第11話 未完の英雄譚
フーラ以外にも国は存在し、フーラとは異なる歴史や文化を持っている。フーラは世界で最も先進的な技術を持つ国ではあるが、その成長のために失ったものが存在する。
その代表的なものは『英雄』だろうか。
長い時の中でひたすらに技術を進歩させ、ありとあらゆる争いから独立した国には英雄が誕生しない。英雄とは敵との戦いの中で生まれるものであり、戦う相手がいなければ誕生することは無いのだ。
だから、英雄譚などという民の道楽はフーラには存在しえず、他国の英雄譚はフーラにとって特別な価値を持つ。
◆ 他国の英雄譚
役目を終えた英雄は旅を望んだ。祖国の脅威を退け、魔物の群れを壊滅させた英雄は暇をもてあますことを拒んだ。人の生は短い。動きを止めたら動き出す前に死んでしまうかもしれない。だから、英雄は歩みを止めることができなかった。
幸い、やりたいことはあった。
幼いころから言い伝えられてきた永遠の国への欲求。
曰く、世界の全てを凌駕した国が何処かにあるらしい。その国に辿り着くことができたなら、世界の全てを手にしたと言っても過言ではないと言う。神話に名高い楽園のような国がこの世界の何処かにあるのだ。
だが、多くの者達がその地を目指して旅をするも、その殆どが辿り着くより先に息絶え、僅かに辿り着いたとされるものすら、帰ってくることは無かった。本当は実在しないのではないかと囁かれるも、世界地図にはぽっかりと穴が開いていて、それが永遠の国であるという論調は後を絶たない。
その地に何があるのかは分からないが、何かがあるのは間違いない。
己が役目を果たした好奇心旺盛な英雄が、幼き頃に夢見た国を目指すのは半ば必然のことだった。
英雄は独りきりで永遠の国への旅を望んだ。国の英雄に付いて行きたい者は多かったが、英雄は全てを拒んだ。王族も貴族も商人も農民も冒険者も、長年の相棒だった狼でさえ付いて行くことを拒まれた。
そして、英雄はたった一人で永遠の国へと旅立った。
それから……
人の代で五つ程の時が巡り、一体の狼に穿たれた楔が腐り崩れる。
祖国を守れという使命と共に穿たれた楔だったが、長い時を経るごとにその力は弱まり、遂には壊れてしまった。
英雄の相棒だった狼にとって、それは好機だった。
あの日、英雄を追いかけられなかったことがずっと心残りだった。その心残りを果たす時が来た。あれから長い時が経ち、既に人の生は尽きただろうが、歩みを止めるわけにはいかない。
忠犬というのはどこまでも主と共にあるものだ。英雄譚ではそうあるべきだと決まっている。
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