魔法少女と1<4

「ナンバー0ゼロ、愚者解放」


 この姿になるのも3度目だが、何故シミュレーションでも変身出来るんだろう?

 魔力の供給もされてるし、どうなっているんだろうな?


 たが、今はそんなことなど、どうでも良い。


 時間制限がある以上、悠長に考えている時間はない。


(そんじゃ、頑張るとするか)


『シミュレーションとはいえ、まだ全快とはいかないんだから、無理はしないようにね』


 俺の記憶が正しければ、この戦いはアクマが受けたような記憶があるんだがな……。

 まあ、リハビリ程度と考えておこう。

 魔法少女になってからは、久々にしっかりと休んでたからな。


 フィールドはただの荒野で、対戦相手となる4人との距離はギリギリ目視出来る程度か。

 

 空中に大きな5が表示され、カウントが始まる。


 ……シミュレーションと分かっていても、相手が相手なだけにワクワクしてしまう。


 身体から漏れ出た魔力が広がっていく。

 まだ始まっていないが、こればかりは抑えようもない。

 

 周囲に俺の魔力が満ちれば満ちた分有利になるが、別にフライングしてるわけではないので、多分大丈夫だろう。


 3……2……1……。


 始まりを告げる音が鳴り響く。


 瞬く間に植物が生い茂り、桃童子さんが突撃してくる。


 周りにはタラゴンさんの魔力が広がっており、俺が動いた瞬間に爆発させるつもりだろう。


 やはりというか、当然というか、個々の癖が強いくせにしっかりと連携も出来るようだ。


 この前俺がタラゴンさんやブレードさんとやったように、チーム戦の練習を何度もやっているのだろうな。

 

消失せよデリート


 フルールさんの魔法を強制的に解除して、タラゴンさんの魔力も俺ので上書きする。


 桃童子さんの突撃は片方の球で受け止める。

 球が壊れないか不安もあるが、多分大丈夫だろう。


我が道を阻む者は無しグローリーロード


 もう片方の球から全員に向けて熱線を発射する。

 熱線が通り過ぎた所から火柱が吹き上がり、視覚的な妨害となる。


 上空ではアロンガンテさんがレールガンを構えているが、少しでも俺に隙が出来れば撃ってくるのだろう。


 仕返しとばかりに、俺の立っている地面が爆発して吹き飛ぶ。

 爆発のタイミングは分かっていたので、爆発と同時に空を飛び、直撃を避ける。


 ダメージ要員の桃童子さん。

 妨害要員のタラゴンさん。

 防御要員のフルールさん。

 そして、とどめ要員のアロンガンテさんと言ったところか。


 役割としてはこんな感じだと思うが、全員が全員、俺を殺すために動いている。


 直ぐに桃童子さんが来そうだし、早めに大技を使っておこう。


「開け。断罪の門」


 頭上に門を模った大きな魔法陣が現れる。

 

罪深き者に忘却の罰をメモリー・オブ・コンヴィンツィオーネ


 門が開き、巨大な剣が桃童子さんに向かって進んでいく。


 これはブルーコレットがやっていた様な概念をこめた魔法だ。

 流石に魔力が使い放題とはいえ、必中や必殺などは無理だ。

 だが、相手の思考に避けるのは難しいと、思わせる事くらいはできる。


 大きさ的に避けても余波がとんでもない事になるので、桃童子さんはどうにかして防ごうとするだろう。


 まあ、その前にフルールさんが援護をするとは思うがな。

 

 剣に向かって鉄の様に見える植物が束となって突き進んでいく。

 桃童子さんは構えをとり、迎え撃つために何かをしている様に見える。

 

 このままどうなるか見ていても良いが、これは1対4だ。

 これでフルールさんと桃童子さんは足止めできたが、まだ2人残っている。


 チラリとアロンガンテさんを見ると、レールガンが光り輝いている。

 どう見ても必殺の一撃を溜めているな。

 

