第61話 二学期になっても諦めない
ここから第三章に入ります。
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今日から二学期。そして金曜日だ。今日行けばまた休める。精神的には調度いい。
制服はまだ夏服。俺は、洗った上履きと今日提出する分の宿題をバッグに入れると部屋を出た。
日差しは暑くて堪らない。駅まで行って学校側のホームに行くと野乃花が待っていた。昨日まで毎日の様に会ったけど、制服姿の彼女は新鮮に感じる。俺の姿を見つけると手を振って来た。
「祐樹、おはよ」
「おはよ、野乃花」
直ぐに手を繋いだ。電車に乗って入口の側に二人で立つと彼女は顔を上げて俺の顔見てふふふっと笑った。何だろう?
ただ、手をもう一度ぎゅっと握り締めて来た。どうしたのかな?
そのまま学校のある駅について改札を出ると緑川さんも水島さんも居なかった。
「優子も里奈もいないね」
「ああ、終業式までってお願いしたからな。ところで電車の中の…」
「あれは、単にそうしたかっただけ。昨日祐樹と交わした言葉が嬉しくって」
そういう事か。
学校に着き、下駄箱で上履きに履き替えると野乃花と一緒に教室に入った。
「おはよ工藤。今年も良く焼けているな」
「おはよ小見川。まあ毎年の事だから」
「門倉さんとも上手く行っているみたいだな」
「ああ、ばっちりだ」
「そこまで言うか」
俺が小見川と話をしていると新垣さんが
「工藤君、おはよ」
「おはよ、新垣さん」
「工藤君、凄く焼けているね。何処か言って来たの?」
「ああ、道場の夏合宿で海に行ったからだよ」
実際、今年のプール回数は野乃花と一緒に行った一回だけだ。
「そうかあ、二学期も図書室受付一緒にやろうね」
「うん」
言っている意味が良く分からない。
予鈴が鳴り、担任の桜庭先生が入って来た。今日は珍しくパンツスーツだ。眼鏡もピンクフレームでは無く銀色のフチなし。何か有ったのかな?
「はい、みんな。廊下に出て体育館に行って。始業式するわよ」
ざわざわと皆が動き出す。俺も小見川と一緒に廊下に出ると
「なあ工藤。桜庭先生何か有ったのかな?」
「さぁ?」
俺に分かるはずがない。
校長先生と各学年担任から連絡事項が有った後、生徒会長の望月さんが話し始めた。まさか思井沢で会うなんて思ってもみなかったからついジッと見てしまった。
あっ、視線が合った。不味い。直ぐに目を逸らせて聞く振りだけをしていると、いつの間に話が終わったのか壇上から降りていた。教室に戻りながら
「なあ工藤。生徒会長お前を見てなかったか?」
「はっ、何言っているんだ。知りもしない俺を見る訳が無い。他の奴じゃないか」
「でも、前に一度クラスに来た事あるよな。あれどういう事?」
「俺が聞きたい」
実際、聞きたいよ。
教室に戻って席で小見川と話をしていると桜庭先生が教室に入って来た。
「共通の宿題は、後ろの人から前に送って一番前の人持って来て。それが終わったら避難訓練よ。放送が始まったら全員廊下に出て」
そうだった。今日は授業が無い代わりに避難訓練をするんだった。スピーカーから模擬の火事の放送が始まると皆で一斉に立って廊下に出る。その後は誘導の先生に従って階段を降りてグラウンドに集合だ。
実際に火事が起きたらこうはいかないと思うけど練習する分にはいい。
グラウンドに出ると消防署の人が消火器の使い方や避難時の心得などを話している。一応全校生徒が真面目に聞いている?
それが終わると教室に戻って解散だ。皆で教室に戻って帰ろうと野乃花を見ると緑川さんと水島さんと一緒に話をしている。下駄箱で待っているか。
俺は廊下に出ると、ふと非常階段で降りて見たくなった。二階一番端にある階段だ。さっきは中央の階段を使ったらと思い、そこから降りる事にした。
私、渡辺美月。帰ろうと廊下に出ると祐樹が非常階段の方へ一人で歩いて行く。私はそのまま付いて行き、非常階段に出た所で声を掛けた。
「祐樹」
降りようとする彼が足を止めてこっちを見た。
「…………」
美月が何か用か。黙っていると俺の傍に来て一階と二階の間の踊り場で土下座した。何なんだ。
「祐樹。ごめんなさい。本当にごめんなさい。貴方を裏切って高田と付き合ってしまって本当にごめんなさい」
何言っているんだ。こいつ。
「お願いします。せめて話が出来る様にさせて。お願いします」
頭を踊り場に頭を擦り付けている。
「渡辺さん。どういうつもりか知らないけど、俺はもう君と口をきくつもりはない。高田と付き合えばいいじゃないか」
俺は降りれなくなった。非常階段を諦めて廊下に戻ろうとした時、いきなり足を掴まれた。
「お願いします。お願いします。口をきいて下さい」
その時だった。ドアが開いた。出て来たのは野乃花と緑川さんだ。
「渡辺さん、私の大事な人に触らないで。手を離しなさい」
野乃花が怒っている。こんな顔見たことない。
「いやです。祐樹、いえ工藤君が口をきいてくれるまでは」
俺は野乃花と緑川さんに視線を合わせると首を横に振った。
「分かった。口はきいてやるから手を離してくれないか」
「本当、本当に口をきいてくれるの?」
「お前と違って嘘はつかない」
美月が手を離したその時、
「渡辺さん、祐樹は口をきくと言ったけど、馴れ馴れしくしないでね。貴方が祐樹の傍にいると汚れるわ。あんたなんか高田がお似合いよ。行こう祐樹」
野乃花は俺の手を掴んで引いた。そのまま廊下に戻ると
「なんで、俺がここにいるの分かったの?」
「だって、祐樹が私達を見た後、教室の傍にあるいつもの階段とは別の方向へ歩いて行ったから、急いで来て見たら、あの子が祐樹の足掴んでいた」
「そうか。助かったよ」
「どういたしまして。でもあんな子と口きいちゃ駄目よ。貴方が汚れるわ」
「どうしたんだ野乃花。いつもと違う」
「だって、あの子が祐樹の足に触れているの見たらかっとなって」
「野乃花も怒る事有るんだな」
「当たり前よ。大事な人を汚されたくない」
「あのう、お二人さん。お話はその辺でもう帰らない?」
「そうだね」
祐樹が口をきいてくれると約束してくれた。でも門倉さんが、私を滅茶苦茶馬鹿にした。私が祐樹と友達まで戻るにはあの女は邪魔だわ。そして緑川さんも。
私は一人で歩いていると前をとぼとぼと歩く橋本さんがいた。そうだ彼女にも協力して貰おう。私は早足で追いつくと
「ねえ、橋本さん。少しお話良いかな。工藤君の事で」
「えっ?!」
私は橋本さんを駅の反対側にある広場のベンチに誘った。
「ねえ、橋本さん。貴方工藤君ともう一度話が出来る様になりたいと思わない?」
「えっ?そんな事出来る訳が」
「あるわよ。いい方法が」
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うーん?
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