魔法少女家で怠ける
「魔物が居ない?」
魔法局北関東支部の局長を勤める男は、部下から上がってきた報告に眉をひそめる。
昨日の夜から魔法少女が起こした不祥事に忙殺され、何とか一区切りつけてオペレーター室に向かった矢先の事であった。
「正確には魔法少女が駆け付ける前に、魔物の反応が消えました。それも今日だけで30件になります」
30件と聞き、それはおかしいと男は思う。北関東支部の魔物出現数は平均で10件程。30件となると全国規模だ。なので、確認の意を込めてその事を聞く。
「確認だが、全国でだな」
「はい。情報によると、野良と思われる魔法少女が魔物を討伐したとのことです。寄せられた目撃情報から、恐らく全て同一の魔法少女が討伐したと思われます。尚、素性や所属は分かっておりません」
昨日の今日でまた大変な事が起きたと、最近増えてきた白髪のある頭をかく。
そんな馬鹿な話がある訳ないだろうと一蹴してしまいたいが、それも出来ない。
今の話を纏めるだけでも、件の魔法少女は魔法局より早く魔物を察知でき。瞬時に移動も出来て、此方の魔法少女が到着するより早く討伐から退却が出来る。
どれか1つでも出来れば立派な魔法少女と言えるのに、纏めて全てとなると妖精の悪戯か何かと疑いたくなる。
だが、魔法少女か……。無所属なら北関東支部に取り込みたいと男は思う。
昨日起きた事件のもみ消しが横槍によって出来ず。唯でさえ低迷している北関東支部は潰れはしないものの、更に酷い事になるのは目に見えていた。
それに、所属している3人の魔法少女の2人が再教育となり、唯でさえ少ない戦力が更に下がっているのも何とかしたい原因の1つである。
「他に何が情報はあるか?」
「SNSや偶々早く出動していた魔法少女からの情報ですが、件の魔法少女は白いローブを着ており。顔はフードを被っていた為分からないみたいです」
本当なら全く姿を見せずにいる事も出来たのだが、アクマがワザと情報が回るように、ちょこっとだけ姿が見えるようにしたからこそ魔法局が手に入れる事が出来た情報である。
今現在回っているイニーフリューリングの情報は名前も所属も不明で、ランキングも個人登録も未登録であり、全てが謎に包まれている。白いローブ姿の魔法少女ということ以外何も分かっていない。
「何とかしてコンタクトを取りたいが・・・・・・無理だろうな」
男はやれやれと肩を竦め、増え続けている書類を片付ける為に局長室に戻ることにした。
その背中を見た部下は、
だが次の日も、その次の日も野良の魔法少女の大暴れと、不祥事の後始末のせいで報告する事は出来なかった。
それにより、現在北関東支部の1人しかいない魔法少女は後々大変苦労することになってしまうのだった。
1
(とても疲れました)
初日の魔物討伐から3日連続で駆り出されたせいで、肉体的には大丈夫だが、精神的にとても疲れた。
最初の方は殆どG級や下位の討伐だったが、3日目の最後の方はC級の討伐に行くことになった。
お陰様で魔法の使い方がよく分かったが、腕を食われた時は
魔法って凄いね。まさか欠損すら治す事が出来るなんて思わなかった。まあ、腕を食われた理由が他の魔法少女を助けたからなのは、自分の事ながら笑えない。
まあ、腕が治った時にアクマの驚く顔が見れたので良しとしよう。
「やあ、おはようハルナ良い朝だね!」
確かに外は晴天で良い天気だが、気持ち的には最低な朝だよ。
初日は気にならなかったが、風呂や下着等が少々気恥ずかしい。下着に関してはアクマチョイスだが、俺に選ぶだけの知識がないから仕方ない。
(今日はどうするんだ?)
