第14話 街の修復
狼が闇の民から解き放たれたことで、誰憚ることなく街を蹂躙していく。綺麗に立ち並んでいた建物は軒並み破壊され、狼が通った後は瓦礫の山となっていた。
そんな中、武器職人ガンザイは瓦礫の山を漁っていた。死骸を見つけては漁って武器に使えそうな素材を確保している。人が死んだときに所持品はリスポーンされずその場に落とすため、死骸にはそこそこの価値があるのだ。
「これは、使えるね……」
武器を作るには素材が必要になってくる。ガンザイが作る武器は特殊なものが多く、一般的な規格の素材を使うことは少ない。そのため、ガンザイは武器を作るための素材を自分で探す必要があった。
ガザガザと瓦礫を退かしては死骸を漁る。使えそうなものがあれば懐に入れて次の死骸を探す。血肉がこびりついた素材は汚いが、リスポーンが終わると血肉はやがて灰となって消えるようになっている。思う存分血肉にまみれた素材を拾っても良い。
狼が通り過ぎた後の惨状はガンザイにとってはゴールデンタイムだった。
だが、ゴールデンタイムは貴重だからこそゴールデンタイムと呼ばれる。
「えっ、もう補修が始まるの!?」
周囲の瓦礫が光を帯びた。すると、瓦礫たちがひとりでに動き始める。トコトコ、ガタガタ、ピョンピョン。それぞれが目的を持っていて、瓦礫たちの動きは一貫性が感じられた。
ガンザイは嘆息を付く。
「もう少しゆっくりしてくれても良いんだけどね。光の民たちは働き者だなぁ」
通りに目を向けると、住民らが魔術を行使していた。この魔術により瓦礫がひとりでに動いて元々の形に戻ろうとしているようだ。時間が経つにつれて倒壊していた建物が次々と元の形に戻っていく。魔術だけでは修復できないところは住民らが手作業で修復していた。
この街は闇の民による争いが絶えない街なため、常に建物は壊れ続ける定めにある。それに対する光の民の解答がこの修復魔術である。
「光の民は逞しいね。っと、全部修復される前に残骸漁っとかないと。デルゲン君に渡した爆弾の結果もまとめないといけないし、僕も光の民に負けてらんないよ」
住む街が破壊されたというのに住民達はワイワイと集まって慣れたように街の修復を始めていた。狼と闇の民が街を破壊したというのに、大した文句をいうでもなくガヤガヤと会話しながら修復をしている姿は楽しそうだ。
大半の光の民は戦うことを避けることから、彼らは弱々しいように見えるが実際はそうではない。闇の民が戦いにおいて強い精神力を持つのと同じように、光の民は日常において強い精神力を持っていた。
修復に参加している者の中には闇の民の姿もちらほらとあった。恥ずかしそうにぺこぺこしながら街の修復を手伝っている。そのにいた闇の民達の内訳は先程の狼との戦闘に参加していた人がほとんどのようだ。先程の戦闘と言えば、闇の民の代表とも呼ばれる人も参加していたはずだ。
ガンザイは周囲を見渡して……
……俺の姿を見つけてしまった。バッチリと目が合う。俺はすっごい嫌そうな顔で抵抗したが、ガンザイはそれを意にも介さず、ニコニコと笑みを浮かべながら俺の方へ近寄ってきた。
「デルゲンく~ん。君が慈善事業をしているなんて珍しいよね? 悪い物でも食べたりしたの?」
ほんとに嫌な奴だ。こいつは危険人物としてブラックリストに登録されている悪党の筆頭である。だから俺はこいつと縁を切りたいと常々思っているのだが、こいつは俺に寄生するようにいつも寄ってくる。
俺はそっぽを向いた。街の修復作業を続ける。
「えー、無視しないで欲しいな。僕は君と仲良くしたいだけなんだよ」
「俺は仲良くしたくないんだよ。危険物製造野郎なんかとつるんでるなんて知られたら俺の株が下がる。俺は光の民だからな」
「いやいや君が光の民は無理があるよ。だって、さっきまで狼と戦ってた闇の民の集団はデルゲン君が従えてたんでしょ? ほら、この時点で君は闇の民の王だよ」
はぁ? 俺が闇の民の王だぁ? んなわけないだろ。どういう発想だよ。やっぱガンザイの野郎はアホだな。普段から危険な武器ばっかり作ってるせいで頭の中もイカれちまったらしい。
相手をするのもアホらしいな。
「えーちょっと、そんなに無視しないでよ」
「うっさいな。お前は他にやることがあるんだろ? そっちを優先したらどうだ?」
「お、よく分かってるね。そうなんだよ。デルゲン君が使ってくれたおかげで新作の爆弾のデータが集まってるんだよね。それに、君のおかげで沢山の死骸を漁ることができた。感謝するよ」
心外な話だが、俺を尾行していると死骸を多く見つけられるらしく、ガンザイは良く俺の後を付けているらしい。こいつは俺を死骸製造機みたいに思っている節がある。
とことんまで糞みたいな性格をした野郎だ。
ガンザイが名残惜しそうに懐をさすった。その中には集めた素材が入っているのだろう。
「ごめんね。今は忙しくて時間が取れないんだ。今度会った時は新作の話とか聞かせて欲しいかな」
「おう、おととい来やがれ」
ガンザイが姿を消したのを確認して、俺は光の民と一緒に街の修復を続けた。
こうしていると心が洗われる。俺はやはりこっち側の住民だったのだと思い起こされる。光の民は優しくて、俺達と狼との戦闘行為を許してくれた。なんなら俺達を誉めてくれた。街の住民が逃げるまでの時間を稼いでくれてありがとう。と、感謝してくれた。
嬉しい限りだ。
俺以外のクズ達もまた、光の民の善良な心に当てられて心なしか嬉しそうにしていた。
光の心が闇の心を照らしつけることで、闇の民が光の民へと更生する。それは俺が目指している在り方だ。光の民は俺が目指すべき極地に既に辿り着いていると言える。
やはり光の民は素晴らしい民だ。この国が光の民によって満たされた日には、この国は更に良い国になっていることだろう。俺はその手助けがしたい。
「……狼は俺が狩る」
リスディスのイベントは国を活性化するために行われている。だから狼を狩ることで何かが起こるはずだ。そしてその何かは国にとって重要なことに違いない。
少なくとも俺にとっては重要な意味がある。あの毛並みだ。俺は既に魅了されていてモフモフを諦めるのは困難だった。
俺が頑張る価値は十分にある。
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