も悪かったんだよ! 食べるものがないからって、騎士領の農民さんからさんざん麦とかお芋とか盗んでくるんだもん!」
「シュシュ、あそこはもともと我々獣の民の土地だったの。それをあの騎士どもが奪ったのが始まりよ。私たちが私たちの土地から食べ物を持ってきただけ。あれがなかったら私たちは飢え死にだったわ」
「でもでも! 大人達が騎士領の農民さんを捕まえて奴隷にするとかしたから仕返しされちゃったんだよ。あ、もっと食べていい?」
「違うわシュシュ、最初に奴らが私たちの土地と人と獣を奪ったから、私たちが仕返ししたのよ。ほらこのお肉も食べなさい」
うーん。
なるほどねえ。
どちらにもそれなりの言い分がありそうではある。
正義の反対は悪じゃなくて別の正義、ってやつだ。
かなり殺伐とした世界なんだなあ。
どうせ転生するなら、もっと平和なところがよかった。
これじゃ暗黒時代だよ。
「そのうちペストみたいな疫病がはやって世界崩壊するんじゃないのか」
思わずそう言うと、キッサはバスローブの襟をあわせながら、
「ペスト? その病気は知りませんが、別の疫病なら世界を覆っていますよ。この世界はいずれ滅びることになるでしょう」
暗い顔でそう言った。
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