第19話 水島さんとプールデート
今日は工藤君とプールに行く。彼のマンションの有る駅の改札の内側で待ち合わせしている。その駅までは私の家のある駅から五つ目。
更にそこから十四駅目がプールの有る遊園地の駅。ここからは大分遠いけど、既に優子も野乃花も心菜も行っている。私も負けてはいられない。
でもスタイルは、あの三人から比べると全部劣っていると言って良い。胸は小さいし、ちょっと幼児系の体。顔は三人に負けないと思っているけど、これも相手がどう思うかだし。
それに一番の心配事は、アウトレットに行った時、会ってしまった中学時代の元カレ加藤誠司(かとうせいじ)、それにデパートで会ってしまった宇田川弘樹(うだがわひろき)だ。
誠司はもう終わっているからどうでも良いけど、弘樹は、今彼というより遊び仲間。勿論体の関係もある。でも工藤君がもし彼になってくれたら別れればいい。
とにかく工藤君と会っている時、この二人に会わない様にしないと不味い。注意しないと。
これから家を出る所。白のTシャツに水色のホットパンツ。少しでもアピールするんだ。
工藤君の家のある駅に着いた。電車を降りて改札に行くと彼はもう来ていた。私を見て手を上げてくれた。
「工藤君待ったぁ?」
「今来た所。それより水島さんこそ早いね。まだ十五分前だよ」
「ふふっ、工藤君に早く会いたくてね」
「…………」
どういう意味で言っているんだ。
ホームに行き二人で電車に乗る。まだ空いているので並んで座った。
「工藤君、随分日焼けしたね」
「うん、空手の合宿四日間思い切り晴れたから焼けちゃった」
「なんか精悍な顔つきで益々かっこよくなったよ」
「そ、そう?」
「うん、そう」
「水島さんはあんまり焼けていないね」
「うん、外にはあまり出ない様にしている。女性にとって日焼けは大敵だからね」
「でも今日プールだし、天気いいよ」
「今日は、今日だよ。プールに行くのに雨じゃ面白くないよ」
「まあその通りだけど」
水島さんとは、図書室で一緒に勉強してその後も一緒に帰っていたから他の人より話す事に抵抗がない。だけど、流石に十四駅分は話す事が無かった。途中から二人で黙っていると
「工藤君、泳げるの?」
またこの話題か。
「うん、二千メートル位は」
「えっ、二千メートル!凄いじゃない。私二十五メートル泳ぐのも大変だよ」
「でも泳げるんだからいいよ」
「そうだね」
また会話が続かなくなった。でももう二駅だ。
遊園地の駅に着くと降りる人の波に乗りながら一緒に降りた。直ぐに遊園地のチケット売り場に行くとやっぱり結構な人が並んでいる。
「うわーっ、もうちょっと空いていると思ったのにな」
「仕方ないよ。まだ夏休み十日あるし」
「そうだね」
チケットカウンタの傍まで来ると一番最初にいた女性が中にいた。俺を見てニコニコしている。二人分の入園料とプール代を払って園のゲートに向かう時
「ねえ、チケット売りの女性。工藤君見ながら随分ニコニコしていたけど、知り合い?」
「いや全然知らない人」
「ふーん、知っている風な感じだったけど気の所為か」
気の所為のままにしておいてください。
俺達は園のゲートをくぐるとプールの入口に移動した。
「なんか、工藤君慣れている感じ。あっ、そっかあ。もう三人と来ているものね」
「…………」
俺は何と言えばいいんだ。
プールのゲートを通って中に入ると
「じゃあ、着替えたらここで待合せね」
「うん」
私は、女子更衣室に行くと直ぐにTシャツを脱いで首の周りと胸の周りを確認した。もう付いていない大丈夫だ。一昨日弘樹結構攻めて来たからな。気を付けないと。
私は水色のセパレーツ。胸にひらひらのついた水着だ。これだと小さい胸を隠せる。出口でサッと縦鏡を見て、うん、大丈夫だ。今日は楽しむぞ。
更衣室を出ると工藤君はもう待っていた。当たり前か。
