魔法少女は本を読む
学園の食堂でマリンやスイープ達に捕まり、一緒に昼飯を済ませた後に俺は図書塔なるものに、向かうことにした。
図書室でも図書館でもなく、図書塔だ。
塔ってなんだよ。
そんなファンタジーみたいな……
図書塔は学園の端にあり、セキュリティーの関係でテレポーターからではないと入る事が出来ない。
とりあえず、学園のテレポーターから図書塔に入ってみたのだが……。
(何これしゅごい……)
見渡す限り、本しかない。上も下もだ……これっていったいどうなってるんだ?
検索用の機械が何台かあるので、目当ての本を探す事は出来そうだが、その中から選ぶのは難しそうだ。
何冊くらいあるんだ?
とりあえず、検索してみるか。
検索は【魔法少女】【武器】【無くなる】で良いだろう。
(思ってたより検索結果が少ないな)
『魔法少女の武器が無くなるのって、魔法少女としての能力を失うのと一緒だからね』
能力を失ったら、それで魔法少女としては終わりだからな。
いちいち考察や本にまとめようなんて、酔狂なやつは居ないか……。
とりあえず全部読んでみるかな。
3時間程かけて5冊の本を流し読みするが……俺が欲しい情報は無かった。
殆どが能力を失った後の魔法少女の話ばかりだ。
再び能力や武器を取り戻したなどは、どこにも書かれていなかった。
物語としては中々面白かったのが少し悔しい。
流し見するはずが、ついつい全部読んでしまった。
(やはり、一度失ったものは戻ってこないのだろうか?)
『う~ん。でも魔法が使えてるって事は、能力自体が無くなったわけじゃないんだよね~。そもそも武器なんて多少壊れた位なら、勝手に直るけど……ハルナの場合は意味が分からないね!』
(一応杖は補助が目的だったからな。他に補助となるものを自力で見つけるか?)
妖精界や魔法少女関連の内情はあまり知らないが、補助装備的なものがあってもおかしくないだろう。
問題はこれまでと同じ出力で、戦えるかどうかだな。
『魔法少女の武器は基本ワンオフだからね。補助的な物とかの開発は殆ど進んでないね』
そうなってくると、やはりどうしようもないな……。
途中で意識を失ったせいで正確には覚えてないが、杖は魔法を使った結果、消失したのだろう。
選択肢があれしかなかったとはいえ、実際に生きて帰れたせいで問題が浮上するとは……。
一旦調べたいことは調べ終えたし、帰るかな。
床から立ち上がり、出口に向かうがそこでどこかで見たことがある様な気がする、魔法少女を見かける。
いや、一応有名な魔法少女だから覚えていただけだ。
(あの人って2位の魔法少女の人か?)
『そうだね。眠り姫こと魔法少女フリーレンシュラーフだね』
確かにここなら静かだし、寝るのには良いのかな?
(あれって起こさなくて良いんだよな?)
『起こそうとしても起きないから、ほっといて良いよ』
そうですか。
まあ起こそうにも、氷の中に保管されるようにして寝てる人を、起こす方法がないけどな。
正直何も知らないで、これを見てたら驚いてただろう。
ほっといて外に出てしまうとするか。
テレポーターで外に出て、適当な木陰に腰を下ろして寛ぐ。
日差しが気持ち良い。
マリンとの待ち合わせまで後2時間あるが、どうするかな。
(もしもこのまま杖の代わりか、杖が戻らなかったらどうする?)
『そうだね。第二形態でも魔物と戦えるようになってもらうか……。覚醒って可能性に賭けてみるかかな?』
俺が覚醒できると思ってるのか?
あれって結構な覚悟というか、想いが必要なんだろう? 俺にはそんなものは無い。
まだ第二形態で魔物を倒す事を考えた方が良いだろう。
実際M・D・Wの時は戦えたからな。
どうしてあの状態で戦えたのか、正直分からないが、一度戦えているんだ。
覚醒よりも可能性がある。
後は元の身体もどうにかしたいが……無くなったってどういうことやねん。
生きてるだけで儲けものとは言うが、出来るなら早く男に戻りたい……今はその身体が無いけど。
現在の日本だと、ランカー全員と16位までの魔法少女。
後はもう数人位しか至れていない。
一応俺が知っている限りだが、そこまで至った魔法少女は全員魔法少女としては悪い事をしていない……一応な。
俺がタラゴンさんに爆破されたりしたが、一応シミュレーション上なので、ノーカウントだ……。
あの人も根は良い人なのだろうが、戦闘となると容赦ないからな。
(俺の戦力については一旦保留して、ジャンヌさんの件と、来週のミカちゃんの件に集中するか)
自分の事も大事だが、未来を担う魔法少女達の事も考えないとな。
いい感じに時間も潰せたし、待ち合わせ場所に向かうか。
『(うーん。時期もあるしちょっと探っとくかな)』
(うん? 何か言ったか?)
