第63話 嵐の傷痕は簡単には消えない
俺は、ほとんど眠れなかった。もっと早くあの二人の事に気付けばと思うと悔しくて堪らなかった。
そして野乃花がどんなつらい思いをしたかと思うとその場所にいて助けてやれなかった自分が絶えらなかった。
朝、洗面所で起きて自分の顔を鏡で見ると眉間に皴を寄せて怒った顔そのままだった。
これでは学校に行けない。少し顔をマッサージして部屋を出た。食欲なんかまるでない。
駅に行っても野乃花の姿は無かった。仕方ない。
学校に着き教室に戻ると、昨日の件は皆知らないのか、数人が俺の顔を見たが、他の人は気にもしていない。席に着くと
「おはよ、工藤。ちょっと良いか」
「ああ」
二人で廊下に出ると
「昨日の件、一部の生徒しか知らない様だ。いずれ知れるだろうけど、どうせ細かい事は分からない。今は、このまま静かにしておこう」
「ああ」
席に戻ると緑川さんがやって来た。
「工藤君、おはよ。放課後良いよね」
「うん」
今日は土日で行われた文化祭の後片付けだけだ。遅くはならない。
予鈴が鳴り、担任の桜庭先生が入って来た。今日は大人しめの色のスーツを着ている。
「皆さん、残念なお知らせがあります。橋本心菜さんと渡辺美月さんは退学となりました。また門倉野乃花さんは数日お休みになります」
「「「えーっ!」」」
それは騒ぐよ。しかし次の日には心菜と美月が退学とは。警察はともかく学校の対応は早いな。
「最後に、工藤君。君は文化祭の片づけはしなくて良いから、職員室に来なさい」
皆が俺を一斉に見ている。
小見川が振り返って俺を心配そうに見ている。新垣さんもだ。
「工藤」
「工藤君」
俺は何も言わずに桜庭先生の後を付いて行くと校長室に通された。校長、教頭、学年主任、そして担任だ。教頭が声を出した。
「工藤君、座り給え」
俺と担任が丸椅子に座らされた。他の先生はソファだ。
「工藤君、昨日の事の次第を我々にも詳しく話をして欲しい。警察には色々聞かれた様だが、警察は私達には教えてくれないんでね」
桜庭先生が俺の顔を心配そうに見ている。俺は校長と教頭の顔を見ると
「分かりました。説明します」
説明は二十分位で終わったが、その後質問が一時間位続いた。途中いやになったが帰る訳にもいかない。一通りの質問が終わると
「工藤君、進路指導室に行っていなさい。桜庭君案内して」
「はい」
俺が桜庭先生の後を付いて進路指導室に入ると
「工藤君、先生君を守ってあげるから」
「えっ?」
ウィンクして進路指導室を出て行った。何だあれ?
三十分程待たされた。スマホを弄っていると桜庭先生が戻って来た。
「工藤君、先生頑張ったからね。校長室に行きましょう」
意味分からないんですけど?