「昨日頑張ってくれたから、今日は休みだよ。これ報酬ね」
妖精銀行通帳アプリなるものがスマホに登録されており、それを見ると中々良い感じの金額が記入されている。
「因みにその金額はA級2体分位の金額だね。ついでに、税金分と
そう聞くと少しモヤっとするな。
それだけ
身分証が必要になる様な買い物は出来るはずがないんだよな。今の俺に戸籍なんて無いし。
必要そうなものは後で通販しよう。
「干物みたいに伸びてる所悪いんだけど、これ見てみ」
窓際で寝っ転がっているとアクマがスマホを持って来た。どこぞの掲示板を開いてるらしく、要約すると謎の白魔導師現る! (ただし中身は黒魔導師)的な題名のスレだ。
(これが何か?)
「エゴサだよ!」
俺はそっとスマホの電源を落として、再び床に顔を埋めた。
誰が好き好んでそんな事をするか。唯でさえ中身の問題もあるのに、下手な事を書かれてたら立ち直れなくなるわ!
「まあ、冗談は置いといて、昨日助けた魔法少女が居たじゃない? その子がさっそくハルナの情報を魔法局に落としたのと、その時の戦闘動画を公開したみたいで、思ってたよりも早く情報が回ったんだ」
ふむふむ。まあ、
その結果、腕は食われるし無駄に魔力を消費するしで散々だった。強いて言うなら、回復魔法が凄い事が知れたのは良かった。最後までフードが捲れなかったのも高ポイントだ。
ありがとう杖。杖の教えがなければ、隻腕の魔法少女として名を馳せなければならない所だった。
駄目だったとしてもアクマがどうにかしてくれた可能性もあるが、なるべく借りは作りたくないんで、自分でどうにか出来て良かった。
(つまり?)
「それもあってハルナを
まあ、今の状態だと自由に動く事は出来ないだろうねと締めくくる。
今の所やってるのは横取りだけだからな。相当数の魔法少女には恨まれているだろう。
やれと言われてるからやっているが、先の事を思うと気が重い。自由に動けると言われても、妖精界に行くのは控えよう。最悪の場合袋叩きにされる可能性もあるし。
(そこら辺の事は任せるさ。俺は何も分からないし)
「了解。ちょいとスマホを借りるよ……よしと、これが今のイニーフリューリングの公式ページだよ」
先程のスマホをもう一度渡されて確認すると、何度か見たことがある魔法少女の
タップして覗くと魔法少女時の俺が表示された。
フードを被った状態であるので、顔を知られる心配はなさそうだ・・・・・・何時写真を撮ったのだろうか?
殆どの欄はノーデータとなっており、戦闘方法の欄に魔法が使えますと言う文と、これまでの撃破スコア位しか情報がない。
その撃破スコアが他の
担当エリア内で戦うのが普通の中、アクマのせいで全国規模で戦っている俺と比べるのがおかしいのだ。
(兎に角、身バレしないなら何でもいいや)
「まだまだハルナで楽しむのは私だけでいたいからね。周りの反応を見ているだけでも結構楽しいよ」
(楽しいなら何よりです)
此方は疲れ果ててバタンキューです。
「それはそうと、戦ってみてどうだった? 回復魔法も使えるとは聞いてたけど、欠損を回復出来るとは思わなかったよ。他に面白機能とかないの?」
戦闘中に色々と試したが、基本的には魔法が使えるだけである。魔法の規模については流石に確かめる事は出来ていないが、それなりの事は出来るのではないだろうか? 回復魔法は攻撃系に比べれば燃費が悪いが、連続で10本程腕を生やす事が出来そうだ。
そう考えると、結構凄そうな気もするが、上には上がいる。5メートル級のロボットとか正面から戦って勝てる訳がない。
バリア的なものが使えれば、まだやりようがあるかもしれないが、そんなもんは使えないので何なら弓や銃とかも相性が良くない。
後は多少杖術が使えるだけで、肉体的にはとても弱い。
(面白機能は無いけど、魔法の最大規模は知りたいかな。後は回復魔法がどこまで使えるのかを確かめたい。内臓とか心臓とか)
何ならどれだけの種類の魔法が使えるかとか、魔力の消費力とか他にも調べたい事はあるが、アクマの興味を引けそうなのはこれ位だろう。