『いや何も。それよりマリンを待たせたらうるさいよ?』
それもそうか……学園前なんて人が集まりそうな場所を、待ち合わせ場所にしなくてもよかったのにな。
そう思いながら待ち合わせ場所に向かうが、思いの外人とは擦れ違わない。
その代わりと言ってはなんだが、待ち合わせ場所にはマリン以外に茨姫とスイープが居た。
茨姫は名前の通り植物や茨を使う魔法少女であり、ミカちゃんが言ってた通り凄くお嬢様な外見だ。
なのに赤点なので、お勉強を頑張ってほしい。
お嬢様が赤点はなんか嫌だろう?
スイープは……ギャル系? と言えば良いのだろうか?
そちら側の文化を知らないので分からないが、俺は嫌いではない。
レイピアと糸を使い、トリッキーな動きで戦う。
別に全員を覚えているわけではないが、逐一アクマが補足してくれるので、名前を忘れても大丈夫なだけである。
「おっ、イニっちじゃん。お疲れー」
「来ましたわね」
「それでは向かいましょう」
あのー? 2人程増えてる事については何もないんですかね?
そんな俺の心情は無視をされ、4人で沼沼に向かう。
道中は問題が起こることなく、沼沼に着いた。
着いてしまった……。
「さてと、皆さんは何にしますか? 私はいつもの頼みますが」
マリンは前回の時頼んだ上毛三山セットか。
この店に来たらこれを頼むって、決められる人は良いよな……。
俺はついつい目が滑って、決めるのに時間が掛かってしまう。
「うーん。ちょっち懐に余裕もあるし、森盛りパスタにするかな」
そんなメニューあったけ? ああ、洋食メニューの方に載ってたわ。
これと言って食べたいものもないし、どうするかな。
「私は小沼セットにしますわ。プリンがおいしいので」
お前のセリフは昨日ミカちゃんから聞いたぞ? もっとこう、お嬢様っぽいものを食べないのか?
「イニーはどうするのですか?」
「……親子丼にします」
昼に唐揚げ定食を食べたので、それ繋がりで親子丼でいいや。
マリンがテキパキと注文を終える。
「イニっちは図書塔でなに調べたの?」
「魔法少女の武器について少々。現在武器がないものでして」
「武器無しであれだけ戦えてるのは、驚異としか言えませんわね……」
杖の補助があれば魔法を待機状態で使えたり、天撃や
今は俺1人で使うのは難しいので、前衛やタンク等が必要だろう。
「……もしかしてあの戦いで?」
マリンが悲しげにするが、あの戦いは思い出したいものではないだろう。
ここで下手な反応を返すと、空気も悪くなりそうだし、どうしたものか……。
動画をみたが、俺とは違う理由でマリンも武器を壊していたような……。
あれは覚醒の過程で壊れたものだったが、覚醒を解いたら武器は元に戻ってたし、やはり覚醒すれば武器が直ったり新しくなる可能性があるのかもな……。
「一応そうですね。私の不手際で武器が壊れてしまいました」
「そう、何かあったらちゃんと相談するのよ? 私でも良いし、プリーアイズ先生とかでも良いからね?」
プリーアイズ先生に相談はあんまりな……何だかおっちょこちょいというか、天然っぽいから相談とかをしたいとは思えない。
タラゴンさんは面倒だし、今度会うジャンヌさんに相談してみるか?
もしかしたら武器を直すではなく、治す事が出来るかもしれない。
「なんかしんみりしちゃってるけど、結局委員長とイニっちてどうなの?」
「そうですわ。初日からあんなに息が合ってるなんて、おかしいですわ!」
おかしいってなんだよ。
なんならお前らと組んでも、あれ位なら合わせられるぞ?