 念の為、桃童子さんに向かわせていた球を回収しておく。


 タラゴンさんには余っている球を向かわせて、時間稼ぎをしておこう。


 この中で一撃の火力がヤバイのは桃童子さんとアロンガンテさんの2人。

 桃童子さんも厄介だが、先にアロンガンテさんを潰しておきたい。


 それと、やるならば番号順に倒した方が、何となく綺麗な感じがする。


 タラゴンさんの爆発を障壁と球で防ぎながら、アロンガンテさんの方に身体を向ける。


 すると、視界を埋め尽くす規模のレーザーが放たれた。


 ドッペルの時に見たやつより強力なのは、溜めていたせいだろう。


 到達まで刹那の時間もないが、焦る必要などない。

 折角だ。同じ様な魔法で吹き飛ばしてしまおう。


「神撃・乖離」


 一時的に全ての魔力を球に送り込む。

 更に今回の戦闘で球に蓄えた魔力も上乗せし、アロンガンテさんのビームに向かって、球から魔法を放つ。


 戦闘時間は短いが、蓄えた魔力は相当なものとなっており、俺換算で10人分だろう。


 一瞬だけ拮抗したが、アロンガンテのビームを食い破るように突き進んでいく。


 アロンガンテさんも、正面から食い破られるとは思わなかったのだろう。

 例の防御は間に合わず、そのまま反応が消えた。


 先ずは1人目。


 神撃・乖離がまだ放たれている球をなぎ払い、タラゴンさんを牽制する。 


 番号的に次はフルールさんだが……。

  

 桃童子さんと一緒に、まだ俺の魔法に対処しているはずだ。


 そちらを見ようとすると、空気を揺らす程の轟音が響いた。

 そして俺の魔法が、消失したのが分かった。


 流石に倒せるとは思わなかったが、正面から殴って無効化されるとは思わなかったな。


 フルールさんが援護したせいか、見た感じ負傷らしいものは見えない。

 

 消費した分の魔力を回復し、フルールさんに狙いを定めようとすると大きな木が生えてきた。


(なにこれ?)


『世界樹と呼ばれる魔法だよ。効果は追撃とバフと魔力回復の促進だったかな。自律魔法だから早めに対処した方がいいね』


 なんとも面倒臭いものだ。


 まだ時間に余裕はあるし、もう少し驚かせてやろう。


(お前の力を使うぞ)


『了解。一気にやっちゃえ!』


「ナンバー15フィフティーン悪魔解放」


 黒いボロボロの外装を纏い、鎌を持って落下していく。

 タラゴンさんの爆発をいなし、世界樹を足場にして突撃してくる桃童子さんと対峙する。


 容姿からは考えられない程冷たい眼をしている。

 内心は分からないが、表面上動揺は見られない。


 これぞ武人と言ったところだろう。

 

「轟破衝!」


 空気を割るような衝撃波が飛んでくる。

 当たれば身体がバラバラになりそうだが、外装で身体を覆うことで防ぐ。


 衝撃波に続くようにして突っ込んでくる桃童子さんの拳を鎌で受け流し、フルールさん目掛けて落ちていく。


 自分が狙われてると分かっているフルールさんは様々な植物や、世界樹で攻撃してくるが、全て切り裂いて進んでいく。


『後ろから桃童子が来るよ』


(分かってるさ)


 桃童子さんの足止めはフルールさんを射程圏内に納めてからやりたい。

 このフォームは初見だからこそ輝く。


 桃童子さんを倒すつもりで攻撃するが、アロンガンテさんみたいに上手くはいかないだろう。

 だがあの武器か桃童子さんを斬りつけることが出来れば隙が出来る。


 先程の受け流しも俺の武器に特異な能力は無いと思わせるためには必要なことだった。


 避けずに受けてくれる可能が少しは上がる。


 襲いかかってくる枝を足場にして、軽く跳びながら振り返る。


 そうすることで桃童子さんの拳を避ける。

 拳の風圧で枝で作られた壁に風穴が空く。


 下手な金属よりも硬いはずなのだが、とんだ馬鹿力だ。


 桃童子さんと再び目が合い、意志が伝わってくる。

 望み通り斬り結んでやるが、10秒……いや、5秒で一撃いれてやる。


 全身と鎌に魔力を巡らせ、桃童子さんに斬り掛かる。


 1合目。振り下ろしを避けられ、右のストレートを繰り出されるが外装でそらす。


 2合目。石突の突きを籠手で防がれるが、鎌を回転させて振り払う。それをしゃがんで躱され、蹴りを放たれる。


 3合目。蹴りとフルールさんの魔法を避けながら再び鎌を振り下ろす。それを桃童子さんにさんは……受け止めた。


 苦々しく顔を歪めたのを確認し、鎌を振り払って桃童子さんを大きく吹き飛ばす。

 あわよくばこの一撃で倒したかったが、ギリギリ防がれてしまった。


 約4秒か……誤差だな。

 