「うーん魔法についてはシミュレーターか妖精界の方なら訓練施設があるからどちらかだね。回復魔法については欠損を治せる時点で世界有数だから下手な事が出来ないんだよね」
それは分かっている。これでも26年間魔法少女の居る世界で暮らしているのだ。欠損を回復出来た時点でこれはアカンと、考えられる程度の常識はある。
しかも魔力消費以外はノーリスクだ。今日本に居る魔法少女の中で回復の専門が5人程居るが、欠損となると治せるのは1人しかおらず、公式データ上では1日に
俺の場合自分の身体とは言え、数秒足らずで治すことができ、そのまま戦線に戻ることが出来た。
まあ、こんなことを他の魔法少女の前でやってしまったので、アクマは予定を早めることにしたのだが……。
(あまりやりたくないが、自分の身体で試してみるしかないか)
「私の前ではやらないでね。
(ういっす)
俺だって痛いのは嫌だが、
兎に角、やるとしたらシミュレーターか、妖精界での訓練になるが。実質
(シミュレーターの準備よろ)
「はいはい。全く、もう少し思考の方も女の子らしく出来ないの? 言葉の方は結構良い感じなのに……変身したらこれ被ってね」
「ぐへぇ」
ヘッドギアみたいな物を背中に落とされて変な声が出てしまった。今の俺は華奢な女の子なのだから、もう少し優しく扱って欲しいものだ。
「よっこいせ」と爺臭い事を言いながら身体を起こす。
「中身が
座ったまま変身してもしっかりと、ローブは着れました。
「妖精界にある正規のものなら訓練モードと、討伐数や方法を競うランキングモードがあるけど。これは訓練モードしか出来ないから注意してね」
ヘッドギアを被ると自動で電源が入り、注意事項や説明が表示される。
妖精界の謎技術で作られてる
ただ、正規品と違って実戦みたいな訓練は出来ない。能力の確認や、初心者が能力になれるのに使うには丁度言いかも。
『テステス。聞こえますか?』
(聞こえてるよ)
外からではなく、頭に響くようなアクマの声に言い返す。何だか嫌な予感がするが、何時もの事ながら俺に抗う術はない。
『それなら良かった。ちょっとした実験で、今ハルナに憑依してみたんだけど。問題なさそうだね』
(違和感も何もないけど、
『ハルナの存在を知らしめるのは確定なんだけど、私の存在を知られるのは妖精界的にはあまり良くないからね。
(憑依にメリットやデメリットはあるのか?)
『メリットとしては私も声を出さないで良いのと、ちょびっとだけハルナが私の分の魔力を使えるようになることかな』
成る程、憑依されてる間はアクマの独り言が無くなるのか。間違えて普通に返事をしてしまえば、俺が独り言を話す事になるので注意しよう。
『デメリットは今の所分からないかな。まだ実験段階だから、何か起きたらその都度対処するよ』
(了解。問題が無いならそれで良いよ)
シミュレーターとは言ったものの、思った以上に
初めて使った魔法である「
「
魔法を使う時の
火力面ではそうそう困らなさそうだが、
ただ、アクマが憑依しているせいなのか分からないが、杖からワンチャンどうにか出来るかも知れないよと、思念が流れてくる。
今の状態でも魔法少女としては、そうそう困る事はないだろうし。いざと言うことが起きない限りは大丈夫だろう。
『これまでいろんな魔法少女を見てきたけど、中々に汎用性が高いよね。稀に魔法攻撃を無効化してくる魔物が居るけど、そんなのが現れない限りC級以下に負けることはなさそうだね』
(アクマの御墨付きが貰えるなら、有りがたいね。練習も結構出来たし、今日はこの辺にしとくかな)
魔力が減って気だるい身体でヘッドギアを外し、一息付くと、少々お腹が空いてきた。
ここ3日程買い出しに出られてないせいで、もうそろそろ備蓄が心許ない。
あまり出歩きたくないが、買い出しに行くしかないか。
変身を解いた後、適当にアクマが持ってきた服に着替えて近くのスーパーに向かう。出来れば車で向かいたいが、この姿で運転なんてすれば間違いなく捕まる。
今日の夕飯は、アクマ所望の麻婆豆腐を作るとしよう。
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