社会人は何時如何なる時も周りに息を合わせないと、ハブられるからな。
どちらかと言えば、ハブられる側だったけども……。
「べっ、別に何もないわよ? イニーには何回か助けてもらっただけだわ」
「何回かですか? 普通そんなに助けてもらえるものなんですか?」
「いやー結界の中とか普通ないわー。私動画見たけど、普通に終わったって思ったもん」
蜘蛛型の時はなんやかんや身体が動いてしまったんだよな。
あの時は勝てそうにないなら逃げる気だったが、今は助けて良かったと思える。
この子達が汚い大人達に染まらなければいいが……。
俺が考え事をしている内に、3人はにぎやかなお喋りを続ける。
話しかけられると困るが、見ている分には楽しくていいな。
荒れたおじさんの心が洗い流される。
『今のハルナもこの3人と同じ少女って事を忘れてない?』
(忘れたい現実ってのが、俺にもあるんだよ)
なんとか俺に飛び火する前に料理が来てくれた。
スイープの頼んだ森盛りパスタは、パスタの上に森を見立てた野菜が盛られており、健康には良さそうだった。
「イニーは今週のお休みって空いてますか?」
「土曜日はジャンヌさんに呼ばれてるので、空いてませんね」
空いてたとしても、嫌な予感がするので誤魔化すけどな。
「もしかして兵庫の奴に行く感じ? 私あれの手伝いしろって支部に言われてるんだよねー」
「ジャンヌさんが世界各地でやってる無料治療会?」
「はい。手伝いをしてくれと頼まれまして」
「そうですか……お暇でしたら訓練にお付き合いしてもらおうと思ったのに、仕方ないですね」
そのストイックな所は好感が持てるが、休める時はなるべく休んだ方が良いと思うぞ?
何かあれば、支部から連絡が入ったりするんだしな。
「イニーさんは回復魔法が使えるんでしたわね。いつジャンヌさんとお知り合いになりまして?」
死体同然の所から生き返らせてもらいましたなんて言えないよな……。
こう考えると言えない事が、多いような気がするな。
ああ良い事思いついた。
「お茶会の時にお話ししまして」
あっ、そう言えばあの時マリンに連絡先見られてたからバレるか?
「イニっちってお茶会呼ばれてたんだー。私達より新米なのにヤバくね?」
「私もいつかは呼ばれてみたいですわ」
良かった。
マリンが何か言う前に、茨姫とスイープが話を引き継いでくれた。
「私は外で警護だからイニっちと会えるか分からないけど、当日はよろしく~」
「また明日学園でお会いしましょう」
俺のゆっくりとした食事スピードを生暖かく見守られ、少し休んだ後に沼沼を出る。
食事中に誰も支部から出動要請が無かったのは運が良かったな。
テレポーターでマリンとスイープと別れ、茨姫と一緒に寮に向かう。
「そう言えばイニーさんは、お勉強は出来るのですか?」
「恐らく赤点を取る事は無いと思います」
茨姫は「うぐぅ」と呻き、胸を抑える。そもそも9人中6人赤点ってやばいと思うのだが……。
聞いた話では通常の学校よりも難しい内容となっているみたいだが、赤点は赤点だ。
まあ、赤点ラインが70点なのは厳しいと思わなくないがな。
「私も頑張っているのですが、中々大変でして……」
俺は中身でズルしてるから、茨姫には頑張れとしか言えない。
最悪分からなければアクマに聞けば良いので、今更勉強をしてもな……。
「私には頑張って下さいとしか言えませんが、赤点は取らない様にしましょうね」
「分かってますわ。将来の為にも、頑張りますわ!」
そうかそうか。
来週の金曜日が楽しみだな。
えいえいおーとする茨姫を眺めながら、若い魔法少女の将来を憂える。
その見た目にあった点数を、ちゃんと取ってくれよ?
『そうだハルナ』
(どうした?)
『その治療会なんだけど、ジャンヌ以外にもランカーが来るみたいだよ』
(そうか……えっ? もしかしてタラゴンさんじゃないよな?)
『それは当日になってからのお楽しみさ!』
何かM・D・Wとの戦いを経てからアクマの調子が良すぎる気がするな……。
まあ楽しそうなら、それで良いかな。
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