第5話 フーラに蔓延るクズ共
闇の民と呼ばれる奴らはクズとして知られている。死なない身体と法律のない自由な世界が彼らに自由な精神を与え、その結果生まれてしまったのが歩く粗大ゴミである。
背中に刀を担いで腰には手榴弾を装備する。これが俺の戦闘スタイルだ。刀のサイズは片腕程度の曲刀で、速度を重視した取り回しが良い造りになっている。俺は単独で戦うことが多いから動きが遅いと簡単に囲まれて負けてしまうからだ。
俺としては背丈ほどの刀を使って戦いたかったが、俺の最適な戦闘スタイルを追及すると刀は短い方が都合が良かった。
「……矢が飛んできたのはこの辺りだよな」
俺を殺したクズは得物に弓を使った。弓は音の出ない武器だから暗殺の道具としては最適だ。低級魔術を併用すればかなりの飛距離を出せるのもあって、大昔にクズの中で相当流行った。その流行は今はほどほどに落ち着いたが、弓が一世を風靡した頃は空に矢が飛んでない時間は無かったと言われるほどだったらしい。
必然的に弓への対策も広まっており、弓矢で殺されたときに如何にして鬱憤を晴らすのかも知られている。俺が今回使っている方法も一般的な弓への対策だ。
殺された瞬間に矢じりと羽の方向を確認すれば、矢じりとは逆の方角に下手人がいる。その周辺にいる奴らを全員殺せば気分は晴れる。
リスポーンしてから直ぐに向かえば復讐を果たすことができるだろう。俺はリスポーンすると同時に武器を確保し、一直線に走った。
「……ッ、待ち伏せか」
俺が到着すると同時に、シュバッと十数人のクズが現れた。闇の民と光の民の間に種族的な違いはないが、この国で長く暮らす者ならば違いを見抜くことができる。
「よお、昨日はよくもやってくれたなぁ」
黒い頭巾を被ったクズが俺の前に立ちはだかる。同じく黒いマフラーを巻いたクズが俺の背後を取った。
闇の民には複数の呼び名が存在する。闇の民、影、中二病、クズ、粗大ゴミ、呪われし者、異端者、これらは全て闇の民の呼び名だ。俺はその中でもクズがお気に入りでよく使っている。
「クズが何人集まろうが俺には勝てないぞ」
クズと戦う時のキルレは最低でも二桁には昇る。こいつら十数人程度が束になったところで俺が負けることは無い。
「……見てたぜ」
クズの一人が前に出た。黒いバンダナを付けている奴だ。
闇の民は中二病から脱することができなかった病人だという説がある。その説を裏付けるかのように、闇の民は中二病を象徴するアイテムを身に着けていることが多い。俺を囲んでいるこいつらの中二病アイテムは黒色の物のようだ。……俺と趣味が合う。
「お前、女と一緒に歩いていたな……」
「それがどうした? ミルキィは俺と仲が良いんだ。一緒にいるぐらい当然だろ?」
中二病は思春期特有の病気だ。そして、思春期には別の病気も発症しやすい。
クズたちが三人、続けざまに俺を罵る。
「女に現を抜かすなんてお前はいつからそんなに弱くなったんだ? 女なんぞに関わって得られるもは少ないはずだぜ」
「俺達はそういう奴らじゃないはずだ。ただ力を求めて欲望を解き放つ。この死んでも蘇る国ではその在り方こそが正しい。死に囚われない欲望こそが正義だ」
「だがもし、それでもお前が女を欲するなら……、俺達にも分け前を寄越すのが筋って奴じゃないか?」
俺は鼻で笑った。つまりこいつらはカッコつけて登場した癖に、俺が女とイチャイチャしてるのが気に入らないだけらしい。
刀を担いで挑発する。
「ハッ、強がるのはよせ!! どうせお前等はそんなこと言っておきながら本当は女が欲しいんだろ!? でもなぁ! その望みが叶えられることはない!! お前らは指をくわえて俺がミルキィとイチャイチャしてるのを眺めてれば良いんだよ!! ミルキィは俺のもんだ!! お前等にはやらねぇ!!」
バーーーーン! と効果音を出したくなるほど胸を張って宣言した。
クズたちが怖気たように一歩引く。俺のミルキィへの愛に圧倒されたのかもしれない。
そうだ、お前たちはどうあがいても俺に適うわけがないんだ。クズはクズらしく俺に逆らうことなく大人しくこの国の藻屑となるが良い。
しかしクズ達は意外にもわきまえていた。
「……いや、俺達は純愛に手を出すつもりはねぇよ。純愛は良いものだ。それに関しては俺達も応援していると言っていい。……デルゲンが純愛をしてるのはムカつくが、ミルキィさんに罪はないからな」
このクズ共は純愛に造詣があるようだ。俺と気が合うじゃないか。やっぱ純愛だよな。
「じゃあなんだ? ミルキィがダメってことは……お前ら、もしかしてコンコンを狙って!?」
「違う違う! それはもっと違う! あんな女狐は俺達には無理だ! 関わり合いになるのも避けたい」
ん? じゃあ一体何がしたいんだ?
