31.うっかりさんたちの初仕事
その日の夕方、冒険者たちが戻ってくる混雑する時間帯に当ってしまった。
ゴブリンは多数を狩ったので、魔石はそれなりの量になっていた。
結局、ゴブリン以外はイエローベアしか狩れなかったが、あの巨体の肉の売却益を丸々ふたりで分ければ結構な儲けになるはずだ。
カウンターに並び、順番を待つ。
子供も珍しくないようで、チラホラと見かける。
恐らくは薬草採集などの依頼を受けているのだろう、胸元には鉄の冒険者タグが下げられていた。
俺たちも同様の類だと思われているだろうから、特に目立つことはない。
「お次の方ー。あら可愛い子たちね。見ない顔だけど、最近登録したのかな?」
受付嬢のお姉さんに「はい、田舎から出てきました。ゴブリンの魔石の買い取りをお願いします」と告げる。
「あら、ゴブリンを狩ってきたの? 危ないことするわねえ……」
「魔石はカウンターの上に出せばいいですか?」
「ええと魔石はこっちの秤にお願いします」
ボウルのような器がついた重量を測る機器に、アイテム袋から魔石を出す。
「え? 今、何をしたの?」
「実は妖精さんから魔法を授かりまして。生き物以外を持ち運べる収納魔法です」
「へえ……聞いたことないわね。妖精? 会ったの?」
「はい。小さくて可愛らしい子でした。……それで魔石の買い取りですが」
「ああ、ごめんなさいね。ええと……この重量だとこれだけね」
ジャラジャラと銀貨をトレイに乗せて寄越してきた。
ひとまずすべてアイテム袋に入れておく。
厳密にはお金はアイテム袋ではなくメニュー画面に表示されるのだが、まあ大した違いはない。
「あとですね。森でイエローベアを狩ったので、解体場を借りたいんですけど」
「い、イエローベア!? ふたりだけで狩ったの!?」
「はい。うっかりゴブリンを追っていたら遭遇したので」
「うっかりって……危ないじゃないの!!」
「大丈夫です。傷ひとつなく狩りましたよ」
「ええと、そのイエローベアはどこに?」
「収納魔法の中です」
「そ、そう。あんな大きいのまで入るの……。あ、解体場ならその場にいる職員に断れば無料で使えるようになっているから」
「はい、ありがとうございました」
始終、目を白黒させていた受付嬢に礼を言って、解体場へ向かう。
そこでギルドの制服の上にツナギを着たファングボアを解体している職員に話しかけた。
「すみません、魔物を解体したいので場所を借りたいのですが」
「おう、じゃあそっちの台を使ってくれ。何を解体するんだい?」
「イエローベアです」
「ふうん。……イエローベア? お嬢ちゃんたちが?」
「はい」
アイテム袋からイエローベアを出す。
ギルド職員は「うお!?」と驚きの声を上げた。
「い、いま何をした?!」
「妖精さんからもらった収納魔法という奴です」
「妖精? 収納魔法? ……聞いたこともねえ」
とりあえずアイテム袋から出した以上、鮮度はどんどん落ちていく。
ディアーネとふたりで解体ナイフを使って、イエローベアを捌いていく。
「ほう、小せえのになかなかいい腕前してやがる」
「村の狩人に教わったので」
「ふうむ。ランクは……まだ鉄か。パーティメンバーは他に何人いるんだ?」
「え? ふたりだけですけど」
「はあ!? お嬢ちゃんたちふたりだけでイエローベアを狩ったのか!?」
「はい」
とりあえず解体を優先しながら、しきりに話しかけてくるギルド職員をやり過ごす。
無事に解体を終えたら、後は精算だ。
「これ肉、全部売るつもりなんですが、買い取りはどうすれば?」
「ああ、俺がやる。ふむ、解体の腕前も問題ないし、肉質も悪くないな。これなら満額出せる」
トレイに積まれた銀貨は、数えるまでもなくゴブリンの魔石のときより多かった。
やっぱり“うっかり”していて正解だったようだ。
「しっかしイエローベアをふたりでねえ。こりゃすぐに銅ランクだなあ」
「そうなったら嬉しいですね」
ディアーネも気分が良いのか、ニコニコしている。
久々に戦ったのもあるし、儲かったのもあるし、ランクアップも近いとなれば笑顔にもなろう。
かくして領都での冒険者ギルドの初仕事を終えた。
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