「ごめんね。待たせた」
「いいよ。女の子は長いって分かっているから」
「そうかあ、あっ、何処に座る?」
「あそこ」
俺は監視員のいる側のテーブルを指さした。
「あっ、いいね。あそこにしよう」
水島さんはあそこでもいいんだ。緑川さんもそうだったな。
私達は防水バッグとタオルをテーブルにおいてテーブルの傍で準備運動を始めた。彼がTシャツを脱ぐと
「えっ、く、工藤君。凄い。腹筋バキバキだし、贅肉のぜの字もない」
「ああ、一昨日まで空手の合宿に行っていたから」
「空手の合宿?」
「うん、父親に言われた小学校三年からやっている」
凄い、誠司や弘樹とは比べ物ならない位、凄い体だ。頭が良くて、優しくて、背が高くて、イケメンで、その上武道を身につけている。超々優良物件じゃない。これはあの子達に渡す訳には行かないわ。
私は準備運動が終わると
「ねえ、工藤君。浮輪借りたい」
「そうしようか」
水島さんは浮輪にお尻を入れて足を出している。橋本さんや緑川さん、それに門倉さんとも違ってとても可愛い。なんかホッとする。
「水島さん、浮いているだけじゃつまらないでしょ。ゆっくり引いてあげようか」
「うん」
俺は水島さんの乗った浮輪に付いている紐を手に取るとゆっくりと引き始めた。流れるプールなので順方向に引けば楽だ。
少しの間そうしていると
「工藤君。ありがとう。でもそれだと私だけ楽しくしているから、他の所でもあそぼ。あれどうかな」
指さしたのは、俺にとって恐怖のウォータースライダー。
「い、いいよ」
「えっ、工藤君あれが怖いの」
「そんな事は無いんだけど」
工藤君どうしたんだろう?滑れば分かるか。
俺達は十分位並んでスタート位置に来た。なんとまたあのお兄さんが係員だ。この人ずっとここで仕事しているんだ。
あっ俺の顔を見た。思い切り嬉しそうな顔をしている。
「はい、彼氏さんが前に座って彼女さんは彼氏さんのお腹に手を回してぎゅーっと握って下さいね。準備出来たらスタートして下さい」
なんと私が工藤君の体に触るチャンスがあるとは。これはいい。スライダーに座っている工藤君のお腹に思い切り手を回してぐっと胸を付けた。いくら小さいからってこれなら少しは分かるはず。
うっ、水島さん手を絞め過ぎだよ。思い切り背中に当たっているじゃないか。もう仕方ない。俺は縁にあった手を離した。
ふふっ、これは良いや、期せずして彼の体に思い切りくっ付ける。それに右に左にまわっているから胸もなんか変に擦れているし。気持ちいいかも。
ザッブーン。
「きゃーっ、面白かった。もう一回やろう」
「う、うん」
結局、三回も滑らせられた。また要らぬところが元気だよ。仕方ない。でもなあ、また変な事になるといけないし。そうだテーブルは監視員の傍だ。俺がトイレという前に
「ねえ、工藤君。ちょっと行って来たい」
「あっ、俺もそうしようと思ったんだ」
「ふふっ、私達気が合うね。じゃあ行こう!」
トイレに行くのに元気が良いな。
俺は、またコンパートメントに入ると、何とか大人しくさせて外に出た。良かった彼女はまだ出て来ていない。
十分位待っていると彼女が出て来た。
「お待たせ。次はどうしようか」
「うーん、向こうに波の出るプールが有るんだけど」
「ほんと、行こう行こう」
ここに来ると何故か皆、波が来るたびに俺に捕まって跳ねている。波が来た時に仕方なしに腰を持ってあげると直ぐに俺の首に手を回して来た。皆これ好きなのかな。
ふふっ、工藤君が私の腰を持って波が来たタイミングで体を挙げてくれる。私は彼の首に手を回して思い切り胸を付けた。どうだ工藤君。
何回もやっている内に
「あっ!」
水島さんの可愛いナマお胸がポロリ。水着が上に上がってしまっている。あれ、トップの付近に赤い痕がある。何だあれ。
「きゃーっ!」
