魔法少女と逆襲のナイトメア

 気付いたら負けてポッドの中に戻っていた。

 自分で何を言ってるのか分からないが、とにかく瞬殺されてしまった。


 ある意味分かっていた結果だが、これは酷い。


 何をされたかは分からないが、大体の予想はついている。

 今回の収穫は、真正面から戦うべき相手ではないと分かった事だろう。


 この様な試合形式では、解放する前に負けてしまう。

 此方から先手を取るか、始めから解放していないと話にならないだろう。

 流石は2位と言った感じだ。


 少しの間ポッドで考えを纏めてから、待機室に戻る。

 そこには此方にピースサインを向けるレンさんが居た。


 ……少々イラっとしたが、広い心で許してやろう。


「言った通りだったでしょ?」

「はい。私のを凍らせたのですか?」

「内緒よ。その方が面白いでしょう?」


 面白いね……どうせ知ったところで結果は変わらないし、問い詰めなくても良いだろう。


「そうですか」

「あなたのお願いを聞いたことだし、今度は私のお願いを聞いてもらおうかしら」


 そんなこと話しましたっけ?

 一個人としてランカーに戦いをお願いするのは結構なお願いなので、別に聞くのは構わないが、普通なお願いであることを願う。


「良いですけど、なんでしょうか?」

「イギリスでだけど、私が何かやらかしたらフォローなさい」

「フォローですか?」


 どちらかと言えば俺がフォローされる側だと思うが、どういう事だろうか?


「ええ。私ってあまり他人の事を気にしないせいか、よく相手を怒らせてしまうみたいなのよ。だから対人系の任務は受けたくないのだけれど、アロンガンテがね……」


 まだ僅かな時間しか話していないが、レンさんは不思議な人と言った感じだ。

 会社で言えば仕事は出来るが、人付き合いがとことん苦手な人種だな。

 なまじ仕事ができるせいで、上司も扱いに困ってしまうのだ。


 俺も人付き合いは苦手な方だが、最低限の事は出来ていた自負がある。

 フリーランスだった事も理由の一つだが、多少は人の機微を探るのが上手かったのだろう。


 まあ苦労することもあったが、喧嘩別れや買い言葉に売り言葉なんて事になった事は、あまりない。


 一応レンさんは自分が苦手だと分かっているから避けているが、とうとうアロンガンテさんに何とかしろと怒られたのだろう。


「構いませんが、こんな少女に頼んで大丈夫なのですか?」

「私に全て任せた場合、イギリスが氷の国になるかもしれないわよ?」

 

 責任重大じゃあないですか……。

 多分レンさんは、冗談が分からない人間なのだろう。


 思った以上にイギリスでの任務は胃を痛めそうだな。

 だが、ここで大人だった頃の感覚を取り戻しておくのも良いだろう。


 あまり身体に引っ張られては、どこかでポカをやらかしそうだからな。

 

「なるべく善処はしますが、期待しないで下さいね」

「ありがとう。それじゃあまた明日ね」

 

 レンさんがシミュレーター室から出ると、端末が鳴った。


『アロンガンテから明日の準備についてのメールだね。服や雑貨はこっちで準備しておいてくれってさ。それと、朝7時にまた執務室へ来てくれってさ』

 

(了解)


 転移ができるから正直金だけあれば良いと思うが、最低限の準備は必要か。

 あまりイギリスから離れるのはよくないだろうし、アロンガンテさんが言っていた住居にはそれなりに詰め込んでおいて損はないだろう。


 さて、少々拍子抜けな戦いとなってしまったが、今日はどうするかな……。

 通常なら魔物の討伐なのだが、レンさんとの戦いのせいで微妙に萎えてしまっている。


 明日の準備も寝る前にアクマがやってくれるだろうし、珍しく手持ち無沙汰だ。

 急にSS級の魔物とか現れればいいのだが、現れて欲しい時に限って現れないのが魔物だ。


 とりあえずシミュレーター室に居るのも悪いので、一旦退室する。

 

「あら、イニーじゃない」

 

 通路を歩き、第二シミュレーター室の前を通り過ぎた所で、聞き覚えのある声が聞こえた。

 聞き覚えのある。つまり知っている相手なので、そのまま無視して歩く。


「聞こえているんだから無視しないでよ!」


 数歩無視して歩くと、直ぐに駈け寄られて肩を掴まれる。

 仕方なく振り返ると、そこにはナイトメア……さんが居た。


 しかし1人ではなく、その後ろにはロシアの1位であるストラーフさんも一緒だった。

 場所から考えるに、2人で訓練でもしていたのだろう。

 ナイトメアさんを無視して、とりあえずストラーフさんに頭を下げておく。

 

 ナイトメアさんは見た目だけは凛々しい。

 だがその性格は見た目とは違い、熱血と言うか、直情的と言うか、少々面倒な人である。

 