 このままフルールさんまで行こうと思ったが、ふと違和感を感じて空を見上げる。


 そこには大きな火の玉が浮いていた。


 これはまた大味な技だな。

 

 直ぐに対処したいが、面倒な事に無数の枝が俺を絡め捕ろうと、近づいてくる。


 四方は植物。空には火の玉。殺す気満々だな。


 だが、それが良い。


悪魔は優雅に反転するデモンズ・リバイバル


 オルネアスの時に使った第二形態程ではないが、このフォームは魔法には結構強い。


 通常の刃の先に、魔力によって作られた刃が形成される。

 約10メートル。まともに振るのすら難しい長さだが、重さはないので問題ない。


 囲っている四方の植物を斬り飛ばし、火の玉に向かって斬撃を飛ばす。


 結果を確認する間もなく、フルールさんとの間合いを詰めていく。

 下手な要塞より硬い植物をサクサクとぶった斬り、あと少しという所まできた。


 植物の合間から見えたフルールさんの顔には大量の汗が伝っていた。


 こんなにスパスパ斬られるなんて事態はそうそう無いだろうからな。

 ブレードさんたちとしたシミュレーションでは相当苦労させられたが、今回はこちらに分があるので、このまま決めさせてもらおう。


 魔力の刃を消してから、鎌をフルールさんに向けて投げる。

 フルールさんは驚きながらも鎌を避けるが……。


「……解放」


 悪魔から愚者に変身する。


 鎌は2つの玉に姿を変える。


終わりを告げる鐘ノヴァ・エクリプス

 

 2つの玉が輝きだし、大爆発を起こす。


『フルールの反応消失。残り2人だよ』


 始まりを告げる音を濃縮して範囲を絞った魔法だが、威力は想像以上だな。

 障壁を張っていなかったら、遠くまで吹き飛ばされていただろう。


 生い茂っていた葉や枝が吹き飛び、世界樹だけが残される。

 あれは設置型の魔法みたいだな。

 

 多少面倒だが、あれは無視でいいだろう。

 

 とにかく、これで残り2人だ。

 時間は約2分半といった所か。

 余裕ではないが、問題ない範囲だ。


 少しばかり離れているタラゴンさんと目が合う。


 ――なんとなく、タラゴンさんの考えが、読めた気がした。

 

 炎の様に揺らめく髪が更に輝き、地面が赤くなって溶けていく。

 一応桃童子さんが生き残っているのに、酷い人だ。


命あるものよ終われヘル・ヘイム・エイジ


 さて、考えていることが分かると言ったが別に付き合うつもりはない。


 何せこちらには時間制限があるからな。1分以内にタラゴンさんを倒さないと、次が辛くなってしまう。


 空と地上に氷が現れ、タラゴンさんを潰そうとする。


 氷のぶつかる鈍い音が響き、粉々に砕けながら竜巻となり、中心にいるタラゴンさんを粉砕しようと荒れ狂う。


 反応はいまだ消えず徐々にこちらに向かってきている。


 遠くに吹き飛ばした桃童子さんも復活した気配がするし、急いだほうがよさそうだ。


 つか、これだけ大規模の魔法なのにまだ倒されてくれないのか……。


 下手に近づけば熱に焼かれ、魔法は熱の防壁に防がれる。

 更に接近戦もできて遠距離の魔法もかなり強力だ。


 面倒この上ないが、今なら負ける事はない。

 タラゴンさんの防御を上回る魔法を使えばいいのだ。


「我は始まりを告げ、終わりを齎す者」


 僅かな時間を使い、軽く詠唱する。


『桃童子到達まで約6秒』


 6秒……足りるな。


 辺り一面に大量の魔法陣が展開され、全てがタラゴンさんの方を向く。


 詠唱を無しでも良いのだが、少しでも負荷の軽減をしないと少し辛くなってきたのだ。


 5分……当たり前だが、無理をすればその分制限時間が減ってしまうようだな。


流星は太陽を砕くソル・イレイズ・ミーティア

 

