35.銅ランクの信用パねえな

 農村に辿り着いた。

 まずは村長に挨拶をして、被害の実態を聞くところから始める。


「しかしこんなに小さい子が銅ランク冒険者とはなあ」


「実績さえ積めば年齢は関係ないんですよ」


「おお、すまんすまん。腕前は疑っておらんよ。冒険者ギルドで鉄を脱するのはそう簡単じゃないのは知っている」


 村長が顎髭を撫でながら言った。

 やはり十歳の女の子ふたりが派遣されてきて驚いたのだろう。

 それでもこうして迎え入れてくれたのは、冒険者ギルドの信頼の賜物だ。

 銅ランクとは、それほどまでに鉄の冒険者とは一線を画す存在なのである。


 さて聞けばクリムゾングリズリーは夜中に畑を荒らしに来るとか。

 ならば今夜は待ち伏せするのが良いだろう。

 十歳の女の子としては徹夜はキツいものがあるが、体力勝負の冒険者稼業。

 そういう経験も大事だと言い聞かせて、俺たちは畑を見張ることにした。



 深夜。

 さすがに眠い。

 ディアーネと「眠くなるだろうから、常に話をし続けよう」と取り決めたのだが、話題がループし始めてきた。

 四六時中、一緒にいるからお互いで知らないことがない。

 話題が尽きるのは早かった。


 仕方がないので、スキルについての話をすることにした。

 これなら俺はいくらでも話ができる自信がある。

 もちろん、スキルなんて単語はなく、意識する機会がほとんどないこの世界の人へ向けての解説となるが。


「いい、ディアーネ。剣による斬撃は最大で五連撃までいくの」


「え、ほんと!?」


「うん。多分、ディアーネならいずれは五連撃、できると思う」


「はえー。そっかあ。五連撃……頑張る」


「あとそうだなあ……〈霊体斬り〉があると便利だね」


「レータイ斬り?」


「ゴーストとかの非実体系の魔物を剣で斬れるようになるの」


「え、ゴーストって魔法じゃないと倒せないんじゃないの!?」


「実は剣でも斬れるんだ。なかなか練習する機会もないけど、覚えておいて」


「はえー。そっかあ。ゴーストを剣で斬れたら凄いよねえ」


 なお〈霊体斬り〉は【剣聖】エクスカリバーのパッシブスキルだ。

 習得SPは〈剣・斬撃Ⅳ〉より軽かったはず。

 スキルの存在を認知していれば、習得できるかもしれないから教えておくことには意味がある、と思う。


「あ、あれ見て!!」


 ディアーネが畑の向こう、村に隣接する森の方を指さした。

 紅の大熊。

 クリムゾングリズリーだ。


「よし、ようやく眠れそうだね。さっさと片付けよう」


「うん!!」


 ダッと走り出すディアーネ。

 俺も負けじとディアーネの後ろを走る。


 クリムゾングリズリーはこちらを認めると、二本足で立ち上がって威嚇してきた。

 デカい。

 身の丈は三メートルはあるか。


 真っ赤な体毛と相まって強敵の貫禄だが、――残念ながら最上級クラスふたりの相手ではなかった。

 ディアーネの斬撃と俺の〈レイ〉であっという間に仕留めた。


 死体になったクリムゾングリズリーはさっさとアイテム袋に入れて、俺たちは村長のお宅に向かう。

 眠い。

 十歳の子供が徹夜なんてするもんじゃない。

 早く寝よう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る