水着の胸の部分がずれてしまった。調子に乗ってくっつけ過ぎた。
「わ、わ、わ」
水島さんが俺の鳩尾辺りに彼女の胸を付けて来た。
「工藤君、動かないでね。絶対に動かないでね」
水島さんのお胸は可愛いけどその分、プチっとしたものが二つ俺の体に当たっている。早く何とかしてくれ。
彼女は体を俺に付けたまま、器用に上に上がってしまった水着を元の位置に戻した。そして俺の胸におでこをあてて、これってどこかで…。
「見た?」
「いえ」
「見た?」
「いえ」
「見たんでしょ!」
「はい、とても綺麗で可愛かったです」
バシッ、
「誰も工藤君の感想聞いてない。責任取ってよ。見ちゃったんだから」
「責任って言われても」
「良いわ。じゃあ、今度会って」
「えっ?!」
「二人で会って」
その時一気に間を詰めてやる。
「でも、もう夏休みは一杯だから」
「じゃあ、二学期になったらすぐに二人で会って」
「はい」
参ったなあ。俺もう絶対にここのプール来ない。
「ふふっ、よろし。ねえお腹空いた」
プール内の時計を見るともう午後一時近くだ。
「うん、俺もお腹空いた。遊んでいる内に結構時間が経ったみたいだ」
俺達は売店で焼きそば、たこ焼き、ホットドッグと冷たい炭酸ジュースを買ってテーブルに戻った。
半分ずつ食べながら、つい彼女の胸に視線が行ってしまった。
「ふふっ、工藤君。また見たいの?いいよ。君がその気になってくれれば」
「…………」
これもどこかで聞いたような?
食事をして三十分位休んだ後。流れるプールとウォータースライダーで遊んでプールを出た。
電車を待っている時、
「ねえ、今日の夜、電話して良いかな?」
「良いけど疲れているから午後九時位までなら」
「うん、私も同じだから」
水島さんは、本当に疲れたのか電車に乗って三駅を過ぎた辺りで俺の腕に抱き着いて寝てしまった。
チラッと寝顔を見ると嬉しそうな顔をしている。今日は楽しかったみたいで良かった。彼女の温もりを感じていると俺も眠くなってしまった。
気が付くと俺が降りる駅だった。でも水島さんが俺の腕に捕まったままだ。いいか、このまま彼女の家のある駅まで送って行こう。
彼女の家のある駅は俺の実家のある駅の一つ向こうだ。あの辺は結構な高級住宅街だ。この子の家って、そうなのかな?
俺の実家のある駅に着いた所で彼女を起こした。
「ねえ、水島さん、次降りるよ」
「うーん、えっ?あれ工藤君の駅は?」
「もう通り過ぎちゃった。俺も寝てしまって」
「あっ、そっかぁ。なんか悪い事したかな?」
「そんなことないよ。良く寝ていたから起こすの悪いと思って」
「えっ、ご、ごめん。寝顔見られた」
顔を赤くして下を向いている。今更だけど。
「じゃあ、工藤君、今日はありがとう。とっても楽しかったよ。また遊ぼ」
「うん、じゃあね」
俺は彼女を改札まで送って言った後、自分のマンションのある方向の電車に乗って帰った。
マンションについて部屋に入ると水着やタオルを洗濯機に入れた。それから冷蔵庫から冷たいジュースを出して飲むと
「はぁ、どうしよう。また二人で会う事約束させられたよ。なんで水着がはずれんだよ。門倉さんといい、水島さんといい。
わざととは、とっても思えないし、あんな事意図的にやれるはずもない」
これで俺は
-八月二十三日 橋本さん
-八月二十五日 門倉さん
-二学期入って直ぐに水島さん
になってしまった。本当は今日で他の人と遊ぶの最後にして、一人で居たかったんだけどな。
仕方ないか。なんか自業自得っぽい所有るし。
―――――
投稿意欲につながるので少しでも面白そうだな思いましたら、★★★頂けると嬉しいです。それ無理と思いましたらせめて★か★★でも良いです。ご評価頂けると嬉しいです。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます