第2話 何か気になる


俺は傷心のまま学校に行き、教室に入って自分の席に着くと隣の席にいる小見川雄介(おみがわゆうすけ)が声を掛けて来た。


「おはよ工藤」

「おはよ小見川」

「工藤、なんか元気ないな」

「ああ、ちょっとな」

「そうか、相談に乗るぞ」

「じゃあ、昼休みに」

「分かった」


 予鈴が鳴り担任が入って来た。




 午前中の授業はあまり頭に入ってこなかった。昼休みになり

「工藤、購買に行ってから裏庭でも行くか」

「ああ」


 気のない返事をしながら小見川と一緒に購買でパンと牛乳を買った後、校舎裏庭にある花壇の前のベンチに座った。


「何か有ったのか工藤?」

「ああ、彼女に振られた」

「えっ?!工藤彼女いたの?」

「うん、1Cの渡辺美月」

「嘘だろ。あの可愛い子が工藤の彼女?!」

「本当だ、中学からの付き合いだけど。昨日振られた」

「原因は聞いたのか?」

「俺がキスもしない手も出さない事が理由だそうだ」

「はぁ?どういう事?工藤、あんな可愛い子と付き合っていながら何もしなかったの?」

「いや、高校に入ってからと考えたんだけど。それが遅かった」

「何となく分かるけど。振られたって言っても奪われたんじゃないよな」

「いや寝取られた」


げほっ、げほっ。


小見川がむせている。


「本当かよ。誰だ相手は」

「美月と同じ1Cの高田賢二」

「高田賢二?あーっ、あいつか。また変なのに寝取られたな。高田にあまりいい噂聞かないけど」

「どんな噂なんだ?」

「いや、女の子の弱みに付け込んで手を出しては、新しい子が出来たら捨てるって噂だ」

「なんでそんな事知っているんだ?」

「あいつとは同中だからな」





 美月と別れてから一月が経った。偶に彼女が新しい彼氏(高田)と手を繋いで下校するところに遭遇すると胸が苦しくなる。

 

 一人になったおかげでGWは寂しく一人で過ごした。


 教室の中では、小見川と話す事が多くなった。彼は中学から陸上をやっていたらしく、この学校でも陸上部に入った。俺にも入部しないかと誘われたけど止めておいた。


 俺はと言うと、帰宅部だ。運動は父親の言い付けで仕方なくやっている空手、実家のある駅のこっちに一つ手前の駅の傍に有る道場で習っている。運動と言えるかどうか分からないけど。




 高校生になって初めての一学期中間考査も終わると二週間後に体育祭がある。体育祭実行委員が張り切っていたけど、俺は無難な物を選んで茶を濁せばいい位に思っていた。だから窓の外を見ながら、別れた美月の事を考えていると



 体育祭実行委員が、

「工藤、残っているのは、二人三脚とリレーだ」

「えっ?!」

「外ばかり見て自分で選ばないからこうなった。宜しくな」

「…………」

 しまった。美月の事、流石にもう忘れるか。



 放課後になりいきなり俺の所に胸の大きな茶髪の女の子がやって来た。化粧もしている。ちょっと苦手なタイプ。


「工藤君、二人三脚で一緒になる橋本心菜(はしもとここな)宜しくね。早速だけど練習予定考えよ」

「えっ?!練習?」

「そうだよ。いきなり二人三脚したらお互い怪我するよ」

「…………」



 仕方なく、次の日から校庭の端っこで橋本心菜と一緒に二人三脚を練習する事になった。他の生徒達も色々練習しているから目立ちはしないんだけど、これなら空手の練習のほうがいい。


「工藤君、このタオルで私の左足と君の右足を結ぶね」

「…………」


 橋本さんが前屈みにかがんでタオルで結ぼうとすると彼女のジャージのジッパーが開いている所為か体操服の膨らみが極端に目立つ。


 あまり見ていると誤解されるから余所を見ていると美月が高田という男と校門の方へ向かった。指を絡ませた恋人繋ぎとか言う奴だ。嬉しそうな顔。まだ胸が苦しくなる。



「工藤君、結び終わったよ。何処見てんの?」

「えっ、嫌何も」

「ふーん、君もあの渡辺って子が好きなの。高田なんかに引っ掛かったビッチなのに」

「なにそれ?」

「あの二人、毎日やっているらしいよ。そんな事どうでも良いじゃない。それより工藤君の右腕を私の右肩に回して」

 美月がそんな事を…。橋本さんの言葉にショックを受けていると


「ほらあ、やるよ」


 俺の右腕を強引に橋本さんの右肩に回された時、ちょっとだけ触れてしまった。彼女も俺の肩では無く、腰の部分に腕を回してくると


「これで行こうか、身長が違うから仕方ないね。行くよ、はい」


いっちにっ、いっち。


「うわっ」

 ズタッ。


「最初だから仕方ないよ。はい立って。行くよ」

 積極的な子だな。元気いいし。


いっちにっ、いっちにっ、いっちにっ。



 三十分位練習すると


「何とかなりそうだね。明日私、用事あるから明後日しよか」


 彼女が足に結び付けられたタオルを解くと


「じゃあねえ。工藤君」


 あっという間に、教室へ戻ってしまった。


 凄い子だなあ。でもこれしていると美月の事も忘れるし集中するか。



 次の日はリレーのバトン渡しの練習をした。俺は女子からバトンを渡して貰い、そして男子に渡す。簡単そうだけど難しい。

 でも二人三脚ほどではない。オリンピックじゃないんだからそれほど厳密にすることも無かった。


 その次の日にまた橋本さんと放課後練習した。



「工藤君と私って結構タイミング合うね。気が合っているのかな。ねえ、この後、ファミレスとか行かない」

「えっ、でも。まだ知り合って一週間も経っていないし」

「工藤君、そんな事考えているの、おかしくない?練習終わってファミレスで話すだけだよ」

「そ、そうか。そうだよね」

 自然と女子アレルギーになっていたのかな?


 

 二人で別々に着替えを終わらせると駅の近くにあるファミレスに入った。ドリンクバーだけ注文すると


「二人三脚何とかなりそうだね。一位取れる様に頑張ろうか」

「うん、いいね。それで行こう」

「ねえ、工藤君は何処から通っているの?」

 いきなりだな。


「うん、ここから二つ目の駅の近くのマンション」

「うわーっ、近いなぁ。私なんか八つも先だよ。羨ましい。家族と一緒?」

「…………」

 なんかなあ、いきなりこういう会話苦手。


「あっ、ごめん。急すぎたね。でも工藤君とはもっと仲良くなりたくて」

「一人暮らし。ちょっと家の事情で」

「えっ?!そ、そっかあ、ごめんね悪い事聞いたかな」

「そんなことないけど」


「あのさ、…工藤君って彼女いる?」

 うわっ、早、もうそんな質問するの?


「いないけど」

「そ、そうかあ。うん、うん」

「どうかしたの?」

「別にぃ、何でもない」


 それから俺達は勉強の事を少し話して別れた。良く分からない。ファミレスに入って二人で話すほどの事かな?



 工藤君が改札に入って行った。ちょっとイケメンで、背が高くて、優しい。それにとっても奥手のようだ。二人三脚の時、私から結構ボディタッチした。嫌がりはしなかったけどその度に顔を赤くした。良いな、こんな子なら彼氏になってくれないかな。


―――――



書き始めのエネルギーはやはり★★★さんです。ぜひ頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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