魔法少女は発見される
「時間だよー」
アクマに顔を叩かれて起こされる。
……起きているから、叩くのは止めろ!
手でアクマを振り払い、布団から起き上がる。
血が足りないせいなのか、無理に戦った反動なのか、まだ身体が重い……。
「ほらほら。早く闇落ちして、ショッピングだよ!」
闇落ちしろって普通に考えて駄目な言葉だと思うんだがな……。
アクマがハリケーンミキサーみたいな体当りを俺にして憑依する。
(さてと、変身からの変身)
変身して沸き上がる感情を押さえ込み、平常を保つ。
元々魔法少女に良い感情を持っていなかったが、それとは違う感情がふつふつと湧き上がる。
正確な原因は分からないが、まだアクマには内緒にしておこう。
(それで、どこに行くんだ?)
『最近新しく出来たショピングモールが、商業区画の端に出来たんだ。そこに行こうか』
端って言うけど、妖精界に端なんてあるのか?
それは置いといて、新しいショピングモールについてはスイープと茨姫が話してたな。
何でも魔法少女の時に着ていても、大丈夫な服を沢山扱ってるとかなんとか。
身体や魔法少女用の服は魔力によって守られてるが、普通の服はそうではない。
魔法少女の服は魔法少女の魔力によって作られているが、破損したからといって、直ぐに直るわけではない。
時間をかけて自然に直るのを待つか、
俺の場合は、俺の魔力によって衣装を作ったとは言い難い。
闇落ち状態は完全に俺に由来するのだが、白魔導師の方はアクマと俺の合作の様な物だ。
魔法少女は常に死と隣り合わせである。
普通の服で生活や戦闘はしたくない。
そんな彼女達のために、それなりの防御力を備えながらも、ファッションとして服を楽しめるようにと用意されたショッピングモールが、今から行くところである。
良質な魔石が大量に手に入ったため、妖精の魔法とどうにかファッションを楽しみたい魔法少女達が頑張った結果、出来たショッピングモールだ。
値段もこれまでの物に比べればリーズナブルらしく、稼ぎの少ない魔法少女でも買えるとか。
因みに、なぜ良質な魔石が大量に手に入ったのかと言うと、この魔石は俺がM・D・Wを討伐した時に手に入れたものである。
M・D・W後、死んだ事にされた俺の報酬は無くなり、S級やA級の魔石が誰の物でもない状態となったのだ。
最初は魔法局のお偉いさんが俺達にも分配しろとほざいたらしいが、タラゴンさんが一蹴した。
タラゴンさん家で、、どうするか話を聞いた時に事後処理も面倒なので、全て寄付してしまおうと決まったのだ。
これまでの戦いで金は腐る程あるので、今更数十億……数十億など……ちょっと後悔している。
そんな事をつらつらと自分に言い聞かせてる間に、人目につかない場所に転移してからショッピングモールを目指す。
(結構離れた場所からでも見えるな……)
『なんせ、魔法少女達の夢の結晶でもあるからね。規模はここ数年では一番さ』
なるほどね。憂鬱になってきた。
一体どれだけの人が居るのだろうか……。
アクマに文句を言われない程度にゆっくりと歩くこと数分。
ショッピングモールの入り口に着いた。
まだ入り口だというのに、既に人が多い。
(視線が煩わしいな……)
『ハルナはどの状態でも可愛くて美人だからね。仕方ないね!』
全く嬉しくない誉め言葉だな。
さっさとアクマの指示に従って、買い物を終わらせたい……。
「見て、あの子ってこの前東北で……」
「あの子未登録らしいけど、どうやってここに……」
さてと、下手に声を掛けられる前に、中に入ってしまうかな。
背筋を伸ばしてゆったりと歩く。
人前での振る舞いはアクマに散々文句を言われたので、がさつにならない様に気を付ける。
さっさと人前から去りたい気持ちを抑え、ショッピングモールの中に入る。
(服以外に色々と売っているみたいだな)
入口から少し行った所に案内板があり、服や小物の販売店が一番多いがそれ以外も結構な店がある。
『先ずは2階のラビアンって所に行こうか。そこがネットでも評判が良さそうだったからね』
(了解)
ラビアンは2階の、エスカレーターを上って直ぐの場所か。
小さなため息が口から洩れるが、俺が失敗したのが悪い。
案内板から視線を外し、エスカレーターに向かおうとすると、見知った魔法少女と綺麗に目が合った。
数日前に依頼で魔物の討伐に同伴した、紫色の髪と口調が特徴的な魔法少女。
タケミカヅチことミカちゃんが目を見開いてこちらを見ていた。
その隣にはマリンと茨姫も居た。
あのミカちゃんの表情はまずい!
「おっ、お主は……」
「何か御用ですか?」
(何とか被せることが出来たな……)
『まさかこんな所で会うなんてね……正体がバレないように頑張ってね』
ああ。アクマが笑っているのが手に取るように分かる……。
不思議がるマリンと茨姫だが、ミカちゃんはハッとした表情をした後に、何とか取り繕うとしている……頑張れ。
「その……あのじゃ……。うむ。知り合いに似ておったせいで見てしまったのじゃ。すまぬのう」
「確かにどことなくイニーに似ておりますわね。目元なんてそっくりですわ」
茨姫さん? あなたそんなに観察眼とかありましたっけ?
