第14話

 それから暫くして俺達は魔王城へと戻ることにしたのだがその途中で何者かに襲われたのである。幸いにも近くにいた住民が通報してくれたおかげで駆け付けた衛兵達によって取り押さえられたことで事なきを得たが油断はできない状況なのは変わらなかった。何故なら相手はかなりの手練れだったからだ。


「大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です」


 心配そうに声をかける俺に美月は笑顔で答えると立ち上がった。


「しかし、何者なんでしょうか?」

「さあな、だが一つ言えるのは俺達を狙っているということだ」


 俺の言葉に美月は頷いた後で言った。


「そうですね、このまま放っておくわけにはいきませんし何とかしないといけませんね」

「ああ、その通りだ」


 力強く頷き返すと、俺達は今後のことについて話し合うことにした。




 翌日、目を覚ますと隣にいるはずの美月の姿が見当たらなかった。不思議に思い周囲を見渡すと机の上に書き置きが残されていることに気づいた俺はそれを手に取って読んだ。


『魔王様へ』


 という文字が目に入った瞬間嫌な予感を覚えた俺は急いで手紙を開いた。そこにはこう書かれていた。


『申し訳ありません、急な用事ができてしまいましてしばらく留守にすることになりました。なので私がいない間のことをよろしくお願いします』


 という内容を読んでホッと胸を撫で下ろすと同時に苦笑した。どうやら彼女は俺が心配しないように気を遣ってくれたようだ。全くもって出来た部下である。

 感心しながらも俺は身支度を整えると部屋を後にした。すると、廊下に出たところでイリスと出くわした。


「おはようございます、魔王様」

「おはよう、昨日はゆっくり休めたか?」

「はい、おかげさまで」


 嬉しそうに答える彼女を見て俺は安心した。やはり、美月だけでは不安が残るので誰かもう一人くらい信用できる側近を仲間にした方がいいかもしれないと思い始めた時だった。

 突然背後から声を掛けられたので振り返ると、そこには見覚えのある人物が立っていた。その人物とは随分と前に会ったきりの如月和馬だった。

 予想外の出来事に驚きつつも身構えていると彼は笑みを浮かべたまま話しかけてきた。


「やあ、また会ったね」


 気さくに話しかけながら近づいてくる彼に警戒心を強めながら様子を伺っていると不意に立ち止まった後で言った。


「そんなに怖い顔をしないでくれよ、別に危害を加えるつもりは無いからさ」


 その言葉を聞いても警戒を解くことはなかった俺に対して奴はやれやれといった仕草をすると再び口を開いた。


「まあいいさ、それより君に話があるんだけどいいかな?」

「……話というのは何だ?」


 聞き返すと彼は笑みを浮かべながら言った。


「君に協力してもらいたいことがあるんだ」


 意外な言葉に俺は驚いたが、すぐに平静を取り戻すと聞き返した。


「どういうことだ?」


 すると、彼は不敵な笑みを浮かべて答えた。


「そのままの意味だよ、僕は君の力になりたいんだよ」

「どういう意味だ?」


 訝しげに尋ねると、彼はとんでもない事を言い出した。


「言葉通りの意味だよ、僕達だったら神を倒す事だって出来るよ」


 その言葉を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立ったのを感じた。何故こいつがそれを知っているのかと疑問に思ったがそれ以上に怒りが込み上げてきた。こいつは危険だと判断した俺はいつでも戦えるように構えると睨みつけながら言った。


「何が目的だ?」


 そう問いかけると、彼は笑いながら言った。


「いやだな、そんな怖い顔しないでくれよ。最初から話していたじゃないか。神を倒して全能の力を手に入れるって」


 そう言って微笑む姿に苛立ちを覚えながらもどうにか冷静さを保つと質問を続けた。


「もう一度聞くぞ、お前は一体何者なんだ?」


 今度は真面目に答えてくれるかと思ったが、返ってきた言葉は予想外のものだった。


「今はまだ教えられないかな」


 そう言うと背を向けて立ち去ろうとする和馬を引き留めようとしたが、その前に彼が振り返って言った。


「安心していいよ、いずれ分かる時が来るから」


 それだけ言うと今度こそ立ち去っていったのだった。残された俺は呆然としながらその姿を見送っていた。


(何だったんだあいつは……?)


 そんな事を考えているうちにイリスが話しかけてきた。


「あの、大丈夫ですか?」

「ん? ああ、大丈夫だ」

「そうですか、それなら良かったです」


 安堵した様子の彼女に笑いかけてから、俺は言った。


「とりあえず、まずは美月を探しに行こうと思う」

「分かりました、お供します」


 こうして、俺達は美月を探す為に行動を開始した。

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