「廊下で大声を上げないの」

「うっ。ごめんなさい」


 割と大きな声を出していたナイトメアさんは、案の定ストラーフさんに怒られてしまった。

 ストラーフさんと会うのは一応2度目だが、やはり強者の圧があるな。


 

 軍服っぽい服と、服に見合った帽子。

 そして腰には銃と剣が携えてある。


 見た目だけなら剣と銃で戦うのだろうと思うが、この人はバリバリの魔法職だ。

 俺と同じ後衛側の魔法少女なのである。


 結構怖そうな人だが、ナイトメアさんの世話をしっかりとしてる辺り、良い人なのかもしれない。


 ……そう言えば、後で約束の魔導銃を受け取っておかないとな。


「用がないなら行きますが?」

「まあ待ちなさいって。見た所、暇なんでしょう」

 

 いいえ。なんて答えたいが、ナイトメアさんの言う通りなのである。

 一応喫茶店で珈琲を飲むか、ジャンヌさんの所で珈琲でも飲もうかと考えているだけで、暇なのだ。


「否定はしません」

「なら私たちに付き合いなさい」


 チラリとストラーフさんの方に顔を向けると、首を横に振られた。

 それはどう言った意味ですか?

 

「話す時は最初に中身を言いなさいって言ってるでしょうに……すまないわね。少し前にイレギュラーの魔物の予兆が現れたから、私とこの子で討伐に行く予定なのよ。そしたら、この子ったらイレギュラーなんて無理って駄々をこね始めたのよ」

 

 なるほど。シミュレーターで戦ってたら魔物の討伐依頼が来たので、ナイトメアさんと一緒に討伐へ行こうとしてたのか。

 ナイトメアさんが嫌だと駄々を捏ねているのは、相手がストラーフさんだからだろう。


 ナイトメアさんをシミュレーション室から引っ張り出した所で、俺と遭遇したのか。


「別に駄々なんてこねてないし! 2人だけなのはおかしいって言っただけだし!」

「本来ならあなた1人でこなせないと駄目なのに、あなたときたら……別途報酬を出すから、良かったら付き合ってくれない?」


 これはある意味渡りに船だな。

 俺主導で戦えないのは不満だが、雑魚を相手にするよりは楽しめるだろう。


「こちらも先ほど模擬戦が終わって暇をしていたところなので、良いですよ」

「助かるわ」

「模擬戦って誰と戦ってたのよ?」 

 

 普通なら対戦相手と一緒に出てくるのだろうが、少々考え事をしていたせいで、レンさんからかなり遅れてシミュレーション室を出た。


 ナイトメアさんが周りを見渡したところで、相手など見えはしない。


「日本のランキング2位である、フリーレンシュラーフさんです」


 ナイトメアさんは嫌な顔をし、ストラーフさんは軽く帽子を下げて笑いを堪えていた。

 2人ともレンさんの事を知っているようだが、思っている感情は別のようだ。


「知っているんですか?」

「私、昔あったあの人の討伐隊の1人に組み込まれたんだけど、あれはトラウマだったわね……」


(何かあったのか?)


『昔凶悪な魔物が出るって事で、レンを筆頭に討伐隊が組まれたんだけど、魔物だけじゃなくて、魔法少女もまとめて凍らせたらしいよ』


 あの人ならやりかねないと思ってしまう……。


「あの引き籠りが模擬戦をするとは珍しいね。何かあったのかしら?」

「引き籠り?」 

「知らないの? どのパーティーにも出ず、討伐もほとんど単独。そもそも話した事がある人が少なく、付いたあだ名が引き籠りよ。私も二言三言言葉を交わした事があるだけよ」


 まあ、眠り姫なんて実質引き籠りと大差ないからな。

 そう呼ばれるのも、無理もないだろう。


「それより、時間も無くなってきたから移動しましょう、話は後よ」

「……はい」

「分かりました」


 魔物も急に現れる事もあれば、今回みたいに予兆を捉える事によって、しっかりと準備してから戦いに挑めることもある。


 気にはしていなかったが、強い魔物程、現れるのに時間が掛かっている気がするが、オーストラリアの時は何の予兆もなく現れていた。


 自然的なものと、魔女が準備した人工的なものとでは差異があるのだろうが、気にした所で魔物を倒すのは変わらない。


 なるべく2人の後ろに隠れるようにして歩き、目立たないようにする。

 受付の妖精に変な目で見られた気がするが、俺の転移記録がない事に気づいたのだろう。


 ……2人に言って転移した方が良かったかもしれないが、そうすると2人にも拠点から出たという記録がなくなってしまう。

 どのテレポーターからどのテレポーターに行ったかの記録は一応大事だからな。


 そう言えば、どこに行くのか聞こうとしたところで、テレポーターが起動してしまった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る