 展開される全ての魔法陣から魔法が放たれて、タラゴンさんに向かっていく。


 一発一発が天撃相当の魔法だ。

 それを数百発。これタラゴンさんも終わりだ。


 次の桃童子さんは愚者より悪魔の方が戦いやすいだろう。

 さて、確認はしなくてもいいだろう。


 タラゴンさんの方から桃童子さんの方に視線を向ける。

 もの凄い速さでこちらに向かって来ている。

 

『タラゴンの消失を……避けて!』


 アクマの言葉に従い回避行動をとる。

 だが、左腕の辺りで爆発が起き、服の防御を突き破って吹き飛ばす。


 ――まさか腕が吹き飛ばされとは思わなかったな。

 やはりタラゴンさんは苦手だ。


 腕を治し、愚者から悪魔の能力に切り替えて、地上に降り立つ。


 そして、最後のランカーである桃童子さんが立ち塞がった。


 小さな体から放たれる威圧は、下手な魔法少女なら泣いてしまうのではないだろうか?

 

「最後ですね」

「侮ったつもりはなかったんじゃがな……そんな隠し玉があるとは思わなかったのじゃ。じゃが、だからと言って諦める気など、毛頭ない」


 膨大な魔力が桃童子の周囲で荒れ狂う。


 おそらく互いに望むのは短期決戦だ。

 ちまちまとした牽制などやったところで時間の無駄だ。

 殺すか殺されるか。実にシンプルで俺好みだ。

 

「言葉は不要ですか……」

「力で示す。ただそれのみじゃ。――ゆくぞ!」


 互いに踏み込み、急接近する。

 

「真・羅刹拳」

「夢月」

 

 魔法を使えば楽に倒すことはできるだろう。

 ブルーコレットに使った魔法を1発でも当てられれば、それだけで雌雄を決するだろう。


 魔力にものを言わせて物量で攻めれば、1発位簡単に当てられる。

 

 だがそれではつまらない。

 それはさっきタラゴンさんにやったので、違う手段を使いたいってのが本音だ。


 真っすぐと突き出される拳は修羅の一撃のような気迫を感じる。

 気迫だけで圧倒されてしまいそうだが、俺も死線を何度も潜り抜けている。


 それに、混じり気の無い殺意は途轍もなく甘美なものだ。

 この人とはまたいつか本気で戦いたいものだ。


 それこそ、本当の死闘を……。


 ――駄目だな思考が変な方向にそれてしまう。

 先ずはこの一戦を終わらせなければ。


 俺と桃童子さんが交差する。

 

 桃童子さんの一撃は俺の脇腹を抉るように吹き飛ばすが、これは織り込み済みだ。

 鎌を桃童子さんに振り落ろす。


 防ぐのが悪手だと分かっている桃童子さんは飛び退こうとするがするが、驚きの表情と共に一瞬動きが止まる。


 どうやら俺の血は正常に魔法を発動してくれたようだな。

 シミュレーターが高性能でよかった。


 桃童子さんは直ぐに防御……をせずに次の攻撃に移ろうとするが、流石に俺の方が早い。


 傷も悪魔の能力によって直ぐに塞がり始めている。


 それに、この技を防ぐことは不可能だ。


 鎌は桃童子さんの身体をすり抜けていく。

 そして、桃童子さんは人形の様に事切れた。


 別にこれは殺すための技ではなく、魔力の供給元を断っただけだ。

 魔力が無くなれば変身は解けて、シミュレーション上は負けとなる。


 少々狡い技かもしれないが、一撃は一撃だ。

 

 そして、これで俺の勝ちだ。


 消費魔力は大体俺50人分程、と通常では考えられない量なので、通常状態の俺では50人どころか100人居ても勝てないだろう。


 残り時間は大体30秒だが、既に限界だ。

 数回なら大丈夫だが、これだけの量の魔力を回復するのはやはり無理があるようだな。


(さて、帰るとするか)


『お疲れ様。ないとは思うけど、桃童子との最後みたいにわざと攻撃を受けるのはやらないようにね』 


 あれは血に魔法の効果を付与したからとった行動だが、現実で血を流すのは俺にとってデメリットでしかないからな。


 わざとやることは二度とないだろう。


 ついでに、フルールさんの置き土産である世界樹は焼いといた。

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