「そうですか。人違いでしたら私はこれで……」
このままこの場を去れれば、もう大丈夫だろう。
ミカちゃんが居るのは少し焦ったが何とか……。
「あの、良ければ一緒に買い物はいかがですか?」
マリンさん? 何を言い出すんですか?
隣のミカちゃんと茨姫が驚いてるぞ。
(まあ、断るんだがな!)
これ以上何かしらミスをして、アクマにからかわれては、たまったものではない。
「まあ、良いですよ」
(アクマさん!)
俺が答えるよりも先に、アクマに答えられてしまった。
『楽しいショッピングの始まりだよ!』
にこやかにマリンが笑い、ミカちゃんは驚き、茨姫が首を傾げる。
やられた……もしかしてここまで全て、アクマの罠だったったのか?
確かに俺1人でショッピングに行けばいいのだと、油断していた。
多少アクマに似合うとか、可愛いと言われる程度で済むと思っていた……。
この俺が、謀られていたのか……。
「良かった。どこか目当てのお店とかありますか? 私達はラビアンに行こうと思ってたのですが……」
『さあ、ハルナ……罰ゲームだよ』
「わ、私もラビアンに行こうと思っていたんですよ」
動揺を表に出さないように、我慢する。
俺は諦めた。
だが、大人として、やるからには全力で挑もう。
今の俺は少女だ。少女……なのだ。
俺は今、笑っていられてるだろうか?
多分無表情だろうなー。
「なら丁度良いですね。では行きましょうか。それと、私はマリンと言います」
「……タケミカヅチじゃ。ミカちゃんと呼んでくれ……なのじゃ」
「茨姫です。宜しくお願いしますわ」
名前……名前……。ああ、あれで良いや。
「私はアヤメと申します」
「アヤメさんですね。それでは行きましょうか」
3人の後に続き、ラビアンへと向かう。
3人の話題に適当に返事をしながら、アクマに文句を言う
(全て計算の内か?)
『まさか。3人が買い物に来てるのは知ってたけど、本当に会うなんて思わなかったよ』
本当か? 流石に出来すぎだろう……。
まあ、今は仕事だと思って割りきろう。
今の俺は少女を演じているのだ。
「そう言えばアヤメさん?」
「なんでしょうか?」
「綺麗な
なんちゃってお嬢様の茨姫が余計な事を聞いてくる。
髪についてはアクマが俺に任せてくれないので、洗うのも整えるのもアクマがやっている。
「契約している妖精が居るのですが、その子が手入れしてくれているので、私は詳しくないです」
「そこまでする妖精は珍しいわね。名前はなんて言うの?」
今度はマリンか……。選択肢を間違えるとバッドエンドになるゲームをやっている気分だな。
「名前は口外しないしない契約になっているので、すみませんが言えません」
「そうなんですね。では、ラビアンに行くのは妖精に言われてですか?」
そうだよ。そこのミカちゃん関係での罰ゲームだよ。
そこのミカちゃん。変な目で此方を見るな。
「ええ。飾り気がないので、着る服を買って来なさいと」
「ならば、沢山服を買わねばならぬのう」
「折角ですし、私達が服を選んでも良いですか?」
ふむ。他人に選んでもらうのはありだな。さっきから漏れ出る様なアクマの笑い声しか聞こえないし、こいつは役に立たん。
今は見て楽しんでいる状態だろう。
「なら、お願いできますか? ファッションには疎いものでして……」
「良いですわね。誰が一番似合うのを選べるか勝負ですわ!」
「うむうむ。良かろう。わらわが一番イ……アヤメに似合うのを選んでみせるのじゃ!」
ミカちゃんが一瞬言ってはいけない名前を言いそうになったので、睨んでおく。
そんな感じでわきゃわきゃしていると、やっと目的の店に着いた。
魔法少女におすすめの服はこちらや、今流行のファッションはこちら等、色々と書かれたり張り出されたりしている。
1人で入るのは勇気がいりそうだな……。
「私達はアヤメに合う服を選んできますから、アヤメは店内を見ていて下さい」
「勝手に帰るのではないぞ」
店に着いて直ぐに、3人は店内に消えて行く。
自分で選ばなくて良いのは楽で良いが、折角だし店内を見て回るかな。
それにしても、本当に種類豊富だな……自分で着ようとは思わないが、凄いものだ。
(本当に、なんで俺はこんな所に居るんだろうな?)
『たまには良いじゃないか。魔物を倒すか家で寝てるばかりじゃ身体に毒だし』
(シミュレーションで訓練とかもしてるだろう?)
『それも1人でじゃないか。誰かと一緒に居るっていうのが、たまには大事なんだよ』
そんなものなのか?
昔から何時も1人だったし、学校と仕事以外で人と関わろうとはしてこなかったからな。
仕事もあまり人と関わらないものを選んだしな。
誰かと一緒に居るのは疲れる。
今はアクマが居るが、居なければ孤独に生きて、死んでいただろう。
未だにアクマの目標が何なのかは分からないが、俺の中の
元には戻りたいが、どうすれば良いんだろうな……。
そんなことをぼんやりと考えながら歩いていると、マリン達が俺を呼ぶ声が聞こえた。
とうとうこの時が来たか……。
さてと、俺のファッションショーとしけこむか。
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