俺達が校長室に入るとさっきと同じ様に丸椅子に座らせられた。そして
「工藤君、学校側の回答だ。君の2B高田賢二への暴力と他校生である田中耕三への暴力は門倉野乃花さんを救う為のやむを得ない対応だったとして、今回の件は不問にする。しかし、男二人を一瞬にして仕留めそうじゃないか。凄いな君は」
「いえ」
誰も知らないだろうに。大人っていい加減だな。
俺が無罪放免され無事に校長室を出ると桜庭先生が後ろから声を掛けて来た。
「工藤君、担任として君の事は終わっていないわ。指導室に来て」
「えっ?!」
中に入ると先生が鍵を掛けた。さっきは掛けなかったのに。立ったまま
「工藤君。先生、君に責任が行かない様に頑張ったのよ。ご褒美欲しいな」
「えっ?」
先生がじりじりと近づいて来る。俺も後りず去りしていると机にぶつかった。
「うわっ!」
いきなり抱き着かれた。
「少しの時間で良いの。先生ね、君とこうして居たい」
凄い、先生の胸のプレッシャーが中途半端じゃない。
「先生、止めて下さい。俺生徒ですよ」
先生の肩を掴んで離そうとすると
「君の彼女は傷ついてしまったわ。心の傷が治るまでの間、先生がこうして慰めてあげる」
「け、結構です」
「そう言わないで」
先生の力が凄い。解けない。耳もとで
「君さえ良ければ、良いのよ。私初めてだから」
「ひっ、先生何を言っているんですか。止めて下さい」
少ししてやっと先生が離れた。
「もう、工藤君のいけずーっ。しても良いのに。仕方ないわね。また今度ね」
俺から離れてドアの方に行きながら振り返って
「工藤君、分かっているわね。このことは他言無用よ。ふふふっ」
言えと言われても言わないよ。全く!なんてエロ先生だ。イメージが変わってしまったよ。
2Aクラス担任になった時、直ぐに彼が居る事に気が付いた。私だって彼のお父様の会社に就職希望したんだから。落とされたけど。
でも彼には門倉野乃花という可愛い、彼女がいる事が後で分かった。だからずっと彼を無視していたけど、彼の彼女が傷ついた。
そこの隙を狙おうと思ったんだけどな。あの子結構固いな。私の体で落ちない子なんていない筈なのに。まあ、私した事無いし。これからだわ。
俺が、教室に戻ると、他の生徒は皆戻っていた。教室に入ると直ぐに小見川が声を掛けて来た。
「工藤、どうだった?」
「何でも無かったよ。色々聞かれたけど」
「そうか。それなら良いんだけど」
「工藤君」
新垣さんが声を掛けて来た所で緑川さんが近付いて来た。
「ねえ、新垣さん。今日工藤君と大切な話が有るの。今日の受付担当変わってくれないかしら。どうせ明日、明後日休みでしょ」
「緑川さん、やっぱり俺やるよ」
「工藤君、君にはもっと大切な事があるでしょ」
「…………」
分かってはいるけど。
「分かったわ。緑川さん。工藤君、今日は私が担当する。多分そんなに来ないだろうし」
「ごめんね。新垣さん」
「ううん。いいよ」
またチャンスが戻って来るかも知れない。
俺は、緑川さんと一緒に野乃花の所に行くと思ったら、駅前のファミレスだった。
「工藤君。野乃花は今、精神的に非常に不安定なの。原因は君の所為で野乃花が襲われた事。勿論野乃花がこれで君を嫌いになるなんて無いと思う。でも今は会うのは止めてあげて」
「全然会えないのか?」
「信じられないなら今から野乃花の家に行く?でも厳しい現実を突きつけられるよ」
「それでもいい」
俺が実際に行けば会えると思っていた。
俺は、緑川さんと一緒に野乃花の家に行くと
「工藤君、君がインターフォン押して話してみて」
「うん」
俺はインターフォンを押すと
「どちら様ですか」
「野乃花さんのクラスメイトの工藤祐樹と言います。野乃花さんに会いに来ました」
彼女の家には上がったことが無かった。
「しばらくお待ちください」
五分程すると
「野乃花は今、あなたに会いたくないと言っています。お帰り下さい」
「えっ?!」
工藤君がショックを受けている。だから来なければ良かったのに。
仕方ない。
「工藤君、帰ろう」
彼は頭をコクンとすると肩を落としながら駅に向かった。勿論私も隣にいる。
「野乃花良かったの?」
「うん」
私は汚れてしまった。彼は来て直ぐに犯人達を倒してくれたけど、彼が来る前まで色々されてしまった。
こんな汚れた体で祐樹に会う訳には行かない。でも会いたいよ祐樹。
駅に向かいながら
「工藤君、野乃花は必ず立ち直ると思う。だからそれまで我慢して」
頭をコクンとするだけだ。
「もし寂しかったら、私を利用してもいいよ。野乃花から君を横取りしようなんて思っていない。君は野乃花の大事な人だから、野乃花の代りになるか分からないけど」
彼は一瞬驚いた顔をしたけどまた下を向いて
「ごめん」
とだけ言った。この意味は何なんだろう?
―――――
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