黒い頭巾を被ったクズが他のクズに目配せをした。コクリと頷く。スチャリと暗器を取り出した。
「……ヤろうぜ」
クズ共は俺と戦いたかったようだ。
◆
この国において命の価値は限りなくゼロに近い。だから、命を失うことはデメリットにはならず、命を失う遊びは容認される。
クズ共にとって、殺し合いとはチャンバラごっこのようなものだという。……控えめに言って狂ってると言わざるを得ない。死んでもリスポーンするとはいえ、殺すのは良くないことだ。
だが俺はクズ共の誘いに乗った。
カチャリと刀を取り出し、腰に手を当てた。
そして勢いよく空中に飛ぶ。と同時に腰の爆弾を下に投げつけた。クズ共が爆風に巻き込まれて連携を失う。
「うおっ! 野郎ッ!」
俺は爆風によって更に上空へと上昇していた。上から見下ろすと下の状況が良く見える。爆発で殺せたのは二、三人と言ったところか。
爆破の勢いが死んで、俺の身体は上空から地面に向けて落下する。俺は刃を下に向けて落下先をコントロールした。1,2……ここだな。
落下先のクズをクッションにして殺し、その隣にいたクズの首も切り裂いた。首筋から真っ赤な血液が噴出して俺を赤く染める。
「チッ、後で洗わねーとな」
俺はその流れ作業で三人目に刃を向けた。三人目のクズは抵抗の意志を見せたがクズは雑魚だ。局所的な一対一では俺に分がある。
腹を切り裂いてはらわたを取り出した。刃を骨に引っ掛けて内臓が飛び出るように振り回す。内臓で汚れたくない潔癖症のクズ共が後ろに引いた。
「そんな覚悟で俺に挑みに来たのかよぉ!? ああ!? 死ぬ気でかかってこいやぁ!?」
クズ共は中二病を患っているから服装や武器はカッコいいものを使いたがる。暗器の類を使っているのはだからだ。暗器とは暗殺に使用されるような小さな武器のことを指す。この場ではナイフや折り畳み式の槍がそうだ。
槍を先頭にして陣形を組みなおしたクズ共が負けん気を放った。
「やってやらぁ! お前と戦うことを楽しみにしてたんだぜぇ! 昨日は爆発落ちで直ぐにいなくなりやがって!」
「死なねぇんだ! 思いっ切りぶつかり合おうぜぇ!」
その意気や良し。それでこそ闇の民だ。尊き命に価値を見出せず、その場の楽しみにのみ価値を見出す異常者共め。俺の光の魂でお前等を浄化してやる。俺がこの国の闇を消し去るんだ。
俺の心に秘められた穢れ無き心が騒いでいる。彼らを浄化したまえと。俺はその心の騒ぎを吐き出すように声を張った。
「おんどりゃぁぁ!」
爆弾を投げ、刀を振り回して殺していく。なるべく一人一人が別の死に方になるようにと、趣向を凝らしながら、芸術品を作るかのように刃で身体を切り裂いていく。
きっと、俺の剣の舞はとても美しいものになっていることだろう。光の民達は俺の光の心が織り成す芸術品に感動してくれるに違いない。
そう思うと余計に気が昂って、俺はもっともっと良い死体の山を築こうと光の心を燃やした。
残り三人。
「ふはははっ、ははははは!!!!!!!」
いつの間にか俺達は繁華街まで流れ着いていたようだ。きっと、光の民たちは俺が作り出す芸術品を見てくれるだろう。俺の気持ちは更に昂った。
黒い頭巾を被ったクズが口を開いた。
「デルゲン……。おまえと戦っていると分かるぜ。お前はやっぱり“こっち側”なんだろ」
あ゛? 今なんて? こっち側? 聞き捨てならんな。いや、所詮はクズの戯言か。光の戦士たる俺が闇の民と同じ側と見間違えるとは気味の悪い眼球を持っているようだな。
爆弾も一個余ってるし、丁度良い。
「なあ、デルゲン。お前は光の民なんかじゃない。俺達と同じ闇の民だ」
人を中二病の戦闘狂呼ばわりとは失礼な奴だな。俺は中二病じゃないしクズよりも強いしミルキィのおかげで独り身じゃない。やっぱり闇の民は異常者だ。
「お前ら三人、一気に屠ってやるよ」
「ふん、俺達をそう簡単にやれると思ったら大間違いだぜ」
三人のクズが俺を挟むように迫ってくる。俺はそれらをいなしながら三人が一か所に纏まる瞬間を作り出す。クズ共の攻撃は所詮は三流で、俺の二流の剣技を前には手も足も出ない。そして、三人が団子になった瞬間、俺は爆弾を投げて──
──投げた先が繁華街なことに気付いた。
「やべッ!?」
瞬時。侍の姿が視界に入る。
爆弾は遥か上空で爆発した。
ということで、俺はテロ容疑のため、非公式治安維持組織『
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